人間×ドラゴンのハーフの少年、地球侵略ドラゴン達と戦う-ハーフドラゴンのスバルくんっ!-

摂政

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Fever! Fever! Fever!ー今宵は踊らナイト!ー(前編)

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 その声明が世界中に流れたのは、7月の17日……日本では、本格的な夏が始まろうかと言う頃の出来事であった。

 突如として、地球上のすべてのテレビが占拠ハイジャックされた。
 映し出されたのは、右半分の顔に骨の仮面をつけた少女の姿であった。

 ニュースを見ていた人も、ドラマを見ていた人も、お笑い番組を見ていた人だって、アニメを見ていた人だって、なんならテレビを見ていなかった人だって、突如として映し出された映像、それに映る少女を見ていた。
 画面を変えようとしても、テレビを消そうとしても、どうやってもこの画像になってしまうため、仕方なく全員、そのテレビに映る少女を見ていた。

 画面に映し出されている少女は首からさげているメダルを、じっと見ていた。
 龍が模様として描かれている金色のメダルを、うっとりと見ていた彼女だが、「シグマ様、シグマ様! もう映ってますよ!」と画面の向こうから声をかけられて、ようやく撮影中だという事に気付いたようである。
 カメラ越しに動揺するような顔を一瞬見せた仮面少女は、ごほんっと、咳き込んでいた。

「……皆様、初めまして。私のまえは主役龍シグマズルカ。このような見た目ではございまするが、ドラゴンでございます。
 この度、シグマズルカは地球にお住いの皆々様に、宣戦せんせん布告ふこくをさせていただきます。まずは、こちらをご覧ください」

 ぷっつん、と映像が切り替わり、映し出されたのは‐‐‐‐崩壊した都市の姿であった。

 地面は大きく割れ、ビルは傾き、地中からマグマが噴き出す。
 大陸の一部は浮き、可視化された電脳の光はこの空間の中で唯一、高度な文明を感じられた。

「‐‐‐‐ご覧になりましたか?」

 崩落都市の様子がまだ視聴者の瞳に残る中、再び現れたシグマズルカはそう問うた。

「我々はナイトレス・ハーバーシティをせんりょう、させていただきました。
 ‐‐‐‐我々はこの地球のありとあらゆる場所を、ドラゴンの名において支配しはいに置くことを宣言します。各国を預かる首領には、我々の想いを書き記した手紙を渡しております。
 つまりは、この星の支配者を、人間からドラゴンへと変える」

 その言葉に、何人かはこう思ったかもしれない。
 ‐‐‐‐これから、自分達はあんな惨状を引き起こしたドラゴンの、奴隷になるのだと。

 しかし、シグマズルカの答えは違っていた。

「安心してください、あなた方を我々の奴隷にするつもりはありません。
 むしろ人間の皆様と我々は相いれる事はないでしょうし、私はこの後、あなた方をぜつめつさせようと思っております」

 その言葉と共に、カメラがクルッと回転すると、椅子に座った人達の姿。
 地球規模で有名になっている、著名人ばかりであり、数日前より行方が分からなくなっている方達ばかりだ。

 シグマズルカはそのうちの1人、サングラスをつけた芸能人の顔を掴む。アイアンクローで。
 なにか小さく言葉を発したかと思いきや、芸能人の顔は小さくつぶれて縮んでいき、そして顔の代わりに血だけとなったまま、ゆっくりと倒れる。

 そんじゃそこらでは見られないような、規制されてもおかしくない代物に、一部の人間は震えが止まらなかった。

 ‐‐‐‐奴隷にするつもりがない、つまりはあの人のように殺される。

「そんな、死しか未来のない皆さんにですが、1つだけ、選択せんたくを差し上げます」

 そう言うと、シグマズルカは1枚の仮面を取り出す。仮面には大きく口を開けた龍の画が描かれており、見るだけ禍々しい画であった。

「これは、我々の仲間であることを証明する、【龍の同志仮面】というモノです。これを各国政府にそれぞれ1万枚のみ、配布させていただいたであります。この仮面を付けると、人としての命を捨て、我々ドラゴンの命に生まれ変わるという‐‐‐‐まぁ、式的しきてきな代物です。
 ‐‐‐‐これを付けている者は、我々の同志として、我々がこの惑星を支配後も、ゆうせんで、優遇させてもらいましょう」

 今からこの惑星を占拠する、それが嘘でないことを映像を持って証明したシグマズルカは今、踏み絵を行っているのだ。
 この仮面をつけ、自分達の仲間になるか否か、という踏み絵である。
 これを付ければ、さっきの人のような事にはならずに済む。けれども彼らの仲間になるのも同意だという。

 1万枚という枚数も、多いか少ないか微妙な数であり、何人かは既に国の中心へと、足を、自転車を、車を、猛スピードで走らせていた。

「さぁ、皆さんも、我々のどうとして、生き残りましょう。
 以上、ドラバニア・ファミリー、シグマズルカがお送りしました」



「‐‐‐‐と、こういう映像が私達の街のテレビ局から流され続けているわけでして」

 夜、突如として家へ押しかけて来たマイヨールは、困惑する僕達に対して、先ほどの映像を見せる。
 それはテレビを付けたら、どの局でも流されている、ドラバニア・ファミリーの声明文である。

