252 / 350
第7章『たまにはゆっくり、旅館でいい気分♪/吸血女帝ココアの章』
第238話 雨の中、千夜葉は笑う
しおりを挟む
----ぴちゃぴちゃ、ぴちゃ。
激しい雨が降る中、1人の少女が傘を差さずに、走っていた。
その少女の名は、花弁千夜葉。
つい先ほどまで幽鬼となっていた、【鍛冶職人】の冒険者である。
彼女が急いでいる理由は、いくつかあった。
気を失ったと思っていたら、数日が経過していた事。
財布はあれども、携帯電話を持っていなかった事。
そしてなにより----ルトナウムの秘密を知ってしまった事。
「(政府は、あのルトナウムを使って冒険者特性を付与した兵器開発を勧めたい、などと言っていたけど、とんでもないっ!)」
彼女の言う"とんでもないっ"とは、"ルトナウムにそんな特性がない"という意味では、ない。
ルトナウムは、ありとあらゆる物の価値を変質させてしまう、恐ろしき物質である。
分かりやすく例えるならば、ただの鉄くずを金に変えると言われる、錬金術の到達点として名高い『賢者の石』の上位互換、とでも言えば良いだろうか。
ルトナウムを正しく使えば、ありとあらゆる物に、あらゆる属性へと変質させることが出来る。
それこそ、【剣士】の特性を持った機関銃を作って、何でも一刀両断の銃弾を放つ最強機関銃を生み出したり。
あるいは、【重騎士】の特性を持った戦車を作って、傷を治しながら向かって来る、無敵のゾンビ戦車を作ったり。
人間という、ただ猿から進化しただけの生物を、魔物を簡単に倒す怪物へと変えてしまう、冒険者特性。
そんな冒険者特性を、ただ守るために殺す用途を付与された武器に使えば、どれだけの軍事改革がなされるか、想像もつかないだろう。
「(実際、軍事産業は大きく変化するでしょうね)」
問題は、技術的なことではない。
倫理的なこと、である。
あのルトナウムには、倫理的に、致命的な欠陥を抱えている。
それこそ、人間である以上、その倫理的な欠陥を知ったからこそ、花弁千夜葉は走っているのだ。
「(電話番号は、防衛大臣さんとの電話番号は携帯電話の中! あるいは、机の引き出しの名刺入れを見ないと!)」
彼女は、政府から、もっと言えば防衛大臣から、1つの依頼を受けていた。
ルトナウムの解析と、ひいてはそのルトナウムを用いて冒険者特性を付与した兵器開発が出来ないか否かの相談。
彼女は快諾し、防衛大臣とのホットラインを、名刺としてもらい、携帯電話に登録した。
そして、ルトナウムの真実を知って伝えようとしたところ、気が付いたら携帯電話を持たない状態で、外で気絶していたのである。
彼女は、防衛大臣との電話番号を、頭の中に記録していなかった。
携帯電話に入れといたからという理由で、頭の中に一切記録していなかったのである。
早く、防衛大臣に、ルトナウムの危険性を知らせなければ、ならない。
しかし、そこいらの公衆電話や、お店の固定電話を借りても、防衛大臣とのホットラインの電話番号は知らず、かといって政府さんに直接「防衛大臣さんと、連絡したいんですけど~!」と言われても、繋がる訳もない。
故に彼女は、事務所へと、名刺がある事務所に走っていた、という訳なのだ。
「しかし、雨がキツい!」
彼女は、若干キレながら、走っていた。
雨はそんな彼女の機嫌などお構いなく、どんどん勢いを増していく。
タクシーを拾おうとした彼女であったが、ひどく降る雨のせいで、タクシーが摑まる気配は一切なかった。
急いで伝えたかったのに、5分経ってもタクシーが摑まりそうになかったため、彼女はこんな雨の中、走る羽目になっていた。
雨はどんどん降ってきて、彼女の目の前はかろうじて見える程度だ。
急いでいるのに、視界は最悪、おまけに携帯電話もなくてテンション絶不調なのである。
「もう! なんで雨がこんなにっ!」
----どんっ!!
