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第221話 新居を借りよう
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★第220話最後、ヒビキのセリフを修正しました。
前「あの、できれば家を『購入したい』んですけど、商業ギルドでは不動産の斡旋はしてますか?」
今「あの、できれば家を『借りたいん』ですけど、商業ギルドでは不動産の斡旋はしてますか?」
購入から借りるに変更しました。ヒビキの今の設定上、購入すると後が面倒なので……(;^ω^)失敗です!
昨日は毛並みつやつや亭を利用したが、どれくらい王都で過ごすことになるか分からないし、俺やクロードの秘密の件もあって、宿屋を拠点にすることは考えていなかった。
「不動産の斡旋でございますか。もちろん請け負っております。どのような物件をお探しですか?」
「広めの庭と個室が十部屋くらいある家がいいんですけど」
「……それほどの大きさの邸宅となりますと、月々の賃料も最低金貨五十枚以上はするのですが」
ローウェルの『微笑の女神亭』は一泊銀貨五枚。一ヶ月で金貨十五枚だから……うっわ、高っ!
……でも気にしない。俺は「大丈夫です」と答えた。
イエンナさんは軽く目を見張ったもののすぐに笑顔を取り戻し、カウンターの奥へ向かった。
正直、今の俺達には十分過ぎるほどの資金がある。シルバーダイヤモンドウルフ討伐の報酬はまだ結構残っていたし、何より前回のダンジョンで手に入れた『金のインゴット』を売却したのだ。
およそ十キロの金塊……あれ、デビィ商会が金貨五千五百枚で買ってくれたんだよね。
地球でもこの世界でも、金の価値は計り知れない。
金塊を目にした時のアジャラタンさんの笑い声が今でも忘れられないよ。俺、女性だってバレないように外で待ってたのに、屋敷から「オヒョヒョヒョヒョオオオオオ!」って聞こえて……。
日本円にして約五千五百万円。冒険者ギルドの依頼報酬額とは桁が違う。
冒険者が危険を侵してダンジョンを目指すわけだ。当たった時の報酬が大きすぎるよ。
ちなみに売ったのは俺のだけで、まだクロード達の分が残っている。こう言ってはなんだけど、俺達、もう一生働かなくてもこの世界では生きていけるんじゃないかな?
頑張った結果なのだが、前触れもなく宝くじに当選してしまったような気分だ。
などと自分で自分にドン引きしているうちにイエンナさんが戻り、カウンターの上に王都の地図と物件資料が並べられた。
「ここ東区にもヒビカ様のご希望に沿える物件はいくつかありますが、選択肢が多いのは北区か西区になりますね」
王都バスティオンはおおよそ正十二角形の城壁に囲まれた城塞都市だ。
東西南北の門を起点に北区、南区、西区、東区、そして王城や役所がある中央区の五つに分かれており、今俺達がいる商業ギルド王都東方支部は東区に分類される。
そしてこの王都、なんと北区と西区の一部、王都のおよそ四分の一が貴族街らしい。
……いたんだね、貴族。王政国家だから当然だけど、この世界に来てから未だに遭遇したことがない。実はローウェルにも領主の貴族がいたそうなのだが、俺達が関わることは全くなかった。
まあ、勝手なイメージだけど、貴族なんて偉そうな人達とは今後も関わりたくないものである。
貴族街を囲うように、平民のなかでも上流――元貴族や裕福な商人など――の人達向けの富裕層街があり、そこには俺が希望したような家……というよりお屋敷がたくさんあるそうだ。
「でもこれって、あとあと面倒事になりませんか? 私達って普通の平民ですし……」
地図を見つめながら、ユーリが不安そうに尋ねる。イエンナさんは真剣な表情で答えた。
