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Secret Ingredient of Chicken Soup -マイヨールの秘密-(前編)
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世界が揺れ、大きく傾きつつ、振れ動く。
脳が……震えるぅぅ……!
と、謎の大司教さんの意識が入ってしまったが、僕はようやく意識をしっかりと取り戻していた。
「大丈夫ですか、スバルくん?」
僕が意識を取り戻すと、マイヨールが意識を取り戻した僕の顔を覗き込んでいた。
どうやら、ここにいるのは僕と彼女の2人だけ、のようだ。
「……どこだろう、ここ?」
「実は私も、それが知りたいところですね」
座り込んだままの状態で上半身だけ起こして辺りを見渡すも、視界に映るのは、セピア色の、どこかの街並みだけ。
ビルや道路、車や人など、そこそこ大きい街のようなのだが、全てがセピア色に染められている、セピア写真のような世界。
ユカリやエクレルの姿、それにシグマズルカの姿も、何一つ見つからない。
「目が変になったかと思ったら、マイヨールさんや僕の手なんかは普通に見えるし」
「えぇ、それが逆に不気味ですね」
最初は、急に場所が変わったせいで、僕達の視界が変になったかと思ったのに、自分達のは普通なので、どうやら違うみたいである。
「確か……マイヨールの姿を見つけた時に、シグマズルカの手に胸を貫かれて。
‐‐‐‐! そうだ、胸を貫かれてたんだっ!」
ようやく、状況を思い出してきた。
そう、確かシグマズルカをエクレールの融合によって撃破し、こちらに近寄ってくるユカリとマイヨールの2人を待っていた。
そんな中、僕の胸を、死んだはずのシグマズルカが貫いた。
気が付いたら、マイヨールと共に、ここに居た。
「ちなみにですけど、傷はおろか、服ですら綻びは見当たりませんでしたよ」
「‐‐‐‐!!」
マイヨールの言葉に、僕はしりもちをついたまま、ゆっくりと後ずさりして距離を取る。
服が傷ついていないのは分かるが、傷があるかどうかは一旦服をめくらなければ分からないはずだ。
そして、どこまで見られたかと言うのは、男子中学生にとっては、結構大きく、重要なことで。
「なに、生娘みたいに恥ずかしがってるんですか? 戦っているというのに。
大丈夫、寝てる時間が長かったので他の部分も隈なく、調べましたが、流石はドラゴンの血ですね。傷は一切ありませんでしたよ」
「隈なく?!」
隈なくって事はあれか? 男にとって大事な、生んだ覚えのない息子の存在も確認済みって事か?
人が寝ている時に? ただの協力関係で、会ったのは片手で数えるほどないのに?
「(これが、チキンスープの恐ろしさ……!)」
「なんでしょう、今、すっごく馬鹿にしませんでした?」
勘が鋭いマイヨールに対して、否定しつつ、とりあえずこの世界がなんなのかを探ろうと、立とうとして‐‐‐‐
風に吹かれて、1枚の新聞が目に留まる。
その新聞の一番最初、発行日が書かれている欄を見て、マイヨールが目をギョッと大きく見開く。
「この日付は、今から20年以上前の日付」
「えっと、たまたま20年以上前の新聞が飛んできた、とか?」
「探るしか……ありませんね」
僕とマイヨールは、起きて欲しくないと祈りつつ、歩いて、ここがどういう世界なのかを探る。
しかし、結局、分かったのはたった1つ。
ここは、20年以上前のレイク・ラックタウン‐‐‐‐つまりは、過去の世界ってことだ。
☆
他にも、色々と調べはしてみた。
けれどもこれが20年以上前の世界であり、ここに連れてきたであろうシグマズルカの姿は、どこにもないって事だけだ。
まず、僕の力について。
僕の龍としての力は、何故か一切使えなかった。
