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Which One Is The Next? -次は誰を狙う?-
しおりを挟む「ふぅ~、まさかハーフドラゴンの能力が、"他のドラゴンと合体して強力な存在になる"だったとはね。
これはマヌスの連中が、その存在を探そうとする訳だね。実際、強いもの」
偉大なる母であるマフデルタを無事に、ドラバニア・ファミリーのアジトへと救出したオキクロンは、目下の問題、ハーフドラゴンのスバル・フォーデンについて考えていた。
スバル・フォーデン、と言うよりかは、その彼が持つハーフドラゴンの融合能力について、考えていた。
「(マヌスの連中の目的、【自分達と他の生物との共生】って変なお題目だなとは思ってはいたけれども、それがハーフドラゴンを生み出すことだと考えれば説明がつく。
いや、たまたまそうなった、と言う可能性もあるけれども)」
要するに、彼らは"ハーフドラゴン"という強力な存在を手に入れた。その強さが意図的なのか、偶然なのかは分からない。
ドラゴンと他の生物が混ざったから強力な力を得たのか、あるいは人間と混ざったからこそ強力な力を得たのか。
真相を突き止めようにも、今は時間がないし、それに突き止めようにも方法がない。
問題は、合体することで厄介な相手が、さらに厄介となってしまっている事。
一体でも強力なドラゴン、それが合体することでさらに強力となっている。正直、逃げるだけで精いっぱいだったと言うべきだろう。
今回はフレアリオンと合体していたが、恐らくは他のドラゴンも合体できて、それも普通に強力な力を持っていると思われる。
「これは我の、いや我がドラバニア・ファミリーのためにも、スバル・フォーデンを倒さなければならないみたいですな。
----と言う訳で、アイ・ラブ・ユー! 来たまえ、我の配下の龍!」
パチンと指を鳴らすとともに、「お呼びラビか?」と可愛らしい女の声が、オキクロンの後ろから聞こえてくる。
オキクロンの後ろに現れたリュウシント、それはバニーガールだった。
龍怪人であるリュウシントなのにも関わらず、兎女とはどういう事かと言われても、見る限り、バニーガールなのだから仕方がない。
黒い兎尻尾付きの肩出しレオタード姿で、髪の代わりに生えている羽は顔の半分を覆い隠しており、いわゆる右目だけが見えている目隠れの状態になっている。
頭には黒い羽根が兎を思わせるばかりにピンッと立っている。
手が龍の手、そして背中に龍の翼がなければ、リュウシントだとは思えないようなこの相手こそ、羽龍の【兎女龍キヌゴーシュ】。
オキクロンがこの地球に来る際に一緒に来たリュウシント、である。
「これはこれは、オキクロン様。このキヌゴーシュになにかご用ラビ?
ついでに、豆腐はいかがでしょうか?」
ちなみに、作成者であるマフデルタがこのキヌゴーシュにつけた名前は、"豆腐小僧"のキヌゴーシュ。
豆腐を運ぶ、ただそれだけの妖怪である豆腐小僧を、モチーフに生み出されたこのキヌゴーシュは、兎にも角にも豆腐を勧めてくるリュウシントになってしまった。
「(正直、戦闘面での活躍は期待できないよね。まっ、そういう変なリュウシントを作る母って、可愛いよねっ!)」
うんうんと一人で母を褒めたたえていると、キヌゴーシュは「用事がないなら、失礼してよろしいラビ?」と疑問符を浮かべていた。
「わたくし、ただいま新作の豆腐を作成中ラビ。この豆腐を作り上げた時こそ、ドラバニア・ファミリーの食卓が豆腐一色になるというわたくしの野望が完遂されるラビ!」
「それは、それは。崇高な計画の邪魔をして悪かったね。アイ・ラブ・ユー、我はそんな君の事も愛しているよ」
「ありがとうございますラビ、ついでに豆腐はいかかでしょうか?」
すっ、と豆腐を差し出してくるキヌゴーシュ。その豆腐を無視して、オキクロンは本題に入る。
「ところで、キヌゴーシュ。君に是非とも、やって欲しい事があるんだけど?」
「偉大なる金色メダルの持ち主、オキクロン様の頼みでしたら、是非ともやらせていただきますラビ。
ついでに、豆腐はいかがでしょうか?」
オキクロンはキヌゴーシュの顔の前に、1枚の写真を突き出す。
「その人物を、殺してきて欲しい。
出来るよね、殺しの技術だけで銀色、二等級の地位を得た兎女龍キヌゴーシュなら」
その写真には、スバル・フォーデンの顔がくっきりと写っていた。
☆
レイク・ラックタウンにある、あの大きな山を背にした、ポツンと一軒家。
別名、ダットン・フォーデンの家の屋根裏部屋に、リチャード・ラフバラーの姿はあった。
リチャードとしては、"自分とドラゴンを融合させて強力な存在となる"などというスバル・フォーデンと共に暮らし、ベルトの調整を行いたかった。
カグツチとして合体した後の話だ。スバルとフレアリオンの2人は無事に元に、2人に戻ったのだけれども、その後、体調を崩してしまった。
詳しい捜査をしてないから分からないが、恐らくはなんらかの負荷のせいで倒れてしまったのだと考えられる。
その調整がきちんと出来れば、これからもあの合体能力をもっと有意義に、そして強力な切り札として出来るはずなのだ。
しかし、ユカリは許さなかった。
合体したのもさる事ながら、その後に倒れるほどの負荷を与えたこと。
それについて散々、直球的なものから、ちょっぴり変化球に遠回し的な言い回しをしたものまで、おおよそ1時間弱程度、こってりと怒られてしまった。
リチャードとしては、それ以外にも、自分が合体できなかったことに対する僻みも含まれていると分析している。
