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Image For The Future -エピローグ-
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ナイトレス・ハーバーシティを襲った、シグマズルカを倒してから数日後。
雨降りしきるじめじめとした、憂鬱になってしまいそうな梅雨を越え、太陽がさんさんと、地球を照らす夏に入ろうとしていた。
「うぇ~、暑いですねぇ~」
照りつける太陽を軒先で和らげ、多少ばかり涼しくなった場所でも、暑すぎると、ユカリは自前の翼で風を送っていた。
それに加えて、風を操る能力を使って、ユカリは自身の身体を涼めていたが、それでも彼女は暑くて、暑くて、仕方がないという様子だった。
「……軟弱だな、ユカリは」
それに対して火龍のフレアリオンは暑さなど物ともせずに、日課である修行を終えて、タオルで汗を拭いていた。
いや、タオルには汗など一滴もついておらず、ただの一環として、"人間はトレーニング後は汗を拭く"という事で、拭いているだけのようだが。
「ぶ~、フレアリオンさんとは違うんですっ! フレアリオンさんは火龍で、火を使うから暑いのが平気なのかもしれませんけど、こっちは暑いのが苦手なんですから!」
「"火を司る龍である火龍は火の暑さに耐性を持つ。一方で風を司る龍、風龍は風の寒さに耐性を持つ"‐‐‐‐故に風龍である自分は暑さに弱い、と言う話か?」
「えぇ、そうです! 30度という状態を越える日々が何日も続くだなんて、あり得ないでしょう! 地球歴史から鑑みるにしても、温暖化が進みすぎですっ!」
暑すぎる、とばかりに、文句を垂れ流すユカリ。
いつもはもう少しばかり理知的なのだが、夏の暑さというのは、人間だけではなく、龍の理性まで溶かしてしまうみたいである。
「あと、毎日、そうめんってなんですか! スバルくんからのリクエストは嬉しい限りですけど! ほんと、嬉しい限りなんですけど!」
「嬉しいなら……良いんじゃないのか?」
「えぇ、それ自体は、本当に嬉しい……んですけど……そうめんが面倒なんですっ! 暑いんですよ、そうめんを作るのは! なんで涼むための料理なのに、あんな暑い思いをして作る手順が必要なんですか!」
ユカリの怒声のような嘆きに、そういうモノだとしか、思わないフレアリオン。
鍋にたっぷりの湯を入れて沸かし、そこに麺を入れて茹で上げる。
茹で上げたそうめんを流水によって、よくもみ洗いする。
‐‐‐‐これがそうめんの作り方の大まかな作り方、である。
それだけならまだしも、ユカリは別の鍋を沸かして、毎日、色々なつゆを作成しているから、尚更。
ちなみに昨日のつゆは、トマトを使ったイタリアン風のつゆであった。
「いつも、けっこう多めに茹で上げて、作り置きカレーみたいにしてみたいんですけれども、フレアリオンさんやエクレルちゃんが、食べまくっているから仕方がないじゃないですかっ!」
「仕方がなかろう、旨いのだから」
「もうっ! 嬉しいのは嬉しいですけど、普通に大変なんですから!」
もーっ、と言いつつ、今日はどんなつゆを作るかを悩んでいるユカリ。
あんなことを言いつつも、彼女自身もそうめんを作ることに、かなりハマっているのである。
「……そう言えば、なのだが、今日はそのスバル・フォーデンの姿が見えないな?」
キョロキョロと辺りを見渡しながら、フレアリオンはと言うと、今この場に居ないスバルの行方を捜していた。
「あぁ、スバルくんならエクレルちゃんと一緒に、無人島にバカンスに行きましたよ」
「……バカンス?」
「エクレルちゃんがお金で買った無人島に、2人で遊びに行ったみたいです。私が連れていくと言ったんですけれども、モーターボートがあるから良いって」
エクレルは、雷を司る雷龍である。
彼女の雷を操る力を用いれば、モーターボートに自ら電力を与えて、ひっそりと2人で無人島バカンスも簡単だろう。
「せっかく、私の翼で送っていくと言っているのに。エクレルちゃんも、無粋ですっ」
ぷんぷんっ、とほほを膨らませて抗議する彼女に対し、フレアリオンは優しく接する。
