ヒビキとクロードの365日

あてきち

文字の大きさ
上 下
147 / 388
8月

8月4日『箸の日』

しおりを挟む
 ヒビキ「今日8月4日は『箸の日』です!」

クロード「『箸=は8し4』の語呂合わせですか。分かりやすいです。というか、ヒビキ様が使っていらっしゃるので存在自体は知っていますが、実際に使ったことはないですね。ナイフとフォークで十分ではないですか?」

 ヒビキ「そういえばクロード、この前のうな重もスプーンで食べてたもんね。見てて『うわぁ』って思ってた」

クロード「そんな風に思っていらしたのですか!? 割とショックです」

 ヒビキ「一種のカルチャーショックだよね。箸で食べることが当たり前になってるから、うな重をスプーンで食べる様子を見て拒否反応が出たみたい」

クロード「わ、私自身に拒否反応は出ていませんよね!? 大丈夫ですよね!?」

 ヒビキ「というわけで、箸を使ったことがないクロードのために、今日はこんなものを用意してみました」

クロード「……豆料理ですか?」

 ヒビキ「箸で食べにくい料理といったら豆料理でしょ」

クロード「むむむ、これは私に対する挑戦状ですね。いいでしょう。私が器用なところをお見せいたします!」

 ヒビキ「リンゴの皮むきひとつできない人が何を言っているのやら……て、もう最初からおかしいよ、クロード」

クロード「へ? 何がです?」

 ヒビキ「箸の持ち方が既におかしい。箸が中指と人差し指で挟み込まれちゃってるよ。親指と中指、人差し指の三本の指先で支えるんだ」

クロード「こ、こう、ですか? ……ゆ、指がしんどいです」

 ヒビキ「まあ、初めて箸を持ったわけだから疲れるかもね。でも、慣れればそっちの方が扱いやすいから頑張って」

クロード「よ、よし。では、いざ! ……ぐ、箸先が震えてうまくでき……あ」

 ヒビキ「いだっ!?」

クロード「ああ!? も、申し訳ございません、ヒビキ様! 箸から豆が滑って」

 ヒビキ「いたた。い、いや、これも箸の定番といえば定番だから気にしないで。うう、でもまさかその被害が俺に飛んでくるとは」

クロード「箸とは扱いの難しいものなのですね。ヒビキ様の故郷ではなぜナイフやフォークではなくこんなものが広まったのでしょうか?」

 ヒビキ「箸は詳しい起源がはっきりしていないから何とも言えないなぁ」

クロード「そうなのですか?」

 ヒビキ「箸の材料は木や竹であることが多いから出土しようにも腐りやすいし、言ってみればただの木の棒でしょ? 出土したとしても単なる木切れなのか箸なのかを区別しにくいものだから、起源なんて調べようがないんだよね」

クロード「そういうものなのですね」

 ヒビキ「それでも現時点での最古の箸は、古代中国殷王朝後期の青銅製の箸が出土されているらしい。大体紀元前14世紀から11世紀頃のものだね」

クロード「えーと、つまり……」

 ヒビキ「三千年以上前のものだね」

クロード「はぁ、想像もできない規模の歴史です」

 ヒビキ「まあ、ナイフとスプーンはともかく、フォークがヨーロッパで広まり始めたのは紀元後の話だからね。イエズス会の宣教師、ルイス・フロイスの著書『日欧文化比較』の中でも、16世紀当時、日本人が箸で食事をしていた一方で、ヨーロッパ人は手づかみで食事をしていたことが記録されているそうだし」

クロード「この世界の食事事情と似た感じですね」

 ヒビキ「あー、この異世界は中世ヨーロッパ風だもんね。そりゃ、箸が馴染まなくても仕方ないか」

クロード「むむむ、なぜかそう言われると意地でも箸を使いこなしたくなります」

 ヒビキ「じゃあ、しばらく食事は箸でやってみたら? 慣れれば楽だよ」

クロード「そうですね。これからもヒビキ様の故郷の料理を食す機会もあるでしょうから、今のうちに鍛錬をしようと思います」

 ヒビキ「うんうん、その意気やよし。それじゃあ、ちゃんとご飯にしようか」

クロード「それはよかったです。正直、初っ端から豆料理では大変だったので」

 ヒビキ「今日の食事は――きつねうどんです! いただきまーす♪」

※ツルリ……ツルツルリ……ツルン♪

 ヒビキ「ズルズルズル……ゴクゴクゴク、ぷはぁ! ごちそうさまでした!」

クロード「おお、おおおお……すり抜けていく……一本も食べられない……!」



★★★★★
その他の記念日『橋の日』
※宮崎県『橋の日実行員会』が1986年に制定。

 ヒビキ「えーと、この記念日の由来は……」
クロード「あえて教えていただく必要はないかと」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...