まぁ、その言い分を信じたエクレルの同意もあって、リチャードはスバル達と同じ家に住むこと、近くに住むことさえ禁止されてしまった。
ナイトレス・ハーバーシティに戻るよう、リチャードが思い描く最悪の結果になるようには、言われなかった。
彼女達にしてみても、スバルの合体能力は優秀なモノだったのだろう。
「(つまりはまだ、自分には価値がある)」
マイヨール達との通信傍受をしていた時に、スバル・フォーデンの情報を知ったあの時から、リチャードにはずっと、彼が面白い人物であることは想像がついていた。いや、期待以上だった。
ドラゴンとは言っているが、要するに彼女達は宇宙から来た未知の生命体。そんな未知の生命体と人間から生まれたのが、スバル・フォーデン。
正直なところを言えば、ドラゴンを探りたいのならば、ドラバニア・ファミリーでも良かった。
けれども、【ドラゴンという同族のみの世界侵略】を目指す彼らに受け入れられるよりも簡単で、なによりスバルと言うサンプルもいる。
どちらの組織で楽しむかを考えた時、リチャードにはマヌスの方が面白そうでならなかった。
そして、その予感は正しかった。
「龍である彼らの力は大体わかったが、予想通り。予想通り過ぎて、つまらない。
ドラバニア・ファミリーのリュウシントとやらも、多少は面白かったが、面白すぎるというほどでもない。
‐‐‐‐けれども、スバル・フォーデンは違う。彼の持つ、他者との融合能力! これには素晴らしい可能性と、面白さを感じる!」
スバル・フォーデンという地龍に、フレアリオンという火龍を混ぜると、2人の力を半分ずつ受け継いだのではなく、全く別の、カグツチという強力な生物が誕生した。
これ以上に面白い事なんてないだろう、既知の事実を検証するよりかは新しい未知の事象を観測したいと願うのは、科学者としては当然の理屈であろう。
残念なことにスバルに近い位置で結果を見るということは出来なかったが、彼の父親がこうして寝床兼住居スペースを貸してくれたことには非常に感謝している。
これで、あのスバルと言う未知の存在を、じっくり調べられるから。
「さて、さてさて。早速ですが、ベルトの調整をば、と」
リチャードはそう言って、持って帰ってきた覚醒ベルトの核となる配線板を開く。
ドライバーとはんだごて、さらには他に必要となる工具を置いて、準備完了っ!
「なぁ、ちょっと良いかい?」
そんなリチャードのところに、ノックもせずに、この家の主、ダットン・フォーデンが入ってくる。
リチャードからしてみれば、宇宙生命体と臆さずに交わったある種の英雄という立ち位置ではあるが、今はそんな事よりも覚醒ベルトの調整を優先させたかった。
「すみませんが、また今度にして貰えませんか? 寝床の提供には感謝していますが、それよりもやりたい事がありまして」
自然と、言い方もきついモノとなってしまう。
怒られてもおかしくないような言い草ではあったのだが、ダットンは気にした様子もなく、それどころか「どっこい正一っと」などと言いながら、リチャードの横に腰かけてくる。
「いやぁ、実は息子の様子について知りたくてね。なんでかは分からないけれども、あの龍の3人からは嫌われているというか、避けられている様子があってね」
「それは……」
リチャードは理由を知っていた。彼がスバルに無断で、マイヨールに情報を売ったからだ。
その情報に興味を持って来たリチャードが言うのもなんだが、息子が心配だからといっても、異能力集団に情報を流すのは、父親としてはどうだろう。
それで「嬉しい! 僕の事を心配してくれたんだね!」と涙するようなケースはあまりないと思う。特に、普段から煙たがられている父と息子だったらなおさら。
そして、あの3人の龍達はスバルに甘い。
スバルが嫌うのならば、彼女達も嫌うだろう。
結果として、ダットンとスバルの溝は見事に、深みにハマったとさ。
リチャードはそう締めくくったが、頭が足りない彼はなんとかこの状況を改善したくて仕方がないらしい。
「(そう思うのなら、普通に家に押しかければ良いのに。
まっ、泊めてくれた手前、住居料くらいは話しておくべきでしょう)」
リチャードはそう結論付けて、工具を床へと置く。
「まぁ、そんなに身構えなくても良いさ。マイサンが無事なのは分かっているし、俺にも色々とやらないといけないことがあるしな。だから、聞くのは些細な事さ」
「なるほど、つまりは5分で終わる。それくらいの内容って事ですかね?」
「あぁ、そうさ」
そう言われて、リチャードは「どんと来い」と待ち受ける。
何事も最初に時間が決まっている方が楽だ。それ以上は相手しなくて済むし、難しいことを時間内に終わらせることはタイムアタックみたいで楽しい。
と言う訳で、どんな質問だろうも受け入れようと思っているリチャードであったが、そうしてダットンから聞かされた質問には、頭を悩ませた。
「‐‐‐‐リチャード・ラフバラー。その名前は、俺が以前に聞いたことがある名前だったんだ。それも人生の重要な場面で」
真剣みを帯びたような言い方で、ダットンはそう尋ねる。
「リチャード・ラフバラー。その名前は母さんが消えた後に訪ねてきた龍が名乗っていた名前だ。
さらには君が用意したベルトで、息子がドラゴン達も知らないような、事態を引き起こしたのだとしたら、なおさら余計気になってしまう。
リチャード・ラフバラー、‐‐‐‐君は何者だ? 次はいつ、俺の息子になにかするつもりだ?」
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