「きゃっ!」
「わっ、と!」
視界不良の中、走っていた千夜葉は、目の前の人物に気付かなかった。
彼女は傘を差して、ゆっくり歩いていた貴婦人とぶつかって、2人は雨の中、道端で倒れてしまう。
傘を差したまま倒れる姿も絵になる貴婦人と、ずぶ濡れで倒れる花弁千夜葉。
対照的な2人は、雨の中、そうやって邂逅を果たすのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いたたっ……!」
ゆっくりと起き上がる千夜葉を見て、傘を拾った貴婦人は即座に立ち上がって、手を差し伸べる。
「ごめんなさい、雨が強くて見えなかったみたいだね」
「立てる?」と優しく手を差し伸べられ、千夜葉も「すみません」と手を取って立ち上がる。
「すいません、ちょっと急いでて」
「失礼だけど、雨の中を傘を差さずに全力疾走ってのは、あんまりオススメしないけど? 濡れるし、体力が奪われるだけだし」
「いや、ほんと、急いでて……」
今もなお駆けだそうとする千夜葉に対し、貴婦人は心配そうな顔をしながら、持っていたサイドバックから折り畳みの傘を差し出した。
「良かったら、使います? 実は私、念のためにいつも持ち歩いてて」
「~~!! 助かります!」
千夜葉は善意に感謝し、貴婦人から折りたたみ傘を受け取ると、そのまま走り出そうとして----
「でも、よっぽど嬉しい事があったのね」
そういう、貴婦人の言葉が何故か、気になってしまった。
「え?」
「あら、やだ。急いでるんじゃないの? そんな、"とびっきりの笑顔をしてるのに"」
貴婦人に言われて、千夜葉は恐る恐る、水たまりに映る自分の顔を覗き込む。
水たまりは鏡とは呼べないくらい、薄汚れており、千夜葉の顔をくっきり映し出してはくれなかった。
だけれども、はっきりと、ただ一点だけを千夜葉に伝えていた。
----"笑っていた"。
彼女の顔は、彼女が分かるくらい、頬を緩ませた、とびっきりの笑顔であった。
「うそ……なんで……」
千夜葉は、自分の顔が信じられなかった。
借りた折りたたみ傘をそうそうに手放し、自分の顔を手で確認してしまうくらい、信じられなかった。
今、彼女は政府に恐ろしい報告をしようとしている。
ルトナウムは倫理的にヤバイ代物であり、あれを軍事転用する前に、ルトナウムを全て回収して封印すべきだと、そういう鬼気迫った口調で告げようとしていた。
断じて、このような笑顔をする場面ではないはずなのだ。
「(なんで? それなのに、なんで私は笑ってるの?)」
「きっと、良い事があったのね」
優しく、落とした折りたたみ傘をわざわざ拾ってくれた貴婦人の言葉が、千夜葉の耳に強く響く。
「私ね、笑顔って、とってもいい顔だと思うの。涙は悲しい時も、嬉しい時も流れちゃうけど、笑顔だけは嬉しくないと出ないんだもの。
自分では気づいてないだけで、あなた、なにか嬉しい事があったんじゃないのかしら?」
「いや、ちがっ……! これは、そんな事じゃ……」
否定した。
でも、千夜葉の顔を見ながら、貴婦人は優しく笑う。
「じゃあ、きっと、あなたが気付いてないだけで、身体はもう嬉しいと感じてるのね。
だって、そんなとびっきりの笑顔、作っているだなんて到底思えないわよ?」
貴婦人の言葉に、千夜葉の頭は困惑する。
----自分は嬉しいと、そう感じてるのか? こんな風に、自然と顔に出るくらいに。
----いや、そんなはずはない。
----なにせ、自分は、今から政府に、大事な話をしにいくんだから。
----じゃあ、なんで自分はこんなにも笑顔なんだ?
分からなかった。
なんで、自分がこんなにも、笑顔なのかが。
千夜葉は考えて、考えて、深く深く考えて。
----もしかして、私は、嬉しいのかしら?
そんな結論に達していた。
----自分じゃ、意識してしなかっただけで、本当は嬉しかった?
----倫理なんて、そんな理屈はどうでも良くて、ルトナウムの可能性に、【鍛冶職人】として嬉しいと感じていた?
