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第9章『失楽園のツクり方/冒険者サエジマ・ワタルの章』

第319話 失楽園サエジマ・ワタルという人物(2)

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 ----誰かに、このタイミングで敗北する事。
 それこそが、スカレットが考えていた計画の最終段階。

 歴史上、作戦が失敗する理由は、たった1つ。
 ----成功する事を前提に建てた計画であるから。

 自分達の計画が誰にも邪魔されず、なんのトラブルもなく完遂されるなど、作戦が大きくなればなるほど不可能な事は目に見えていた。

 だからこそスカレットは、"失敗する事を前提に"、作戦を考案した。

 自らの敗北、それこそが彼女が望む計画だったのだ。
 


『ありがとう、サエジマ・ワタル』
「なっ……?!」

 全く警戒せずに、彼女ルトナウムが触れる所に居たサエジマ・ワタルに対し、ルトナウムは侵食していく。

『サエジマ・ワタル、君は実に良い職業ジョブを持っていた。【召喚士】という職業ジョブでなければ、私は既にこの世から消えてしまっていただろう』

 逆に言えば、サエジマ・ワタルがいたからこそ、このような結果になってしまった、と言えるべきなのだ。
 たまたま彼が居たからこそ、このようなことが出来てしまったのだから。

『まずは、要らない意識を消して、と』

 そう言って、スカレットはサエジマ・ワタルの魂に侵食し、意識という部分を消した。
 これでこの身体は、完全にスカレットのモノとなったのである。

『----うむ、ちゃんと職業ジョブが【なし】になってるな』

 そして、きちんと職業ジョブが【なし】、つまりなんの職業ジョブにも就いていないことを確認する。

 職業ジョブがなしになっているのは、冴島渉がヘミングウェイを救う際に、自らの身体に【召喚士】の神を宿らせた結果、この世にいる他の【召喚士】の職業ジョブを持つ者が使えない、剥奪された状態になったからである。
 その後、職業ジョブは他の適性がある職業ジョブになるかどうかの質問があるのだが、スカレットは敢えてその通知がこの身体に来ないように予め細工しておいた。
 結果として【召喚士】の職業ジョブが消え、他の神々の介入もなく、なおかつ【召喚士】に戻ることが出来なかった、この世でもめちゃくちゃレアな無職という職業ジョブの持ち主が、ここに誕生したという訳である。

 そして、この身体なら、無職である今ならば、なんにでも・・・・・なれる・・・



『【世界球体パンクスフィア=パンドラ世界=】』

 スカレットが取り出したのは、とある世界を閉じ込めた【世界球体】。
 この球体の中には、パンドラの箱----ギリシャ神話に登場する、世界中のありとあらゆる災厄が閉じ込められた災厄の箱がある世界が、その【世界球体】には入っていた。

 これを使用する事で、スカレットはこの職業ジョブを獲得し、世界中に災厄をもたらす災厄の申し子となることが出来る。

 しかし、スカレットは取り出しただけで、それをそのまま使用する事はしなかった。

 ----いや、むしろさらに"悪化させた・・・・・"。

『----複製スキル【贋作作成】』

 スカレットが放ったそのスキルは、物を複製して作り出すスキル。
 ただし、必ず元のモノとは違う所が出てきてしまう、いわば欠陥品を作り出すハズレスキル。

 しかしそのハズレスキルが、スカレットがいま一番欲しいモノだった。

 スカレットはその後、100回以上、そのスキルを使用する。
 そうして生まれたのが【世界球体=パンドラ世界=】と、複製スキルによって生まれた、同じく災厄の世界を閉じ込めた【世界球体】。

『蟲毒ってあるでしょう? 呪い同士を1つの箱の中で戦い合わせることで、最後に残った呪いが、最も強い呪いとなるというアレ』

 そして、その蟲毒を、スカレットは自身で行った。

 
 スカレットの身体の中で、世界に災厄をもたらすパンドラの箱同士がぶつかり合い、呪いあう。
 呪いや災厄はスカレットの中で育っていき、それを受け止めるスカレットの身体もまたそれに応じて悪い方向に、悪として成長していく。


 そうして生まれたのが、最強の災厄を纏いし、スカレットという災厄。
 全身黒く、黒い災厄と化したスカレットは、高らかに宣言する。

「さぁ、世界を私の色に染め上げましょう」



(※)【世界球体=パンドラ世界=】
 【世界球体】の一種。ギリシャ神話に登場する災厄を閉じ込めたパンドラの箱があちこちにあるという、災厄まみれの世界を閉じ込めてある
 職業ジョブになるように使用すると、世界中に災厄をまき散らす【パンドラ】という職業ジョブが使用できるようになる

(※)黒化スカレット
 【世界球体=パンドラ世界=】を複製したモノを100個以上自身に取り込み、呪い合わせることによって完成した、呪いの王
 身体は男という正常状態は反転し、現在は女になっている。細胞1つ1つ、素粒子1粒1粒に至るまで、世界そのものを呪い犯すほどの災厄が詰め込まれている
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