マイヨール曰く、僕の腹を貫いていた時に、リュウシント作成の音声が鳴り響いており、その音声の最初が‐‐‐‐
「"スバル・フォーデン"だった、と」
「はい、今までは"光"や"火"だったところだという情報もいただいておりますので、恐らくはその龍が何龍なのかという部分でしょうが、あの最後の時、シグマズルカが作ったのは‐‐‐‐スバル・フォーデンの力の龍、と言う事なのでしょう」
「僕の龍としての力で、生み出されたリュウシントの力……」
そのリュウシントの力で、この20年以上前のレイク・ラックタウンに飛ばされたんだろうし、そのリュウシントが僕の力を持っているから、僕も力が使えなくなっていた。
最も、マイヨールの光のヨーヨーは無事だし、敵も居ないし、大丈夫なんだけれども。
そして、次の問題は、マイヨールがえらく、動揺している事。
例えば、マイヨールがいつも連絡を取っている手段で、組織に連絡を出来ていないところ。
電話番号や秘密のメッセージなど、マイヨールが覚えている手段が、機能していないみたい。
「(まぁ、電話線、抜いてあるのを弄ってるし、繋がってる感じはないけど)」
それくらい、マイヨールは動揺していた。
僕に指摘されて、慌てて、取り繕ったのがバレバレなくらいに。
「くそぅ……連絡は取れましたが、こっちには来れない。リーダー格なら1人で何とかって言われても……」
公園のベンチで頭を抱えている彼女は、どこからどう見ても、不審者極まりない。
隣で僕が「なんでもないですよぉ~」というような、愛想笑いをしていなければ、職質されててもおかしくないでしょう。
「過去から戻るのなんて、私1人でどうすれば‐‐‐‐」
「大丈夫ですか……?」
「‐‐‐‐ここに連れてきたリュウシントを探す? けれども近くに居ないとなると、どこかに隠れたり、最悪元の時代へと逃げてしまったんじゃ‐‐‐‐」
「マイヨール・ロスチャイルドっ!」
ばんっ、と僕は彼女の肩を強めに叩く。
マイヨールの目を覚まさせようとかなり強めにしたのだけれども、彼女はまだ目をパチクリとして、ぼやけたままのようである。
「良いですか? この状況でパニックになったとしても、良い事なんて1つもないんだから!
今はこの状況を正確に把握して、どうにかして元の時代に戻ることを考えましょう」
「……あ、あぁ。そう、ですね」
「しっかりしてくださいよ。リーダー、なんでしょ?」
マイヨールは以前、自分は悪党退治組織のチーム、その1つを率いるリーダーであると話していた。
さっきの電話でも、そういうような内容が聞こえてきたし。
そんなリーダーだとしたら、あまりにも慌て過ぎじゃないのか?
「(こんなリーダーだったら、付いていくのが心配過ぎるだろう。これで、本当に大丈夫なのか?)」
少なくとも自分だったら、心配で仕方がない。
なにせ今の自分は、龍としての力を失った無力な子供である。
いつ、敵に襲われるかもと考えると、不安で、不安で。
僕達の中で戦えるのは恐らく、光のヨーヨーの力を失っていないマイヨールだけなのだから。
「‐‐‐‐安心してください、もう、大丈夫です」
明らかに無理してるのが分かるという様子で、マイヨールは声を震わせながらそう答える。
完全に動揺しているのが丸わかりで、なにがそんなに不安なのかが、分からないくらいである。
しかし、彼女本人は気付かれないと思っているのか、そのまま策を提案する。
「この状況は、セピア写真のような世界は、確かに異常です。
そして抜け出すためには、ここに連れてきたリュウシントを探しましょう」
「確かにそれは重要ですけれども、いったい、どうやって探すんですか?」
僕の力を使って生み出したリュウシントがカギなのは、僕自身も分かっている。
問題はそのリュウシントの姿がなく、かつどうやって探せば良いかも分からない、と言う事である。
