ヒビキとクロードの365日

あてきち

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12月

12月8日『針供養』の日

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クロード「さてさて、ヒビキ様の国はともかくこちらは雪が積もったせいで気温もぐっと下がってしまいましたね。普段から薄着の私もさすがに何か羽織りたいところではありますが……」

※クロードは引き出しから冬服を取り出した、のだが――。

クロード「ふむ、あまりに長く使っていなかったせいかほつれが目立ちますね。仕方がありません、ササッと直しますか。ふふん、料理はちょーっとだけ苦手ですが、裁縫なら冒険者をしていた頃から装備の手直しなどを行っていたので多少の心得があります。ちょちょいと直して……おや、糸はありましたが針が見当たりませんね?」

 ヒビキ「クロード、俺ちょっと日本に行ってくるね」

クロード「おや、ヒビキ様。こんな雪の日にお出かけですか?」

 ヒビキ「れれれのれー、と」

クロード「ヒビキ様、それ言うの好きですよね。それで、どこへ行くのですか?」

 ヒビキ「京都は嵯峨の法輪寺だよ。今日12月8日は『針供養』の日だからね」

クロード「針供養? 針が見当たらないと思ったらヒビキ様が持っていたのですか。というか針を供養するって、どういうことですか?」

 ヒビキ「詳しい起源は不明だけど、多分中国の古い慣わしが日本に伝わってできた風習だよ。大体9世紀後半には既に日本の一部の地域で行われていたんだって。折れたり曲がったり、錆びたりして使えなくなった縫い針を近くの神社に収めて供養することで、裁縫の上達を祈ったらしいよ」

クロード「裁縫の上達を。しかし、なんでまた今日なのです?」

 ヒビキ「年末の12月8日を事納め、年が明けた2月8日を事始めとして、『針供養』は年に2回行われるんだよ。ちなみに事納め・事始めするのは農耕のことだよ」

クロード「農耕のことなら針仕事は関係ないのではありませんか?」

 ヒビキ「この両日はつつしみを持って過ごす日とされていて、この日は針仕事も休むべきと考えられていたんだって」

クロード「ああ、だからその日に合わせて針供養もしちゃえということに」

 ヒビキ「なったかどうかは知らないけど、そういうことだね。ついでに言うと、年に2回ある『針供養』だけど、現代では地域によってどちらか一方の日だけ行うことが多いそうだよ。12月8日が一般的なのは関西地方や九州地方らしい」

クロード「ああ、だから京都の寺に行くのですね」

 ヒビキ「うん。といっても、法輪寺は2月8日にも針供養をしてくれるんだけど」

クロード「そうなのですか?」

 ヒビキ「関東地方や東北地方の一部でも両方の日付けで供養してくれる地域もあるらしいから、地域性だけでは語れないみたいだよ」

クロード「さすがは古い風習といったところでしょうか。奥が深いです」

 ヒビキ「あ、そろそろ急がないと遅れちゃうや。それじゃ、行ってくるね」

クロード「ヒビキ様、私も一緒に行きますよ」

 ヒビキ「そんなほつれだらけの服を着て?」

クロード「うっ!」

 ヒビキ「針供養が終わったら新しい針を買ってくるから今日は留守番しててよ」

クロード「ぐぬううう、どうして我が家には針が一本も残っていないのだ」

 ヒビキ「ハーフミスリルアーマードベアの革で防具作ろうと思ったら、針全部おしゃかになっちゃったんだよね。酷い話だよ、ホント」

クロード「――て、ヒビキ様のせいですか!」

 ヒビキ「行ってきまーす!」

クロード「あ、逃げないでください、ヒビキ様ー!」




★★★★★
その他の記念日『太平洋戦争開戦の日』
※1941年12月8日。
※日本海軍がアメリカ太平洋艦隊の根拠地・ハワイの真珠湾を急襲。
※太平洋戦争が始まった。

 ヒビキ「ただいまー」
クロード「おかえりなさい、ヒビキ様。針は買ってきてくれましたか?」
 ヒビキ「うん、買ってきたよ、ミシン針」
クロード「……あの、『みしん』なんて私、使えないのですが」
 ヒビキ「うん、知ってる。というかうちにはミシン置いてないしね」
クロード「は? だったらなぜ……」
 ヒビキ「これでしばらく一人で外出できるかなって」
クロード「確信犯!?」
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