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VS Maf-Delta -黄金の最高幹部ー(1)
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「全体達成率、12パーセントって所ですかね」
モニターに映る達成率を確認しつつ、ドラバニア・ファミリーの最高幹部の1人であるマフデルタは「順調ですね」と口にする。
この達成率が100パーセント、つまりはクリスマスになった時に、この地球はドラバニア・ファミリーのモノとなる。
「実に良い感じですね。えっと、順風満帆的な?」
「いーや、全然全く遅すぎると思うね。そうは思わないかい、マフデルタちゃん?」
と、マフデルタの後ろから背筋が震え上がるような、おぞましい声を感じて、くるりと振り返る。
そして、マフデルタは彼女の姿を確認するなり、ガクガクと震えだした。
「嬉しいねぇ、我と会えた嬉しさのあまり興奮で身体が震えてるのかい? 可愛いところもあるねぇ、マフデルタちゃんは」
「そんな訳……ないでしょ……オキクロン……」
マフデルタの言葉に、「傷つくなぁ~」と言いつつ、まったく傷ついていない雰囲気を放つ三つ目の龍女。
マフデルタよりも地位が上、この地球と言う惑星を侵略した際に自分よりもいい立場を貰える、金弐のメダルを持つ。
そんなのは、この世でたった1人しかいない。
マフデルタが"作った"リュウシントの中で、最高傑作にして、失敗作。
「"覚"のオキクロン……」
「やだなぁ、普通にオキクロン。もとい、クロンで良いよ。
アイ・ラブ・ユー、我は全てを許そう」
ニコリと、100人中100人が満面の笑みだと感じる最高の笑みを見せるオキクロン。
それに対して、そういう感じを全く感じない101人目であるマフデルタはと言うと、ジリジリと彼女から距離を取っていた。
「オキクロン、なんでここにいるの? 地球侵略の担当は私のはずですよね?」
「えぇ、そうね」
「"皇帝"‐‐‐‐白の龍神様から、なにか伝言でも?」
「ないですよ、そもそもマフデルタちゃんと違って、我は一度も白の龍神様に会ったことはないわ。
そうですよね、我をあの、既に侵略したあの惑星で生み出した、"お母さん"?」
その言葉に、自分が生み出した"娘"に、マフデルタは恐怖を感じつつ、後ろへと後退する。
「傷つくなぁ、お母さんったら。地球では、母は娘を愛し、娘は母を愛するモノと相場が決まってるのに」
「母と娘で傷つけあう場合もあると、妖怪を調べる中で学びましたよ。オキクロン」
「アイ・ラブ・ユー、それは単に愛が足りなかっただけだよ。我はお母さんを愛してるから、問題ないよね?」
理屈の通らない言葉を無視して、マフデルタはモニターへと視線を戻す。
オキクロンはつまらないとばかりに、マフデルタが見ているのと同じ、モニターを見て、そのパーセンテージの低さに愕然とする。
「ねぇ、お母さんや。12パーセントってなに? 低すぎない?」
「100パーセント中の12パーセント、別に低くはないですよ。納期は12月終盤のクリスマス頃、そして今は6月の初め。
地球の、ごく一般的な日数で計算したとしても、約6か月。半年以上もの猶予があるんですから」
「ふーん、そうですか」
と、興味なさげに頷くオキクロン。自分が話題を振ったのにも関わらず、面白い反応ではなかったために興味をなくしたようだ。
「ちなみに、この計画ってどういう計画? 地球の12パーセントを我々の領地にしたとか、そういう?」
「いいや、この惑星を掌握する最終兵器が生まれるまでのカウントダウンです。えーっと、進捗率的な?」
どういう事だと、オキクロンが聞くので、マフデルタは答える。
本当は答えたくないが、立場としては彼女のほうが上。ドラバニア・ファミリーは完全なる実力主義の、階級社会だからだ。
言いたくなくても、立場が上なら、答えざるを得ない。
「つまりは、オキクロン。あなたのような存在を生み出そうとしているんですよ。
数十年前、惑星ギガアルターを滅ぼすために生み出した、超一流の戦闘技術を持つあなたのような、ね」