そんな中、マイヨールが出した案はと言うと‐‐‐‐
「とりあえず、付いてきてください。歩きましょう」
----なんともまぁ、付いていくのが不安になるような言い方と内容であった。
☆
そのまま、僕達はセピア色の懐かしき世界を歩いていく。
人々に話しかけようとしても、話を聞かれる以前に、顔がない。
話を聞こうとしても、顔がない彼らの話は手掛かりにならず、僕達は次にどうすれば良いか、困っていた。
「手がかりが、本当にまるでありませんね……」
目的地も、出来る事も設定しきれていないゲームなんて、つまらないだけだろう。
今、僕達が居る世界は、そういう世界である。
「本当に戻れるんでしょうか、これは……」
戻れる気配が一切ないから、不安で、不安で、仕方がないんだけれども。
僕の前を歩いているマイヨールさんは、ただ前を向いて歩いている上で、どこに行くのかさっぱりなんだけれども……。
と、困りつつ歩いていると、目の前で大きな爆発が起きる。
土煙が空高くへと舞い上がり、そして吹き荒れた土煙が闇の球に呑まれて消滅する。
そして今度はその闇の塊が、地面から飛んできた土煙によって撃ち落とされていた。
このセピア色世界の中で、初めて見る土煙の土、そして闇の黒さという、別の色が初めて見えた。
そしてその爆発を見て、初めてマイヨールがキラキラとした顔を向けていた。
「‐‐‐‐見えましたっ! 行きますよ、スバルくん!」
「あれかっ!」
ヨーヨーではなく、自分の靴に光を纏わせて、さっさと向かって行く。
この世界の中で、確かに色が違うのは気になるところではあるので、マイヨールの行動は正しいし……正しいのだけれども、
「(なんか、あの爆発を見て、どことなく嬉しそうな瞳をしてたような……)」
もしかして何気なく歩いていて、異変がある所を探そうとしていた、だなんていう行き当たりばったりな作戦を取っていた訳じゃないよね?
気になる所は他にも多々あるが、僕もマイヨールを追って、爆発があった場所へと向かって走る。
爆発地でマイヨールと共に、僕が見たのは、争っている2人の女性の姿である。
1人は、黄金で描かれた大蛇が施された黒い服を着た、剣士。
両手に闇の刃の剣を持っており、頭にはうねうねと蛇があちこちに闇の球を放ち、周囲の地面を消滅させていた。
「あぁ、もうっ! 流石の私も、ここまで手こずるとは思ってませんでしたよ!
このドラバニア・ファミリーの幹部クラスの、【抜刀龍マフデルタ】に匹敵するとは、流石ですねっ!」
銃なんかではなく剣を持っているけれども、彼女は確かに、"マフデルタ"と、あのリュウシントを生み出してくる彼女の名前を名乗っていた。
そして、もう1人は、全身赤の印象を受けるドレスを着た、お姫様。
赤色の髪を頭上に盛ったように結い上げるお花盛り、頭部には金色のティアラ。
情熱的な赤いドレスを、膝の上あたりまでで斬り揃えられており、細い腕も良く見えるように袖から後がばっさりと取り払われている。簡単に言えば、腕や足を見せる、かなり男らしいデザイン。
狐のような糸目の姫様がニコリと笑っており、お姫様の周囲の地面が、糸もないのに浮かんでいる。
「褒められるのは、嬉しい限りだったり。何故なら、褒められると言う事は肯定であり、賞賛であり、そして感嘆なのですから。
ですけれども、そろそろ、あなたとの縁も切って、滅ぼして、そしておさらばしたいですね。マフデルタ」
お姫様はビックフットのような地龍の大足で、堂々と立っていた。
そして、天高らかに、マフデルタと名乗る剣士を見ながら、こう名乗りを上げる。
「‐‐‐‐あなたの剣は、この私が止めて見せましょう。
マヌスの地球防衛隊の隊長である、地龍の【マグノリア】が!」
姫様な龍が名乗った名前は、僕の母親の龍の名前だった。
脳が……震えるぅぅ……!
