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第6章『ファイントは常に地獄に居る/覚醒ファイントの章』
第209話(番外編) 同情と、座右の銘と、《日曜日》世界幽鬼
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~~番外編 前回までの あらすじ!!!~~
『世界幽鬼を狩る』、その役目を果たそうとするダブルエム。
彼女は自分の職業の力を使い、2体の世界幽鬼を倒して、【ワラルー】と【左手】を回収し、次の世界幽鬼狩りへ向かうのであった。
一方、そんなダブルエムを追う、網走海渡。
彼は電話で、彼女の主である赤坂帆波から、彼女の『過去』と、彼女を見守って欲しいという『お願い』を、託されるのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おいっ! ダブルエムっ!!」
ダブルエムの姿を見つけた網走海渡は、変わり果てた彼女の姿を見て驚いていた。
彼女の身体は、醜く、ぶくぶくと膨れ上がっていた。
左手は元の倍以上の大きさに膨れており、右足は鉄パイプとなって所々が膨れて変形していた。
そして、全身にはぶつぶつと、気持ちの悪いイボが大量に出来ていた。
彼女は座り込んでいたが、網走海渡の姿を見ると「また来た……」とうんざりしている顔を作る。
「やぁ、少年。#説明 終わっても着いて来るとか、#マジ勘弁 なんですが……」
ダブルエムは、余裕そうに喋るが、網走海渡にはまともな姿には見えなかった。
少なくとも、元気という状態からは、程遠く見えた。
「おいっ! なんだよ、お前! 無敵の超回復スキルとか、あるんじゃないのかよ!?」
「……死にそうとか、思われてます? 私? いえ、これはただの『ガン』なんですが」
よっこいしょっ、立ち上がるもフラフラのままであった。
しかしながら、彼女の顔は一切の苦痛も感じないようで、終始、痛みとは無縁の表情であった。
「実は、先程【左手】の世界幽鬼を倒しまして。その際に、病気をもらったんですよ。
----【左手】は不浄な属性を付与した魔法を使う、【マナ】系統の職業。故に、私の身体は病気に罹りやすくなり、ガンを発症した訳です」
癌……それは、今もなお多くの人間を死に至らしめている、難病の1つだ。
人間の細胞には正常な細胞を作るよう、生まれながらにプログラムされているが、そのプログラムが故障する場合がある。
故障したプログラムでは正常な細胞を作れず、そのっま異常な細胞が増え続けて、やがて身体に死を与えるべく、どんどん増え続ける。
「私は、【テセウスの船】の力で、異常個所を切り離し、新しいアイテムを取り付ければ、まったく問題ない身体を作るよう----そういうプログラムで生きているような#人間 です。
そして、そのプログラム全体が、【左手】の罹りやすくなる不浄属性によって、書き換えられてしまった。という#寸法 なのです」
ダブルエムは、身体を新たな部分に付け替えた。
しかし、その新たな部分にまで、癌は広がっていく。
こうなっては、イタチごっこ----どんどん取り換えようとも、癌はどんどん広がっていく。
だから、ダブルエムは諦めた。
【テセウスの船】で取り換えようともせず、ただ死を待っている状態だったのだ。
「……治る方法は、ねぇのかよ?」
「ポーション1本でもあれば、治りますよ? これ、本当に癌になってる訳じゃなくて、不浄な水が身体中を流れてるせいで、#病気発症 してるだけなんで」
「なら、ポーションを----って、そんなのが分かってるなら、使ってるよな」
海渡の質問に、ダブルエムはコクリと頷く。
普通なら、回復アイテムの1本や2本くらい、持っているのが当然だ。
しかしながら、【テセウスの船】という超回復スキルを持つが故に、ダブルエムはポーション1本すら持ち合わせていなかったのである。
「……はぁ。まぁ、ここで死ぬなら、それまでって----」
「そうだな、お前は死にたがりだもんな。【三大堕落】とやらになる前から」
強い口調で、網走海渡はダブルエムの言葉を遮るようにして、そう言う。
「あんたの"マスター"から、聞いたぜ。
