鬼畜の城-昭和残酷惨劇録-

柘榴

文字の大きさ
上 下
2 / 20

第2話 罠

しおりを挟む
 それから小一時間ほどでしょうか。私は狂ったように話し続けました。見ず知らずの男に今までの半生、自身の考え、悩み……男の巧みな話術と酒の勢いで私は自らの情報を無意識のうちに垂れ流していました。 
「ずっと、子供の頃から頑張ってきて……なのに、なのに私……っ、全然駄目で、不器用で、中身の無い空虚な人間なんです」
「そうかそうか。青森からたった一人で大阪、心細かったやろ。辛いことも、苦しいこともあったやろ。けど、お嬢ちゃんはこうしてここまで懸命に生きとる。それは誰にも否定できない事実や、自信持ち? おじさんが保証したる」
 男はただ私を肯定し、優しく慰めてくれるだけでした。けれど、それがたまらなく心地よかったのです。説教でもなく、ただ自分を全肯定してくれる男が心地よくて仕方が無かったのです。
「早く独り立ちして、田舎の両親を楽させるんだなんていき込んで飛び出してきたのに……このザマ。私……半端者なんです」
「そんなことないで。その気持ちに嘘偽りがないんなら、きっとうまくいく。頑張っている人間はきっと報われる! 嬢ちゃんのその気持ちは、半端者なんかやないで」
 私の分の酒を注ぎながら男は優しく言いました。こんな綺麗ごとのような言葉でも、この男が言うとなんだか現実的に聞こえたのです。
 
 それからも、店が閉まる直前まで私と男は談笑を続けました。大阪に来てから、こんなにも心が安らいだのはこの日が初めてだったと思います。
 自分の事を認めてくれた初めての人が、私にとってこの池田 雄一だったのです。
「あーあ……おじさんみたいな人が、上司だったらよかったのに」
 酔いが極限まで回った私は、無意識のうちに口走っていました。
ありのままの私を認めてくれた……この池田が上司なら、と心の底からの言葉だったと思います。
「なんだ、じゃあ儂のトコで、働いてみるか? もし、良ければの話やけど」
 その言葉に対し、池田は愛らしい笑顔でそう言いました。
 大阪に単身で出てきて、初めてこんな親切な大人と出会えた。その喜びに浸っていた当時の私は、知る余地も無かったのです。池田の、この人の皮の下に潜む絶対的な悪意と狂気を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話 考察

井村つた
ホラー
意味が分かると怖い話 の考察をしたいと思います。 解釈間違いがあれば教えてください。 ところで、「ウミガメのスープ」ってなんですか?

蜥蜴の尻尾切り

柘榴
ホラー
 中学3年生の夏、私はクラスメイトの男の子3人に犯された。  ただ3人の異常な性癖を満たすだけの玩具にされた私は、心も身体も壊れてしまった。  そして、望まない形で私は3人のうちの誰かの子を孕んだ。  しかし、私の妊娠が発覚すると3人はすぐに転校をして私の前から逃げ出した。 まるで、『蜥蜴の尻尾切り』のように……私とお腹の子を捨てて。  けれど、私は許さないよ。『蜥蜴の尻尾切り』なんて。  出来の悪いパパたちへの再教育(ふくしゅう)が始まる。

FLY ME TO THE MOON

如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!

誰にもあげない。私だけのお兄ちゃん♡

猫屋敷 鏡風
ホラー
両親を亡くしてから大好きな兄と2人暮らしをしていた中学2年生のメル。 しかしある日、その最愛の兄が彼女を連れてきて…… 【登場人物】 波瀬 愛琉(ナミセ メル) 波瀬 李蓮(ナミセ リレン) 金沢 麗亜(カナザワ レア)

おシタイしております

橘 金春
ホラー
20××年の8月7日、S県のK駅交番前に男性の生首が遺棄される事件が発生した。 その事件を皮切りに、凶悪犯を標的にした生首遺棄事件が連続して発生。 捜査線上に浮かんだ犯人像は、あまりにも非現実的な存在だった。 見つからない犯人、謎の怪奇現象に難航する捜査。 だが刑事の十束(とつか)の前に二人の少女が現れたことから、事態は一変する。 十束と少女達は模倣犯を捕らえるため、共に協力することになったが、少女達に残された時間には限りがあり――。 「もしも間に合わないときは、私を殺してくださいね」 十束と少女達は模倣犯を捕らえることができるのか。 そして、十束は少女との約束を守れるのか。 さえないアラフォー刑事 十束(とつか)と訳あり美少女達とのボーイ(?)・ミーツ・ガール物語。

真夜中の訪問者

星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。 ※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。

その瞳には映らない

雨霧れいん
ホラー
裏の世界で生きる少年達の壮絶な殺し合いの話し ___ こっちも内容たいして決まってません。

ちょっと怖い話(6/26更新)

狂言巡
ホラー
1,000字未満の怪談や奇談を不定期にまとめていきます。

処理中です...