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第204話 マナベヒビキ冒険記

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 俺の名前は真名部響生。高校二年生。夏休み前日、教室の扉を開けた俺はなぜか草原にいた。
 あてもなく彷徨い続ける中、角の生えたウサギと遭遇したことで事態は一変する。

【技能スキル『鑑定レベル1』を行使します】

 対象の能力などを把握する力『鑑定』スキルの存在を知った俺は、ここが異世界だと知った。

 『鑑定』によれば、俺には他にもいくつかスキルがあるようで、そのひとつ『世界地図ワールドマップ』のおかげでどうにかこの草原の脱出に成功。直後に俺を保護してくれたエルフのエマリアさんによれば、あそこは『メイズイーターの草原』と呼ばれる土地型の魔物の――いわば腹の中だったらしい。

 侵入者を彷徨わせて、土地の養分にするそうだ……今思い出しても身震いする。
 エマリアさんに案内されたのは、ハバラスティア王国で五番目に大きな街『ローウェル』。
彼女と別れた俺は、そこで冒険者という仕事をしながら元の世界へ帰る方法を探すことにした。

 とはいえ俺の職業は『鑑定士(仮)』……(仮)って何だろう?
 それを無視しても、鑑定士は非戦闘職。冒険者になったはいいが能力は支援向きで、魔物との戦闘が主な仕事である冒険者をこなすには、荷が重かった。
 俺が所有する主なスキルは、まずは『鑑定』。対象の戦闘力や機能などを把握できる。

 次に『世界地図ワールドマップ』。魔物や仲間の位置を把握できるし、何より道に迷う心配がない。
 そして『医学書メディカルブック』。医療知識に精通し、完全回復魔法『パーフェクトヒール』まで使用可能だ。

 冒険者ギルドの副ギルドマスター、ジュエルさんの異母弟、ジェイドさんを治療したこともあったっけ。あまりに希少な能力のため、決して人前で使わないようジュエルさんに注意されたのは、今ではいい思い出である。

 ともかく、しばらく一人で頑張ってみたものの、最終的な結論としては無理と判断。俺はジュエルさんの勧めで奴隷を購入することにした。
 そこで出会ったのが、黒狼族の獣人クロードと、ヒト種の少女リリアンだ。
なんとクロードは三つの神選職のひとつ『勇者』で、リリアンは未来の『賢者』だった。

 呪い『不動の鎖』を掛けられたクロードと、神から与えられた試練のスキル『神域の暴流』を与えられたリリアンは、それぞれ過酷な人生を送っていた。
 彼らとの出会いはこの世界の神様の一人、『主神様』の思惑らしい。俺はその意思に従い、彼らを購入した。

手足を失っていたクロードを『パーフェクトヒール』で癒し、予め主神様から与えられていたスキル『救済措置』で呪いの一部を解除した。
 リリアンのスキル『神域の暴流』は、簡単に言えば圧倒的魔力過多を引き起こすスキルだ。まだ十歳の少女に扱いきれない膨大な魔力は簡単に暴走し、周りに大きな被害をもたらす。

 そしてこのスキルを与えたのはなんと主神様だった。その事実に気づいた神様の一人『魔神様』がリリアンへの救済として、聖獣のヴェネくんを俺達の元に派遣してくれた。白ネコのヴェネくんが、リリアンの暴走する魔力を制御してくれるそうだ。

 そして、クロードは俺と『真正主従契約ロイヤリティー』を結ぶことで、リリアンは魔神様の『恩赦』によって奴隷身分から解放され、俺達は仲間として行動することに。
 クロードが意外とスパルタだったり、バルス兄貴とクロードが突然大ゲンカを始めたりと、なかなか大変なこともあったが、忙しいながらも充実した日々を送ることができたと思う。

 だが、そんな日常を脅かす危険な敵が俺達の前に現れる。
 クロードの元仲間……彼を裏切り、呪い『不動の鎖』が彼に掛けられる切っ掛けを作った女。
エルフの心霊魔導士、アナスタシア・フェーレンだ。正確には彼女の魂の一部を宿した魔物『シルバーダイヤモンドウルフ』と遭遇したのである。