あんたの過去、って奴をよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『ダブルエムが、自分の死を意識し始めたのは----7歳の時、だったんだって』
網走海渡にそう、彼女の過去を、赤坂帆波は語り始めた。
『彼女は、そこそこ裕福系の農民の次女として、生まれて、普通に可愛がられた。
----でも、そんな彼女の生活は、僅か7歳の、まだまだ多感な時期に、終わりを告げた。魔王の襲来によって、農村が焼かれて、彼女の両親を含めた街のほとんどの人が死んでしまったんだ』
『良くある話』と、赤坂帆波はそう言った。
日本のような恵まれた国ではなく、ダブルエムが居た魔王が多い世界では、人の死はそんなに珍しい出来事ではなかったそうだ。
『そして、彼女は隣の隣の、孤児院に、生き残った子供達と共に預けられた。
彼女は泣こうとしたんだ、悲しくてね。でもね、一緒に生き残った子供達が、ダブルエムよりも幼い子達だったんだよ』
ダブルエムが泣き始めるよりも先に、幼い子達は泣き始めてしまった。
えんえんと、母を、父を、家族を、失った物を数えて泣き続けた。
そんな泣く子供達の姿と、それを泣き止めようとする大人たちの姿を見て、ダブルエムはこう思ってしまった。
『----自分まで泣いたら、迷惑をかけるってね。
まぁ、あれだよ。怒っていたはずなのに、自分よりも怒ってる人を見たら気持ちが冷めてしまうとか、そういう類のあれ』
多感な子供時代に、ダブルエムは『迷惑をかけない』道を選んでしまった。
泣いたら、迷惑だ----だから、泣かない。
苦しい言葉を吐いたら、迷惑だ----だから、嘆かない。
死のうとしたら、迷惑だ----だから、死なない。
とても、利口な選択であり、そしてそれは同時に、彼女の気持ちをどんどん機械的に、冷めた気持ちへと突き進めて行く。
『普通は、ある程度の折り合いをつけて、わがままを言ったり、自分の思いを吐き出しちゃったりしたりするんだろうけどね。
ダブルエムの真に恐ろしい所は、それらを本当に捨てちゃったのよ。今でこそ顔でもそれなりの表情を見せるようになった彼女も、【三大堕落】として引き取った直後は、感情すら見えない無表情キャラちゃんだったんだから』
そこで、赤坂帆波は、ダブルエムに対して【不老不死】担当という役職を与えた。
生を深く考える際に、彼女の感情も少しは蘇って欲しい、とね。
『まぁ、それも顔の表情を取り戻すまでは行ったけど、彼女の内面はあまり変わってないんだと思うの。
そう、最初に彼女が、私に言った座右の銘が、未だに変わってないように』
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あんたのふざけた座右の銘、聞いたぜ?
----【生きてるうちが華】だって?!」
その座右の銘を聞いた瞬間、網走海渡は怒りが沸き上がってきた。
良くもまぁそんな座右の銘を掲げてる人間が、命を粗末にするのが許せないなどと、良く言えたものだな、と!
「----今も、そう#思ってます よ?
生きてる限りは、どんな状況でも輝こう。華のように、鮮やかに。でも、死ぬならそれまで」
そう、ダブルエムは命を粗末にする人間が、許せない博愛主義者なんかではない。
どうあがこうと死ぬような状況なら、奇跡すら信じずに、ただ黙って命が消えるのを諦める。
「あんたに、そんな座右の銘を誇らしげにするダブルエムなんかに、命なんか語って欲しくない!
あんたは、ただの死にたがりじゃねえか!!」
強く言い張る、網走海渡。
この時、網走海渡は熱血漢に燃えて、本気で彼女を心から変えねばならぬと思って、そう言い張った。
一方で、ダブルエム自身は、何も響いてなんかおらず、「うわっ、#暑苦しい #熱血キャラ は流行らんのです」と思っていた。
思ってはいたが、口にすると面倒そうなので、黙っていた。
【髪ノ毛、モット欲シイィィィィ!!】
そして、空気を読まずに、世界幽鬼が現れる。
そいつの服には分かりやすく【世界幽鬼】という文字が、いつものように刻み込まれており、頭は黒い七面体となっている。
そして七面体の7つの面全てに、赤い文字で【SUN】と書かれていた。
===== ===== =====
【《日曜日》世界幽鬼】 レベル;Ⅱ+?
