俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政

文字の大きさ
上 下
332 / 354
第9章『失楽園のツクり方/冒険者サエジマ・ワタルの章』

第316話 未知

しおりを挟む
「---くっ!!」

 ウルズちゃんは焦っていた。


 ウルズちゃんのスキル、【レベルアッパー】。
 それは自身にかかっている祝福バフを自ら解除する事により、その見返りを得るスキル。
 冴島渉の召喚獣としてレベルという概念を持つ彼女にとっては、1つの祝福バフを解除する事により、レベルが1つ上昇した。
 
 たかが1つ、されども1つ。

 塵も積もれば山となるように、彼女の強さはどんどん強靭なモノへと進化していく。
 今の彼女は【レベルアッパー】による限界値、『+255』という常識はずれなバグレベルのレベルを手に入れている。


 ----なのに、勝てない。

 
「(なんなの、このドラゴン娘?!)」

 ウルズちゃんの強さは、圧倒的だ。
 恐らくだが、いまの彼女の力であれば、たとえ神様クラスであろうとも十分に渡り合える。

 それなのに、このマルガリータという、神にも至らぬモノが、自身と渡り合える、それどころか圧倒しているのが分からなかった。


 ----未知。


 どんな世界においても、未知とは恐怖の対象である。
 ウルズちゃんの強さは分かりやすい強さだ、なにせレベルがめちゃくちゃ高いというだけなのだから。

 一方で、マルガリータの強さは、まったくの未知の代物。
 彼女のステータスにも、彼女のスキルにも、ウルズちゃんを越える代物は確認できない。

 それなのに、勝てない。
 彼女を越えることが出来ない。

「(嘘でしょ、こっちはカンスト済み! これ以上は強くなれないのに!)」

 圧倒的な力によって、力の差を見せつける。
 そのために行った【レベルアッパー】での限界最高値、『+255』になっているという事実が、ウルズちゃんの絶望を高める。

 ウルズちゃんには、これ以上強くなる手段がない。
 マルガリータと戦うために、これ以上できる手段が存在しなかった。


「私の、負け……」


 ウルズちゃんが負けを認めると共に、彼女の強さが一気に失われていく。
 元々、【レベルアッパー】はあくまでも限定的な強化。
 この一戦限りの代物であり、敗北を認める----つまり戦闘終了によって、その効果は消え、彼女は元の強さに戻るのだった。

「完敗よ、マルガリータ……」
「ふふっ! カワイイは絶対に勝つ!」

 止めとばかりに、抵抗する事を止めたウルズちゃんの身体に拳を叩きこむマルガリータ。
 こうしてウルズちゃん消滅を確認し、マルガリータとウルズちゃんの戦いは幕を閉じるのであった。





「凄かったですよ、マルガリータ!」

 その戦いを後ろでこっそり見ていたヘミングウェイは、興奮した様子で、マルガリータに話しかける。

「今の、どうやって勝てたんです?! 可愛すぎるという所しか、分からなかったんですけど?! いえ、教えてくれなくてもそれはそれで興奮できるんで良いんですが……」

 ハァハァと、息粗く話しかけるヘミングウェイ。
 完全に通報案件そのものな様子だが、"可愛すぎる"という言葉しか耳に入っていないマルガリータは、気分良く彼女の問いに答えていた。

「簡単な事だよ♪ カワイイボクの妹たる、ヘミングウェイちゃん!
 相手がレベルに頼った驚愕の強さを使うなら、こちらはレベルに頼らない強さで勝負しただけ。進化した私のスキルが、相手のスキルの埒外だっただけの事」

 得意げにそう語るが、ヘミングウェイには全く分からなかった。
 「サッカーで勝負にならないから、バスケで勝負した」みたいに言われても、それでどう勝つかが知りたいのに、それだけ言われても困惑するしかなかった。

「まぁ、まずは皆と合流しましょう。ココアお姉様とか、雪ん子さんとかを探さないと」
「そうですね! ……ところで、マルガリータ? 肝心の冴島渉はどこに?」

 キョロキョロと辺りを探すヘミングウェイに、マルガリータは笑って返す。

「何を言っているんですか。プロデューサーなら私を進化させて、そこに……って、あれ?」

 そして、マルガリータは気付いた。

 ----冴島渉が消えていた事に。



(※)【幻想暗黒龍武術】+【聖堂騎士武術】
 聖域武神姫ヘミングウェイ・ヴァルハラの主流戦術スキル。【幻想暗黒龍武術】は《マナ》と《スピリット》、【聖堂騎士武術】は《オーラ》と《プラーナ》という、異なる四大力を同時に扱う事を基本としている上級スキル
 【レベルアッパー】により常識の範囲内で圧倒的に強化されたウルズちゃんであるが、彼女が認識できない内に【幻想暗黒龍武術】によって現実を改変されたことにより、ウルズちゃんの攻撃は全て相手に届く前に攻撃が止まってしまっていた。そこに《オーラ》と《プラーナ》によって限界以上に常に強化された【聖堂騎士武術】がぶつけられる
 結果として、敵であるウルズちゃん視点から言えば、自分の攻撃は当たらず、相手の攻撃は自身の想定以上のダメージにて襲い掛かるという、恐ろしい代物として認識してしまう事になったのである
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

処理中です...