 およそ一年前、クロードは彼女を仕留めたらしいが、固有スキル『魂魄分与』を持っていた彼女は、魔物の中に魂を隠すことで生き残ったらしい。
シルバーダイヤモンドウルフに襲われ、俺とクロードは瀕死の重傷を負った。

 一時はもうダメだと諦めかけたが、俺に与えられていた固有スキル『識者の眼』の力で一時的に勇者の力を取り戻したクロードにより、シルバーダイヤモンドウルフを倒すことができた。

……そういえばあの戦闘後、優しい女性の声で誰かにお礼を言われた気がするけど、あれは誰だったんだろうか……?

 それから何週間かして、俺達はローウェルの北にある『ダンジョン』を目指した。目的はダンジョンを攻略した先に辿り着けるという地底都市『テラダイナス』だ。
 そこに住む在位五百年の賢者、パトリシア・サージェスさんなら、異世界召喚について何か情報を持っているかもしれないと踏んだ俺達は、ローウェルを後にした。

 主神様からもらった新スキルのおかげもあって、ダンジョン攻略は思いのほか順調に進んだ。だが、第十階層のボス戦を辛くも勝利した後、事件が起きる――転移罠だ。
 俺だけが第十九階層へ転移され、孤軍奮闘を強いられることに。一体誰が、何のために……?

 転移の衝撃で意識を失った俺は夢を見た。そこで俺そっくりなお姉さんと出会い、独立スキル『コトワリコトノハ』を与えられた。
 目が覚めた俺は愕然とした。主神様から与えられていた反則級のスキルの数々が失われていたのだ。転移罠の影響を抑え込む代償らしい。だがそのせいで、主神様との繋がり、固有スキル『チュートリアル』も、支援システム『ステータスサポート』ことサポちゃんまで失うこととなった。

 幸い、異世界召喚当初から所持していた、目的不明のスキル『宝箱』が問題を解決してくれた。
 ダンジョンに生息する宝箱風の魔物『ミミック』を倒すと、報酬として宝物を――つまり、失ったサポちゃんやスキルを再取得できるスキルだったのだ。ついでに、収納空間能力もあった。

 一方その頃、転移罠ではるか下層へ転移した俺を捜索するため、クロード達もダンジョン攻略を進めていた。俺とクロードの『真正主従契約』の機能『主従繋糸』によって、漠然とではあるが俺がダンジョン下層にいることが分かったからだ。

 そしてクロード達はその途中で、新たな仲間ユーリと出会うこととなる。
 魔族とヒト種のハーフ、ユーリ。彼女は成人したにもかかわらずなぜか職業を得ることができなかった。故郷から追い出された彼女は、答えを探して俺達同様テラダイナスを目指していたのだ。

 だが、同行していた冒険者達が魔物の群れに襲われ全滅し、クロード達に助けられたらしい。
目的地が同じこと、回復魔法を使えることもあり、彼女はクロード達と同行することとなった。
 探索の途中、魔物に挟まれた俺は仕方なく下層へ逃げ込むはめに。だがそこは第二十階層――つまりはボス部屋――へ続く階段で、降り立った瞬間、俺は強制的に転移されてしまう。

 俺を追う、魔物だと思っていた相手は実は人間で、ジュエルさんの弟、ジェイドさん率いる冒険者パーティー『銀の御旗』の面々だった。彼らも俺と同時にボス部屋に転移したようだ。
 ジェイドさんは剣呑な雰囲気だったが、それを気にする間もなくボス戦が始まった。
 ボス戦では苦戦を強いられたが、夢のお姉さんがくれたスキル『コトワリコトノハ』の力でどうにか全員生き残ることができた。
 ジェイドさん達と仲良くなれたが、俺達は第二十一階層で別れ、俺はクロード達を待つことに。