ずーっと毎日全てが休日の日曜日という世界が閉じ込められていた【世界球体=日曜日世界=】の力で歪んだ、羽生嘉人という名の世界幽鬼。倒すと、スピリット系統職業の1つ、【日曜日】が解放される
攻撃全てが娯楽や遊戯を楽しむ、日曜日に関する環境へと変える。その幻影は人々の心に強く影響され、一度術中に陥ると永遠の休日という微睡みに人々を堕とす
髪! 美シク、豊カナ髪ガアレバ、若サト共ニ、アノ頃ノ栄光ヲ、モウ一度ッ!!
===== ===== =====
【髪ガ、欲シィィィィィィ!!】
七面体顔のその幽鬼は、手当たり次第に手から赤いビームを放つ。
放たれたビームが当たった場所は、プールだったり、遊具になったりと、娯楽に相応しい環境へと姿を変えていた。
「【日曜日】----つまりは、休日って訳か。
……ちょうど、良いぜ。ダブルエムよ、俺が今からアイツを倒してやるぜ」
ダブルエムが「えっ?」と呟くのを聞くことなく、網走海渡は剣を構える。
彼はポイっと、バックからポーションを1本彼女へと投げて、
「それさえあれば、あんたは死なないんだろう? なら、もっとあがこうぜ」
と、決め顔でそう言った。
「あんたは、わがままを言わずに、ずーっと自分の心を押し潰してきた。いや、休憩させすぎて、働く方法を忘れてしまったんだ。
でも休憩の時間は、もう終わりだぜ。ダブルエム。
お前の感情、俺が取り戻してやる。そのためにも、休日はもう、必要ない、ってなっ!!」
網走海渡は決め顔で、カッコつけて、世界幽鬼へと向かっていくのであった----。
そして、その姿をダブルエムは、じっと見ていた。
----ずきんっ!!
「えっ?」
ダブルエムは、自分の心が動いたのを久しぶりに感じて、驚いていた。
7歳の頃に両親が死んで、それ以降ずっと押し殺してきた感情が、心が、動いたのだ。
それはどくんどくんっと、彼の事を考える度に、心が、顔が温かくなっていく。
それはまるで、恋する乙女のようであり----
「キザすぎて……アイツ、殺したいかも……」
----いや、普通にウザすぎて、殺意が芽生えてた。
(※)『生きてるうちが華』
ダブルエムの、座右の銘。彼女の人生の指針であり、同時に彼女の歪さを証明する言葉
生きている間は美しく、それでいて生命力の強い花のように、貪欲に生にしがみ付こう。それでいて、どうあがいても死が待ち受けてるなら、奇跡なんて信じず、ただ運命に抗わずにぽっくり逝こう
(※)これまでの世界幽鬼と、被害者リスト
ダブルエムがばら撒いてしまった、【世界球体】と死体が融合して生まれた世界幽鬼達
現在4名の世界幽鬼が確認される。それぞれに人生の未練を、強い口調で口にしていた。
・《ワラルー》世界幽鬼……【オーラ】系統【ワラルー】の世界幽鬼。基となった死体の持ち主の名前は、村林継雄。未練は、【死ぬ前にモテたい】
・《左手》世界幽鬼……【マナ】系統【左手】の世界幽鬼。基となった死体の持ち主の名前は、尾上ののか。未練は【お母さんに会いたい】
・《鳩時計》世界幽鬼……【プラーナ》系統【鳩時計】の世界幽鬼。基となった死体の持ち主の名前は、不明。未練は【ダンジョンで冒険したい】
・《日曜日》世界幽鬼……【スピリット】系統【日曜日】の世界幽鬼。基となった死体の持ち主の名前は、羽生嘉人。未練は【髪の毛がもっと欲しい】
次回は、本編です
そして次の番外編では----【プラーナ】系統、【チーズフォンデュ】をお送りします
『世界幽鬼を狩る』、その役目を果たそうとするダブルエム。
彼女は自分の職業の力を使い、2体の世界幽鬼を倒して、【ワラルー】と【左手】を回収し、次の世界幽鬼狩りへ向かうのであった。
一方、そんなダブルエムを追う、網走海渡。