話は簡単だ、とマフデルタは告げた。
マフデルタには皇帝である、白の竜神から大量の龍の卵を頂戴している。
この龍の卵と、マフデルタの能力さえあれば、ほぼ無限に、この惑星を侵略するためのリュウシントを生み出せる。
しかし、1体ごとのリュウシントには能力にバラツキがある。
そこで、マフデルタは地球の資料を読み漁り、1つ、面白い作戦を思いついたのだ。
そして、それが完了した時にこそ、この地球と言う惑星は、ドラバニア・ファミリーのモノとなるのだ。
「分かったら、さっさと故郷へ戻ってください。こちらの作戦は、順調に、計画通りに遂行しているんですので」
「へぇー、なるほどね。母さんの計画は理解できたし、それが上手くいけばこの地球なんて楽勝に侵略できる。でもねぇ----」
‐‐‐‐我は今すぐ、この地球を侵略したいの。
「‐‐‐‐母さんに命令する気はないよ。立場が上だからって、我は愛には甘いからね。アイ・ラブ・ユー、マフデルタのお母さんに対しては敵意もなければ、憎悪もない。
でも、だからこそ、娘である我は見たくなるんだ。母さん自らが、戦う姿を」
オキクロンは命令してないと、そう語る。
けれども、マフデルタは、立場が下の者にはそう聞こえない。
‐‐‐‐早く戦え。
回りくどく、そう言われているようにしか聞こえないのである。
「えぇ、分かりましたよ。オキクロン様」
と、マフデルタは【様】をつけて、彼女が嫌う他人行儀な言い方をする。
なんてことはない、ただの意趣返しの一種だ。
そして、そのまま立ち上がって、歩いていく。
「闇龍にして、18の惑星を直接この手で侵略した実力。
‐‐‐‐この星を守る、マヌスの連中に見せてあげましょう」
☆
「くそぉ、なんでこの、金メダルを持つ、空を舞う飛竜にして火を操る火龍、そんな超ハイスペックなリュウシント! この【焼酎龍セツメズラ】様に匹敵するというのだっ!
お前らのような、醜く、汚く、意地汚いゴミ屑ごときが!」
と、赤い身体に焼き鳥を巻き付けた、首から金メダルを下げたリュウシントはと言うと、翼を生やしてビル5階と同じ高度の空を飛びながら、今の状況を罵倒していた。
そんな翼を生やしたセツメズラの足元、地面には3人の敵対者----地龍にしてハーフドラゴンの僕、セツメズラと同じく火の龍である火龍フレアリオン、そして雷龍であるエクレルの3人の姿があった。
「ちくしょう、馬鹿にしやがって! それならば猩々、いや少々強めに戦ってやろう!」
口を大きく開けると、その口から大量の焼き鳥----型のミサイルを放つセツメズラ。
べっとりとタレのついた焼き鳥の形をしたミサイルは、クルクルと宙をあらぬ方向に飛びつつ、地面の下にいる僕達3人の方へ向かってくる。
「また来たか。ならば何度だろうとも倒す!」
「もう、無駄だってのに! ぷんぷんっ!」
こちらに向かって迫ってくるタレのついた焼き鳥型のミサイルに対して、僕は土の大きな拳を作って殴り、エクレルは龍の力を発揮して出てきた龍の爪で、ミサイルを傷つけていた。
と言うよりも、この焼き鳥のような形をしたミサイルは、直接当てずとも、風圧であっけなく、吹き飛んでいたので、当たる心配なんて、ちっともしてなかったけれども。
「えぇい! それならば、火焔攻撃で猩々、いや少々炙られていけ! セツメズラ・ファイヤーブレス!」
空に浮かびながら、空気を大きく吸って、そのまま大量の炎を放つ。
その炎は空中で巨大な龍の形に変わり、大きな雄たけびをあげるかのようにして、大きな音と共に僕達に向かってくる。
「……ふむ、芸術性は高そうだ。だが、それだけだ」
フレアリオンはそう言うと、龍の形になった炎に対して、自らが作った炎の球----ゲームとかでよく見る、ファイアーボールを放つ。
大きさ的には、大魚と疑似餌くらいの差がある炎の対決。
「なぬぅっ?!」
しかし、その対決はあっさりと疑似餌サイズのファイアーボールを放ったフレアリオンの方に軍配が上がり、そのままセツメズラの翼に当たって、黒い焦げ跡を作っていた。
「ばっ、馬鹿なっ! このセツメズラ様が、そんな簡単に燃やされるだなんてっ!
