最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?

あてきち

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1巻該当内小話

ご主人様とお兄さん

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★本日本編はお休みです。
 第1巻該当内の小話を掲載します。
 本編再開時におちらは『1巻該当内小話』の章に移動します。




~~~~~~~~~~以下小話です。



「ガハハ! よく来たな。どんな装備が欲しいんだ?」

 大きなおじさんが大きな口を開けて大きな声で笑いました。
 クロさんよりは大きくないけど、やっぱり怖いです。
 今日はご主人さま達と一緒に装備屋さんというお店に来ました。
 お店でお買い物なんて生まれて初めてでドキドキします。

「こんにちは。今日はこの子の装備を買いに来ました」
「ガハハ! そうか、そうか。よろしくな、お嬢ちゃん」
「リリアン、です。よ、よろしく、お願い、します」

 おじさんは楽しそうに笑って私の頭をぐちゃぐちゃに撫でました。ご主人さまがブラシで綺麗にしてくれた髪が滅茶苦茶です。

「ちょっとあんた、女の子の髪に何をやってるのさ! 折角の綺麗な髪が滅茶苦茶じゃないかい!」

 お店の奥から女の人が来ました。

「いててて! 旦那の耳を引っ張るとは、なんて女房だ!」
「ダメな旦那の世話を焼くのも女房の仕事さね! さあ、お嬢ちゃんはこっちにおいで。装備を選ぶ前に髪を直そうね」

 えーと、どうすればいいんでしょうか?
 ご主人さまの方を見ると、ニッコリ笑って頷きました。

「リリアン、女将さんに髪を直してもらっておいで。女将さん、リリアンをさっきよりも可愛く直してもらえます?」
「アハハ、任せておきなさいな。とびきり可愛くしてあげるさね」
「俺はクロードと親父さんと一緒にリリアンの装備を見てくるね」
「おまかせ下さい、ヒビキ様」
「ガハハ、任せろ! 済まなかったな、お嬢ちゃん」
「うん、分かり、ました。行こ、ヴェネちゃん」
「にゃあっ!」

 ヴェネちゃんを抱えたままわたしは女の人……じゃなくて、女将さんのところに行きました。

「さてと、じゃあお嬢ちゃんはこの椅子に座っておくれ。名前はなんて言うんだい?」
「リリアン、です」

 わたしが名前を言うと女将さんはニッコリ笑いました。

「可愛い名前だね。ごめんね、うちの旦那が。すぐに可愛く直してあげるからね」

 女将さんはブラシを持つとわたしの髪を梳き始めました。

「ふわふわで柔らかい綺麗な髪じゃないか。お嬢ちゃんは大きくなったら美人になるだろうし、羨ましいね」
「にゃんにゃあ!」
「アハハ、お前さんもそう思うかい?」

 ご主人さまも優しくブラシを掛けてくれたけど、女将さんの方が上手みたい。でも……。

「さて、ブラシでさっと梳き終わったね。よかったら少し髪を結ってみるかい? お嬢ちゃんの髪でも十分編んだりできるよ?」

 私は首を横に振りました。

「おや、いいのかい? 今より可愛くできる自信はあるよ?」
「あ、あの……さっきと同じ、感じが、いいです」

 ちらりと女将さんの顔を見ると、ちょっとだけ驚いた顔をしたけど、すぐに優しい顔になりました。

「アハハ、お兄ちゃんがやってくれた髪型がいいんだね」
「? はい、お願い、します」

 なぜか女将さんは嬉しそうな顔をしていました。女将さんの提案を断ったのに、嫌な気持ちにならないのでしょうか?

 ……お兄ちゃんがしてくれた髪型。

 女将さんはもう一度ブラシで掛け始めました。

「ねえ、クロード。リリアンにはこれが可愛くない?」
「ガハハ、兄ちゃん。可愛さより防御力だ。革の鎧にしとけ」
「ヒビキ様、可愛さだけではリリアンを守れません。店主殿、リリアンにその鎧は大きすぎます。何か別の防具を探しましょう」

「リリアンは魔導士系統職だから……」
「ガハハ、武器は杖だろう。このアイアンステッキなんてどうだ?」
「それは大きすぎるよ、親父さん。もっと小さいのはある?」
「リリアンには極力軽くて小さい杖がよろしいかと」

 女将さんに髪を整えてもらう間、ご主人さま達は私の装備をいろいろ見てくれていました。

「アハハ、あっちが気になるかい? 一生懸命お嬢ちゃんの装備を見てくれているもんね。良いお兄ちゃんだねぇ」
「……でも、本当の、お兄ちゃんじゃ、ない、よ?」

 私のお兄ちゃんは、家族は私を捨てました。だから……。

「アハハ、家族になるのに血なんて関係ないさ。私と旦那なんて元々赤の他人だからね。お嬢ちゃんがあの子をどう思っているかが大事なのさ。さあ、仕上がったよ」

 女将さんはわたしの前に鏡を見せてくれました。今日の朝、ご主人さまにしてもらったのと同じ髪型です。

「ありがとう、ございます」
「アハハ、さあ、お兄ちゃんのところに行っておいで」
「はい」

「わあ、今朝俺がやった時より可愛いよ、リリアン」
「あ、ありがとう、ございます」

 お兄ちゃんが髪型を褒めてくれました。嬉しいです。

「今リリアンに似合う武器と防具を探しているんだけど、どれがいいかな? いくつか選んでみたんだけど」

 武器はすぐに決まりました。一番軽いスタッフです。

「ガハハ、お嬢ちゃんに鎧は無理だからローブから選んでくれ」

 テーブルの上には数着のローブが置いてありました。

「えーと……あ、これ」

 わたしが手に取ったのは大きさも丁度いい緑色のローブでした。
これなら他のより小さいしお値段も安そうです。

「それがいいの? 可愛いね。おじさん、これいくらですか?」
「ガハハ、それを選ぶとはいい目をしてるな。金貨二十五枚だ」
「金貨二十五枚!?」

 わたしとご主人さまは驚いて一緒に叫びました。
 金貨二十五枚なんて、奴隷の時のわたしの値段より高いです。

「ヒビキ様、このローブはこの店で一番上質で丈夫なローブです。この程度の値段は妥当です」
「あ、あの……やっぱり」
「そうなんだ。じゃあ、これを下さい」
「え!? あの、でも……高すぎるから、違うので」
「ダメダメ。値段よりもリリアンの安全が優先だよ。でも、どうして初心者冒険者向けの装備屋にこんな高い防具が?」
「そりゃあ、お前みたいな客がたまにポンと買ってくれるからだ。ガハハ! おーい、このローブをお嬢ちゃんに着せてやってくれ」
「あいよ! お嬢ちゃん、おいで」

 不安を感じながら、わたしは女将さんのところに行きました。

「さあ、丈が合うか見てみようね。おや? どうかしたのかい?」
「……だって、こんな、高いの」
「アハハ、さっきお兄ちゃんが言っていただろう? お兄ちゃんはお金なんかよりお嬢ちゃんの身の安全の方が大事なのさ。お兄ちゃんの気持ちを無碍にしちゃあいけないよ?」

 ……お兄ちゃんはお金よりわたしの方が大事。

「うん、特に直す必要はなさそうだね。よく似合っているよ。さあ、お兄ちゃんに見せて来るさね。きっと喜んでくれるよ」
「……うん!」

 女将さんに言われ、わたしはご主人さまのところに駆けました。

「ご主人さま、似合う?」
「よく似合っているよ、リリアン!」
「ふふ、ありがとう、ご主人さま」

 これはわたしがご主人さまを『お兄ちゃん』と呼ぶ少し前の話。
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