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第19話 蘇生
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私は池田の意識が完全に私の身体に向けられている事を確認し、下着の中に隠し持っていた簪を取り出しました。咲が身に付けていた、鋭い針のような簪です。
先の尖った、鋭利な部分を池田の眼球に向け、狙いを定めます。
そして、躊躇いなくその針のような部分を池田の眼球に刺し込み、そして更に力を込めて奥へと押し込みます。
「が、がっあああああああああああああああ!」
恐らく針の先端は眼球を貫通し、脳にまで至っていたと思います。脳味噌のあの柔らかな感触が、手に伝わってきたような気がしたのです。
池田は片目から血の涙を流しながら悶えています。返り血で真っ白な布団は一気に赤く染め上げられます。
「だから、駄目なの。殺して、私の心の中からいなくなってくれないと……私は先に進めない。『完璧な悪』にはなれず、半端者へ堕落してしまう」
そう、池田とこの場所は私にとって無意識のうちに心の拠り所になっていました。殺したはずの心に、また温度が取り戻されてきている気がして、我慢なりませんでした。
そうすれば、私は半端者へと堕落し、また空虚な自分に戻ってしまう。そうなるくらいなら、ここで全てを消し去ってしまおう。そう決意したのです。
「恵子ォ! 何しとるんや、おい! コラァ!」
池田が私に掴み掛ろうとしてきますが、私はそれを避けます。
「……悪党が『家族』だなんて温かい繋がり持ったら、もうそれは半端者。私を道具だとして見ていたのなら、こんな隙だらけの状態で私を寝床になんて迎え入れなかった」
きっと、出会った頃の池田なら、私を犯す時には反撃を警戒して、刃物で脅すなり、拘束をするなりの警戒は怠らなかったはずです。それが、池田にとっての『完璧な悪』だからです。
けれど、今の池田は私を信じ切っていました。だから無防備な状態でも私を布団へ招き入れ、私を犯したのです。
「池田さん、私と出会った時に言ってたよね。どんくさい私を見ていると、死んだ娘を思い出して放っておけないって。あなたはあの日、私を騙してこの『城』に引きずり込んだ。けれど、それだけは嘘じゃなかった」
あの日、無知な私を言葉巧みに騙した池田。あれは私を騙すための嘘だと思っていました。
けれど、一つだけ池田の本心が隠されていたことに、ようやく気付きました。
和を解体したあの日、池田は娘に似た私を殺す事を躊躇い、仲間にすることを考えたのです。
つまり池田もまた、心を殺しきった『完璧な悪』にはなりきれなかったのだと、私はようやく気付いたのです。
「和さんを殺したあの日、私も一緒に殺しておくべきだった。死人に口なし、私を脅して逃がさないようにするより、殺した方が確実で簡単だし手っ取り早い。その臓器も売りさばけばあなたにとって損なんてないはず。なのにそうしなかった。それは、あなたが無意識の私に娘と私を重ね、心のどこかで生温い感情を持っていたから。そして……今その『半端』さを私に突かれて、死にかけている」
娘の面影を持つ私を、池田は殺せなかった。そして、私を悪事の相棒として教育しずっと一緒にいたいと考えていたのかもしれません。
けれど、池田のその家族ごっこへの憧れが、池田自身の破滅への始まりだったのです。
「恵子ォ……お前、儂殺して死体バラして、どうする気や、金か……っ」
池田は血を流し過ぎたのか、もうほとんど意識も無く体も動いていませんでした。
「私はあなたとこの城を食って、『完璧な悪』を極める。誰にも越えられない、全てを食らう巨悪。そして……」
私は、私の目的を口にしようとして、やはり止めました。
これを口にするのは、私が池田を超えた『怪物』へと進化した時にと決めていたからです。
「さようなら、昭和の怪物・池田 雄一」
そう言って、私はもう一つの簪……咲の死体を解体した時に回収したもう一つの簪を、瀕死の池田のもう片方の眼球に刺し込みました。