「可能性は否定できません。貴族街に隣接しているため、貴族の馬車が通ることもありますし、どうしても上流意識の高い方々が住まわれる地域ですので……」
要するに、高級住宅街に庶民が住むと浮くのである。
「すみません。北区と西区は却下でお願いします。東区にもあるんですよね?」
「はい、東区にも該当物件の取り扱いはございます」
それからイエンナさんは三つの物件を紹介してくれた。
一つ目は東門から延びる大通りに面し、中央区が目と鼻の先にある一軒家。部屋数は俺の希望より多い十二室で、大きな庭つき。賃料は一ヶ月金貨八十枚である。
二つ目は北東方面のお屋敷だ。通りを挟んだ向こう側に富裕層街がある。東区はどちらかというと一般庶民が暮らす区画だが、富裕層街に面していることもあり、このあたりには大きな家が並んでいるらしい。部屋数は俺の希望よりやや少ない九室の庭つき。賃料は一ヶ月金貨五十五枚。
三つ目は南東方面の邸宅。位置的に貴族街からは最も遠い立地だ。部屋数は俺の希望通りの十室で、この中では庭は一番狭い。賃料は一ヶ月金貨四十枚。
「購入の場合はもう少し種類があるのですが、賃貸ですと東区ではこの三件になります」
「うーん、みんな、どれがいいかな?」
「とりあえず一件目は却下ね。払えないわけじゃないけど、金貨八十枚は高すぎるわ」
さすがはお金大好きエマリアさん。一番お金の掛かる物件はすっぱり断った。これには俺達全員が賛同した。資料を見ただけでも好物件なのは分かるが、簡単に言えば贅沢過ぎる。
「二つ目は九部屋ですが、客間もあるみたいなので実質問題はないですね。でも、富裕層街がすぐ近くにあるっていうのが気になります」
資料を見ながら、ユーリから不安の声が零れた。
「イエンナさん、実際その辺はどうなんですか?」
「北区の方と揉めたという話はあまり聞きませんが、そうですね……もし、この物件に住まわれるというのなら、皆様の服装などをもう少し上流向けに変えた方が無難かと思います」
ちょっといいとこの商家の娘風の俺の格好では、この屋敷に住むには少々分不相応らしい。
これも偏見だが、お金持ちの中には自尊心が強く、傲慢な人は少なからず存在する。格下の格好をした俺達がお屋敷に住むことを不快に思う富裕層はいると考えて行動した方が身のためだろう。
「となると二件目も却下か。最後に残ったのは三件目……正直、賃料や立地条件から考えればこれが一番いいと思うけど……イエンナさん、ここの賃料が他よりも安い理由はなんですか?」
「そこは正確にはお屋敷とはいえない建物なんです」
十部屋もある邸宅が屋敷ではないって、どういうことだろう? 不思議そうに首を傾げた俺を見て、イエンナさんは眉尻を下げて苦笑した。
「随分前にとある商家が従業員を住まわせるために用意した寮でして、生活するには事足りるのですが、邸宅としては少々簡素なものですから、他と比べると賃料がお安くなります」
なんでも、当時は大変羽振りの良かったその商家が、東区も北区や西区のような高級感溢れる街並みにするんだと意気込んで最初に建てたのが、この建物らしい。
『従業員にも並み以上の生活を与えられる俺って凄い!』という考えだったようだが、思いの外建物に維持費が掛かり、商売の時流が変わったことで商家も衰え、手放すことになったそうだ。
ちなみに、当時はなかなか買い手がつかず、仕方なく商業ギルドが買い取ったんだとか。
「寮としては値が張りすぎ、富裕層の邸宅としては簡素すぎ、絶妙に需要がないのです」
困ったものですとでも言いたげに、イエンナさんは頬に手を添えて首を振った。
改めて資料を読み直す。二階建ての邸宅で、個室は一階に四部屋、二階に六部屋ある。一階には大きめの食堂と応接室があって……あ、小さいけどお風呂もあるんだ。
他と比べると庭は狭いが、それでも俺の目的には十分事足りる広さだ。
三件の中では検討できるのはこの邸宅だけかな?
