上 下
55 / 350
第2章『新たな召喚獣、新たな世界/ファイントの章』

第54話(閑話) 佐鳥愛理はパンクがお好き(2)

しおりを挟む
 空海大地は、昔から正義感溢れる少年であった。

 昔から悪人顔だとして、警察にマークされるほどの少年。
 しかしながら、その分、人の気持ちに寄り添い、自ら進んで他人に優しく出来る、心優しい少年であった。

 そうでなければ、小学生を救うために、トラックに突っ込みはしなかっただろう。

 彼は中学卒業したその日に、小学生の女の子がトラックに轢かれそうになる現場を目撃する。
 トラックの運転手は居眠りをしていたらしく、女の子も気付いている様子はなかった。

 彼女を助ければ自分は死ぬだろうと言う状況で、空海大地は躊躇することなく小学生の命を救うために、彼女を強引に引っ張って移動させ----。

 そして、空海大地はそのまま死んだ。

 その行為が尊かったからか、大地は女神に賞賛され、勇者としてのチート的な能力を授かり、今度は天空世界テンクウパンクを救うために転生した。
 その世界を滅ぼそうと企む魔王ベルゼビュートから、天空世界を救うために。


 天空世界は、空中にいくつもの島が浮かんでいる、浮島の世界。
 島と島との間には飛行船にて行き来するしかなく、人々は身近にいる人達よりも、遥か上の空を夢見続けていた。
 それぞれの島同士の連帯感は非常に弱く、自分達のいる島を抜けて上にある島に行くことが幸福になると思い込んでいた。
 それが故に魔王ベルゼビュートに支配されかかっている危険な世界だった。

 空海大地は、女神から貰った【絶対に折れない刀】と、空ばかり見ているせいで人々の心から忘れられていた【大地の力】。
 そして、こんな島同士の連帯感が弱い天空世界で、絆を信じてくれた、多くの仲間の力。

 それらの力によって、魔王ベルゼビュートを倒して、この地球へと2年前に帰ってきた。
 彼は天空世界で得た力と技術を用いて、冒険者として活動し始めた。
 魔王を倒した救世主様にとっては、ダンジョン探索など余裕しかなく、そこで魔物を倒したり、アイテムを取って来たりして、稼ぎまくっていた。

 そして、同じように冒険者として活動する者達のために、動画を撮り始めた。
 『手強い魔物の倒し方』から、『この職業ジョブになってしまったら、どういう戦い方をすべきなのか』、それに『美味しい魔物の食べ方』や『ダンジョンごとの特徴』などなど。
 冒険者として活動するのに必要な情報を動画として配信し始める、MyTuberことマイマインの誕生である。

 マイマインとしての活動は好評で、法人化することで、多くの金が大地へと流れ始めた。
 そうやって活動する中、冒険者として一緒に冒険する仲間も増え始めて、今では10人以上の大所帯になってしまっている。

 全てが順調の中、1つの事件が起きた。
 仲間の1人、夕張萃香ゆうばりすいかが幽鬼によって、殺されたのだ。

 大地はそれに激怒し、色々な伝手を頼って、遂にこの目的の人物の元へと辿り着いたのである。
 人間を幽鬼へと変えるルトナウムを作った冒険者、佐鳥愛理の所へ。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「行くぞ、【ファイアーランス】!」

 俺様、空海大地がまず放ったのは、魔法の1つである【ファイアーランス】。
 炎を槍の様にして放つこの魔法を、一度に10発。
 それを一気に、佐鳥愛理へと放ったのである。

「なんのっ! 【魔剣召還】!」

 その炎の槍の魔法攻撃に対して、佐鳥愛理が放ったのは魔剣の召喚。
 特別な力を込められた魔法の宿った剣、魔剣----それを複数召喚して、大地の放った【ファイアーランス】を撃ち落としていく。

「(なるほど、レベルアップしない召喚獣の対策として、魔剣を召喚獣として登録して放つのか。確か、【召喚士】がレベルⅢ辺りで覚えるスキルだったか)」

 【召喚士】が扱う召喚獣はレベルアップしない。
 しかしながら、【召喚士】はレベルⅢまでレベルアップできると、【召喚登録】というスキルを会得する。

 【召喚登録】は、魔力によって印を付けて、召喚獣として召喚できるようにするスキルだ。
 相手が強い魔物であればあるほど、抵抗して登録に必要な魔力は多くなるため、使えそうなボス1体を登録するのがやっとのスキル。
 だが、相手が魔剣であれば、魔剣自体は生きていないので、【召喚登録】に魔力はさほど使わず、なおかつより強い魔剣を作れば召喚獣を使うよりも安上がりで、ダンジョン攻略も安定的だ。

「(1本1本は、俺様の世界での伝説級の名剣に近いな。【ファイアーランス】程度ならば、易々と相手出来るだろうな)」

 俺様は【ファイアーランス】を放ちつつ、オーラで身体能力を強化すると、そのまま剣を振るいながら向かって行く。

「~~~! 【聖盾召喚】!」

 一瞬、驚いたような顔をして見せたと思ったが、すぐに佐鳥愛理は次の行動に移っていた。
 佐鳥愛理が次に召喚したのは大きな盾、相手の攻撃を全て防ぐとでも言わんばかりに強大なオーラを放っている。

「【身体能力強化】のオーラ! それに、【魔剣スラッシュブレード】!」

 それに対し、俺様は全身に身体能力を上げるために《オーラ》の力で、全身を強化する。
 さらに手に持つ名剣、俺様がチート能力として貰った【絶対に折れない刀】に、斬撃の特性を《スピリット》の力で付与する。

