俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政

文字の大きさ
上 下
26 / 354
第1章『俺の召喚獣だけレベルアップする/雪ん子の章』

第26話 閑話ー21gの値段(2)

しおりを挟む
「そこにあるのは、ルトナウムと呼ばれる特殊物質。それをきちんとした形で精製したものです」

 佐鳥愛理は紅茶をゆっくり飲みつつ、崎森衛防衛大臣に商品の説明を始めていた。

「ルトナウムは異界……つまりはダンジョンの中でしか取れないレアメタルで、加熱しても量は減らないのに、エネルギーは出続けるという、不思議物質です----という事にしたかったんですけどね」

 本当は、彼らに採取して貰って、ダンジョンで見つけた物質として売り出したかったんですけどね。
 ----と、彼女は自嘲気味にそう言った。

「……採取ぐらいなら出来ると思ったんですが、まさかルトナウムに取り込まれて化け物になるとは思っても見ませんでしたよ」
「お前が作った? そもそも、人を化け物になるような危険物質、大臣として処分することしか検討出来ないな」

 ルトナウムは、確かに便利物質だ。
 燃やしても有害物質を出さず、それでいてエネルギーはどんどん出てくる。とんでも物資。
 しかしながら、人間を化け物に変えるような物質を、政府が認可できる訳がないだろう。
 
「防衛省よりも、経済産業省にでも持って行きたまえ。不景気な今であろうと、高値で買い取って貰えるでしょう。もっとも、その前に警備員に殺されるかもだが、な」
「えぇ、まぁ、そうかもでしょう。このルトナウムの本来の価値・・・・・を知らない人にとっては」

 自信満々な態度で、佐鳥愛理は机の上のガラス小瓶を指差す。

「宝石は最初から高値な訳ではない。鉱山で手に入れた宝石は、職人の手によって研磨されることで、宝石としての価値が上がる。
 それはルトナウムにも言えます。ルトナウムは無限エネルギーを持つレアメタルでありまして、これ単体でもエネルギー問題を解決することが出来るでしょう。しかしながら、今回わたくしが本当に提案したいのは、加工したルトナウムを使えば、こんなことが出来るようになるという事です」

 彼女はそう言って、爪ですーっとテーブルの上をなぞる。
 力なぞまったく入れてないだろうに、彼女が机を指で軽くなぞった程度で。

 硬いテーブルが真っ二つに切り裂かれていた。

「----っ!!」

 真っ二つに切り裂かれたテーブルが、ようやく自分が斬られたことに気付いたのか、そのまま地面へと落ちていた。

「こういう事、ですよ?」
「…………」

 彼女が何をしたのか、崎森防衛大臣の目にはまったく分からなかった。
 種も仕掛けもなく、まるで彼女のか細い爪が切れ味抜群の妖刀がごとく、一瞬でテーブルを真っ二つに分けたようにしか見えない。

「わたくしが錬成したルトナウムを飲めば、体内で無限のエネルギーが生まれる。まぁ、理論や理屈を抜きにして簡潔に言えば、ダンジョンの外で、冒険者と同じような超人的な人間になれるという事です。ドラゴンをその身一つで狩るような冒険者が、国家を守るために戦ったらどうなるでしょう?」
「……飲めば、この世界で最強の人間になれると?」
「最強の人間にはなれないでしょうね、既にその枠は埋まってるでしょう」

 ----ただ、最強の人種にはなれます。

 崎森防衛大臣は、佐鳥愛理の話を聞きながら考える。

 冒険者と言うのは、ダンジョンの中で驚異的な力を発揮する奴らだ。
 スキルによって空を駆けたり、誰でも簡単に超人的な武技を出したり。
 防御力においても、魔物の攻撃を軽く防げる奴らに、拳銃が効くだろうか?

