ヒビキとクロードの365日

あてきち

文字の大きさ
上 下
72 / 388
5月

5月21日『二十四節気その4 第八【小満】』

しおりを挟む
クロード「いやはや、美しい黄金畑ですね……なぜここにいるのかは別として」

 ヒビキ「クロード。突っ立ってないで動いてよ」

クロード「これは、小麦畑ですよね? 収穫すればよいのですか?」

 ヒビキ「そうだよ。今日5月21日は二十四節気『小満』だからね」

クロード「おや。いつもの便利な二十四節気でしたか。えっと、しょうまん?」

 ヒビキ「万物が次第に成長し、一定の大きさに達してくる頃。それが『小満』さ」

クロード「??? ちょっとよく分かりません」

 ヒビキ「暦便覧では『万物盈満すれば草木枝葉繁る』と記されているね」

※暦便覧:江戸時代に出版された暦の解説書。

クロード「???」

 ヒビキ「『盈満』は『物事が十分に満ち足りること』って意味。直訳すると『全ての物が満ち足れば、草木枝葉が生い茂る』って意味だけど、要するに、『自然が豊かになってくる頃』ってことだと思うよ」

クロード「つまり『小満』とは『小さく満ちる』という意味でしょうか?」

 ヒビキ「もうひとつ言うなら『小さな満足』もあるかもね。その理由がこの麦畑だよ。ほら、クロードもちゃんと収穫して!」

クロード「は、はい! あの、この麦畑は『小満』と何か関係があるのですか?」

 ヒビキ「日本や中国なんかでは5月以降が冬小麦の収穫時期にあたるんだ。秋にまいた麦の種が順調に育ち、5月になって問題なく穂を実らせていたら?」

クロード「ホッとしますね……ああ、それで『小さな満足』」

 ヒビキ「まあ、諸説ある由来のひとつにすぎないけどね。でも、二十四節気が生まれた頃の農耕技術を考えると、麦の生育具合は死活問題だっただろうから、あながち間違ってはいないんじゃないかなぁ」

クロード「収穫できなければ税も納められず、飢えに苦しむわけですから、当時の人々も気が気ではなかったでしょう。あえて『小満』なところが慎ましくさえ感じます」

 ヒビキ「ふぅ。解説している間に収穫完了。というか、後から始めたクロードの方が俺より収穫した量が多いのが何気に悔しい」

クロード「ふふふ。ヒビキ様、私の体力を舐めてもらっては困ります」

 ヒビキ「ま、いいけどね。あとはこれを脱穀して、もみ殻と分けて、製粉して」

クロード「そして小麦粉になるのですね」

 ヒビキ「物凄く簡略化した説明だけどそうなるかな。早速処理を始めよう。俺、これでピザを作るんだ。クロードも手伝っ……ごめん、やっぱりいいや」

※天は二物を与えず。最強の勇者は『料理』においては最弱であった。

クロード「生地に具材を載せるだけなのに……なぜ失敗するのだ、私は!?」



★★★★★
その他の記念日『対話と発展のための世界文化多様性デー』
※国連教育科学文化機関(ユネスコ)が2002年に制定。
※文化の多様性の価値をより深く理解し、その保護と発展、文明間の対話を促進させることが目的。

 ヒビキ「生地に均等に並べてって言ったのに、どうして山盛りに積んでるの?」
クロード「ヒ、ヒビキ様。それよりもその他の記念日を――」
 ヒビキ「毎回思うけど、料理をする時だけ、クロードは人の話を聞かないよね」
クロード「あ、あの、ヒビキ様。私の話を聞いて――」
 ヒビキ「……俺も、料理の『デスマーチ・コマンダー』になろうかな」
クロード「ひいいいいい!? お許しください!」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...