みんなも同意見だったようで、イエンナさんにお願いして内見させてもらった。
結果としては特に問題なし。パトリシアさんのお屋敷やアジャラタンさんの商館と比べると、イエンナさんの言う通りデザインが少々シンプル過ぎる印象だが、別に俺達は貴族のような優雅な暮らしをしたいわけではないのでこれで十分だろう。
俺達はこの邸宅を借りることに決めた。商業ギルドに戻って賃貸契約を交わす。
「ご契約、ありがとうございます。数日お時間をいただければ、物件の洗浄を済ませてからお貸しできますが、どうなさいますか? もちろん、最低限ですが庭の手入れもさせていただきますよ」
清掃と庭の手入れか……確かに、屋敷はともかく庭は放置されていたのか膝丈まで雑草が伸びていたもんな。やってもらった方がいいかな? ――と、思ったんだけど、エマリアさんとヴェネくんが「必要ない」と言うように首を振った。 ……いらないの?
「えーと、自分達でするので今日にでも引き渡してもらえると助かります」
「まあ……畏まりました」
俺の返答が意外だったのか、少しばかり驚いた表情を見せるイエンナさん。だがすぐに笑顔に戻ると屋敷の鍵を渡してくれた。俺が礼を告げると、イエンナさんは優しく微笑んだ。
「以上で契約手続きは完了です。 ようこそ、王都へ。これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします。それじゃあ……」
全ての契約を終えて立ち去ろうとした時、イエンナさんが何かを思い出したようにハッとした。
「そうでした、言い忘れておりました。落ち着いてからで結構ですので、近くの教会へお祈りに行くようにしてください。まあ、強制ではないのですが」
「教会へ? それはまたどうして?」
「王都の慣習のひとつですね。新しい土地で成功できるように神に祈りを捧げるんです。バスティオンは王国で唯一、全ての神の教会が設置されている都市なんですよ」
イエンナさんによれば、バスティオンの教会は北門付近の主神教会を起点として、羅神盤に沿ってそれぞれの教会が王都内に配置されているそうだ。北区や西区にも当然教会はあるが、誰でも礼拝に来れるように、教会のある地域だけは貴族街ではないらしい。
「へぇ、俺達の屋敷に一番近い教会はどこですか?」
「そうですね。あそこは東区のなかでも東南東に近いから……美神教会ですね」
「分かりました。機会があれば伺います」
「ええ、お時間がある時で結構ですよ」
お互いにニコリと笑いあって、俺達は一旦毛並みつやつや亭へと戻った。
前「あの、できれば家を『購入したい』んですけど、商業ギルドでは不動産の斡旋はしてますか?」
今「あの、できれば家を『借りたいん』ですけど、商業ギルドでは不動産の斡旋はしてますか?」
購入から借りるに変更しました。ヒビキの今の設定上、購入すると後が面倒なので……(;^ω^)失敗です!
昨日は毛並みつやつや亭を利用したが、どれくらい王都で過ごすことになるか分からないし、俺やクロードの秘密の件もあって、宿屋を拠点にすることは考えていなかった。
「不動産の斡旋でございますか。もちろん請け負っております。どのような物件をお探しですか?」
「広めの庭と個室が十部屋くらいある家がいいんですけど」
「……それほどの大きさの邸宅となりますと、月々の賃料も最低金貨五十枚以上はするのですが」
ローウェルの『微笑の女神亭』は一泊銀貨五枚。一ヶ月で金貨十五枚だから……うっわ、高っ!
……でも気にしない。俺は「大丈夫です」と答えた。
イエンナさんは軽く目を見張ったもののすぐに笑顔を取り戻し、カウンターの奥へ向かった。
正直、今の俺達には十分過ぎるほどの資金がある。シルバーダイヤモンドウルフ討伐の報酬はまだ結構残っていたし、何より前回のダンジョンで手に入れた『金のインゴット』を売却したのだ。
およそ十キロの金塊……あれ、デビィ商会が金貨五千五百枚で買ってくれたんだよね。
地球でもこの世界でも、金の価値は計り知れない。
金塊を目にした時のアジャラタンさんの笑い声が今でも忘れられないよ。俺、女性だってバレないように外で待ってたのに、屋敷から「オヒョヒョヒョヒョオオオオオ!」って聞こえて……。
日本円にして約五千五百万円。冒険者ギルドの依頼報酬額とは桁が違う。
冒険者が危険を侵してダンジョンを目指すわけだ。当たった時の報酬が大きすぎるよ。
ちなみに売ったのは俺のだけで、まだクロード達の分が残っている。こう言ってはなんだけど、俺達、もう一生働かなくてもこの世界では生きていけるんじゃないかな?