「仕方がないだろう、ユカリも察してやれ。エクレルには休息、それも心からの休息が必要なのだ」
スバルとユカリ、それにエクレルの3人は、マイヨールの要請によって、ナイトレス・ハーバーシティを占拠するシグマズルカ一行と対峙する。
しかしながら、エクレルはシグマズルカの能力によって、あやうく死ぬところだった。
彼女自身は、表向きは気にしていない様子ではあったが、心の奥底では不安だったのだろう。
だからこそ、スバルと共に2人きりで、無人島バカンスに出かけたのだ。
「スバル・フォーデンはエクレル達と親睦をより強められる、エクレルは心の奥にあるしこりを解消できる。まさに一石二鳥、という奴ではないか?」
「……ちょっと待ってください、フレアリオンさん。今の発言、おかしくないですか?」
じとぉ、っと目ざとく、重箱の隅や窓のサッシなどに埃を見つけた小姑みたく、ユカリは追及する。
一方で、追及されている側のフレアリオンはと言うと、少しばかり思考を巡らせて、あっさりとバラす。
「まぁ、黙っているほどではないな。別に黙っていろ、と言われた訳でもないしな。
‐‐‐‐実は無人島に行ったのは、スバルとエクレルだけではない。マイヨールも一緒で」
それを聞いて、ユカリの目の色が変わる。
「‐‐‐‐マイヨールさんも、ですって?」
実はマイヨールも、今ではマヌス達の一員である。
改変龍トロイメライの能力によって送られた過去の世界で、スバルにリーダー試験の課題となっている人物を捕えていない事を明かしたマイヨールは、シグマズルカとの戦いが終わり次第、自らが所属する超能力組織【ワンダーフォース】からの脱退を表明。
ちなみに理由は、"一身上の都合により"という、なんともふわりとした理由である。
リーダー試験に関して実際には合格していなかったマイヨールだが、彼女が辞めることで、少しばかり組織内で大きな動揺があったらしい。
それは彼女が善人、いや分を弁えている超能力者だったから。
普通の人間とは違う能力を手に入れた者は、大抵、歪む。
自分の力を過信し、堕落し、驕り、侮る。
組織としてはあまりにも使いづらい超能力者達の中で一線を画し、冷静な人格者であったマイヨール・ロスチャイルドなるリーダーは、多くの者に慕われていたらしい。
まぁ、彼女はチキンスープの事に触れなければ、問題ない人物であったのだが。
兎にも角にも、組織を辞めたマイヨールは今は、スバル達と同じ家で、居候と言う形で仲良くしている。
「くっ! エクレルちゃんならまだしも、マイヨールさんまでスバルくんと一緒だなんて!
そうめんのつゆの選定なんてしてる場合じゃありませんでしたよ! まったく!」
「そう言うな、ユカリ。どうだ、今日はキヌゴーシュの豆腐料理でも食べに行くとするか?」
ちなみに、同じく組織を去った者、元ドラバニア・ファミリーたる兎女龍キヌゴーシュは、ダットンの家で居候、兼、弟子として料理修業しているらしい。
今では豆腐を使ったお味噌汁に挑戦しているらしく、ダットン曰く「豆腐以外の味も分かったら、一人前かな?」などと、言っていたのだが。
「……スバルくんが居ないのなら、料理に張り合いなんて出ませんので、それで」
ぐすんと、分かりやすく落ち込むユカリに、フレアリオンが優しく話しかける。
「まぁ、今度また別の機会に一緒に行けば良いさ。スバル・フォーデンとバカンスを」
「そうですね、フレアリオンさん!」
頑張るぞー、などと気合を入れるユカリ。
「ところで、話は変わるのだが‐‐‐‐」
フレアリオンはさっきまでの気軽な話をしていた時とは違う、少しばかり真剣な表情で話しかける。
「シグマズルカによって分断された後、ユカリはスバル・フォーデンを探していた。間違いないか?」
「はいっ! スバルくんの身の安全こそ、マグノリア様との約束ですから!」
「そして、スバル・フォーデンの姿を見て、一直線に飛んで行った」
そして覚醒ベルトの力によって、アネモイの姿へ変身した2人は、その力でシグマズルカを倒した。
それがフレアリオンの知る、事の顛末である。
「えぇ、そうですね。残念ながらあの時の私は、エクレルちゃんやマイヨールさんを探す余裕はなくて‐‐‐‐」
「別にそこは怒ってない」
