俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政

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第3章『決戦の北海道と、最強の召喚士シーヴィー/吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世の章』

第104話 妾とわっち、【妖狐】とヨーコ(1)

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 召喚獣が召喚されていないとき、どういう状況になるか。
 その答えをと言われれば、吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世は「無だ」と答える。

 召喚獣としての、つまりは自分が記憶できているのは、主殿----冴島渉に召喚されている間の時だけ。
 それ以外にココアの記憶は存在せず、そもそも自分達はどこへ帰っているのかすらも知らない。
 だからきっと召喚されていない時間ときは、召喚獣は何も考える事が出来ない無の空間に収納されている、というのがココアの考えだ。


 ----だから、ココアは呆気に取られていた。


「なに、ここ……」

 目の前に広がる、真っ白な、どこまでもなにもないだだっ広い空間を、ココアはただ呆気に取られて眺めていた。
 
「(ダンジョンの中だろうか?)」

 ……いや、召喚獣である自分の本能が、自分はまだ召喚されていないと告げていた。
 
 だったら、ここはどこなんだろう?


『ここは、わっちの空間でありんす』


 と、その瞬間、なにもなかった真っ白な空間に、変化が起きた。

 白一色だった空間は、夕焼けと一面のススキが生い茂る郷愁を強く感じる空間に。
 静かに鳴り響くコオロギの音と、どこか寒さすら感じる風が身体に吹き付ける。
 そしてその中心、つまりはココアの目の前に、"彼女"はいた。

 彼女は、ココアに、【妖狐】の力によって変化している今の姿によく似ていた。
 ----というか、全身が影で覆われていて、表情1つ分からない部分という事を除けば、身長や3サイズ、そして尻尾の本数まで同じ。
 まさしく、ココアの姿そのものだった。

『ようこそ、わっちの空間へ。
 わっちの加護を受け、【妖狐】の力を得た吸血鬼よ』

 そう言って彼女は、黒ココアはと言うと、ココアにそう挨拶するのであった。


「あなたは----」
『わっちの事は……そうでありんすな。"ヨーコ"、うむ。そう呼ぶでありんすよ』

 ヨーコと名乗った彼女は、『うふふ』と不気味に笑っていた。

「ヨーコ……じゃと? というか、妾のことを呼んだのは、お主の仕業なのかのう?」
『仕業とは、ずいぶんな良いようじゃのう? 妾からスキルを盗んだ盗人の鬼のくせに』
「妾が? スキルを盗んだ?」

 どういう事かと思っていると、ヨーコが差し出してきた手の中に1つのスキルを持っていた。
 真っ赤な炎のようにゆらゆら揺れるそのスキルは、【憤怒の妖狐】----ココアが手に入れた、攻撃が倍になる便利スキルである。

『わっちはお主に加護を与えてるでありんすが、それはあくまでもわっちが与える範囲での話。流石にわっちが持つ権能を奪う者には寛容になれんでありんす。
 ----じゃから、【変化魔法(妖狐)】を与え、わっちに近付くように誘導したという訳でありんすよ』
「なるほどじゃのう。あの炭みたいなのは、炭化ではなく、お主に近付いていたと言う訳じゃな」

 【変化魔法(妖狐)】は、【憤怒の妖狐】の後に手に入れた【変化魔法(狐)】の上位互換スキル。
 時間制限こそあれども、下手すりゃ雪ん子ちゃん以上に属性攻撃が出来るようになるスキルなのだが、使っていると足先から黒く染まってしまっていた。
 炭化していると思っていたあの状態は、炭化などではなく、この真っ黒なヨーコに近付いていたという事らしい。

「(取り返したいスキルがあるから、【変化魔法(妖狐)】の力を使って、自分へと近付ける。
 この空間は、恐らくヨーコの世界。妾がスキルを使いまくったから、ようやく彼女の世界へ入れる事が出来たようじゃのう)」

 そして今、取り返したかった【憤怒の妖狐】を手にしていると言う事なのだろう。
 今までの話からそう納得し、そして同時に凄く身勝手だと感じた。


「随分と、好き勝手にやってるんじゃな。人からスキルを取り返すために、こんな回りくどいことまでして」

 ヨーコは、恐らくはココアに【妖狐】というスキルを与えた神----に近いモノ。
 その気になれば、こんな方法なぞ使わなくても、自分の好きなように奪えただろうに、わざわざこんな場所まで呼ぶなんて、自由勝手すぎる。
 あと、不気味な感じもしていた。

『ほほ、知らんのかえ? わっちらは元々自由気ままな、娯楽を求める者達。
 そんな者達であるわっちが、盗られたからと言ってスキルを没収するなんて、面白くないでありんしょ?
 それに、ただ取るだけでは可哀そうでありんすし、こういうのもあげるでありんすよ』

 『ほーれ』と、ヨーコは【憤怒の妖狐】を奪ったのとは別の手に、彼女は別のスキルを出していた。
 ゆらゆら炎のように揺れる【憤怒の妖狐】とは対照的に、それは竹のように真っすぐ伸びる形をしたスキルであった。

 そしてそのスキルは、すーっとココアの中へと吸い込まれていき、新たなスキルを手に入れた。


 ===== ===== =====
 【管狐ノ支援】 固有スキル
 【妖狐】のみが取得可能なスキル。魔法属性を変更したとしても、管狐達による手厚い支援により、攻撃力が半分にならない。また、同行者の魔法攻撃の魔法属性を変更できるようになる
 ===== ===== =====


 それは、ココアにとって、非常に嬉しいスキルだった。

 【妖狐】は放つ魔法の属性を変更することが出来るのだが、そうすると威力が半減してしまうのだ。
 しかし、この【管狐ノ支援】というスキルがあれば、そのデメリットを解消することが出来る。
 それだけでなく、同行者の魔法属性を変える事が出来るスキルだ。

「(もしこの【管狐ノ支援】のスキルがあれば、色々と出来る事が多いそうじゃのう。
 主殿が召喚しようとする召喚獣の属性を変更したり、ファイントの青魔法の属性を変更したりと色々と出来る事が多そうじゃのう)」

 しかしながら、良いスキルを貰えたこと以上に、ココアの心情は疑念に満ちていた。
 スキルの受け渡しだとしても、わざわざ顔合わせする理由が、思い当たらないからである。

「(わざわざ【変身魔法(狐)】を【変身魔法(妖狐)】に変えてまで、妾と顔を合わせたかった理由……。
 なんじゃ、何を考えておるんじゃ?)」
『そない、警戒せんでも良いでありんすよ』

 と、こちらの心を見透かしたかのように、ヨーコはそう言った。

『いや、なーに。一言、わっちを楽しませてくれた、お礼を伝えたかったんでありんすよ。
 美味しい料理を提供してくれてありがとうと伝える、【料理長をここに呼んで欲しい】みたいな感じで』
「楽しませた……?」
『えぇ、とっても』

 ヨーコはそう言いながら、真っ黒な着物の裾で口元を隠しつつ、


『エルダードラゴンエッグ……失礼、リョクチャとやらと会話していると"思い込んでる・・・・・・"お主の姿が、あまりに滑稽で、無様で、楽しくてのぉ。
 そもそもなんで会話できると思ったんじゃ? 相手はただ転がるしか出来ない相手と、対等に会話なぞ、出来るはずがないのに』


 そうクスクスと、笑い転げるくらい、おかしなことを話すかのように、ヨーコはそうやって笑うのであった。
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