こうなれば、どこから盗んだこの大爆弾でっ!」
と、懐から《爆弾だよぉ!》とご丁寧にも書かれてあるフクロウ型の爆弾を取り出すセツメズラ。
「はははっ! なんでこの金メダル、最高幹部級のセツメズラ様の攻撃が効かないのかは、まったく、全然、これっぽっちも理解できぬが、この大量破壊兵器爆弾ならば、一発で!
お前らがここまで飛んでこれず、ただセツメズラ様の攻撃を受けるしかないんだ! 死ねぇ、マヌスの龍共!」
と、セツメズラは爆弾を用意して、それに点火しようと----
「‐‐‐‐当たり前ですよ」
と、そんなセツメズラの上、僕達の中で唯一飛ぶことが出来るユカリは、セツメズラの頭上を飛んでおり、風の竜巻を作り出していた。
「あなたの、その金メダルは、ただのメッキ! ただの弱い、銅メダルの三等級なんですから!」
「ばっ、馬鹿な! この、焼酎龍セツメズラがそんな嘘に! 騙されるかぁぁぁ!」
そう言って、爆弾をひょいっと、セツメズラはユカリに向かって投げる。自分よりも上にいるユカリに向かって。
当然、爆弾は地球の、ごく一般的な重力に従って、ちょっとばかり上へ向かった後にセツメズラめがけて落ちてくる。
そして、そのままセツメズラに当たって、大爆発!
‐‐‐‐とは言え、1人のリュウシントを爆発させる程度のだが。
「……なんだったんだ、このリュウシントは」
落ちてきた赤い龍の卵を拾いつつ、フレアリオンはそう呟く。
「それは僕も言いたい」
「えぇ、本当になんだったんでしょう」
「私も! ぜんぜんっ、強くなかったし!」
そう思っているのはフレアリオンだけでなく、僕達全員だった。
僕達の住むレイク・ラックタウンに突如として現れた、この赤い顔をしたどこかで聞いた覚えのある名前のリュウシントは、酔っ払い特有の酒気を放ちつつ、弱めの炎でビルをほんのちょっぴり焦がしたり、焼き鳥型のミサイルをぶつけるなどの悪事を行っていた。
で、対決してみるも金メダルだの、最高幹部だのと言っているばかりで、まるで要領を得ない。
そのうえ、メダルは偽物。ただ金のメッキで塗装しているだけで、ただ弱い。圧倒的に弱い。
「このセツメズラとの戦いで、スバルに教えられることはたった1つだな。
‐‐‐‐コイツは前に一度戦ったセツメズラと同じ火龍で、同じ名前だが、同じではないって事だ」
そう言って、フレアリオンは赤い龍の卵を僕に渡す。
どうやら、こういう時でも講義を行ってくれるみたいである。
「スバル、前に一度セツメズラと名乗る者と戦ったのを覚えているか? コイツとは違う、スバルが覚醒した時の奴だ」
「まぁ、うん……」
セツメズラと名乗ったリュウシントと会ったのは、これが初めてではない。
一番最初、フレアリオン達と初めて会ったリュウシント。その時、相手が名乗っていた名前が、セツメズラである。
「同じ名前だから、同じ者。そう思うこともあるだろうが、本当は違う。
我々は卵になれば記憶がリセットされる、それも卵から孵化するには場合によったら数十年、数百年単位だ。だから同じ名前だったのは恐らく----偶然だ」
「そうっ! だから私達はリュウシントを倒してるんだよ、スバルくん! 一回倒しておけば、同じ卵からは数十年は生まれないから。分かった、スバルくん?」
「どぉ?」と言わんばかりに、ユカリは僕に向かってそう尋ねる。
それに対して僕は、
「うっ、うん。ありがとう」
と口ごもるように言うと、ユカリは満面の笑みで「どう、私は役に立つでしょ!」と嬉しそうだ。