池田はもう叫び声すら上げませんでした。それでも私は、池田の死を確かめるかのように簪で眼球を抉り取り、脳の奥まで簪が突き刺さるまで押し込みました。
そして、私の心は再び息を引き取ったのです。
先の尖った、鋭利な部分を池田の眼球に向け、狙いを定めます。
そして、躊躇いなくその針のような部分を池田の眼球に刺し込み、そして更に力を込めて奥へと押し込みます。
「が、がっあああああああああああああああ!」
恐らく針の先端は眼球を貫通し、脳にまで至っていたと思います。脳味噌のあの柔らかな感触が、手に伝わってきたような気がしたのです。
池田は片目から血の涙を流しながら悶えています。返り血で真っ白な布団は一気に赤く染め上げられます。
「だから、駄目なの。殺して、私の心の中からいなくなってくれないと……私は先に進めない。『完璧な悪』にはなれず、半端者へ堕落してしまう」
そう、池田とこの場所は私にとって無意識のうちに心の拠り所になっていました。殺したはずの心に、また温度が取り戻されてきている気がして、我慢なりませんでした。
そうすれば、私は半端者へと堕落し、また空虚な自分に戻ってしまう。そうなるくらいなら、ここで全てを消し去ってしまおう。そう決意したのです。
「恵子ォ! 何しとるんや、おい! コラァ!」
池田が私に掴み掛ろうとしてきますが、私はそれを避けます。
「……悪党が『家族』だなんて温かい繋がり持ったら、もうそれは半端者。私を道具だとして見ていたのなら、こんな隙だらけの状態で私を寝床になんて迎え入れなかった」
きっと、出会った頃の池田なら、私を犯す時には反撃を警戒して、刃物で脅すなり、拘束をするなりの警戒は怠らなかったはずです。それが、池田にとっての『完璧な悪』だからです。
けれど、今の池田は私を信じ切っていました。だから無防備な状態でも私を布団へ招き入れ、私を犯したのです。
「池田さん、私と出会った時に言ってたよね。どんくさい私を見ていると、死んだ娘を思い出して放っておけないって。あなたはあの日、私を騙してこの『城』に引きずり込んだ。けれど、それだけは嘘じゃなかった」
あの日、無知な私を言葉巧みに騙した池田。あれは私を騙すための嘘だと思っていました。
けれど、一つだけ池田の本心が隠されていたことに、ようやく気付きました。
和を解体したあの日、池田は娘に似た私を殺す事を躊躇い、仲間にすることを考えたのです。
つまり池田もまた、心を殺しきった『完璧な悪』にはなりきれなかったのだと、私はようやく気付いたのです。
「和さんを殺したあの日、私も一緒に殺しておくべきだった。死人に口なし、私を脅して逃がさないようにするより、殺した方が確実で簡単だし手っ取り早い。その臓器も売りさばけばあなたにとって損なんてないはず。なのにそうしなかった。それは、あなたが無意識の私に娘と私を重ね、心のどこかで生温い感情を持っていたから。そして……今その『半端』さを私に突かれて、死にかけている」
娘の面影を持つ私を、池田は殺せなかった。そして、私を悪事の相棒として教育しずっと一緒にいたいと考えていたのかもしれません。
けれど、池田のその家族ごっこへの憧れが、池田自身の破滅への始まりだったのです。
「恵子ォ……お前、儂殺して死体バラして、どうする気や、金か……っ」
池田は血を流し過ぎたのか、もうほとんど意識も無く体も動いていませんでした。
「私はあなたとこの城を食って、『完璧な悪』を極める。誰にも越えられない、全てを食らう巨悪。そして……」
私は、私の目的を口にしようとして、やはり止めました。
これを口にするのは、私が池田を超えた『怪物』へと進化した時にと決めていたからです。
「さようなら、昭和の怪物・池田 雄一」
そう言って、私はもう一つの簪……咲の死体を解体した時に回収したもう一つの簪を、瀕死の池田のもう片方の眼球に刺し込みました。
池田はもう叫び声すら上げませんでした。それでも私は、池田の死を確かめるかのように簪で眼球を抉り取り、脳の奥まで簪が突き刺さるまで押し込みました。
そして、私の心は再び息を引き取ったのです。
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