ヒビキとクロードの365日

あてきち

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7月

7月5日『江戸切子の日』

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クロード「ふぅ、梅雨入りして雨が降るとはいえやはり暑い。家庭菜園の手入れだから仕方がないが喉が渇く……なんか最近の私、そればっかりな気が……」

 ヒビキ「玄関の前に何してるの、クロード?」

クロード「……いえ、勇者って何だっけと、ちょっとセンチメンタルな気分に浸っておりました。ところでヒビキ様、その荷物は何ですか?」

 ヒビキ「ああ、これ? さっき亜麻音から届いたんだ。ちょっと早いけどお中元みたいなものだよ」

※二人はリビングへ。

クロード「そもそもお中元というものが何かよく分からないのですが」

 ヒビキ「元々は中国の道教の三元信仰(上元・中元・下元)のひとつで陰暦7月15日のことだよ。善悪を判別し人間の罪を許す神を祭る贖罪の日とされていたのが仏教と結び付けられて先祖崇拝の行事になったらしい」

クロード「先祖を敬うことは大切ですが、この荷物と何の関係が?」

 ヒビキ「日本ではこの日に、仏に物を供えて死者の霊の冥福を祈り、先祖の霊との共食を意味して素麺などの食べ物を贈る風習が生まれたんだよ。近年では親族だけじゃなくて、会社の先輩や上司、得意先なんかへも中元の贈り物をする風習がおこって、夏に便利な扇や手拭いなんかも贈られたりするそうだよ」

クロード「時代や地域によって起きる風習の変遷とは実に興味深いです。それで、アマネ殿は何を贈ってくださったのですか?」

 ヒビキ「今箱を開けるね。何をくれたんだろ……わぁ。ある意味夏らしい」

クロード「見事な……なんと美しい造形の食器なのでしょうか」

 ヒビキ「これは、江戸切子のペアグラスだね。亜麻音の奴、今日7月5日が『江戸切子の日』だって知ってたのかな……今日は『ビキニスタイルの日』でもあるからクロードにビキニを着させるつもりだったんだけど」

クロード「何やら不穏な発言を耳にした気がしますが、これは江戸切子というのですか。透き通る色合いと繊細な模様がとても涼しげです」

 ヒビキ「透明なガラスの上に色付きガラスを被せて、それを削ることで模様を生み出しているんだよ。今クロードが手にしているグラスの模様は『魚子』だね」

クロード「ななこ?」

 ヒビキ「ダイヤ状の細かな模様がグラスに散りばめられているでしょ? 光に照らされた時、魚の鱗のように光り輝くところから『魚子紋』と呼ばれているんだ。江戸切子の代表的な紋様のひとつで、今日が『江戸切子の日』なのも『魚子=なな(7)こ(5)』の語呂合わせが由来になっているくらいだからね」

クロード「そうなのですか……これに飲み物を淹れて光にかざすと、さぞや美しいのでしょうね。そういえば喉が渇いているのでした」

 ヒビキ「せっかくだし江戸切子で何か飲もうか。何があったかな?」

クロード「ヒビキ様、これにはヒビキ様の故郷の酒『冷酒』があうと思います!」

 ヒビキ「俺は未成年だから飲めないのにクロードは昼間から酒だって? 不健全だな。やっぱり今日は初めてビキニスタイルの水着が発表された記念日『ビキニスタイルの日』でやり直した方がいいかも。獣人の水着姿とか多分面白いと思うんだ……」

クロード「そっちの方が絶対不健全ですよ!?」

※とりあえず二人で美味しく麦茶をいただきました。



★★★★★
その他の記念日『穴子の日』
※『穴子=あな(7)ご(5)』の語呂合わせ。
※水産加工品の食品卸売『ハンワフーズ株式会社』が制定。

 ヒビキ「うなぎの『土用の丑の日』に対抗するための記念日だね。もぐもぐ」
クロード「あなごを食べながら江戸切子で酒を飲んで……くー! 美味し!」

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