 数日後、俺に追いついたクロード達がとうとう第二十階層のボス戦を開始した。
 だが、そこに現れたのは瀕死のボスと――冒険者風の少女イヴェルだった。
 イヴェルと初めて出会ったのは、シルバーダイヤモンドウルフ戦の直前。彼女にもらったクリコの実を食べた後、『世界地図』がおかしくなり、俺は敵の奇襲を察知できず瀕死の重傷を負った。

 ……そして転移罠に掛かった時も、俺は彼女の声を聞いている。
その正体は、十一人の神の一人『邪神』に仕える聖獣『イーヴェルンゲンシュタイン』だった。

 イヴェルはなぜかクロードとユーリの命を狙っていた。ダンジョンでユーリが魔物の群れに襲われたのもイヴェルの差し金だったらしい。
 ダンジョンの中、とりわけボス部屋は神々の目が届かないらしく、イヴェルは実力行使に出てきたのだ。クロードが応戦するも実力差は明らかで、いつ負けてもおかしくなかった。

 ユーリは状況を打破しようと、ボス部屋から撤退すべく瀕死のボスにとどめを刺して回ったが、途中でイヴェルに気づかれ襲われてしまう。クロードはそれを庇い、致命傷を負ってしまった。
 その頃俺は夢を見ていた。夢のお姉さんに会い、不思議な指示を受けてミミックを発見。

 それを撃破して『識者の眼(オリジン)』を取得した。
 『主従繋糸』と『識者の眼(オリジン)』の連携でクロードの現状を把握した俺は、糸を通して『パーフェクトヒール』を発動、『識者の眼 開眼モード』を行使してクロードを再び勇者化した。

 それでも足りない実力差を『コトワリコトノハ』と、『真正主従契約』の機能のひとつ『主命下賜』によってクロードをさらに強化し、見事イヴェル撃退に成功したのだ。

 ようやく再会した俺達。しばしお互いの近況を確かめながら、ユーリを『鑑定』することに。
 そして彼女が神選職のひとつ『魔王』の候補者であることが判明した。
 邪神には魔王にさせたい特定の候補者がいるのではと予想するヴェネくん。それなら、今後も彼女が狙われる危険性はなくならない。

 俺達はこのままテラダイナスを目指すことに決めた。
 テラダイナスを含む三つの迷宮都市には、神々の干渉を拒む不思議な力があるらしい。

 今までの経験のおかげか、ダンジョン下層の攻略は順調に進んでいく。
 だが、第二十七階層で遭遇したある二人により、俺達は唐突に、テラダイナスに足を踏み入れることとなった。ダンジョンの石壁を掘り起こしていた彼らは、テラダイナスの住人だったのだ。

 魔物に襲われそうになっていた彼らを助けようと前に出た俺達は、テラダイナスへ緊急帰還しようとした彼らの転移に巻き込まれてしまった。
 辿り着いたのは第五聖殿の転移の間と呼ばれる場所。そこを統括する第五聖殿騎士隊の隊長、ガーベルによって拘束され、意識を奪われてしまう。
 どういうわけか、テラダイナスで俺達は魔法やスキルを行使できず、抵抗できなかったのだ。

 目が覚めると牢屋の中で、一緒に投獄されていた先程の二人、ドワーフのガレリオさんとゴブリンのワイザさんによれば、クロードはどこかへ連行されてしまったらしい。
 サポちゃんから、なぜか『コトワリコトノハ』を始めいくつかのスキルが行使可能だと聞かされた俺は、居ても立ってもいられず、クロード救出のために行動を開始した。

 そして牢を出ようとした時に、ユーリを引き連れた賢者、パトリシアさんと出会ったのだ。
 彼女の協力で地下室を発見した俺達は、戦えないユーリやリリアン達を残して地下へ。そこで見たのは――血まみれで今にも死んでしまいそうなクロードの姿で……彼は、拷問されていた。

 この時の俺は、あまりの衝撃で完全に冷静さを失ってしまった。『人前で使ってはいけない』というお姉さんの忠告を無視し、『コトワリコトノハ』を行使した……代償は、すぐにやってきた。

