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第3章『決戦の北海道と、最強の召喚士シーヴィー/吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世の章』

第87.5話(エイプリルフール特別編) ピンチ・イン・ファイント

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 Eランクダンジョン《渦巻く電脳裏道》。
 ここは電脳空間を思わせる、青と白の二色のデジタル画面のような道が延々と続く、ちょっぴり近代的な雰囲気を漂わせる裏道タイプのダンジョンだ。

 俺がここに来たのは、依頼クエストを達成するためである。
 ここのボス魔物の確定ドロップの1つに【完全眼鏡】なるアイテムがあるらしく、今回はそれを取ってくることが目的だ。

 【完全眼鏡】は視力がどんなに悪かろうが視力を1.0くらいにまで持ってきて、視界が悪い煙の中や暗闇や水中であろうとも、普通に見る事が出来る。
 また、眼鏡に薬品がかかったとしても、レンズの部分ならばどんな薬品でも防げるとあって、研究者がこぞって手に入れたがるアイテムなのだ。

 報酬は、1個20万円。
 性能のわりに安く感じるのは、耐久性----この眼鏡は僅か1か月くらいで壊れてしまうらしく、だからなのかそこまで高くはないのだそうだ。

「しっかし、変なダンジョンだな」

 ただ、真っすぐ。真っすぐ。
 普通のダンジョンのように階段があって下に降りたり、あるいは部屋に入ったりなどという事はなく、ただ真っすぐの道が永遠と続いているだけ。
 ボスの間もなく、入り口と出口を兼ねている扉が一定間隔であるだけ。

 魔物が急に出てくることと、ボス魔物がこのダンジョンを徘徊してること以外は、さして脅威でもないダンジョンなのである。


「まぁ、そのボス魔物が、こんな力を持ってるとは思わなかったけど」
「あるじ、あるじぃ!!」

 と、俺の足元で、ピョンピョン飛ぶ可愛らしい少女。
 
 赤い髪を可愛らしくツインテールに纏め上げ、綺麗な白いワンピースを着た、背中に黒い翼を生やした少女。
 
 ----そう、彼女はあの・・ファイントである。
 いつも黒っぽい、腹黒な雰囲気を漂わせる、うちの真っ黒い心持ちの彼女は、純粋無垢な子供の笑顔でニコリと笑いかける。

 何故、いきなりファイントがロリ幼女化しているのか。
 それにはまず、このダンジョンのボスを紹介しておくべきだろう。

 

 徘徊型----つまりは、ボスの間のような専用のフィールドを持たないこのダンジョンのボスは、【ピンチインアウト・バグズ】と呼ばれる魔物である。


 ===== ===== =====
 【ピンチインアウト・バグズ】 レベル;Ⅰ 《渦巻く電脳裏道》ボス魔物
 スマホを思わせる平べったい身体に、12本の脚が付けられた虫のようなボス魔物。力のほとんどを後述の特殊能力にスペックを割きすぎているため、脚が速い以外はそれほど強くない
 特殊能力として、【画面縮小ピンチイン】と【画面拡大ピンチアウト】という2つの能力を持っている。このスキルを使い、周囲の味方の魔物を巨大化させたり、敵を小さく縮小することを得意としている
 ===== ===== =====


 スマホなどで、画面を大きくしたり小さくする時に、2本の指で画面の大きさを変えるために動かしたりしたことはないだろうか?
 その時に画面を縮小する操作の事をピンチイン、画面を巨大化する操作の事をピンチアウト……というらしいのだが、このダンジョンのボス魔物は、この2つを自由自在に操ることが出来るのだそうだ。

 そしてその【画面縮小】の力で、ファイントは幼女になってしまったのである。

「いや、分からんのじゃがあああ?!」

 と、同じように【画面縮小】の力によって、親指姫のように小さくなってしまった吸血鬼ココアが、俺の手の上でツッコミを入れる。
 そう、普通だったら、このココアのように身体全体が小さくなるだけで、幼女化したりはしないのだが。

「多分だが、あの【画面縮小】の力が変に働いたせいで、ファイントだけ幼児化という形で現れた、とか?」
「あぁ……ファイント、なんか"しるど"を張っておったからのぉ」

 ちなみに、件のピンチインアウト・バグズの方は、1人だけ攻撃を免れた雪ん子が、倒しに向かったので、すぐ済むだろう。

「あぅ……! あぅあぅ!!」
「あっ、主殿? なんじゃろか、ファイントが妾に手を伸ばしてるんじゃが? 片手は口に入れてて」
「それって完全、食べ物扱いコースじゃない?」

 「ひぃぃぃぃ!!」と、怯えた様子で俺のポケットに隠れるココア。
 うん、小さい子って、とにかく目の前の気になった物を口に入れたがるよね。

「あぅ! あるじぃ、だっこ! だっこ!」
「はいはい。やるから、その物騒なのは閉まってな」

 抱っこしなければ問答無用で、青魔法で覚えている《スタンブレード》を首筋に向ける彼女を、よっこらしょと抱き上げる。

「おー、よしよし。抱っこしたから、その物騒なのはしまおうな」
「あーい!」

 俺は《スタンブレード》が消えたのを見て、一安心。
 ダメだよ、幼女にこんな危ない魔法を使わせちゃあ。

「ねぇ、あるじ! あるじ!」
「ん? どうした?」

 と、抱っこしてると、幼女ファイントが手を伸ばして、ぎゅーっと俺の身体に抱き着いて来る。

「あるじも! あるじもやって! やって!」
「抱き着くのか? ファイントは甘えん坊だなぁ~」

 それくらい、お安い御用だ。
 俺はそう言って、ファイントをぎゅーっと抱きしめる。
 すると、彼女は「きゃはは!」と、子供らしく笑う。

「もっと! もっと、もっと! ぎゅーーっ!!」
「好きだな、おい」

 ぎゅーっと、ファイントを抱きしめる。
 すると、彼女はまたしても「きゃはは!」と、本当に楽しそうに笑う。


「あるじ! あるじ!
 だーーーーーいすきっ!!」


 チュッ!!

 そう言って、ファイントは俺の頬に可愛らしくキスをすると、疲れたのか、眠ってしまった。

「いつもこれくらい素直だったらいいのになぁ」


 ちなみに、この抱っこ事件のせいで、俺のポケットに隠れていたココアが潰れて死にかけたことは、また別の話である。
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