人間×ドラゴンのハーフの少年、地球侵略ドラゴン達と戦う-ハーフドラゴンのスバルくんっ!-

摂政

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I Can Not Survive If I Do Not Fight -蠱毒より生まれし龍-(2)

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 蠱毒こどくとは、他人を呪い殺す呪法の中でも、多くの人間が知る、いわゆる有名な呪法である。

 1つの瓶の中に、閉ざされた狭い環境の中に、大量の生き物を入れて、互いに互いを殺し合わせる。
 殺された憎しみは殺した相手へと移り、その憎しみは小さな瓶の中で、徐々に数を減らしながら、強力な恨みとなって、1匹の生き物に集約される。
 最後の1匹、戦って生き残った生き物には、瓶の中で殺された大量の生き物の恨みや怒り、憎しみなどが溜まっている。
 その、恨みの化身となった最後の1匹を用いて、対象の人物を呪い殺すという、そういう類の術。

 最近だと、素質のある者達を集め、殺し合わせて、最後に残った者を基に最強の戦士を造る‐‐‐‐なんていう、非効率的すぎるモノもあるようですが、マフデルタはそれに目をつけた。

 主役龍シグマズルカは星龍の卵に、ジグソーパズルを合体して生まれたリュウシント。
 生まれた当初は、非常に弱かった。恐らくは、最弱のリュウシントと名乗っても、間違いではない。
 なにせ、リュウシントは1つのモノに1つの龍の卵の力を注いで作られるのだが、シグマズルカの場合はジグソーパズルの欠片1つ1つに、星龍としての力が分散されていたのである。

 1つのモノに対して、1つの龍の卵の力が注ぎ込まれた、1体のリュウシント。
 対するは100個以上に分かれるモノに対して、1つの龍の卵の力が、均等に注ぎ込まれたうちの、1体のリュウシント。
 どちらが弱いかは、明確的だろう。
 

 そして誕生した数百のシグマズルカは、母の愛を得るべく、戦った。

 "I can not survive if I do not fight"‐‐‐‐戦わなければ生き残れない。
 そういう事を生まれながらに、本能に刻み込まれて、最後の1人になるために。

 勿論、下等な生き物と同じように無策で戦うのではなく、互いに強くなって、その結果、相手の力を認める形で、力と龍の部分を渡す。
 それが偉大なる創造主たるマフデルタという母に対する、礼儀と信じて。

 恐らく、そう言った戦い方をしていれば、マフデルタの当初の予定通りにクリスマス頃に、ようやく最後の1人となったはずだ。
 皆の想いを託された、皆が持っていた龍の部分の全てを受け継いだ、最強のリュウシントが生まれる、"はずだった"。

 ‐‐‐‐だがそこに、あの災厄が現れた。
 災厄の名前は、オキクロンと名乗った。

 マフデルタよりも階級が上のアイツは、シグマズルカ達の、互いに認め合って想いを託すというやり方、思想を非効率だと、嘲笑う。
 そして、無理やり、この街の異能力者共と戦わせるように指示した。
 抵抗する者も居たが、そいつらが無意味に、オキクロンに殺されたため、シグマズルカ達は従うしかなかった。
 "I can not survive if I do not fight"‐‐‐‐戦わなければ、生き残れない。しかしそもそも、戦いにすらならないのならば、生き残るためには、従うしかなかった。

 望まぬ戦いで、誇りもない争いで、兄弟姉妹が減っていく。
 その恨みや憎しみが、後悔の感情となって、生き残った者達に流れ込む。

 そうして最後の1人となったシグマズルカは、本来得るはずだった龍の身体がなかった。
 両方の手を覆う程度の、龍の部分しか、継承されなかったのである。

 シグマズルカの身体に残ったのは、ただただ多くの仲間達が感じた、誇りを汚された恨みのみだった。



「本来、私は《牛鬼》と呼ばれる、最強の鬼の妖怪を思わせる、てきのリュウシントとして生まれるはずだったっ!
 だが、私には、もう恨みしかない。妬みしかない。マフデルタ様に見せられる顔もなく、ただこの地球を手に入れる事しかない!
 ‐‐‐‐‐私には、もうそれしかないんですよっ!」

 赤い涙を流しながら、シグマズルカは僕に恨みを吐き出していた。
 そんな中、シグマズルカのそばで、エクレルがさらに苦しみだす。

「お前の恨みは理解した……けれども、それとエクレルが苦しんでいるのはどういうことだ!」

 僕が大きな声で言うと、シグマズルカも大きな声で「恨みとなったからだ!」と答える。

「本来、シグマズルカという互いの誇りと決意を持った末に生まれるリュウシントは、相手の強さをねじ伏せる、最強のリュウシントとなるはずだった。
 ----けれども、恨みや妬みで生まれしシグマズルカとなったリュウシントは、他者を妬むしかない」

