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第1章『俺の召喚獣だけレベルアップする/雪ん子の章』

第40話 【召喚士】は不遇である

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 赤坂美南先輩が冒険者になったのは、今からおよそ3年前の春。
 運命的と言うか、彼女が冒険者になったのも、俺と同じく友人の誘いからだった。
 彼女は友人と共に冒険者に夢を求めて登録した。


 ===== ===== =====
 【赤坂 美南】
 冒険者ランク;F
 クラス;召喚士
 レベル;Ⅰ
 命題;魔力の制御が困難になるが、召喚獣の戦力が大幅に上がる
 ===== ===== =====


 その結果が、【召喚士】という不遇職になることだった。

 件の友人は、当時から不遇として蔑まれてきた【召喚士】になった赤坂先輩を見捨て、他のパーティーの一員となり、彼女とは距離を置いた。
 赤坂先輩はと言うと、その結果を「そういうモノかな」と呆気なく受け入れ、奇跡的に拾ってもらえたパーティーに入った。

 彼女は、赤坂美南は頑張った。
 【召喚士】は色々と制限こそあるが、知識と活用法さえ知っておけば、ある程度は力になれる。
 俺と同じMyTuberのマイマインさんの動画を見て、【召喚士】としての戦い方を考えたんだそうだ。

 そこまでして必死に頑張った彼女が得られたのは----パーティーが倒しきれなかった残敵処理と、ドロップアイテムを持ち運ぶ荷物係としての地位だけだった。


「私は、冴島くんみたいに魔力が多い訳ではなく、逆に魔力暴走が激しい【召喚士】でした。
 だから、同じ召喚獣を出せば私の方が瞬間的な戦力は強くても、すぐに自分の魔力に耐え切れずに死んじゃう。かと言って、制御できるくらいの弱ーい召喚獣だと、普通よりも圧倒的に弱くてやられちゃう」

 彼女は、そういう欠陥持ちの【召喚士】だった。

 そこで思いついたのが、敢えて爆発しても死なない召喚獣----【ばくだんいわ】の存在である。
 彼女は【ばくだんいわ】を強力な爆撃として用いる事で、レベルⅠの召喚獣ながら、レベルⅡを瀕死にまで追い込むくらいの戦術を確立した。
 勿論、定期的に敵が居なくても爆発させなければならないという、欠陥はまだあったが。

 その後、【ばくだんいわ】の強力な爆破力を活かす方法を考えていた際、【さまようよろい】というレベルⅠの魔物と戦う事となった。


===== ===== =====
 【さまようよろい】 レベル;Ⅰ
 無念の死を遂げた騎士の魂が、成仏しきれずに鎧へと宿り、動き出したリビングアーマー(※1)の魔物。元が騎士だけあって、剣や盾などを使った攻撃を得意としている
 その空洞の鎧は常に装着者を求めており、装着された場合、その者の力を武器として用いる
===== ===== =====


 その魔物を見た時、【ばくだんいわ】の新たな可能性を見つけた。
 【さまようよろい】の様に、中にいる者の力を利用するタイプの召喚獣を生み出せば、爆破力をもっと効率的に戦力として使え、さらには無用な被害を抑えられるんじゃないかって。

 最初は、【さまようよろい】を召喚獣として出して、【ばくだんいわ】を取り込ませた。
 しかしながら爆破の威力が強すぎたせいか、10回ほど爆発すると、外の鎧が破裂してしまった。

 その後、何度か試した結果、蜃が出す蜃気楼を鎧として纏わせるのが一番良いと気付き、あの戦い方を確立したそうだ。



 俺と同じ【ランクⅠ 召喚士ダンジョン大会】に挑む頃には。
 彼女と同じころに冒険者になった友人も、自分より遅く冒険者になってパーティーで面倒を見ていた後輩も、自分より上のレベルⅡ以上になっていた。



「結局、そこが我慢の限界だったの」

 彼女は、そこでぽっきりと折れてしまったのだ。
 自分が頑張って、頑張って、頑張っても、同じ仲間達はずっと先の道を歩いている。

 自分ではなく、蜃に岡本・S・太郎という幻影を張りつけさせたのも、自分が【召喚士】であることが恥ずかしかったからだそうだ。
 自分ではない、岡本・S・太郎という仮面を被らないと、【召喚士】である自分が惨めで、愚かに見えて、仕方がなかったのだ。

 大会に優勝してレベルⅡになった事よりも、これからもずっと追いつけないんじゃないかという絶望が、より濃く彼女の中にはあった。

 そんな時に、海外で職業ジョブを変えられることが出来る者がいるという噂を聞いた。
 日本とは違って海外では、性転換手術と同じように、冒険者の職業変更をするのが出来る、と。

 多少お金はかかったが、彼女は海外に居た佐鳥愛理なる冒険者に、今の赤魔導士の職業へ変えてもらったのだそうだ。


 ===== ===== =====
 【赤坂 美南】
 冒険者ランク;D
 クラス;赤魔導士
 レベル;Ⅱ
 命題;制御が困難になるが、魔法の威力が大幅に上がる
 ===== ===== =====


 それが今の、赤坂美南先輩というのだそうだ。

 その後、俺は赤坂先輩に、俺も違う職業にならないかと誘われた。
 今でも彼女は、佐鳥愛理という自分を違う職業に変えてくれた冒険者と交流があり、冒険者部の皆にも割かし頻繁に変更を勧めているらしい。

 払う額が高額で、四大力を越えた職業変更は出来ないなどの制約はある。
 例えば、《オーラ》に分類される【剣士】から、《マナ》に分類される【魔法使い】へは変更できないといった具合に。

 それでも、自分の今の職業に不平不満を持っている人は多く、職業変更依頼はかなり多いらしい。
 彼女は自分と同じ不遇の道を歩まないようにと、俺も別の職業に進むべきだと、親切心で誘ってくれたのだ。


 俺はその誘いを断った。
 俺には【召喚 レベルアップ可能】というチートスキルもあるし、レベルⅡになった事で得られたスキルも試したい。

「俺は今のところは、【召喚士】が不遇だとは思ってなくてな」
「そうですか。……では、不遇だと思った時は遠慮なく、声をかけて欲しいわ」

 その日は多分永遠に来ない事を祈りつつ、俺は尊敬していた【召喚士】が居なくなったのを嘆きつつ。
 冒険者部を後にしたのであった。


(※1)リビングアーマー
 自らの意思で動き回る鎧型の魔物の総称。騎士や兵士、または冒険者などの魂が宿っており、剣や盾などの扱いに長けている
 その空っぽの鎧の中に生命を取り込むことによって、その中身の生命の持つスキルや能力を使うことが出来る
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