「最強の人種……確かに魅力的な提案だ」
「でしょう! それにわたくしは、錬成過程を調整すれば、誰でもすぐにレベルⅤ程度……拳銃なんかモノともしない身体を持ち、空を駆けたり、訓練1つせずとも優れた武技を使えるようになりますよ?」
「魅力的な提案だ……お前がなんでそれを、娘を殺された私に提案するのかが分からないという点を除けば、だが。愛国心とかではあるまい?」

 崎森防衛大臣がそう言うと、彼女はニコリと笑う。

「お金ですよ、お金。単純にルトナウムを作るだけでも金がかかり、さらにはこの最強の人種を作り出す精製ルトナウムはわたくしにしか加工できず、持ち逃げの可能性もあるから、わたくしが売るしかない。ですので、一番高く買い取ってくれそうなところに売ろうかと? 勿論、無限エネルギー物質のルトナウム単体も合わせて」
「……買わないと、我が国の自由を脅かすテロリストに売るんだろう? 分かった、買おうじゃないか」

 結局、崎森防衛大臣はこの得体のしれない彼女の持ち物を買うしかなかった。

 爪1つでテーブルを軽く真っ二つに出来る彼女が、冒険者のような超人になれる薬を持って来た。
 そして買わなければ、国を脅かすクソ野郎共に渡すという脅しも付けてきた。
 ----国を守るという点では、ここは買うしか方法がないのである。

「……いくらだ?」
「精製ルトナウム21g----これが超人になれる薬、でしてね。とりあえず、いくらで買ってもらいますか? ちなみに、相手側は1つ、200万程度で買うと言ってますが? ちなみに普通のルトナウムの場合は、100g100万円のお手頃プライスで売るつもりです」
「本当はもっと高値で言ってきたのだろう? ……500万でどうだ、とりあえず精製ルトナウムとやらを10名分くらい」
「うわーぉ! それだったら、わたくしも張り切って渡さなければ、ならないようですね!」

 ニッコリと金勘定を始める彼女と、崎森防衛大臣は精製ルトナウムの薬の効能について話し合った。
 副作用があるのかだとか、【剣士】や【弓使い】など好きな職業を選べるのかだとか。
 そう言った細かい調整を得て、防衛省は10本の精製ルトナウム薬を手に入れた。

 超人的な【剣士】や【格闘家】など、近接戦闘職になれるモノ、5人分。
 【魔法使い】や【回復術師】など、超常的な異能力みたいな力を得られるモノ、3人分。
 そして----隊のリーダーに渡す特別製を、2人分。

 たかが210g程度で、5千万……。
 とんでもない金額ではあるが、実際にボディーガードの1人がきちんと効果を示したところを見ると、金額にあったものだったのだろう。

 それに、精製前のルトナウムの方もだ。
 無限エネルギー物質を必要とする企業は多く、最終的に彼女が売ったのは1千万円分----つまりは1kg分だけだが、買った値段の10倍以上でも必要な企業は買うだろう。



 そして、悪魔の取引が終わり、佐鳥愛理は帰る事となった。
 そのことに、崎森防衛大臣はホッとしていた。

「(これ以上はヤバい。何故か私は、彼女の事を好きになりつつある)」

 理屈や理論ではなく、何故かこの女に愛情が芽生えてきている。
 恐らくは《魅了》や《誘惑》といったスキルだろうが、娘を殺す原因となった女だというのに、何故か彼女のことを愛おしく思ってしまう。
 妻一筋で、この地位まで上り詰めた崎森衛が、だ。

「では、また何かありましたら、お金を用意して、こちらの番号にまでご連絡を」

 丁寧に頭を下げて帰ろうとする彼女に、崎森防衛大臣は1つだけ聞きたいことがあった。

「なぁ、佐鳥愛理。何故、21gなんだ?」

 詳しい話を聞くと、精製ルトナウムは10g程度さえあれば、効果は十分に発揮出来るらしい。
 わざわざ21gという重さにしたのには、彼女なりの意味があるように思えるのだ。

 だからそう尋ねたのだが、彼女は「待ってました!」とばかりに目を輝かせて、得意げな笑みと共にこう答える。

「それが魂の重さだからですよ。とあるイカレた研究者が導き出した、魂の重さ。それが21gなのです。
 ----あなた達は今、魂を買ったのですよ。人間から上位への魂へと変質する、悪魔の取引でね」

 最後まで不気味に、佐鳥愛理はそう語るのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

処理中です...