と、謎の大司教さんの意識が入ってしまったが、僕はようやく意識をしっかりと取り戻していた。
「大丈夫ですか、スバルくん?」
僕が意識を取り戻すと、マイヨールが意識を取り戻した僕の顔を覗き込んでいた。
どうやら、ここにいるのは僕と彼女の2人だけ、のようだ。
「……どこだろう、ここ?」
「実は私も、それが知りたいところですね」
座り込んだままの状態で上半身だけ起こして辺りを見渡すも、視界に映るのは、セピア色の、どこかの街並みだけ。
ビルや道路、車や人など、そこそこ大きい街のようなのだが、全てがセピア色に染められている、セピア写真のような世界。
ユカリやエクレルの姿、それにシグマズルカの姿も、何一つ見つからない。
「目が変になったかと思ったら、マイヨールさんや僕の手なんかは普通に見えるし」
「えぇ、それが逆に不気味ですね」
最初は、急に場所が変わったせいで、僕達の視界が変になったかと思ったのに、自分達のは普通なので、どうやら違うみたいである。
「確か……マイヨールの姿を見つけた時に、シグマズルカの手に胸を貫かれて。
‐‐‐‐! そうだ、胸を貫かれてたんだっ!」
ようやく、状況を思い出してきた。
そう、確かシグマズルカをエクレールの融合によって撃破し、こちらに近寄ってくるユカリとマイヨールの2人を待っていた。
そんな中、僕の胸を、死んだはずのシグマズルカが貫いた。
気が付いたら、マイヨールと共に、ここに居た。
「ちなみにですけど、傷はおろか、服ですら綻びは見当たりませんでしたよ」
「‐‐‐‐!!」
マイヨールの言葉に、僕はしりもちをついたまま、ゆっくりと後ずさりして距離を取る。
服が傷ついていないのは分かるが、傷があるかどうかは一旦服をめくらなければ分からないはずだ。
そして、どこまで見られたかと言うのは、男子中学生にとっては、結構大きく、重要なことで。
「なに、生娘みたいに恥ずかしがってるんですか? 戦っているというのに。
大丈夫、寝てる時間が長かったので他の部分も隈なく、調べましたが、流石はドラゴンの血ですね。傷は一切ありませんでしたよ」
「隈なく?!」
隈なくって事はあれか? 男にとって大事な、生んだ覚えのない息子の存在も確認済みって事か?
人が寝ている時に? ただの協力関係で、会ったのは片手で数えるほどないのに?
「(これが、チキンスープの恐ろしさ……!)」
「なんでしょう、今、すっごく馬鹿にしませんでした?」
勘が鋭いマイヨールに対して、否定しつつ、とりあえずこの世界がなんなのかを探ろうと、立とうとして‐‐‐‐
風に吹かれて、1枚の新聞が目に留まる。
その新聞の一番最初、発行日が書かれている欄を見て、マイヨールが目をギョッと大きく見開く。
「この日付は、今から20年以上前の日付」
「えっと、たまたま20年以上前の新聞が飛んできた、とか?」
「探るしか……ありませんね」
僕とマイヨールは、起きて欲しくないと祈りつつ、歩いて、ここがどういう世界なのかを探る。
しかし、結局、分かったのはたった1つ。
ここは、20年以上前のレイク・ラックタウン‐‐‐‐つまりは、過去の世界ってことだ。
☆
他にも、色々と調べはしてみた。
けれどもこれが20年以上前の世界であり、ここに連れてきたであろうシグマズルカの姿は、どこにもないって事だけだ。
まず、僕の力について。
僕の龍としての力は、何故か一切使えなかった。
マイヨール曰く、僕の腹を貫いていた時に、リュウシント作成の音声が鳴り響いており、その音声の最初が‐‐‐‐
「"スバル・フォーデン"だった、と」