 《オーラ》による怪力、そして《スピリット》によって高められた斬撃性。
 2つが合わさることにより、佐鳥愛理の召喚した盾は、まるで豆腐の様に容易く斬り落とされた。

「身体能力強化の《オーラ》、魔法を扱うための《マナ》、そして斬撃特性を与えた《スピリット》……」
「披露こそしてないが、《プラーナ》による体力回復で、3日3晩だって戦えるぜ?」

 そう、これが俺様、空海大地の能力。
 天空世界では人々は空に想いを馳せすぎたせいで、身近にいる人達の絆が疎かになっていた。
 そんな中、俺様はただ宙に浮かぶだけだった浮島を探索し、人々が忘れかけていた大地の力を見つけ出した。

 そうやって、全ての浮島----いや、大地から力を手に入れた俺は、《オーラ》、《マナ》、《スピリット》、そして《プラーナ》の四大力を全て備えた【真の勇者】になる事が出来たのだ。

「俺様は全ての四大力を、それこそ世界を滅ぼそうとする魔王と戦えるレベルまで備えている。一方、そちらさんはどうやら召喚だけ……《マナ》系統の【召喚士】といったところか」

 《マナ》系統は、【魔法使い】などを初めとした魔法を扱うための四大力の1つ。
 遠距離戦に優れているが、近距離戦にはめっぽう弱いはず。

「お前がどれだけ逃げようが、俺様ならすぐに追いつける。だから、諦めろ!
 お前の目的が金ではない事は、調べがついている!」
「……!!」

 佐鳥愛理は、びっくりするほど低価格でルトナウムを売りさばいているという情報を得ている。
 それこそ、相手の方から100万から500万へと、高額になるよう交渉するくらいに。
 それに、さっきの独り言を聞くに、ルトナウムをダンジョンに取り込ませて、他の冒険者でも取れるようにしようとしている。

「金が目的なら、ルトナウムなんて夢のようなエネルギー物質は、自分だけが独占したいと思うはず! にもかかわらず、ルトナウムをダンジョンのドロップアイテムの1つとして出るようにばら撒いたり、ルトナウムの販売価格だって驚くほど安いと聞くぞ?!
 答えろ、お前の目的はなんだ!! 世界征服でもしようというのか!!」

 俺様がそう聞くと……佐鳥愛理は「ケラケラケラッ!」と笑い始める。

「な、なにがおかしい!!」
「おかしい? わたくしは自分のことは、ちゃーんと紹介しているはずですよ? 永遠の17歳で、好きな音楽はパンクミュージックだ、って?」
「それは、知っている!!」

 ----冒険者、佐鳥愛理さとりえりです! 永遠の17歳です!
 ----好きな音楽はパンクミュージック! 将来の夢は、農家の皆さんみたいに『このルトナウムは私が作りました』的な感じに写真付きのポップで、お店に飾られる事です!

 確か、そういう自己紹介をしているということは、俺様も情報で知っていた。

「だったら、わたくしの目的が金稼ぎである事も、知ってるはずですよね? なのに、目的はなにとか、おかしくて! ケラケラケラッ!」
「かっ、金を稼ぐのが目的なら安す----!!」
「安すぎ、ですかね?」

 と、佐鳥愛理は低く、冷たさすら覚えそうな口調でそう言う。

「ルトナウムってのは、無限のエネルギー物質であると同時に、有限のエネルギー物質でもある。あの液体がなんで無限のエネルギーを生むのかと言うと、ルトナウムは歯車ギア、だからですよ」
「----歯車《ギア》?」
「この世界とは別次元に、永遠にエネルギーが生まれ続ける世界----そうですねぇ、エネルギー世界パンクとでも言うべきでしょうか? そういう世界があり、ルトナウムはそのエネルギー世界のエネルギーをこちらに引き出す時に使う歯車……いや、蛇口とでも言うべきでしょうね」

 彼女はそう言って、話を続ける。

「今、わたくしが広めているルトナウムは、不純物が多い劣化品……およそ10年くらいが使用限界とでも言うべきでしょうか? 勿論、それはわたくしが精製した精製ルトナウムを用いて、レベルⅤ相当の力を得た軍人さん達も同じ。
 全てのルトナウムが役目を終えた時、人々は果たしてルトナウムがない暮らしに、耐えられるでしょうか?」
「……! その時に、高値で売るのが、お前の目的?!」
「正確には、10年保証品を100万で売った後、30年保証品を500万で売るような、そういう計画です。勿論、大企業がトップクラスの生産性を維持したいのなら、10年保証品でも10g1億円の品を買ってもらわないと、いけないでしょうなぁ?」

 「ルトナウム、ばんざーい!」と笑う佐鳥愛理を見て、俺様は納得していた。
 ようやく、このイカレタ女の計画が判明したということについて。

「(そうか、安値で売っていたのは、彼らに楽を覚えさせるため! 予め強力な力を与えておいて、それが無くなる恐怖を感じさせ、本命の品を高額で売りつける……!!
 まさに、麻薬を売る時の手口にそっくりじゃないか!)」

 顔に似合わず、清廉潔白を心掛けている俺様は、今すぐコイツを止めるべきだと判断した。

 ----俺様の全身全霊を持って、この佐鳥愛理を、ここで倒す!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします! 感想待ってます! まずは一読だけでも!! ───────  なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。    しかし、そんなオレの平凡もここまで。  ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。  そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。  使えるものは全て使う。  こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。  そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。  そしていつの日か、彼は……。  カクヨムにも連載中  小説家になろうにも連載中

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...