 夢のお姉さんの正体は、この世界から失われた十二番目の神『理法の識者 理神』。
 彼女は俺が生まれた時からずっと、俺の中にいたらしい。そして、俺以外の人間に『コトワリコトノハ』を知られることは、俺との共存バランスを壊してしまうものだった。

 地球でも、多くの人々に認識され、信仰されている神の力は大きくなるという話がある。
たった一人に知られるだけでも、俺とお姉さんこと理神様の境界線を破壊するには十分だったようで、俺という存在はあっけなく理神様の中に溶けて消えてしまった。

 そんな俺を理神様の中からサルベージして救ってくれたのは、サポちゃんだった。
 だがその代償として、力を使い果たしてしまった彼女は消滅してしまった。
 理神様が言うには、サポちゃんの本体は理神様の聖獣らしい。『ステータスサポート』としての彼女は消えてしまったが、聖獣の本体に戻って生き残っているそうだ。
 理神様は一度死んでしまった神様で、十一人の神の誰かに殺されたと教えられた。
 ……今、神域で何かおかしなことが起きている。

 クロードやユーリの件からもそれは明らかで、理神様は予定よりも早くこの世界に復活するために、世界中に散らばり凍結封印されている彼女の聖獣達を解放してほしいと俺に依頼した。
……俺はそれを承諾した。

 彼女は俺とのバランスを崩さないために、夢の中でしばしの眠りにつくそうだ。俺を弟のように思ってくれる彼女に――『姉さん』に見送られ、俺は現実世界へと帰還した。

 目が覚めるとそこはパトリシアさんのお屋敷だった。
そして、体の違和感に気づく……俺は、女の子になっていた……なんでだ!?
 どうやら姉さんの中に溶け込んでしまったせいで、彼女の一部を取り込んでしまった影響が出ているらしい……らしいのだが、これは……ちょっと……本気で困る。

 幸い、サポちゃんが元に戻る方法を知っているらしい。
 その後、パトリシアさんやみんなと相談した結果、まずはダンジョンマスターからテラダイナスへの滞在許可を得ることになった。
 ダンジョンマスターのもとにやってきた俺は驚いた。目の前にサポちゃんがいたのだ。

 三体のダンジョンマスターは聖獣達を模した複製体だそうだ。そして、ここにはサポちゃんを含めた三体の聖獣が封印されていた。
 ダンジョンマスターに案内されて、俺は彼らを復活させた……サポちゃんが帰ってきた!
 他二体の聖獣は、俺に神々の目から逃れる加護を与えると、再び眠りについた。全ての聖獣が揃うまで回復に専念し、来るべき時に再び現れるそうだ。
 幼い少女の姿を得たサポちゃんを仲間に加え、俺達は第五聖殿の転移の間へと戻る。

 第五聖殿ではダンジョンマスターに認められた証『鳴らない鐘』の音が鳴り響いていた。それが止み、全てが落ち着いたと思った瞬間、再び鐘が鳴り響いた。
 そして、俺の目の前に懐かしい人達が姿を現したのだ。
 俺の恩人、エルフのエマリアさん。ローウェルにいるはずのバルス兄貴にジュエルさん。エマリアさんの弟のラクリシアさんは初対面だ。

 それだけじゃない。俺はとうとう……故郷、地球の友人達との邂逅を果たした。
 俺の親友、新藤大樹。幼馴染の山原亜麻音。亜麻音の親友の豊月恭子ちゃん。そして、俺の従兄でクラス担任の葉渡候一こと候兄ちゃん。
 彼らは俺の後を追ってダンジョンに入り、見事攻略してテラダイナスにやってきたのだ。





「みんなと再会できて俺、すっごく嬉しいよ。探しに来てくれてありがとう! ……あれ?」

 再会した俺達はパトリシアさんのお屋敷にある会議室に集まった。お互いの情報を交換するためだ。まずは俺からと、これまでの経緯を説明したのだが……。

 テーブルを挟んで向かいに座る大樹やエマリアさん達は、なぜか頭を抱えながらテーブルに突っ伏していた………………なんでだ?


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