----だからこそ、こんなにも笑顔なのか?
そうだ、そうに違いないのだ。
千夜葉がこんなにも笑顔なのは、ルトナウムの可能性にワクワクしていたから。
倫理なんてのは、本当はどうでも良かったのだ。
ルトナウムがあれば、自分はさらに凄いものを作り出せると、知らず知らずのうちに、千夜葉の身体は気付いていた。
だからこそ、こんなにも笑顔になっていたのだ。
「あら、雨も止んだようね」
ちょうど良く、自分の笑顔の理由と、本当にやりたいことを、千夜葉が気付いたその時。
あの鬱陶しく降り続いていた雨も、嘘のように止んで、お日様がこちらを覗かせていた。
「えぇ、気持ちが晴れ晴れとした気分です」
雲間から見える虹を見ながら、千夜葉はそう言う。
「雨も止んでますので、この傘、返しますね」
「いえいえ、お役に立てず、申し訳なかったわ」
折りたたみ傘を受け取りながら、貴婦人は申し訳なさそうにそう言い、
「いえ、こちらこそ。折りたたみ傘を落としてしまいましたし、ぶつかったお詫びもしたいんですが、ちょっと用事がありまして」
謝罪をしながら、千夜葉はそう告げる。
「そう、急いでいるなら、これをどうぞ」
貴婦人はそう言って、セカンドバックから1枚の名刺を千夜葉へと差し出す。
「私の名刺です。あっ、私の名前、【スカレット】と言います。電話番号も書いてますので、なにかありましたら是非、ご連絡を」
「えぇ、必ず」
「それでは!」と、千夜葉はそう言って、事務所に向かって走っていく。
足取りは、軽かった。
雨が止んだから、という理由ではなく、今の彼女の気持ちが晴れやかだったからだ。
千夜葉は事務所に辿り着いて、ルトナウムの倫理的な危険性を隠し、ルトナウムを用いた軍事転用をワクワクした声と共に引き受けると告げたのは、それから20分後の出来事であった。
激しい雨が降る中、1人の少女が傘を差さずに、走っていた。
その少女の名は、花弁千夜葉。
つい先ほどまで幽鬼となっていた、【鍛冶職人】の冒険者である。
彼女が急いでいる理由は、いくつかあった。
気を失ったと思っていたら、数日が経過していた事。
財布はあれども、携帯電話を持っていなかった事。
そしてなにより----ルトナウムの秘密を知ってしまった事。
「(政府は、あのルトナウムを使って冒険者特性を付与した兵器開発を勧めたい、などと言っていたけど、とんでもないっ!)」
彼女の言う"とんでもないっ"とは、"ルトナウムにそんな特性がない"という意味では、ない。
ルトナウムは、ありとあらゆる物の価値を変質させてしまう、恐ろしき物質である。
分かりやすく例えるならば、ただの鉄くずを金に変えると言われる、錬金術の到達点として名高い『賢者の石』の上位互換、とでも言えば良いだろうか。
ルトナウムを正しく使えば、ありとあらゆる物に、あらゆる属性へと変質させることが出来る。
それこそ、【剣士】の特性を持った機関銃を作って、何でも一刀両断の銃弾を放つ最強機関銃を生み出したり。
あるいは、【重騎士】の特性を持った戦車を作って、傷を治しながら向かって来る、無敵のゾンビ戦車を作ったり。
人間という、ただ猿から進化しただけの生物を、魔物を簡単に倒す怪物へと変えてしまう、冒険者特性。
そんな冒険者特性を、ただ守るために殺す用途を付与された武器に使えば、どれだけの軍事改革がなされるか、想像もつかないだろう。
「(実際、軍事産業は大きく変化するでしょうね)」
問題は、技術的なことではない。
倫理的なこと、である。
あのルトナウムには、倫理的に、致命的な欠陥を抱えている。
それこそ、人間である以上、その倫理的な欠陥を知ったからこそ、花弁千夜葉は走っているのだ。
「(電話番号は、防衛大臣さんとの電話番号は携帯電話の中! あるいは、机の引き出しの名刺入れを見ないと!)」
彼女は、政府から、もっと言えば防衛大臣から、1つの依頼を受けていた。
ルトナウムの解析と、ひいてはそのルトナウムを用いて冒険者特性を付与した兵器開発が出来ないか否かの相談。
彼女は快諾し、防衛大臣とのホットラインを、名刺としてもらい、携帯電話に登録した。
そして、ルトナウムの真実を知って伝えようとしたところ、気が付いたら携帯電話を持たない状態で、外で気絶していたのである。
彼女は、防衛大臣との電話番号を、頭の中に記録していなかった。
携帯電話に入れといたからという理由で、頭の中に一切記録していなかったのである。