「ふむ、マイヨール・ロスチャイルドの住む街……あの街は我々の故郷に良く似ている」
「えぇ、恐らくはあぁいう風に、地形を変えるのが、あのシグマズルカの能力なのでしょうね」

 フレアリオンとユカリの2人は、声明文を放っているシグマズルカ、それに地獄絵図のようなナイトレス・ハーバーシティを見ていた。

「だいじょーぶ、マイヨルちゃん?」
「水でも飲みますか?」
「ありがとうございます、エクレルさんにスバルくん。ですが、水が乾いているわけではありませんので。
 お気遣いは、素直にありがたいですが」

 僕とエクレルは気遣ってペットボトルやタオルを渡すんだけれども、マイヨールは無用とばかりに遠慮してしまう。

「それで、どういう事なのか説明して貰えるんですか?」

 僕の言葉に、「えぇ、良いです」と了承した。
 フレアリオン達も何が起きたのかを聞きたいのか、言葉を待っていた。


「‐‐‐‐数か月ほど前、私達の街に大量のリュウシントが現れました。皮もない骨だけの、そんなに強くないリュウシントです。それが1000体近くも。
 最初はあなた方に相談することも考えましたが、驚くほど弱く、その上、意志もないような者だったため、ゴキブリを駆除するかのような感覚で倒してました」

 マイヨール達からして見れば、ただたくさん居るだけの化け物程度で、常日頃から強力な能力で悪事を行っている悪党ヴィランを倒していた彼女達からしてみれば、そんなに強くない大量の怪物なんて、相手にもならなかったのだろう。

「そして後1体となったところでその1体に卵がぶつかり、このような音楽が聞こえてきたのです」

 と、マイヨールはスマホを操作して、1つの音楽を再生する。

【Star! The Fate That The Important Treasure Is Taken】

 それは前に、マフデルタが出した、リュウシント作成の時の音楽に良く似ていた。

「音声と共に、今まで倒していた敵の姿が変わり、後はあの画面に出た少女の姿に変わり、後は言わずもがな、でして」

 明言するのを避けているようであったが、マイヨールはさっきのテレビの、あの地獄絵図となった街の様子を言いたいのだろう。
 あれがあの仮面少女、シグマズルカの仕業だとすれば……恐るべきことだろう。

「私はチームの皆の助けもあって、なんとかこのレイク・ラックタウンまで逃げてこれたんですが……恐らく、他のメンバーは漏れなく、あの龍少女の手に……」

 若干、涙を目に浮かべて、マイヨールは語っていた。

「マイヨール・チキンスープ・ロスチャイルド……」
「チキンさん……」
「スープちゃん……」

「……バカにしてるんですか、あなた達はぁ?」

 若干、額のあたりにくっきりと血管が浮き上がっており、マイヨールは若干怒っているようである。
 彼女に、トリダシチキンスープは厳禁、であるため。

「……まぁ、今はそういう冗談を言っている場合ではないようだな」

 ごほんっと、フレアリオンはそう言うのだが……全く、冗談に聞こえなかった。

「こちらとしても、防衛の戦力は必要だ。とりあえず、こちらは私1人で……どうにか、なんとかしてみせよう。
 と言う訳で、ユカリ、エクレル、そしてスバル・フォーデン」

 と、フレアリオンは僕達3人にこう命じた。

「‐‐‐‐マイヨール・ロスチャイルドを手伝ってやれ。あの龍シグマズルカは、放っておけんだろう」

「うん、そうだね」
「分かりましたよ……正直、マイヨールは苦手ですが」
「うん! マイヨルちゃんを助けるね!」

 僕達の言葉に、マイヨールは「助かります……」と、頭を下げるのであった。



「どうやら、うまく潜入できたようですね」
「えぇ、どうやらそのようで……もう、二度と入りたくはないですね」

 僕達はマイヨールに連れられて、秘密の抜け穴とやらを通って、ナイトレス・ハーバーシティ潜入した。
 その秘密の抜け穴とやらが今は使われていない下水道を通る事だったため、家事が得意で清潔好きなユカリにはお気に召さなかったみたいである。

「えぇ~、結構、楽しかったのに……」
「エクレル、あなただけだと思うよ。あの秘密の抜け穴を良いと思ってるの」

 エクレルはだいぶ楽しかったみたいだけれども、僕もユカリと同意見で、あんな暗くて、どことなく変な臭いがするような所、もう二度と入りたくない。
 帰る際にはあの旧下水道なんかではなく、普通に入り口から出ていきたいものである。