頑張った結果なのだが、前触れもなく宝くじに当選してしまったような気分だ。
などと自分で自分にドン引きしているうちにイエンナさんが戻り、カウンターの上に王都の地図と物件資料が並べられた。
「ここ東区にもヒビカ様のご希望に沿える物件はいくつかありますが、選択肢が多いのは北区か西区になりますね」
王都バスティオンはおおよそ正十二角形の城壁に囲まれた城塞都市だ。
東西南北の門を起点に北区、南区、西区、東区、そして王城や役所がある中央区の五つに分かれており、今俺達がいる商業ギルド王都東方支部は東区に分類される。
そしてこの王都、なんと北区と西区の一部、王都のおよそ四分の一が貴族街らしい。
……いたんだね、貴族。王政国家だから当然だけど、この世界に来てから未だに遭遇したことがない。実はローウェルにも領主の貴族がいたそうなのだが、俺達が関わることは全くなかった。
まあ、勝手なイメージだけど、貴族なんて偉そうな人達とは今後も関わりたくないものである。
貴族街を囲うように、平民のなかでも上流――元貴族や裕福な商人など――の人達向けの富裕層街があり、そこには俺が希望したような家……というよりお屋敷がたくさんあるそうだ。
「でもこれって、あとあと面倒事になりませんか? 私達って普通の平民ですし……」
地図を見つめながら、ユーリが不安そうに尋ねる。イエンナさんは真剣な表情で答えた。
「可能性は否定できません。貴族街に隣接しているため、貴族の馬車が通ることもありますし、どうしても上流意識の高い方々が住まわれる地域ですので……」
要するに、高級住宅街に庶民が住むと浮くのである。
「すみません。北区と西区は却下でお願いします。東区にもあるんですよね?」
「はい、東区にも該当物件の取り扱いはございます」
それからイエンナさんは三つの物件を紹介してくれた。
一つ目は東門から延びる大通りに面し、中央区が目と鼻の先にある一軒家。部屋数は俺の希望より多い十二室で、大きな庭つき。賃料は一ヶ月金貨八十枚である。
二つ目は北東方面のお屋敷だ。通りを挟んだ向こう側に富裕層街がある。東区はどちらかというと一般庶民が暮らす区画だが、富裕層街に面していることもあり、このあたりには大きな家が並んでいるらしい。部屋数は俺の希望よりやや少ない九室の庭つき。賃料は一ヶ月金貨五十五枚。
三つ目は南東方面の邸宅。位置的に貴族街からは最も遠い立地だ。部屋数は俺の希望通りの十室で、この中では庭は一番狭い。賃料は一ヶ月金貨四十枚。
「購入の場合はもう少し種類があるのですが、賃貸ですと東区ではこの三件になります」
「うーん、みんな、どれがいいかな?」
「とりあえず一件目は却下ね。払えないわけじゃないけど、金貨八十枚は高すぎるわ」
さすがはお金大好きエマリアさん。一番お金の掛かる物件はすっぱり断った。これには俺達全員が賛同した。資料を見ただけでも好物件なのは分かるが、簡単に言えば贅沢過ぎる。
「二つ目は九部屋ですが、客間もあるみたいなので実質問題はないですね。でも、富裕層街がすぐ近くにあるっていうのが気になります」
資料を見ながら、ユーリから不安の声が零れた。
「イエンナさん、実際その辺はどうなんですか?」
「北区の方と揉めたという話はあまり聞きませんが、そうですね……もし、この物件に住まわれるというのなら、皆様の服装などをもう少し上流向けに変えた方が無難かと思います」
ちょっといいとこの商家の娘風の俺の格好では、この屋敷に住むには少々分不相応らしい。
これも偏見だが、お金持ちの中には自尊心が強く、傲慢な人は少なからず存在する。格下の格好をした俺達がお屋敷に住むことを不快に思う富裕層はいると考えて行動した方が身のためだろう。
「となると二件目も却下か。最後に残ったのは三件目……正直、賃料や立地条件から考えればこれが一番いいと思うけど……イエンナさん、ここの賃料が他よりも安い理由はなんですか?」
「そこは正確にはお屋敷とはいえない建物なんです」