早く、防衛大臣に、ルトナウムの危険性を知らせなければ、ならない。
しかし、そこいらの公衆電話や、お店の固定電話を借りても、防衛大臣とのホットラインの電話番号は知らず、かといって政府さんに直接「防衛大臣さんと、連絡したいんですけど~!」と言われても、繋がる訳もない。
故に彼女は、事務所へと、名刺がある事務所に走っていた、という訳なのだ。
「しかし、雨がキツい!」
彼女は、若干キレながら、走っていた。
雨はそんな彼女の機嫌などお構いなく、どんどん勢いを増していく。
タクシーを拾おうとした彼女であったが、ひどく降る雨のせいで、タクシーが摑まる気配は一切なかった。
急いで伝えたかったのに、5分経ってもタクシーが摑まりそうになかったため、彼女はこんな雨の中、走る羽目になっていた。
雨はどんどん降ってきて、彼女の目の前はかろうじて見える程度だ。
急いでいるのに、視界は最悪、おまけに携帯電話もなくてテンション絶不調なのである。
「もう! なんで雨がこんなにっ!」
----どんっ!!
「きゃっ!」
「わっ、と!」
視界不良の中、走っていた千夜葉は、目の前の人物に気付かなかった。
彼女は傘を差して、ゆっくり歩いていた貴婦人とぶつかって、2人は雨の中、道端で倒れてしまう。
傘を差したまま倒れる姿も絵になる貴婦人と、ずぶ濡れで倒れる花弁千夜葉。
対照的な2人は、雨の中、そうやって邂逅を果たすのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いたたっ……!」
ゆっくりと起き上がる千夜葉を見て、傘を拾った貴婦人は即座に立ち上がって、手を差し伸べる。
「ごめんなさい、雨が強くて見えなかったみたいだね」
「立てる?」と優しく手を差し伸べられ、千夜葉も「すみません」と手を取って立ち上がる。
「すいません、ちょっと急いでて」
「失礼だけど、雨の中を傘を差さずに全力疾走ってのは、あんまりオススメしないけど? 濡れるし、体力が奪われるだけだし」
「いや、ほんと、急いでて……」
今もなお駆けだそうとする千夜葉に対し、貴婦人は心配そうな顔をしながら、持っていたサイドバックから折り畳みの傘を差し出した。
「良かったら、使います? 実は私、念のためにいつも持ち歩いてて」
「~~!! 助かります!」
千夜葉は善意に感謝し、貴婦人から折りたたみ傘を受け取ると、そのまま走り出そうとして----
「でも、よっぽど嬉しい事があったのね」
そういう、貴婦人の言葉が何故か、気になってしまった。
「え?」
「あら、やだ。急いでるんじゃないの? そんな、"とびっきりの笑顔をしてるのに"」
貴婦人に言われて、千夜葉は恐る恐る、水たまりに映る自分の顔を覗き込む。
水たまりは鏡とは呼べないくらい、薄汚れており、千夜葉の顔をくっきり映し出してはくれなかった。
だけれども、はっきりと、ただ一点だけを千夜葉に伝えていた。
----"笑っていた"。
彼女の顔は、彼女が分かるくらい、頬を緩ませた、とびっきりの笑顔であった。
「うそ……なんで……」
千夜葉は、自分の顔が信じられなかった。
借りた折りたたみ傘をそうそうに手放し、自分の顔を手で確認してしまうくらい、信じられなかった。
今、彼女は政府に恐ろしい報告をしようとしている。
ルトナウムは倫理的にヤバイ代物であり、あれを軍事転用する前に、ルトナウムを全て回収して封印すべきだと、そういう鬼気迫った口調で告げようとしていた。
断じて、このような笑顔をする場面ではないはずなのだ。
「(なんで? それなのに、なんで私は笑ってるの?)」
「きっと、良い事があったのね」
優しく、落とした折りたたみ傘をわざわざ拾ってくれた貴婦人の言葉が、千夜葉の耳に強く響く。
「私ね、笑顔って、とってもいい顔だと思うの。涙は悲しい時も、嬉しい時も流れちゃうけど、笑顔だけは嬉しくないと出ないんだもの。
自分では気づいてないだけで、あなた、なにか嬉しい事があったんじゃないのかしら?」
「いや、ちがっ……! これは、そんな事じゃ……」
否定した。
でも、千夜葉の顔を見ながら、貴婦人は優しく笑う。
「じゃあ、きっと、あなたが気付いてないだけで、身体はもう嬉しいと感じてるのね。
だって、そんなとびっきりの笑顔、作っているだなんて到底思えないわよ?」
貴婦人の言葉に、千夜葉の頭は困惑する。