まぁ、その横で「私が説明していたのだが……」とフレアリオンは不満気だったのだが。
「ねぇねぇ、私も頑張ったんだよ! お姉ちゃんを褒めて、褒めて!」
「えっと、はい。エクレル……ありがとう」
「うんっ! 褒められて、嬉しいなぁ! もっと褒めて良いんだからねっ!」
エクレルも満足げな表情で頷く。
そんな風に、僕は自称姉気取りの3人の龍と共に、今日も今日とて、平和な街を守ったのだが----
「うむっ、なるほど。よく理解できた、君達がどういう人間かと言うことが。
いや、失敬。君達は人間ではなく龍だった。だからこの場合は、どういう生物か、というべきか」
‐‐‐‐今日はいつもと違うらしい。
僕達の前に現れたのは、眼鏡をかけた----可愛らしい小学生だった。
金色の悪趣味なランドセルを背負い、カタカタとノートパソコンになにかを入力している。
金がかかってそうな上等な、どこかの有名小学校の制服を身にまとった、肌が水色をしたその小学生は、僕達の顔を見るなり、こう言った。
「良いか、龍の女共。一度しか言わないから、よく聞きたまえ!
この頭の良さそうなエリート小学生である、僕の名前は【リチャード・ラフバラー】。リーダー・マイヨールの命を受けて、君たちをプロデュースしに来た、エリート小学生だ!」
と、高慢ちきな小学生は、僕達に向かって指を突き立てながら、そう言った。
モニターに映る達成率を確認しつつ、ドラバニア・ファミリーの最高幹部の1人であるマフデルタは「順調ですね」と口にする。
この達成率が100パーセント、つまりはクリスマスになった時に、この地球はドラバニア・ファミリーのモノとなる。
「実に良い感じですね。えっと、順風満帆的な?」
「いーや、全然全く遅すぎると思うね。そうは思わないかい、マフデルタちゃん?」
と、マフデルタの後ろから背筋が震え上がるような、おぞましい声を感じて、くるりと振り返る。
そして、マフデルタは彼女の姿を確認するなり、ガクガクと震えだした。
「嬉しいねぇ、我と会えた嬉しさのあまり興奮で身体が震えてるのかい? 可愛いところもあるねぇ、マフデルタちゃんは」
「そんな訳……ないでしょ……オキクロン……」
マフデルタの言葉に、「傷つくなぁ~」と言いつつ、まったく傷ついていない雰囲気を放つ三つ目の龍女。
マフデルタよりも地位が上、この地球と言う惑星を侵略した際に自分よりもいい立場を貰える、金弐のメダルを持つ。
そんなのは、この世でたった1人しかいない。
マフデルタが"作った"リュウシントの中で、最高傑作にして、失敗作。
「"覚"のオキクロン……」
「やだなぁ、普通にオキクロン。もとい、クロンで良いよ。
アイ・ラブ・ユー、我は全てを許そう」
ニコリと、100人中100人が満面の笑みだと感じる最高の笑みを見せるオキクロン。
それに対して、そういう感じを全く感じない101人目であるマフデルタはと言うと、ジリジリと彼女から距離を取っていた。
「オキクロン、なんでここにいるの? 地球侵略の担当は私のはずですよね?」
「えぇ、そうね」
「"皇帝"‐‐‐‐白の龍神様から、なにか伝言でも?」
「ないですよ、そもそもマフデルタちゃんと違って、我は一度も白の龍神様に会ったことはないわ。
そうですよね、我をあの、既に侵略したあの惑星で生み出した、"お母さん"?」
その言葉に、自分が生み出した"娘"に、マフデルタは恐怖を感じつつ、後ろへと後退する。
「傷つくなぁ、お母さんったら。地球では、母は娘を愛し、娘は母を愛するモノと相場が決まってるのに」
「母と娘で傷つけあう場合もあると、妖怪を調べる中で学びましたよ。オキクロン」
「アイ・ラブ・ユー、それは単に愛が足りなかっただけだよ。我はお母さんを愛してるから、問題ないよね?」
理屈の通らない言葉を無視して、マフデルタはモニターへと視線を戻す。
オキクロンはつまらないとばかりに、マフデルタが見ているのと同じ、モニターを見て、そのパーセンテージの低さに愕然とする。
「ねぇ、お母さんや。12パーセントってなに? 低すぎない?」
「100パーセント中の12パーセント、別に低くはないですよ。納期は12月終盤のクリスマス頃、そして今は6月の初め。
地球の、ごく一般的な日数で計算したとしても、約6か月。半年以上もの猶予があるんですから」
「ふーん、そうですか」
と、興味なさげに頷くオキクロン。自分が話題を振ったのにも関わらず、面白い反応ではなかったために興味をなくしたようだ。
「ちなみに、この計画ってどういう計画? 地球の12パーセントを我々の領地にしたとか、そういう?」
「いいや、この惑星を掌握する最終兵器が生まれるまでのカウントダウンです。えーっと、進捗率的な?」
どういう事だと、オキクロンが聞くので、マフデルタは答える。
本当は答えたくないが、立場としては彼女のほうが上。ドラバニア・ファミリーは完全なる実力主義の、階級社会だからだ。
言いたくなくても、立場が上なら、答えざるを得ない。
「つまりは、オキクロン。あなたのような存在を生み出そうとしているんですよ。
数十年前、惑星ギガアルターを滅ぼすために生み出した、超一流の戦闘技術を持つあなたのような、ね」
話は簡単だ、とマフデルタは告げた。
マフデルタには皇帝である、白の竜神から大量の龍の卵を頂戴している。
この龍の卵と、マフデルタの能力さえあれば、ほぼ無限に、この惑星を侵略するためのリュウシントを生み出せる。
しかし、1体ごとのリュウシントには能力にバラツキがある。
そこで、マフデルタは地球の資料を読み漁り、1つ、面白い作戦を思いついたのだ。
そして、それが完了した時にこそ、この地球と言う惑星は、ドラバニア・ファミリーのモノとなるのだ。
「分かったら、さっさと故郷へ戻ってください。こちらの作戦は、順調に、計画通りに遂行しているんですので」
「へぇー、なるほどね。母さんの計画は理解できたし、それが上手くいけばこの地球なんて楽勝に侵略できる。でもねぇ----」
‐‐‐‐我は今すぐ、この地球を侵略したいの。
「‐‐‐‐母さんに命令する気はないよ。立場が上だからって、我は愛には甘いからね。アイ・ラブ・ユー、マフデルタのお母さんに対しては敵意もなければ、憎悪もない。
でも、だからこそ、娘である我は見たくなるんだ。母さん自らが、戦う姿を」
オキクロンは命令してないと、そう語る。
けれども、マフデルタは、立場が下の者にはそう聞こえない。
‐‐‐‐早く戦え。
回りくどく、そう言われているようにしか聞こえないのである。
「えぇ、分かりましたよ。オキクロン様」
と、マフデルタは【様】をつけて、彼女が嫌う他人行儀な言い方をする。
なんてことはない、ただの意趣返しの一種だ。
そして、そのまま立ち上がって、歩いていく。
「闇龍にして、18の惑星を直接この手で侵略した実力。
‐‐‐‐この星を守る、マヌスの連中に見せてあげましょう」
☆
「くそぉ、なんでこの、金メダルを持つ、空を舞う飛竜にして火を操る火龍、そんな超ハイスペックなリュウシント! この【焼酎龍セツメズラ】様に匹敵するというのだっ!
お前らのような、醜く、汚く、意地汚いゴミ屑ごときが!」
と、赤い身体に焼き鳥を巻き付けた、首から金メダルを下げたリュウシントはと言うと、翼を生やしてビル5階と同じ高度の空を飛びながら、今の状況を罵倒していた。
そんな翼を生やしたセツメズラの足元、地面には3人の敵対者----地龍にしてハーフドラゴンの僕、セツメズラと同じく火の龍である火龍フレアリオン、そして雷龍であるエクレルの3人の姿があった。
「ちくしょう、馬鹿にしやがって! それならば猩々、いや少々強めに戦ってやろう!」
口を大きく開けると、その口から大量の焼き鳥----型のミサイルを放つセツメズラ。
べっとりとタレのついた焼き鳥の形をしたミサイルは、クルクルと宙をあらぬ方向に飛びつつ、地面の下にいる僕達3人の方へ向かってくる。
「また来たか。ならば何度だろうとも倒す!」
「もう、無駄だってのに! ぷんぷんっ!」
こちらに向かって迫ってくるタレのついた焼き鳥型のミサイルに対して、僕は土の大きな拳を作って殴り、エクレルは龍の力を発揮して出てきた龍の爪で、ミサイルを傷つけていた。
と言うよりも、この焼き鳥のような形をしたミサイルは、直接当てずとも、風圧であっけなく、吹き飛んでいたので、当たる心配なんて、ちっともしてなかったけれども。
「えぇい! それならば、火焔攻撃で猩々、いや少々炙られていけ! セツメズラ・ファイヤーブレス!」
空に浮かびながら、空気を大きく吸って、そのまま大量の炎を放つ。
その炎は空中で巨大な龍の形に変わり、大きな雄たけびをあげるかのようにして、大きな音と共に僕達に向かってくる。
「……ふむ、芸術性は高そうだ。だが、それだけだ」
フレアリオンはそう言うと、龍の形になった炎に対して、自らが作った炎の球----ゲームとかでよく見る、ファイアーボールを放つ。
大きさ的には、大魚と疑似餌くらいの差がある炎の対決。
「なぬぅっ?!」
しかし、その対決はあっさりと疑似餌サイズのファイアーボールを放ったフレアリオンの方に軍配が上がり、そのままセツメズラの翼に当たって、黒い焦げ跡を作っていた。
「ばっ、馬鹿なっ! このセツメズラ様が、そんな簡単に燃やされるだなんてっ!
こうなれば、どこから盗んだこの大爆弾でっ!」
と、懐から《爆弾だよぉ!》とご丁寧にも書かれてあるフクロウ型の爆弾を取り出すセツメズラ。
「はははっ! なんでこの金メダル、最高幹部級のセツメズラ様の攻撃が効かないのかは、まったく、全然、これっぽっちも理解できぬが、この大量破壊兵器爆弾ならば、一発で!
お前らがここまで飛んでこれず、ただセツメズラ様の攻撃を受けるしかないんだ! 死ねぇ、マヌスの龍共!」
と、セツメズラは爆弾を用意して、それに点火しようと----
「‐‐‐‐当たり前ですよ」
と、そんなセツメズラの上、僕達の中で唯一飛ぶことが出来るユカリは、セツメズラの頭上を飛んでおり、風の竜巻を作り出していた。
「あなたの、その金メダルは、ただのメッキ! ただの弱い、銅メダルの三等級なんですから!」
「ばっ、馬鹿な! この、焼酎龍セツメズラがそんな嘘に! 騙されるかぁぁぁ!」
そう言って、爆弾をひょいっと、セツメズラはユカリに向かって投げる。自分よりも上にいるユカリに向かって。
当然、爆弾は地球の、ごく一般的な重力に従って、ちょっとばかり上へ向かった後にセツメズラめがけて落ちてくる。
そして、そのままセツメズラに当たって、大爆発!
‐‐‐‐とは言え、1人のリュウシントを爆発させる程度のだが。
「……なんだったんだ、このリュウシントは」
落ちてきた赤い龍の卵を拾いつつ、フレアリオンはそう呟く。
「それは僕も言いたい」
「えぇ、本当になんだったんでしょう」
「私も! ぜんぜんっ、強くなかったし!」
そう思っているのはフレアリオンだけでなく、僕達全員だった。
僕達の住むレイク・ラックタウンに突如として現れた、この赤い顔をしたどこかで聞いた覚えのある名前のリュウシントは、酔っ払い特有の酒気を放ちつつ、弱めの炎でビルをほんのちょっぴり焦がしたり、焼き鳥型のミサイルをぶつけるなどの悪事を行っていた。
で、対決してみるも金メダルだの、最高幹部だのと言っているばかりで、まるで要領を得ない。
そのうえ、メダルは偽物。ただ金のメッキで塗装しているだけで、ただ弱い。圧倒的に弱い。
「このセツメズラとの戦いで、スバルに教えられることはたった1つだな。
‐‐‐‐コイツは前に一度戦ったセツメズラと同じ火龍で、同じ名前だが、同じではないって事だ」
そう言って、フレアリオンは赤い龍の卵を僕に渡す。
どうやら、こういう時でも講義を行ってくれるみたいである。
「スバル、前に一度セツメズラと名乗る者と戦ったのを覚えているか? コイツとは違う、スバルが覚醒した時の奴だ」
「まぁ、うん……」
セツメズラと名乗ったリュウシントと会ったのは、これが初めてではない。
一番最初、フレアリオン達と初めて会ったリュウシント。その時、相手が名乗っていた名前が、セツメズラである。
「同じ名前だから、同じ者。そう思うこともあるだろうが、本当は違う。
我々は卵になれば記憶がリセットされる、それも卵から孵化するには場合によったら数十年、数百年単位だ。だから同じ名前だったのは恐らく----偶然だ」
「そうっ! だから私達はリュウシントを倒してるんだよ、スバルくん! 一回倒しておけば、同じ卵からは数十年は生まれないから。分かった、スバルくん?」
「どぉ?」と言わんばかりに、ユカリは僕に向かってそう尋ねる。
それに対して僕は、
「うっ、うん。ありがとう」
と口ごもるように言うと、ユカリは満面の笑みで「どう、私は役に立つでしょ!」と嬉しそうだ。
まぁ、その横で「私が説明していたのだが……」とフレアリオンは不満気だったのだが。
「ねぇねぇ、私も頑張ったんだよ! お姉ちゃんを褒めて、褒めて!」
「えっと、はい。エクレル……ありがとう」
「うんっ! 褒められて、嬉しいなぁ! もっと褒めて良いんだからねっ!」
エクレルも満足げな表情で頷く。
そんな風に、僕は自称姉気取りの3人の龍と共に、今日も今日とて、平和な街を守ったのだが----
「うむっ、なるほど。よく理解できた、君達がどういう人間かと言うことが。
いや、失敬。君達は人間ではなく龍だった。だからこの場合は、どういう生物か、というべきか」
‐‐‐‐今日はいつもと違うらしい。
僕達の前に現れたのは、眼鏡をかけた----可愛らしい小学生だった。
金色の悪趣味なランドセルを背負い、カタカタとノートパソコンになにかを入力している。
金がかかってそうな上等な、どこかの有名小学校の制服を身にまとった、肌が水色をしたその小学生は、僕達の顔を見るなり、こう言った。
「良いか、龍の女共。一度しか言わないから、よく聞きたまえ!
この頭の良さそうなエリート小学生である、僕の名前は【リチャード・ラフバラー】。リーダー・マイヨールの命を受けて、君たちをプロデュースしに来た、エリート小学生だ!」
と、高慢ちきな小学生は、僕達に向かって指を突き立てながら、そう言った。
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