 とは言え、僕達は無事にナイトレス・ハーバーシティに入ることが出来た。
 テレビで映し出されたのは合成映像ではなかったようで、地面は割れたり、飛んだりしており、ビルは傾き、マグマはそこら中から噴き出している。
 おおよそ、人間が住めるものではないと思うのだが、空に浮かぶ車やら、見たこともない靴を履いて動いている人々、それに彼らに付き従う高性能そうなロボット達、ワープ装置や電脳の掲示板など……。
 ほかにも色々と、SF作品でしか見られないようなモノばかりが僕達の視界に浮かんでいた。

 簡単に言えば、地獄のような場所なのにも関わらず、SF作品の要素が所狭しと組み込まれている。
 そんな、ちぐはぐな場所と言うべきだろうか。

「……あの映像の光景そのものってところね」

 ユカリは奥歯を噛みつぶしたような顔を浮かべつつ、僕達の方を向く。

「この光景に、人達の様子。吐き気がするわね。
 エクレルちゃんに、スバルくん。……あと、ついでにマイヨールさんも、気付いてる?」

 ユカリは試すかのような視線を僕達に向ける。

「……? それって、あの人達の事か?」
「気付かないはずがないでしょう。そもそも、連れてきたのは私ですよ?」

 僕とマイヨールの2人は、ユカリの質問がなにを言おうとしているのかが分かったので、2人とも頷いていた。

「……? なーんか、変な光景だと思うけど……変?」
「エクレル……あなた、本当に言ってるつもり?」

 エクレルは分かっていないようで、ユカリは呆れていた。あんなに分かりやすいのに……。
 とは言え、時間はないようで、マイヨールは「アジトに行きましょう」と言い出す。

「アジトに行きましょう。とりあえず、こういう悪党達が街全体を占拠した場合に用意しているアジトがこの先にありますので。
 そこで、私のように反逆の機会をうかがっている、他のメンバーと合流して、一緒にあの龍を‐‐‐‐」

 と、そう言ってマイヨールが歩き出そうとして、ユカリががしっと、その肩を掴む。


「……待って、あれを見て」

 ユカリが指さす先、そこには多くの人間が集まっており、その中には僕達が倒そうとしている相手‐‐‐‐あの仮面龍のシグマズルカの姿があった。
 どうやら彼女は、まだ僕達に気付いていない様子ではあった。 



 彼女の隣には、あの時の映像で映し出された‐‐‐‐大きく口を開けた龍の画の仮面を付けた、人間でありながら龍に魂を売った奴らの姿があった。
 そして、彼女達の前には、後ろ手に縄で縛られている人達の姿があった。
 他の人達はそんな彼らを囲むかのようにして、次は自分かもしれないと恐れているところを見ると‐‐‐‐単なる野次馬、と言ったところだろうか?

 遠巻きに囲んでいる野次馬の連中の話が耳に入ってくるので整理すると、どうやらあの縛られている人達は、反逆者……シグマズルカに従わなかった人達のようだ。

「あなた方は、本当に鹿で救いがたいですね」

 シグマズルカは自分達の前で、未だに反骨精神をばりばりと尖らせている人達に対して、憐みの視線を向けていた。

「あなた方よりも、今の状況を理解している人達はこうして、めんを付けて分かっているというのに……どうしようもなく、救いがたいですね」

 歯向かうという行為そのものが信じられないという様子で、シグマズルカは言っているが、反逆者の連中は侮辱と受け取ったらしい。

「て、てめぇ! 俺たちの街をこんなにしやがって! 許さねぇ!」
「こんな縄、すぐさま斬って、お前を噛み殺すっ!」
「舐めるのではありません! 私はあなたのように、超能力を身に着けた超能力者です! あなたが逃げないのなら、一思いにっ!」

 縄で縛られながら、逆に縛られたことでさらに反骨精神を剥き出しにする反逆者達。
 彼らは意図して集められたらしく、爪を伸ばしたり、炎の球を生み出したりと、敢えて超能力者を集めているみたいである。

「‐‐‐‐人間ってのは、この私にはやっぱり分かりませんね。力があり、戦うがあるにも関わらず、ただ私に牙を剥くだけ……なんて。本当に、地球の人間共はただただ度し難いですね」
「「「なんだとぉ……!」」」

 そして、シグマズルカは彼らに右手を見せる。彼らの目の前で人の手にしか見えなかったシグマズルカの手は、鱗が生え、だんだんと爬虫類のような、龍のような手に変わっていた。
 龍のような手に変わると、懐から卵を、ふわふわとした霧のようなモノが描かれた龍の卵を手にしていた。

「そんなあなた達には、これで十分でしょう」

 シグマズルカは左手にレコードを手にし、持っていた卵を手で"粉々に壊す"。
 そしてそのまま、粉々になった卵をしっかりと握りしめ、レコードを握りしめた手と、"合体させる"。

【Haze! Fever Night, Fever!】

 そしてレコードが光り輝くと共に、銀色の光がぎんぎらとした光が光線のように伸びていき、


「イェェェェェェェェェ‐‐‐‐‐‐ィ! フィィィィィィィバァァァァァァァ!」

 僕は、踊っていた。
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