彼は電話で、彼女の主である赤坂帆波から、彼女の『過去』と、彼女を見守って欲しいという『お願い』を、託されるのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おいっ! ダブルエムっ!!」
ダブルエムの姿を見つけた網走海渡は、変わり果てた彼女の姿を見て驚いていた。
彼女の身体は、醜く、ぶくぶくと膨れ上がっていた。
左手は元の倍以上の大きさに膨れており、右足は鉄パイプとなって所々が膨れて変形していた。
そして、全身にはぶつぶつと、気持ちの悪いイボが大量に出来ていた。
彼女は座り込んでいたが、網走海渡の姿を見ると「また来た……」とうんざりしている顔を作る。
「やぁ、少年。#説明 終わっても着いて来るとか、#マジ勘弁 なんですが……」
ダブルエムは、余裕そうに喋るが、網走海渡にはまともな姿には見えなかった。
少なくとも、元気という状態からは、程遠く見えた。
「おいっ! なんだよ、お前! 無敵の超回復スキルとか、あるんじゃないのかよ!?」
「……死にそうとか、思われてます? 私? いえ、これはただの『ガン』なんですが」
よっこいしょっ、立ち上がるもフラフラのままであった。
しかしながら、彼女の顔は一切の苦痛も感じないようで、終始、痛みとは無縁の表情であった。
「実は、先程【左手】の世界幽鬼を倒しまして。その際に、病気をもらったんですよ。
----【左手】は不浄な属性を付与した魔法を使う、【マナ】系統の職業。故に、私の身体は病気に罹りやすくなり、ガンを発症した訳です」
癌……それは、今もなお多くの人間を死に至らしめている、難病の1つだ。
人間の細胞には正常な細胞を作るよう、生まれながらにプログラムされているが、そのプログラムが故障する場合がある。
故障したプログラムでは正常な細胞を作れず、そのっま異常な細胞が増え続けて、やがて身体に死を与えるべく、どんどん増え続ける。
「私は、【テセウスの船】の力で、異常個所を切り離し、新しいアイテムを取り付ければ、まったく問題ない身体を作るよう----そういうプログラムで生きているような#人間 です。
そして、そのプログラム全体が、【左手】の罹りやすくなる不浄属性によって、書き換えられてしまった。という#寸法 なのです」
ダブルエムは、身体を新たな部分に付け替えた。
しかし、その新たな部分にまで、癌は広がっていく。
こうなっては、イタチごっこ----どんどん取り換えようとも、癌はどんどん広がっていく。
だから、ダブルエムは諦めた。
【テセウスの船】で取り換えようともせず、ただ死を待っている状態だったのだ。
「……治る方法は、ねぇのかよ?」
「ポーション1本でもあれば、治りますよ? これ、本当に癌になってる訳じゃなくて、不浄な水が身体中を流れてるせいで、#病気発症 してるだけなんで」
「なら、ポーションを----って、そんなのが分かってるなら、使ってるよな」
海渡の質問に、ダブルエムはコクリと頷く。
普通なら、回復アイテムの1本や2本くらい、持っているのが当然だ。
しかしながら、【テセウスの船】という超回復スキルを持つが故に、ダブルエムはポーション1本すら持ち合わせていなかったのである。
「……はぁ。まぁ、ここで死ぬなら、それまでって----」
「そうだな、お前は死にたがりだもんな。【三大堕落】とやらになる前から」
強い口調で、網走海渡はダブルエムの言葉を遮るようにして、そう言う。
「あんたの"マスター"から、聞いたぜ。
あんたの過去、って奴をよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『ダブルエムが、自分の死を意識し始めたのは----7歳の時、だったんだって』
網走海渡にそう、彼女の過去を、赤坂帆波は語り始めた。
『彼女は、そこそこ裕福系の農民の次女として、生まれて、普通に可愛がられた。