十部屋もある邸宅が屋敷ではないって、どういうことだろう? 不思議そうに首を傾げた俺を見て、イエンナさんは眉尻を下げて苦笑した。
「随分前にとある商家が従業員を住まわせるために用意した寮でして、生活するには事足りるのですが、邸宅としては少々簡素なものですから、他と比べると賃料がお安くなります」
なんでも、当時は大変羽振りの良かったその商家が、東区も北区や西区のような高級感溢れる街並みにするんだと意気込んで最初に建てたのが、この建物らしい。
『従業員にも並み以上の生活を与えられる俺って凄い!』という考えだったようだが、思いの外建物に維持費が掛かり、商売の時流が変わったことで商家も衰え、手放すことになったそうだ。
ちなみに、当時はなかなか買い手がつかず、仕方なく商業ギルドが買い取ったんだとか。
「寮としては値が張りすぎ、富裕層の邸宅としては簡素すぎ、絶妙に需要がないのです」
困ったものですとでも言いたげに、イエンナさんは頬に手を添えて首を振った。
改めて資料を読み直す。二階建ての邸宅で、個室は一階に四部屋、二階に六部屋ある。一階には大きめの食堂と応接室があって……あ、小さいけどお風呂もあるんだ。
他と比べると庭は狭いが、それでも俺の目的には十分事足りる広さだ。
三件の中では検討できるのはこの邸宅だけかな?
みんなも同意見だったようで、イエンナさんにお願いして内見させてもらった。
結果としては特に問題なし。パトリシアさんのお屋敷やアジャラタンさんの商館と比べると、イエンナさんの言う通りデザインが少々シンプル過ぎる印象だが、別に俺達は貴族のような優雅な暮らしをしたいわけではないのでこれで十分だろう。
俺達はこの邸宅を借りることに決めた。商業ギルドに戻って賃貸契約を交わす。
「ご契約、ありがとうございます。数日お時間をいただければ、物件の洗浄を済ませてからお貸しできますが、どうなさいますか? もちろん、最低限ですが庭の手入れもさせていただきますよ」
清掃と庭の手入れか……確かに、屋敷はともかく庭は放置されていたのか膝丈まで雑草が伸びていたもんな。やってもらった方がいいかな? ――と、思ったんだけど、エマリアさんとヴェネくんが「必要ない」と言うように首を振った。 ……いらないの?
「えーと、自分達でするので今日にでも引き渡してもらえると助かります」
「まあ……畏まりました」
俺の返答が意外だったのか、少しばかり驚いた表情を見せるイエンナさん。だがすぐに笑顔に戻ると屋敷の鍵を渡してくれた。俺が礼を告げると、イエンナさんは優しく微笑んだ。
「以上で契約手続きは完了です。 ようこそ、王都へ。これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします。それじゃあ……」
全ての契約を終えて立ち去ろうとした時、イエンナさんが何かを思い出したようにハッとした。
「そうでした、言い忘れておりました。落ち着いてからで結構ですので、近くの教会へお祈りに行くようにしてください。まあ、強制ではないのですが」
「教会へ? それはまたどうして?」
「王都の慣習のひとつですね。新しい土地で成功できるように神に祈りを捧げるんです。バスティオンは王国で唯一、全ての神の教会が設置されている都市なんですよ」
イエンナさんによれば、バスティオンの教会は北門付近の主神教会を起点として、羅神盤に沿ってそれぞれの教会が王都内に配置されているそうだ。北区や西区にも当然教会はあるが、誰でも礼拝に来れるように、教会のある地域だけは貴族街ではないらしい。
「へぇ、俺達の屋敷に一番近い教会はどこですか?」
「そうですね。あそこは東区のなかでも東南東に近いから……美神教会ですね」
「分かりました。機会があれば伺います」
「ええ、お時間がある時で結構ですよ」
お互いにニコリと笑いあって、俺達は一旦毛並みつやつや亭へと戻った。
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