 「彼女にもそう」と、自分の足元で倒れているエクレルを見ていた。

「私は、彼女を同じ龍として、ただただ自分よりも龍としての身体パーツが揃っていて、妬ましいと思っている。
 ‐‐‐‐だから私は、その恨みを相手に伝える」
「伝える……?」

 「そう、伝えるんですよ」と、シグマズルカは伝える。

「私は、母と同じく、卵を用いてリュウシントを用いるだけの力がある。
 けれども、作る際に私の恨みや妬み、嫉みが入り込む。卵の破片に、消されずに残る。
 ‐‐‐‐生み出されたリュウシントは、マフデルタ母さんと同じようにリュウシントとしての幸福じんかくが与えられ、その幸せを許せない私の恨みが、彼女の幸福を奪ってしまう」

 シグマズルカは小難しく語るが、僕には彼女の言いたいことが分かった。

「‐‐‐‐お前の恨みは、リュウシントの心へ侵食して、破壊する。成り代わる。
 お前が作ったリュウシントは、お前の精神に成り代わる……と言う事か?」

 その言葉がシグマズルカに肯定されると共に、エクレルが光り輝き、そして‐‐‐‐エクレルを基に、新たなリュウシントが生まれた。



【Light! Political fixer】

 光が収まり、ゆっくりとエクレル‐‐‐‐だったモノは、立ち上がる。
 姿形はエクレルそのものではあったのだが、目元以外は紙の屏風に包まれている。そしてその屏風には、強そうな虎の絵が何匹も描かれていた。

「うぅ……マグ様の忠実なるしもべ、【屏風龍ラグリマ】の完成で……って?!」

 ラグリマと名乗った、エクレルから生まれたリュウシントに対して、僕は一撃必殺の覚悟と共に重力の渦、重力弾を放つ。

 時間をかけるのは悪手である、何故ならば時間をかけすぎるとシグマズルカの精神に侵略されてしまうからである。
 精神に侵食されるまでに、ラグリマを倒してエクレル助け出さなければ、このまま成り代わられてしまう。その前に倒すという使命感の元、僕は重力による重力弾を放つ。

「(圧縮した重力によって、当てたモノを重力でへし曲げる重力弾! マフデルタの消滅弾から得た弾で、これで一撃でっ!)」

 そういう想いと共に、僕は一撃必殺の重力弾を放った。
 今こそ、エクレルを助けようという気持ちと共に。

「ひぃっ! たっ、おたすけをぉ! マズ様ぁ!」

 ラグリマは避けようともせずに、その場でびくっと怯えながら、目を背ける。
 そんな彼女を"守ろう"と、屏風の中から虎が現れ、鋭い爪を用いて彼女を守った。

「がぉぉぉぉ!」

 虎は描かれていただけの存在とは思えないほど、存分に存在感を持った大声をあげ、ラグリマを守ろうと虎は傍に控えている。

ざんねんだったね、スバル」

 僕の攻撃が防がれたことを言いつつ、シグマズルカは手に龍の鱗を纏わせながら、僕の懐に潜り込んでくる。
 即座に地面を操作して距離を取るも、目測を誤って、僕の腹に彼女の手がねじ込まれる。

「ぐっ……!」
「ラグリマはエクレルのついでに、私の精神の母体とするだけのリュウシントで、かなり戦闘には不向きな性格ではあるが、その分、彼女の弱さは、虎の野蛮さがカバーしてくれる」

 「やれ」と短く命令すると、屏風に描かれている数多くの虎達が屏風から抜け出て、僕へと襲い掛かる。

 岩の球を用いて虎に当てると、虎は一瞬怯んだかと思うと、そのまま爆散して、血ではなく墨が地面へと落ちてくる。

「虎達、ラグリマを守ってくれ。私はちょくせつ、こいつを倒す」

 ごきごきと音が聞こえそうなくらい、拳から音を鳴らしてウォーミングアップをしつつ、シグマズルカは僕と対峙する。
 一方で、僕もまた、ラグリマではなく、根本の本体であろうシグマズルカに狙いを定める。

「あぅぅぅ……」

 緊迫した空気の中、ラグリマの目から涙が落ちる。

 僕とシグマズルカは、共に飛び出した。



 先に行動に移したのは、シグマズルカである。
 彼女は龍の鱗を纏った左手を拳にすると、その拳は僕の方向に向かって飛んでくる。簡単に言えば、ロケットパンチである。

 僕はそれに対して、そのまま防ぐこともなく、ただただ向かって走る。

 当然ながら、拳は僕の腹にそのまま当たり、胃の中のモノが逆流するんじゃないかって言うくらいの吐き気を催すも、すぐさまガシッと僕は手で掴んで地面へと叩きつける。
 叩きつけ、気合を入れて、そのまま左手に重力を纏わせる。