----でも、そんな彼女の生活は、僅か7歳の、まだまだ多感な時期に、終わりを告げた。魔王の襲来によって、農村が焼かれて、彼女の両親を含めた街のほとんどの人が死んでしまったんだ』
『良くある話』と、赤坂帆波はそう言った。
日本のような恵まれた国ではなく、ダブルエムが居た魔王が多い世界では、人の死はそんなに珍しい出来事ではなかったそうだ。
『そして、彼女は隣の隣の、孤児院に、生き残った子供達と共に預けられた。
彼女は泣こうとしたんだ、悲しくてね。でもね、一緒に生き残った子供達が、ダブルエムよりも幼い子達だったんだよ』
ダブルエムが泣き始めるよりも先に、幼い子達は泣き始めてしまった。
えんえんと、母を、父を、家族を、失った物を数えて泣き続けた。
そんな泣く子供達の姿と、それを泣き止めようとする大人たちの姿を見て、ダブルエムはこう思ってしまった。
『----自分まで泣いたら、迷惑をかけるってね。
まぁ、あれだよ。怒っていたはずなのに、自分よりも怒ってる人を見たら気持ちが冷めてしまうとか、そういう類のあれ』
多感な子供時代に、ダブルエムは『迷惑をかけない』道を選んでしまった。
泣いたら、迷惑だ----だから、泣かない。
苦しい言葉を吐いたら、迷惑だ----だから、嘆かない。
死のうとしたら、迷惑だ----だから、死なない。
とても、利口な選択であり、そしてそれは同時に、彼女の気持ちをどんどん機械的に、冷めた気持ちへと突き進めて行く。
『普通は、ある程度の折り合いをつけて、わがままを言ったり、自分の思いを吐き出しちゃったりしたりするんだろうけどね。
ダブルエムの真に恐ろしい所は、それらを本当に捨てちゃったのよ。今でこそ顔でもそれなりの表情を見せるようになった彼女も、【三大堕落】として引き取った直後は、感情すら見えない無表情キャラちゃんだったんだから』
そこで、赤坂帆波は、ダブルエムに対して【不老不死】担当という役職を与えた。
生を深く考える際に、彼女の感情も少しは蘇って欲しい、とね。
『まぁ、それも顔の表情を取り戻すまでは行ったけど、彼女の内面はあまり変わってないんだと思うの。
そう、最初に彼女が、私に言った座右の銘が、未だに変わってないように』
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あんたのふざけた座右の銘、聞いたぜ?
----【生きてるうちが華】だって?!」
その座右の銘を聞いた瞬間、網走海渡は怒りが沸き上がってきた。
良くもまぁそんな座右の銘を掲げてる人間が、命を粗末にするのが許せないなどと、良く言えたものだな、と!
「----今も、そう#思ってます よ?
生きてる限りは、どんな状況でも輝こう。華のように、鮮やかに。でも、死ぬならそれまで」
そう、ダブルエムは命を粗末にする人間が、許せない博愛主義者なんかではない。
どうあがこうと死ぬような状況なら、奇跡すら信じずに、ただ黙って命が消えるのを諦める。
「あんたに、そんな座右の銘を誇らしげにするダブルエムなんかに、命なんか語って欲しくない!
あんたは、ただの死にたがりじゃねえか!!」
強く言い張る、網走海渡。
この時、網走海渡は熱血漢に燃えて、本気で彼女を心から変えねばならぬと思って、そう言い張った。
一方で、ダブルエム自身は、何も響いてなんかおらず、「うわっ、#暑苦しい #熱血キャラ は流行らんのです」と思っていた。
思ってはいたが、口にすると面倒そうなので、黙っていた。
【髪ノ毛、モット欲シイィィィィ!!】
そして、空気を読まずに、世界幽鬼が現れる。
そいつの服には分かりやすく【世界幽鬼】という文字が、いつものように刻み込まれており、頭は黒い七面体となっている。
そして七面体の7つの面全てに、赤い文字で【SUN】と書かれていた。
===== ===== =====
【《日曜日》世界幽鬼】 レベル;Ⅱ+?