「はい、今までは"光"や"火"だったところだという情報もいただいておりますので、恐らくはその龍が何龍なのかという部分でしょうが、あの最後の時、シグマズルカが作ったのは‐‐‐‐スバル・フォーデンの力の龍、と言う事なのでしょう」
「僕の龍としての力で、生み出されたリュウシントの力……」
そのリュウシントの力で、この20年以上前のレイク・ラックタウンに飛ばされたんだろうし、そのリュウシントが僕の力を持っているから、僕も力が使えなくなっていた。
最も、マイヨールの光のヨーヨーは無事だし、敵も居ないし、大丈夫なんだけれども。
そして、次の問題は、マイヨールがえらく、動揺している事。
例えば、マイヨールがいつも連絡を取っている手段で、組織に連絡を出来ていないところ。
電話番号や秘密のメッセージなど、マイヨールが覚えている手段が、機能していないみたい。
「(まぁ、電話線、抜いてあるのを弄ってるし、繋がってる感じはないけど)」
それくらい、マイヨールは動揺していた。
僕に指摘されて、慌てて、取り繕ったのがバレバレなくらいに。
「くそぅ……連絡は取れましたが、こっちには来れない。リーダー格なら1人で何とかって言われても……」
公園のベンチで頭を抱えている彼女は、どこからどう見ても、不審者極まりない。
隣で僕が「なんでもないですよぉ~」というような、愛想笑いをしていなければ、職質されててもおかしくないでしょう。
「過去から戻るのなんて、私1人でどうすれば‐‐‐‐」
「大丈夫ですか……?」
「‐‐‐‐ここに連れてきたリュウシントを探す? けれども近くに居ないとなると、どこかに隠れたり、最悪元の時代へと逃げてしまったんじゃ‐‐‐‐」
「マイヨール・ロスチャイルドっ!」
ばんっ、と僕は彼女の肩を強めに叩く。
マイヨールの目を覚まさせようとかなり強めにしたのだけれども、彼女はまだ目をパチクリとして、ぼやけたままのようである。
「良いですか? この状況でパニックになったとしても、良い事なんて1つもないんだから!
今はこの状況を正確に把握して、どうにかして元の時代に戻ることを考えましょう」
「……あ、あぁ。そう、ですね」
「しっかりしてくださいよ。リーダー、なんでしょ?」
マイヨールは以前、自分は悪党退治組織のチーム、その1つを率いるリーダーであると話していた。
さっきの電話でも、そういうような内容が聞こえてきたし。
そんなリーダーだとしたら、あまりにも慌て過ぎじゃないのか?
「(こんなリーダーだったら、付いていくのが心配過ぎるだろう。これで、本当に大丈夫なのか?)」
少なくとも自分だったら、心配で仕方がない。
なにせ今の自分は、龍としての力を失った無力な子供である。
いつ、敵に襲われるかもと考えると、不安で、不安で。
僕達の中で戦えるのは恐らく、光のヨーヨーの力を失っていないマイヨールだけなのだから。
「‐‐‐‐安心してください、もう、大丈夫です」
明らかに無理してるのが分かるという様子で、マイヨールは声を震わせながらそう答える。
完全に動揺しているのが丸わかりで、なにがそんなに不安なのかが、分からないくらいである。
しかし、彼女本人は気付かれないと思っているのか、そのまま策を提案する。
「この状況は、セピア写真のような世界は、確かに異常です。
そして抜け出すためには、ここに連れてきたリュウシントを探しましょう」
「確かにそれは重要ですけれども、いったい、どうやって探すんですか?」
僕の力を使って生み出したリュウシントがカギなのは、僕自身も分かっている。
問題はそのリュウシントの姿がなく、かつどうやって探せば良いかも分からない、と言う事である。
そんな中、マイヨールが出した案はと言うと‐‐‐‐
「とりあえず、付いてきてください。歩きましょう」