‐‐‐‐問題は、その後だ。
フレアリオンは、ユカリの瞳をじっと見る。
「ユカリ、お前はどうやってスバル・フォーデンだと判断した? 急いで飛んでいただろうから、顔なんて見えなかったはずなのに」
「……? そりゃあ、勿論! スバルくんしか出さない、あの白い光を見て確信したわけですよ!」
ユカリの答えに嘘がないと判断したフレアリオンは、そこで疑問符を浮かべる。
「あの白い光は、我々とスバル・フォーデンが合体する時の証、だろう。
一度、リチャード・ラフバラーに確認した時がある。あれは龍である我々と、ハーフドラゴンのスバル・フォーデンとの間に起きる、エネルギー量の放出によって起きる現象だと」
そこで、フレアリオンは1つ、問題を提起する。
「光はユカリが近くに居る時ではないときに発せられている。その光を追って、スバル・フォーデンを見つけたわけなのだからな。
‐‐‐‐それじゃあ、ユカリと合体する前、スバル・フォーデンは"誰と"合体する予定だった?」
☆
無人島で気軽に力を抜いて、英気を養っているスバル。
今、彼は砂浜で無防備に横になっていた。
あまりに無防備で、シグマズルカとの激闘が未だに引きずっているのか、それともエクレルに3時間近くぶっ通しで遊びに連れまわされたせいなのか、スバルはぐったりと砂浜で横になっていた。
一緒に連れてきたマイヨールは、エクレルと一緒に浜辺でけん玉をしていた。
わざわざ無人島まで来てするような事であるかは別として、エクレルも、そしてマイヨールも楽しそうな様子である。
スバルはそれだけ確認すると、静かに目を閉じる。
眠りにつく中、スバルの身体は自然と、疲れを取るために、無駄な音を聞いて飛び起きないように、聞こえすぎる龍の耳を閉じる。
そして、静かに眠り始めた。
だからだろうか、スバルの身体から聞こえてくる、その音に気付いた者は誰もいなかった。
【Princess! A Heart Wants To Freeze……】
彼の身体の中で、新たなリュウシントが目覚めつつあることに。
雨降りしきるじめじめとした、憂鬱になってしまいそうな梅雨を越え、太陽がさんさんと、地球を照らす夏に入ろうとしていた。
「うぇ~、暑いですねぇ~」
照りつける太陽を軒先で和らげ、多少ばかり涼しくなった場所でも、暑すぎると、ユカリは自前の翼で風を送っていた。
それに加えて、風を操る能力を使って、ユカリは自身の身体を涼めていたが、それでも彼女は暑くて、暑くて、仕方がないという様子だった。
「……軟弱だな、ユカリは」
それに対して火龍のフレアリオンは暑さなど物ともせずに、日課である修行を終えて、タオルで汗を拭いていた。
いや、タオルには汗など一滴もついておらず、ただの一環として、"人間はトレーニング後は汗を拭く"という事で、拭いているだけのようだが。
「ぶ~、フレアリオンさんとは違うんですっ! フレアリオンさんは火龍で、火を使うから暑いのが平気なのかもしれませんけど、こっちは暑いのが苦手なんですから!」
「"火を司る龍である火龍は火の暑さに耐性を持つ。一方で風を司る龍、風龍は風の寒さに耐性を持つ"‐‐‐‐故に風龍である自分は暑さに弱い、と言う話か?」
「えぇ、そうです! 30度という状態を越える日々が何日も続くだなんて、あり得ないでしょう! 地球歴史から鑑みるにしても、温暖化が進みすぎですっ!」
暑すぎる、とばかりに、文句を垂れ流すユカリ。
いつもはもう少しばかり理知的なのだが、夏の暑さというのは、人間だけではなく、龍の理性まで溶かしてしまうみたいである。
「あと、毎日、そうめんってなんですか! スバルくんからのリクエストは嬉しい限りですけど! ほんと、嬉しい限りなんですけど!」
「嬉しいなら……良いんじゃないのか?」
「えぇ、それ自体は、本当に嬉しい……んですけど……そうめんが面倒なんですっ! 暑いんですよ、そうめんを作るのは! なんで涼むための料理なのに、あんな暑い思いをして作る手順が必要なんですか!」
ユカリの怒声のような嘆きに、そういうモノだとしか、思わないフレアリオン。
鍋にたっぷりの湯を入れて沸かし、そこに麺を入れて茹で上げる。
茹で上げたそうめんを流水によって、よくもみ洗いする。
