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第9章『失楽園のツクり方/冒険者サエジマ・ワタルの章』

第316話 未知

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「---くっ!!」

 ウルズちゃんは焦っていた。


 ウルズちゃんのスキル、【レベルアッパー】。
 それは自身にかかっている祝福バフを自ら解除する事により、その見返りを得るスキル。
 冴島渉の召喚獣としてレベルという概念を持つ彼女にとっては、1つの祝福バフを解除する事により、レベルが1つ上昇した。
 
 たかが1つ、されども1つ。

 塵も積もれば山となるように、彼女の強さはどんどん強靭なモノへと進化していく。
 今の彼女は【レベルアッパー】による限界値、『+255』という常識はずれなバグレベルのレベルを手に入れている。


 ----なのに、勝てない。

 
「(なんなの、このドラゴン娘?!)」

 ウルズちゃんの強さは、圧倒的だ。
 恐らくだが、いまの彼女の力であれば、たとえ神様クラスであろうとも十分に渡り合える。

 それなのに、このマルガリータという、神にも至らぬモノが、自身と渡り合える、それどころか圧倒しているのが分からなかった。


 ----未知。


 どんな世界においても、未知とは恐怖の対象である。
 ウルズちゃんの強さは分かりやすい強さだ、なにせレベルがめちゃくちゃ高いというだけなのだから。

 一方で、マルガリータの強さは、まったくの未知の代物。
 彼女のステータスにも、彼女のスキルにも、ウルズちゃんを越える代物は確認できない。

 それなのに、勝てない。
 彼女を越えることが出来ない。

「(嘘でしょ、こっちはカンスト済み! これ以上は強くなれないのに!)」

 圧倒的な力によって、力の差を見せつける。
 そのために行った【レベルアッパー】での限界最高値、『+255』になっているという事実が、ウルズちゃんの絶望を高める。

 ウルズちゃんには、これ以上強くなる手段がない。
 マルガリータと戦うために、これ以上できる手段が存在しなかった。


「私の、負け……」


 ウルズちゃんが負けを認めると共に、彼女の強さが一気に失われていく。
 元々、【レベルアッパー】はあくまでも限定的な強化。
 この一戦限りの代物であり、敗北を認める----つまり戦闘終了によって、その効果は消え、彼女は元の強さに戻るのだった。

「完敗よ、マルガリータ……」
「ふふっ! カワイイは絶対に勝つ!」

 止めとばかりに、抵抗する事を止めたウルズちゃんの身体に拳を叩きこむマルガリータ。
 こうしてウルズちゃん消滅を確認し、マルガリータとウルズちゃんの戦いは幕を閉じるのであった。





「凄かったですよ、マルガリータ!」

 その戦いを後ろでこっそり見ていたヘミングウェイは、興奮した様子で、マルガリータに話しかける。

「今の、どうやって勝てたんです?! 可愛すぎるという所しか、分からなかったんですけど?! いえ、教えてくれなくてもそれはそれで興奮できるんで良いんですが……」

 ハァハァと、息粗く話しかけるヘミングウェイ。
 完全に通報案件そのものな様子だが、"可愛すぎる"という言葉しか耳に入っていないマルガリータは、気分良く彼女の問いに答えていた。

「簡単な事だよ♪ カワイイボクの妹たる、ヘミングウェイちゃん!
 相手がレベルに頼った驚愕の強さを使うなら、こちらはレベルに頼らない強さで勝負しただけ。進化した私のスキルが、相手のスキルの埒外だっただけの事」

 得意げにそう語るが、ヘミングウェイには全く分からなかった。
 「サッカーで勝負にならないから、バスケで勝負した」みたいに言われても、それでどう勝つかが知りたいのに、それだけ言われても困惑するしかなかった。

「まぁ、まずは皆と合流しましょう。ココアお姉様とか、雪ん子さんとかを探さないと」
「そうですね! ……ところで、マルガリータ? 肝心の冴島渉はどこに?」

 キョロキョロと辺りを探すヘミングウェイに、マルガリータは笑って返す。

「何を言っているんですか。プロデューサーなら私を進化させて、そこに……って、あれ?」

 そして、マルガリータは気付いた。

 ----冴島渉が消えていた事に。



(※)【幻想暗黒龍武術】+【聖堂騎士武術】
 聖域武神姫ヘミングウェイ・ヴァルハラの主流戦術スキル。【幻想暗黒龍武術】は《マナ》と《スピリット》、【聖堂騎士武術】は《オーラ》と《プラーナ》という、異なる四大力を同時に扱う事を基本としている上級スキル
 【レベルアッパー】により常識の範囲内で圧倒的に強化されたウルズちゃんであるが、彼女が認識できない内に【幻想暗黒龍武術】によって現実を改変されたことにより、ウルズちゃんの攻撃は全て相手に届く前に攻撃が止まってしまっていた。そこに《オーラ》と《プラーナ》によって限界以上に常に強化された【聖堂騎士武術】がぶつけられる
 結果として、敵であるウルズちゃん視点から言えば、自分の攻撃は当たらず、相手の攻撃は自身の想定以上のダメージにて襲い掛かるという、恐ろしい代物として認識してしまう事になったのである
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