ずーっと毎日全てが休日の日曜日という世界が閉じ込められていた【世界球体=日曜日世界=】の力で歪んだ、羽生嘉人という名の世界幽鬼。倒すと、スピリット系統職業の1つ、【日曜日】が解放される
攻撃全てが娯楽や遊戯を楽しむ、日曜日に関する環境へと変える。その幻影は人々の心に強く影響され、一度術中に陥ると永遠の休日という微睡みに人々を堕とす
髪! 美シク、豊カナ髪ガアレバ、若サト共ニ、アノ頃ノ栄光ヲ、モウ一度ッ!!
===== ===== =====
【髪ガ、欲シィィィィィィ!!】
七面体顔のその幽鬼は、手当たり次第に手から赤いビームを放つ。
放たれたビームが当たった場所は、プールだったり、遊具になったりと、娯楽に相応しい環境へと姿を変えていた。
「【日曜日】----つまりは、休日って訳か。
……ちょうど、良いぜ。ダブルエムよ、俺が今からアイツを倒してやるぜ」
ダブルエムが「えっ?」と呟くのを聞くことなく、網走海渡は剣を構える。
彼はポイっと、バックからポーションを1本彼女へと投げて、
「それさえあれば、あんたは死なないんだろう? なら、もっとあがこうぜ」
と、決め顔でそう言った。
「あんたは、わがままを言わずに、ずーっと自分の心を押し潰してきた。いや、休憩させすぎて、働く方法を忘れてしまったんだ。
でも休憩の時間は、もう終わりだぜ。ダブルエム。
お前の感情、俺が取り戻してやる。そのためにも、休日はもう、必要ない、ってなっ!!」
網走海渡は決め顔で、カッコつけて、世界幽鬼へと向かっていくのであった----。
そして、その姿をダブルエムは、じっと見ていた。
----ずきんっ!!
「えっ?」
ダブルエムは、自分の心が動いたのを久しぶりに感じて、驚いていた。
7歳の頃に両親が死んで、それ以降ずっと押し殺してきた感情が、心が、動いたのだ。
それはどくんどくんっと、彼の事を考える度に、心が、顔が温かくなっていく。
それはまるで、恋する乙女のようであり----
「キザすぎて……アイツ、殺したいかも……」
----いや、普通にウザすぎて、殺意が芽生えてた。
(※)『生きてるうちが華』
ダブルエムの、座右の銘。彼女の人生の指針であり、同時に彼女の歪さを証明する言葉
生きている間は美しく、それでいて生命力の強い花のように、貪欲に生にしがみ付こう。それでいて、どうあがいても死が待ち受けてるなら、奇跡なんて信じず、ただ運命に抗わずにぽっくり逝こう
(※)これまでの世界幽鬼と、被害者リスト
ダブルエムがばら撒いてしまった、【世界球体】と死体が融合して生まれた世界幽鬼達
現在4名の世界幽鬼が確認される。それぞれに人生の未練を、強い口調で口にしていた。
・《ワラルー》世界幽鬼……【オーラ】系統【ワラルー】の世界幽鬼。基となった死体の持ち主の名前は、村林継雄。未練は、【死ぬ前にモテたい】
・《左手》世界幽鬼……【マナ】系統【左手】の世界幽鬼。基となった死体の持ち主の名前は、尾上ののか。未練は【お母さんに会いたい】
・《鳩時計》世界幽鬼……【プラーナ》系統【鳩時計】の世界幽鬼。基となった死体の持ち主の名前は、不明。未練は【ダンジョンで冒険したい】
・《日曜日》世界幽鬼……【スピリット】系統【日曜日】の世界幽鬼。基となった死体の持ち主の名前は、羽生嘉人。未練は【髪の毛がもっと欲しい】
次回は、本編です
そして次の番外編では----【プラーナ】系統、【チーズフォンデュ】をお送りします
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よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
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