----自分は嬉しいと、そう感じてるのか? こんな風に、自然と顔に出るくらいに。
----いや、そんなはずはない。
----なにせ、自分は、今から政府に、大事な話をしにいくんだから。
----じゃあ、なんで自分はこんなにも笑顔なんだ?
分からなかった。
なんで、自分がこんなにも、笑顔なのかが。
千夜葉は考えて、考えて、深く深く考えて。
----もしかして、私は、嬉しいのかしら?
そんな結論に達していた。
----自分じゃ、意識してしなかっただけで、本当は嬉しかった?
----倫理なんて、そんな理屈はどうでも良くて、ルトナウムの可能性に、【鍛冶職人】として嬉しいと感じていた?
----だからこそ、こんなにも笑顔なのか?
そうだ、そうに違いないのだ。
千夜葉がこんなにも笑顔なのは、ルトナウムの可能性にワクワクしていたから。
倫理なんてのは、本当はどうでも良かったのだ。
ルトナウムがあれば、自分はさらに凄いものを作り出せると、知らず知らずのうちに、千夜葉の身体は気付いていた。
だからこそ、こんなにも笑顔になっていたのだ。
「あら、雨も止んだようね」
ちょうど良く、自分の笑顔の理由と、本当にやりたいことを、千夜葉が気付いたその時。
あの鬱陶しく降り続いていた雨も、嘘のように止んで、お日様がこちらを覗かせていた。
「えぇ、気持ちが晴れ晴れとした気分です」
雲間から見える虹を見ながら、千夜葉はそう言う。
「雨も止んでますので、この傘、返しますね」
「いえいえ、お役に立てず、申し訳なかったわ」
折りたたみ傘を受け取りながら、貴婦人は申し訳なさそうにそう言い、
「いえ、こちらこそ。折りたたみ傘を落としてしまいましたし、ぶつかったお詫びもしたいんですが、ちょっと用事がありまして」
謝罪をしながら、千夜葉はそう告げる。
「そう、急いでいるなら、これをどうぞ」
貴婦人はそう言って、セカンドバックから1枚の名刺を千夜葉へと差し出す。
「私の名刺です。あっ、私の名前、【スカレット】と言います。電話番号も書いてますので、なにかありましたら是非、ご連絡を」
「えぇ、必ず」
「それでは!」と、千夜葉はそう言って、事務所に向かって走っていく。
足取りは、軽かった。
雨が止んだから、という理由ではなく、今の彼女の気持ちが晴れやかだったからだ。
千夜葉は事務所に辿り着いて、ルトナウムの倫理的な危険性を隠し、ルトナウムを用いた軍事転用をワクワクした声と共に引き受けると告げたのは、それから20分後の出来事であった。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
異世界転移の……説明なし!
サイカ
ファンタジー
神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。
仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。
しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。
落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして…………
聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。
ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。
召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。
私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。
ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない!
教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない!
森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。
※小説家になろうでも投稿しています。
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる