上 下
318 / 350
第9章『失楽園のツクり方/冒険者サエジマ・ワタルの章』

第302話 マルガリータは成長途中(1)

しおりを挟む
「----勝利を確信している時、それが一番の油断というのを理解しておくべきだよ。
 そういう所もしっかり記憶すべきだったね。召喚獣のお2人さん?」

 ニヒヒッと、不敵な笑みを浮かべながら、スカレットは2人にそう話す。

 ----スキル【無限の距離・反転】。

 自分スカレットに向かって来る攻撃を、全て力の方向ベクトルを反転させる。
 相手に当てるはずだった攻撃は、逆向きとなり、自分へと返って来る攻撃となって、2人へと返って来た。
 しかもただ返って来るだけではなく、そこにはスカレットの職業ジョブの特性が加わった状態で戻って来た。

「《ぴぴっ?! うごけ、ないっ?!》」
「動きが制限、身体が固定されてる?!」

 そう、スカレットの職業ジョブである【パティシエ】。
 その特性たる【万物の固定】というモノが、反転させられた2人の攻撃と共に、雪ん子とファイントはその場に固定されてしまったのだった。

「戦いとは常に利口な方が勝つ。この勝負、利口なのは私だったようですね」

 そして、スカレットは2人にさらにスキルを施す。
 そのスキルは、【達人の超直観】と呼ばれるスキルで、本来ならば料理中に活用するスキル。

「その効果は----考える時間を得るために体感時間を百万倍にもする。
 そして、それを、あなた達に反転付与、っと」

「《----?!》」
「----?!」

 本来であれば体感時間を百万倍にもして、考察して作戦を考える時間を作る【達人の超直観】。
 それを反転し、"体感時間が百万分の1にする"というモノとなってしまい、彼女達にとっての『1秒』が、実際の時間だと『およそ11日と半日』になってしまっているのだ。

 もう彼女達には、なんの拘束も必要ない。
 なにせ、こちらとは全く別の次元で生きる者達となったのだから。

「----さてさて、冴島渉の方はどうなってるのかな?」

 スカレットはそう言って、"見"に回るのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「(……なんだよ、これ)」

 俺、冴島渉は目の前で広がる光景に、どうすれば良いか困っていた。

 目の前で戦っているのは、悪癖龍マルガリータと、変わり果てた姿となったヘミングウェイ。
 
 狂暴そうな恐竜を思わせる右腕と脚、そして恐竜の部分には凍てつく氷が纏われている姿となった、ヘミングウェイ。
 その凶悪な右腕と脚を振るうことで、氷を纏った爪の斬撃が放たれる。

 それに応戦するは、マルガリータ。
 【アルターフェザー】で生み出した羽によって氷を纏った斬撃を異界へと送る事で防ぎつつ、【ドラゴニック杖術】による攻撃によってヘミングウェイを攻め続ける。


 一見するとマルガリータ優勢に思えるかもしれないが、マルガリータは後衛、つまり後ろから魔法などで攻撃するタイプの召喚獣。
 一方でヘミングウェイは元々は盾役タンクをさせるために召喚した召喚獣だから前衛、前で戦う事を前提としている。

 マルガリータは盾役など他の仲間と一緒に戦うのを想定しており、この状況はまずい。

 ……だけど、召喚ができない。
 恐らくスキル封印かなにかだと思うが、召喚が出来ない俺には見ていることしか出来なかった。


「はぁはぁ……気持ちいい!! 攻撃がめちゃくちゃ、きもちぃぃ~!!」

 いや、見ているだけしか出来ないんだが……ヘミングウェイは闇落ちしても、やっぱりドМなんだな。
 なんか心配するのが、少し馬鹿らしく思えて来るなぁ。

 けれどもまぁ、敵の手に落ちているのは確かだし、何とか助け出さないといけないよな。
 あの恐竜のような身体も、なんか不穏というか、怪しげな感じがするし、なんとかしなければ……。

「(でも、それ以上に気になるのは----)」

 氷を纏う恐竜のような腕を持つヘミングウェイ。
 それ以上に気になるのは----

「----せいっ!!」

 杖を振るう、マルガリータ。
 ドMであるヘミングウェイは自ら当たりに向かい、マルガリータの杖は見事に命中する。

 命中したのは良い、良いんだが----

 ----ぐぐぐっ!!

「(やっぱりだ)」

 ----伸びている。
 明らかに、マルガリータの腕が"伸びている"。

 翼の先が血で塗れており、頭には電脳の輪っかが浮かんでいる。
 他にも腕や足などもググっと伸びていて、うちのマルガリータは戦闘中に成長しているようだった。

 明らかに別物として成長している。

「(……これはまさか、進化?)」

 いや、俺はなにも指示していないんだが……。
 なんで進化し始めてるんだ、マルガリータは?

 ヘミングウェイの変化よりも、進化しようとしているであろうマルガリータの変化。
 そっちの方が、俺としては気になるのであった。



(※)【達人の超直観】
 【パティシエ】など、職人系の職業ジョブなどに発現するスキル。作業中に発動する事によって、超集中状態ゾーンに入る事で作業中に思案、考察することが出来るようになる
 使用する事で熟練度が溜まっていき、使い続ければ続けるほど体感時間を長く感じることが出来る。スカレットの場合は1秒を100万秒、およそ11.5日くらいに感じることが出来る
 さらにスカレットは、逆に100万秒を1秒に変えて、他者に付与することができる
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします! 感想待ってます! まずは一読だけでも!! ───────  なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。    しかし、そんなオレの平凡もここまで。  ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。  そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。  使えるものは全て使う。  こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。  そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。  そしていつの日か、彼は……。  カクヨムにも連載中  小説家になろうにも連載中

処理中です...