上 下
279 / 350
第7章『たまにはゆっくり、旅館でいい気分♪/吸血女帝ココアの章』

第265話 さぁ、絶望に沈める時間です(1)

しおりを挟む
 進化して、さらに狐らしさも追加された、吸血女帝となったココア。
 他者を自身にするというスキルを使い、雪ん子さえ味方として取り込んで、7人となって戦いを挑むブイオー。

 ココアは血液を武器として、ブイオーは7人全員で雷を武具へと変えて。
 互いに、相手を排除しようと得物をぶつけ合っていた丁度その頃。


 ドラキュラ城の前に、赤坂帆波、空海大地、天地海里の3人が揃っていた。
 そんな赤坂帆波一行の前に、ペストマスクをつけた絶望スカレットは現れていた。
 


「初めまして、赤坂帆波、そして世界を破壊せし2人の元勇者のご一行様。
 ----わたくし、【街】所属の【絶望】担当。名をスカレットと申します」

 ペストマスクを被った彼女は、丁寧にペコリと頭を下げる。

「まさか、あなた方を撃退するために送り込んだ、数百体にも及ぶ、絶対に死ぬことも退くこともない、人造兵器ボウケンシャ達をかき分けて、この城の所に来るとは、驚きです。あの状況からは、絶対に突破できないはずなんですが」
「私には、優秀な部下が2人も居るからね」
「なるほど、2人が対処した、と」

 スカレットは、赤坂帆波の言葉から、どのようにして数百体の敵をかき分けて、ここまでやって来たのかが分かった。

 彼女達には、あと2人の仲間がいる。
 【文明】担当の、佐鳥愛理。
 【どん底】担当の、ビーワンちゃん。

 その2人の姿がない事から導き出される結論は、1つ。

 赤坂帆波達がここに居るのは、その2人が敵を押しとどめ、3人を逃がしたという事だ。

「なるほど、確かに死ぬ気で足止めすれば、3人を逃がすことも出来るというモノ。理解しました。
 どうも、ラトライタちゃんがお世話になったようですね。あなた方に絶望を与えるために、今度は私がお相手するため、はるばる下まで降りて来ましたよ」
「ご丁寧に、どうもですね」

 赤坂帆波はそう言って、【奴隷商人】の力を使って、腕と背中に悪魔を宿らせる。
 腕は全てを引き裂く鋏のようになっており、背中には車やバイクなどの後ろで見られる筒----マフラーが2本、飛び出ていた。

 腕に宿しているのは、あらゆるモノを切断する、鋏の悪魔。
 背中から飛び出るマフラーは、瞬時に最高速へと達して移動できる、エンジンの悪魔。
 今の赤坂帆波は、あらゆるモノを切断しうる鋏を宿しつつ、エンジンを稼働する事で超高速で移動できる。

 そして空海大地と天地海里の2人は、自らに光文明の力を宿していた。
 本来は文明を宿して戦うのは、天地海里の領域なのだが、元々は同じ人間であるためか、空海大地もすっかりマスターし、2人は常に最上級の回復状態となる光文明の力を宿して、スカレットと相対していた。

 3人の、元勇者。
 戦力としては十分すぎるくらいの、過剰戦力な一向に対し、スカレットは"余裕"という態度を取る。

 まるで、3人とも相手にならないとでも言いたげだった。

「余裕そうだな、スカレット。あんた、俺達に無傷で勝てるとでも思ってるのか?」
「心外ですね、空海大地。そして、同じ風に思っているだろう天地海里」

 スカレットは否定する。

「無傷で勝つと思えるほど、あなた方の強さを過少には評価しませんし、私もそこまで強くはありません。そして、あなた達を倒すほどの人材も、私達【街】には居ません。
 ----まさしく、絶望的な戦力差。あなた達に戦いを挑む事、それそのものが無謀といえましょう」

 スカレットの言葉に、虚言や虚勢は一切感じられなかった。
 冷静に、彼女はそう自分の方が弱いと、そう言い放ったのだ。

「しかし----」


 パチンッ!!


「「「----?!」」」

 3人の元勇者達は、一斉に前に出る。
 その瞬間、自分達が居た場所が、突如として凹む。
 物凄い勢いで押し潰されたかのように、そこだけ大きく沈み込んでいたのだ。

 ----重力攻撃。
 いきなり、3人が居た場所だけに、重力が異常にかかって、地面が凹んだのである。
 受けていればやられはしなくても、かなり痛いダメージになっていたのは確かだと言えるような攻撃であった。

 敵が放つ重力を用いた攻撃に、3人は対処する暇も与えられなかった。
 今度は世界全体が、闇に包まれる。

 それは天地海里が持つ文明のうちの1つ、闇文明の力----全てを撃ち滅ぼす、闇の力と酷似していた。
 違うのは、それが文明として人が管理できるモノなどではなく、純粋に人に仇名す闇のモノであるということ、そしてそれを操るのが目の前のスカレットだということ。

「----私は、そもそも【絶望】担当。絶望的な状況なら、むしろ私のためにあるようなモノ。
 さぁ、勝負しましょう、最強の元勇者達。そして、お互いに絶望を楽しもうじゃないですか!」

 スカレットは闇を操って、3人の元勇者へと襲わせる。
 時も、魔力も、空間も----ありとあらゆるモノを区別なく、そして遠慮なく、その闇は飲み込んでいく。


「悪魔達っ!!」

 赤坂帆波は、悪魔に命令する。
 命令された悪魔達は、己が権能を用いる。

 背中に憑りついたエンジンの悪魔は、身体が引きちぎれるのを覚悟の上で、超高速で闇にぶつかる前に、スカレットの前に到達する。
 そして、腕に憑りついた鋏の悪魔は、触れたモノ全てを切断するという権能を行使して、攻撃する。


 しかし、その攻撃はスカレットの目の前で、空振りした。

「無駄ですよ、悪魔を操る赤坂帆波。いくらあなたの悪魔の力が強かろうとも、当たらなければ意味はない。
 絶望担当たるこの私は、あなた達との間に、見えない無限の距離世界を生成する事が出来る。そして、私に対する全ての攻撃は、その無限の距離の中で、威力は消えてしまう」

 どれだけ強い攻撃も、当たらなければ意味がない。
 どれだけ強い攻撃も、相手に到達しない。
 それこそが、この絶望スカレットが、余裕の表情で居られた理由。

「さぁ、絶望に沈める時間です」



(※)無限の距離
 絶望スカレットの固有能力の1つ。相手と自分との間に、無限の距離世界を生成することが出来る
 どんな攻撃でも当たらなければ意味がないのと同じように、絶望スカレットへの攻撃は、この無限の距離世界へと飛ばされて、永遠にスカレットには到達する事は出来ず、そのためにスカレットに攻撃は与えられない
 スカレットはこの能力を任意で発動することができ、自分の攻撃の瞬間だけは解除して、相手にダメージを与えることが出来る
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします! 感想待ってます! まずは一読だけでも!! ───────  なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。    しかし、そんなオレの平凡もここまで。  ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。  そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。  使えるものは全て使う。  こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。  そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。  そしていつの日か、彼は……。  カクヨムにも連載中  小説家になろうにも連載中

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...