ヒビキとクロードの365日

あてきち

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8月

8月16日『五山送り火』

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クロード「ヒビキ様の世界はいわゆる『こんくりーとじゃんぐる』ばかりだと思っておりましたが、このように雅な木造建築が立ち並ぶ街もあるのですね」

 ヒビキ「だって日本の伝統的古都『京都』だもの。コンビニの外観も京都の風景に合わせなくちゃ建てられない京都だもの」

クロード「景観を守る取り組みが行われている街なのですね。素晴らしい。しかし、できれば昼間に来たかったです。何もこんな夜に来なくても……ヒ、ヒビキ様!」

 ヒビキ「何?」

クロード「山火事です! 山が燃えています! すぐに消火しなければ!」

 ヒビキ「ああ、あれは……」

クロード「火の手が広まればこの古き良き街が焼け野原になってしまいます! バ、バケツはどこに!? いや、あの火の大きさでは水が足りないか。くっ、私に水魔法を使うことができれば……!!!」

 ヒビキ「いや、クロード、違うから。山をよく見て」

クロード「ヒビキ様! この一大事に山の火をのんびり眺めている場合じゃありませんよ! ほら! 炎があんなに大きく! 『大』の字まで象って……象って?」

 ヒビキ「あれは山火事じゃないよ。今日8月16日は『五山送り火』の日なんだ。だからあそこだけじゃなくて――」

クロード「……言われてみれば、五ケ所の山から火の手が。全てに文字や模様のようなものが描かれています」

 ヒビキ「京都の夏の風物詩だね。お盆に帰ってきた死者の霊をあの世へ送り届けるための巨大な『送り火』なんだ。『大文字』『松ヶ崎妙法』『舟形万灯籠』『左大文字』『鳥居形松明』の五種類の送り火が五ケ所の山で点火されるんだよ」

クロード「あの模様は舟と鳥居だったのですね。しかし、以前ヒビキ様が家の軒先で『迎え火』を熾しておりましたが、あれとは比較にならない規模の炎です」

 ヒビキ「正直、なんであんなに巨大な炎を上げることになったのか、公式記録が見つかっていないから正確な起源は分かっていないんだよね。平安時代とも江戸時代とも言われているけど……」

クロード「ここまで大がかりな催しの起源が不明とは、ままならないものです」

 ヒビキ「まあ、いいじゃない。今はこの幻想的な風景を楽しもうよ」

クロード「それもそうですね。ですが、これだけ美しい景色を私達しか見ていないというのは、少々寂しいものがありますね。全ての送り火を正面から大きく見ることができるここは絶好の観覧スポットだと思うのですが」

 ヒビキ「実際にはそんな都合のいい場所、存在しないからねぇ」

クロード「??? どういう意味です?」

 ヒビキ「五山はそれぞれ結構離れているから、送り火を正面から見たかったら文字をひとつに絞る以外に方法はない。全部を一度に見ようと思ったら京都タワーにでも登れば見れるだろうけど、ひとつひとつの文字が小さくなってせっかくの迫力が台無しになる。全部をしっかり見たかったら五か年計画でも立てた方が楽しいだろうね」

クロード「……では、私達が今いるここは……どこなんでしょう?」

 ヒビキ「どこなんだろうねぇ……」



★★★★★
その他の記念日『女子大生の日』
※1913年(大正2年)。
※東北帝國大学(現、東北大学)が女子受験生3名の合格を発表。
※日本で初めての女子大生が誕生した。

 ヒビキ「女子大生って聞くと、ちょっとドキドキするね」
クロード「確かに、私より上背のある女性というのは心臓に悪そうです」
 ヒビキ「まさかクロード……本気で言っているのかい!?」
クロード「? 何がですか?」

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