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第218話 王都の門兵(第三者視点)

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 季節は冬。眼鏡座の月――地球でいうところの十二月――の二日。

 まだ雪こそ降っていないが、曇り空なこともあり、ハバラスティア王国王都バスティオンの東門の門兵は白い息を吐きながら、今日も今日とて王都へ入る者達の入場審査に追われていた。

「次の者」

 荷物を背負う行商の次にやってきたのは一台の幌馬車だ。御者台には金髪のエルフが座っていた。
 エルフとは王都でも珍しい。それに何よりこのエルフ……。

(す、すごいな。あれほどのものはヒト種でだってそうは拝めない)

 門兵も男だ。エルフは総じて器量よしということもあって注目を集めるというのに、そのエルフでも、いやヒト種であっても珍しいほどの女性的特徴に、見惚れてしまうのも無理はない。

 要するに、門兵はしばし金髪エルフの胸元に釘付けだった。

「……ちょっと、早くしてほしいんだけど」

「あ、いや、そうだな。全員分の身分証の提示を頼む。あと、馬車の積み荷はなんだ?」

 エルフは身分証を出した。彼女はCランク冒険者エマリアというらしい。馬車からもう一人、魔族と思われる褐色の肌と黒髪の少女が現れ、身分証を見せた。冒険者ギルド登録のポーターで、ユーリというようだ。エルフとは違うが、十分優れた容姿をしている。

「身分証を持っているのは私達だけです。他の人達はまだ持っていなくて。王都についたら商業ギルドに登録するつもりなんですけど……あと、馬車の中にあるのは全部私達の荷物で売り物はありません」

 ポーターのユーリが申し訳なさそうにそう告げた。

「ふむ、では一応中を検めさせてもらうぞ」

「はい」

 エマリアとユーリの許可を得て、幌馬車の中に顔を覗かせる。中にいる人間は二人。一人は胸元まで長い茶色・・の髪の少女だ。成人したばかりといったところか。もう一人も茶色の髪の少女だ。こちらの髪は短く肩までの長さだ。おそらく未成年。二人は姉妹だろうか。

「君達二人だけかな?」

「えっと、はい。あ、でもこの子達も一緒なんですけど……」

 長い髪の少女が慌てた様子で自分達の奥を指差す。そこには白いネコと、ホーンラビット? 二匹とも首輪をはめているのでペットなのだろう。そして、奥の影にもう一匹。あれは……。

「お、大きいな。それ・・は安全なのか?」

「はい。クロ・・はとっても利口な子ですから。おいで、クロ」

 少女の声に反応して、それはのそりと前に出る。門兵の前に、大柄なオオカミが姿を見せた。
 オオカミことクロは、首元には赤い首輪を、左足首には金色のリングをはめている。
 普通のオオカミより一回り、いや、二回りは大きいか。金色の瞳が門兵をじっと見つめる。

「ほ、本当に安全なのか? 随分とこちらを睨みつけているような気がするが……」

「大丈夫ですよ? クロ、お手」

「ウォン!」

 幌馬車に響くクロの声に門兵がビクリと震えた。少女が差し出した手に、クロは右前足を置く。

「よし、おかわり!」

「ウウォン!」

 少女がもう片方の手を差し出すと、クロは嬉しそうに左前足を置いた。

「ね?」

 自信満々の笑顔が門兵に向けられる。穢れのない無垢な笑顔に、門兵も思わずドキリとした。

「そ、そうだな。躾は行き届いているようだ」

 門兵は馬車から顔を出し、冒険者エマリアへ顔を向け直した。

「それにしても女性四人で旅をしてきたのか。いくら君が冒険者とはいえ少々不用心ではないのか?」

「馬鹿ね。こんなところに男なんて仲間に入れられるわけないでしょ。それこそ危険よ」

「う、それは、確かに……」

 見たところこの馬車に乗る者達は全員見目がいい。ここに護衛とはいえ男を追加するのは、むしろ男の理性を試されることになりかねない。

「これでもCランク冒険者だもの。護衛くらいちゃんとできるわよ」

「……それもそうか」

 Cランクといえば、一人前扱いのDランクからさらなる高みに至った冒険者の証だ。魔物にしろ人間にしろそうそう負けたりはしないはずだ。

「では身分証のない二人は鑑定石で犯罪歴の有無を確認したうえで、入場税は銀貨五枚だ」

 門兵に呼ばれて馬車から少女二人が降り、鑑定石に手を触れる。まずは幼い方の少女からだ。

「ふむ、君はリリアンというのだな……よし、犯罪歴はなしだ」

 何事もなく審査を終えて、幼い少女リリアンもほっと息をつく。次は長い髪の少女だ。

「ふむ、君の名は……ヒビカ・・・というのだな。こちらも犯罪歴はなし、と」

 こちらも問題なく審査を通り、エマリアは二人分の入場税を支払う。ペットの分は必要ない。

「よし、では四人とも問題なしということで通ってよいぞ。ようこそ、王都バスティオンへ」

「ええ、ありがとう」

 門兵に礼を告げると、四人は馬車に乗り、東門から王都バスティオンの中に入っていった。

「はぁ、何事もなくは入れてよかった~」

 門を通った後、馬車の中で少女ヒビカこと、真名部響生が安堵の息を吐きながらそう呟いたのだが、もちろん門兵の耳に届くことはなかった。



 王都の警備がザル過ぎる……という意見は聞かないことにする。




********************
少々短めですみません。
詳しい説明は次回以降にて……なんとなく想像つきますよね(;^ω^)

可能なら次回は8月10日(金)の予定ですが、ちょっと無理かもしれません。
その際はお手数ですがご了承くださいませ<(_ _)>

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