‐‐‐‐これがそうめんの作り方の大まかな作り方、である。
それだけならまだしも、ユカリは別の鍋を沸かして、毎日、色々なつゆを作成しているから、尚更。
ちなみに昨日のつゆは、トマトを使ったイタリアン風のつゆであった。
「いつも、けっこう多めに茹で上げて、作り置きカレーみたいにしてみたいんですけれども、フレアリオンさんやエクレルちゃんが、食べまくっているから仕方がないじゃないですかっ!」
「仕方がなかろう、旨いのだから」
「もうっ! 嬉しいのは嬉しいですけど、普通に大変なんですから!」
もーっ、と言いつつ、今日はどんなつゆを作るかを悩んでいるユカリ。
あんなことを言いつつも、彼女自身もそうめんを作ることに、かなりハマっているのである。
「……そう言えば、なのだが、今日はそのスバル・フォーデンの姿が見えないな?」
キョロキョロと辺りを見渡しながら、フレアリオンはと言うと、今この場に居ないスバルの行方を捜していた。
「あぁ、スバルくんならエクレルちゃんと一緒に、無人島にバカンスに行きましたよ」
「……バカンス?」
「エクレルちゃんがお金で買った無人島に、2人で遊びに行ったみたいです。私が連れていくと言ったんですけれども、モーターボートがあるから良いって」
エクレルは、雷を司る雷龍である。
彼女の雷を操る力を用いれば、モーターボートに自ら電力を与えて、ひっそりと2人で無人島バカンスも簡単だろう。
「せっかく、私の翼で送っていくと言っているのに。エクレルちゃんも、無粋ですっ」
ぷんぷんっ、とほほを膨らませて抗議する彼女に対し、フレアリオンは優しく接する。
「仕方がないだろう、ユカリも察してやれ。エクレルには休息、それも心からの休息が必要なのだ」
スバルとユカリ、それにエクレルの3人は、マイヨールの要請によって、ナイトレス・ハーバーシティを占拠するシグマズルカ一行と対峙する。
しかしながら、エクレルはシグマズルカの能力によって、あやうく死ぬところだった。
彼女自身は、表向きは気にしていない様子ではあったが、心の奥底では不安だったのだろう。
だからこそ、スバルと共に2人きりで、無人島バカンスに出かけたのだ。
「スバル・フォーデンはエクレル達と親睦をより強められる、エクレルは心の奥にあるしこりを解消できる。まさに一石二鳥、という奴ではないか?」
「……ちょっと待ってください、フレアリオンさん。今の発言、おかしくないですか?」
じとぉ、っと目ざとく、重箱の隅や窓のサッシなどに埃を見つけた小姑みたく、ユカリは追及する。
一方で、追及されている側のフレアリオンはと言うと、少しばかり思考を巡らせて、あっさりとバラす。
「まぁ、黙っているほどではないな。別に黙っていろ、と言われた訳でもないしな。
‐‐‐‐実は無人島に行ったのは、スバルとエクレルだけではない。マイヨールも一緒で」
それを聞いて、ユカリの目の色が変わる。
「‐‐‐‐マイヨールさんも、ですって?」
実はマイヨールも、今ではマヌス達の一員である。
改変龍トロイメライの能力によって送られた過去の世界で、スバルにリーダー試験の課題となっている人物を捕えていない事を明かしたマイヨールは、シグマズルカとの戦いが終わり次第、自らが所属する超能力組織【ワンダーフォース】からの脱退を表明。
ちなみに理由は、"一身上の都合により"という、なんともふわりとした理由である。
リーダー試験に関して実際には合格していなかったマイヨールだが、彼女が辞めることで、少しばかり組織内で大きな動揺があったらしい。
それは彼女が善人、いや分を弁えている超能力者だったから。
普通の人間とは違う能力を手に入れた者は、大抵、歪む。
自分の力を過信し、堕落し、驕り、侮る。
組織としてはあまりにも使いづらい超能力者達の中で一線を画し、冷静な人格者であったマイヨール・ロスチャイルドなるリーダーは、多くの者に慕われていたらしい。
まぁ、彼女はチキンスープの事に触れなければ、問題ない人物であったのだが。
兎にも角にも、組織を辞めたマイヨールは今は、スバル達と同じ家で、居候と言う形で仲良くしている。
「くっ! エクレルちゃんならまだしも、マイヨールさんまでスバルくんと一緒だなんて!
そうめんのつゆの選定なんてしてる場合じゃありませんでしたよ! まったく!」
「そう言うな、ユカリ。どうだ、今日はキヌゴーシュの豆腐料理でも食べに行くとするか?」
ちなみに、同じく組織を去った者、元ドラバニア・ファミリーたる兎女龍キヌゴーシュは、ダットンの家で居候、兼、弟子として料理修業しているらしい。
今では豆腐を使ったお味噌汁に挑戦しているらしく、ダットン曰く「豆腐以外の味も分かったら、一人前かな?」などと、言っていたのだが。
「……スバルくんが居ないのなら、料理に張り合いなんて出ませんので、それで」
ぐすんと、分かりやすく落ち込むユカリに、フレアリオンが優しく話しかける。
「まぁ、今度また別の機会に一緒に行けば良いさ。スバル・フォーデンとバカンスを」
「そうですね、フレアリオンさん!」
頑張るぞー、などと気合を入れるユカリ。
「ところで、話は変わるのだが‐‐‐‐」
フレアリオンはさっきまでの気軽な話をしていた時とは違う、少しばかり真剣な表情で話しかける。
「シグマズルカによって分断された後、ユカリはスバル・フォーデンを探していた。間違いないか?」
「はいっ! スバルくんの身の安全こそ、マグノリア様との約束ですから!」
「そして、スバル・フォーデンの姿を見て、一直線に飛んで行った」
そして覚醒ベルトの力によって、アネモイの姿へ変身した2人は、その力でシグマズルカを倒した。
それがフレアリオンの知る、事の顛末である。
「えぇ、そうですね。残念ながらあの時の私は、エクレルちゃんやマイヨールさんを探す余裕はなくて‐‐‐‐」
「別にそこは怒ってない」
‐‐‐‐問題は、その後だ。
フレアリオンは、ユカリの瞳をじっと見る。
「ユカリ、お前はどうやってスバル・フォーデンだと判断した? 急いで飛んでいただろうから、顔なんて見えなかったはずなのに」
「……? そりゃあ、勿論! スバルくんしか出さない、あの白い光を見て確信したわけですよ!」
ユカリの答えに嘘がないと判断したフレアリオンは、そこで疑問符を浮かべる。
「あの白い光は、我々とスバル・フォーデンが合体する時の証、だろう。
一度、リチャード・ラフバラーに確認した時がある。あれは龍である我々と、ハーフドラゴンのスバル・フォーデンとの間に起きる、エネルギー量の放出によって起きる現象だと」
そこで、フレアリオンは1つ、問題を提起する。
「光はユカリが近くに居る時ではないときに発せられている。その光を追って、スバル・フォーデンを見つけたわけなのだからな。
‐‐‐‐それじゃあ、ユカリと合体する前、スバル・フォーデンは"誰と"合体する予定だった?」
☆
無人島で気軽に力を抜いて、英気を養っているスバル。
今、彼は砂浜で無防備に横になっていた。
あまりに無防備で、シグマズルカとの激闘が未だに引きずっているのか、それともエクレルに3時間近くぶっ通しで遊びに連れまわされたせいなのか、スバルはぐったりと砂浜で横になっていた。
一緒に連れてきたマイヨールは、エクレルと一緒に浜辺でけん玉をしていた。
わざわざ無人島まで来てするような事であるかは別として、エクレルも、そしてマイヨールも楽しそうな様子である。
スバルはそれだけ確認すると、静かに目を閉じる。
眠りにつく中、スバルの身体は自然と、疲れを取るために、無駄な音を聞いて飛び起きないように、聞こえすぎる龍の耳を閉じる。
そして、静かに眠り始めた。
だからだろうか、スバルの身体から聞こえてくる、その音に気付いた者は誰もいなかった。
【Princess! A Heart Wants To Freeze……】
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