----なんともまぁ、付いていくのが不安になるような言い方と内容であった。
☆
そのまま、僕達はセピア色の懐かしき世界を歩いていく。
人々に話しかけようとしても、話を聞かれる以前に、顔がない。
話を聞こうとしても、顔がない彼らの話は手掛かりにならず、僕達は次にどうすれば良いか、困っていた。
「手がかりが、本当にまるでありませんね……」
目的地も、出来る事も設定しきれていないゲームなんて、つまらないだけだろう。
今、僕達が居る世界は、そういう世界である。
「本当に戻れるんでしょうか、これは……」
戻れる気配が一切ないから、不安で、不安で、仕方がないんだけれども。
僕の前を歩いているマイヨールさんは、ただ前を向いて歩いている上で、どこに行くのかさっぱりなんだけれども……。
と、困りつつ歩いていると、目の前で大きな爆発が起きる。
土煙が空高くへと舞い上がり、そして吹き荒れた土煙が闇の球に呑まれて消滅する。
そして今度はその闇の塊が、地面から飛んできた土煙によって撃ち落とされていた。
このセピア色世界の中で、初めて見る土煙の土、そして闇の黒さという、別の色が初めて見えた。
そしてその爆発を見て、初めてマイヨールがキラキラとした顔を向けていた。
「‐‐‐‐見えましたっ! 行きますよ、スバルくん!」
「あれかっ!」
ヨーヨーではなく、自分の靴に光を纏わせて、さっさと向かって行く。
この世界の中で、確かに色が違うのは気になるところではあるので、マイヨールの行動は正しいし……正しいのだけれども、
「(なんか、あの爆発を見て、どことなく嬉しそうな瞳をしてたような……)」
もしかして何気なく歩いていて、異変がある所を探そうとしていた、だなんていう行き当たりばったりな作戦を取っていた訳じゃないよね?
気になる所は他にも多々あるが、僕もマイヨールを追って、爆発があった場所へと向かって走る。
爆発地でマイヨールと共に、僕が見たのは、争っている2人の女性の姿である。
1人は、黄金で描かれた大蛇が施された黒い服を着た、剣士。
両手に闇の刃の剣を持っており、頭にはうねうねと蛇があちこちに闇の球を放ち、周囲の地面を消滅させていた。
「あぁ、もうっ! 流石の私も、ここまで手こずるとは思ってませんでしたよ!
このドラバニア・ファミリーの幹部クラスの、【抜刀龍マフデルタ】に匹敵するとは、流石ですねっ!」
銃なんかではなく剣を持っているけれども、彼女は確かに、"マフデルタ"と、あのリュウシントを生み出してくる彼女の名前を名乗っていた。
そして、もう1人は、全身赤の印象を受けるドレスを着た、お姫様。
赤色の髪を頭上に盛ったように結い上げるお花盛り、頭部には金色のティアラ。
情熱的な赤いドレスを、膝の上あたりまでで斬り揃えられており、細い腕も良く見えるように袖から後がばっさりと取り払われている。簡単に言えば、腕や足を見せる、かなり男らしいデザイン。
狐のような糸目の姫様がニコリと笑っており、お姫様の周囲の地面が、糸もないのに浮かんでいる。
「褒められるのは、嬉しい限りだったり。何故なら、褒められると言う事は肯定であり、賞賛であり、そして感嘆なのですから。
ですけれども、そろそろ、あなたとの縁も切って、滅ぼして、そしておさらばしたいですね。マフデルタ」
お姫様はビックフットのような地龍の大足で、堂々と立っていた。
そして、天高らかに、マフデルタと名乗る剣士を見ながら、こう名乗りを上げる。
「‐‐‐‐あなたの剣は、この私が止めて見せましょう。
マヌスの地球防衛隊の隊長である、地龍の【マグノリア】が!」
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