「いっけぇ!」

 そのまま回避しようとするシグマズルカに向かって殴りかかる。回避しようとするシグマズルカは、拳の重力に吸い寄せられて拳へと辺り、そのまま振りかぶりきったところで重力を反転させて、シグマズルカの身体を吹っ飛ばす。

 そのまま僕は、エクレルを乗っ取って生まれたラグリマに向かって、同じように殴り掛かる。

「ひぃっ! マグ様に殴られたのに、なんで無事なのこの人っ! 気持ちが悪いっ!」

 ひどい事を言う、殴られていたくない人間なんてそうそう居ないだろう。
 少なくとも僕は違っていて、痛かったがそれよりも前進することを選び取って、我慢しただけである。

 怯えながら酷いことを言うラグリマは、うずくまって抗う意思は全くないが、それを守る虎達は不甲斐ない主を守るべく、10数匹の墨の虎達が向かってくる。
 吸い寄せようと拳の重力を強めるが、虎達は重力の影響をまったく受けずに、別々の方向からこちらに向かってくる。

 これでは1発は無理と諦めた僕は、そのまま地面を操作して距離を取る。距離を取る中、シグマズルカは手を合体させつつ、星を降らせて攻撃してくるが、蛇行して悟らせないように対処しながら、僕とシグマズルカはまたしても、距離を取った。

「あぁ……これはしっしちゃいますね、やっぱり。半分とは言え、龍の成分としてはあなたの方が遥かに上なので」
「そりゃあ、どうも」

 なにも無策に突っ込んだという訳はなく、龍の回復能力に賭けただけである。
 ダメージ覚悟で突っ込めば攻撃を受けようが前に進めるし、その上で龍の回復能力ならば問題ないと放置しただけである。

 前の自分だったならば、攻撃に突っ込んでいくだなんてことは、思いもしなかったのだが、やはりフレアリオンの特訓が、きちんとした形で僕の経験になっているのである。

「‐‐‐‐しかし、こく一刻いっこくと状況はこちらに好転していますよ。なにせ、こちらは時間さえあれば、それで作戦は成功しますので」
「そっ、そうですよ! マグ様の計略は、成功しちゃうんですから!」

 良く分かっていない様子で言っているラグリマ、そして"その時"を待っているであろうシグマズルカ。
 時間をかければかけるほど、シグマズルカというリュウシントがどんどんと増えていく。しかもあのラグリマは、エクレルである。

「(フレアリオンさん、ユカリ、それにエクレル……全員に言われてるんだ。
 "母親のように、仲間を助けられる者になれ"って)」

 彼女達にして見れば、息子という忘れ形見である僕に母の影を見ているのかもしれない。
 けれども、母親との記憶がない僕にとっては、そうなりたいと思った。

「(母との絆が、血筋だけってのも、なんとも味気ないし)」

 だから僕は、エクレルを助けたいと思った。
 例え、倒すことしか出来ないとしたって、龍は全部、卵に戻るのだ。
 精神が乗っ取られるよりかは、卵に戻してあげた方が良いと、僕は考えていた。

「‐‐‐‐ラグリマ、光で攻撃しつつこう退たいしましょうか」

 左手をくっつけ直したシグマズルカは、そのままその手をゆっくり、地面に下ろす。
 地面に当たるかと思いきや、その手はまるで水の中に入るかのように、抵抗なく入っていく。

 シグマズルカが地面に入れると共に、僕が立っている地面が大きく振動し、同時にドロドロと溶け動くマグマまで噴き出した。
 地面を這うように、マグマは自転車くらいの速度で進みながら、2人を巻き込まないように不自然な避け方のまま、こちらに向かってくる。そう、僕にだ。
 

「(くっ! こちらで制御できないっ!)」

 一方で、僕も地面を操って、マグマをぶつけようとする。
 目には目を、歯には歯を、マグマにはマグマ、だ。

 しかしながら地面を動かそうとするも、さっきまで動かしやすかった地面はうんともすんとも言わなくなり、ただただシグマズルカの命令通り、こちらへとマグマと言う手段で襲い掛かってくる。
 さらに言うと、重力まで使えない。地球と言う地面に繋がることで重力と言う、強力な力を使えていたのだが、それまでも使えなくなっている。

 まず間違いなく、相手の能力だろう。どういう能力なのかは分からないが。

 地面操作も、重力操作も使えず、相手は星とマグマ、さらには地面まで用いて、僕と言う半分龍人間ハーフドラゴンを倒すために、迫ってくる。

「(だが、手段はまだある)」

 僕はすーっと、息を大きく吐いて、そのままマグマに向かって走る。

「血迷ったか!」
「うぅ……ハーフドラゴン、意味が分かりませんよぉ」

 マグマの方へ走っていく僕を見て、2人がバカにした口調で問いかける。
 流石の龍の回復力だとは言っても、高温のマグマに人間が敵うはずがない。

 その2人の予想通り、僕はマグマの中に、飲み込まれた。
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