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The Oath I Protect ー守護の誓いー(後編)
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「‐‐‐‐と言うより、今まで大事に使わずに取っていたのに、見せて良かったんですか?」
僕が地面を操って作った、土のかまくらに隠れながら、マイヨールがそう尋ねる。
今もなお、コウフジンは雪崩のように骨をこの土のかまくらに向かって、吐き出しまくっている。
「あなたが今の今までその力を使わなかったのは、見せたくなかったから。決定的な証拠さえなければ、大丈夫だとでも思ったのでしょう?
それなのにどうして今になって、壁で防いだりしたんですか? さっさと逃げれば良かったのに」
「あんたのいう通りだよ、僕も逃げるつもりだった」
彼女を見捨てさえしていれば、僕は龍としての力を見られることなく、ただの学生として平穏に過ごすはずだった。
そう、ただそれだけで済む話だったのだ。だけれども‐‐‐‐
「それをしたら、お終いだろう。一応、俺はこの地球から皆を守る、そのために活動してるんだから。
‐‐‐‐それなのに見捨てたら、本末転倒も良い所だろう」
そう、僕が戦う理由は、マヌスが戦う理由は、ドラバニア・ファミリーなる悪龍達から人々を守るためである。
そんな正義の集団と共に戦う僕が、ドラバニア・ファミリーの配下であるだろう怪人を放って置くだなんて、僕の心が許せない。
正義と言う名の、僕の心がそれを許さないのである。
「僕も戦う、そのために訓練してきたんだ。僕の指導官は優秀なんだ」
「あなたの指導官がどんな人間かは分かりませんが‐‐‐‐」
と、マイヨールはこんこんっと僕が生み出した土で出来た壁を叩く。壁はその程度ではビクともせずに、それからコウフジンが放っている骨の雪崩も防いでいる。
「‐‐‐‐どうやら、きちんとした指導をしていたのは本当のようですね」
「人ではない、けどな」
それだけ言うと、マイヨールは手を差し出す。僕はそれに対して、普通に手を握り返していた。
「協力関係の達成、ですね」
「そう、だな」
お互いにそれだけ確認すると、壁の中からコウフジンの様子をうかがう。
「オーホホホッ! ワタックシの勝利は既に決定事項だシャイン! 大人しく、その貧相な土の塊から出てくるでシャイン!」
……完全に油断しているみたいだけれども、下のアールスマグナなる骨龍の方は、土の壁を壊せないのは相変わらずだが骨を吐き続けている。
「この土の壁は、動かせないんですか? モグラのように相手の下を通っていけば、あいつの後ろを取れるんですが」
「可能だが、多分難しい。僕は土を一度に一定量しか操れない」
これはどうも他の龍もそうみたいらしい(ユカリ談)なのだが、龍は司る属性のモノを一定量までしかコントロールできないらしい。
例えば風を操る風龍のユカリも、一度に操れる風の量は決まっているのだとか。
----まぁ、そうでなかったら、僕達の地球なんて簡単に滅ぼされていただろう。
燃え盛る炎で海を干上がらせたり、荒れ狂う嵐で住居を吹っ飛ばし、尽きる事のない毒で全ての食べ物を傷ませる事が出来て、こんなちっぽけな星なんて一瞬だ。
……ちなみにこの意見は僕のではなく、悪龍であったユカリから得た情報なのだが。
「それに多分、この土の壁を動かすとなると、動かしている間に骨で潰される。今でさえ、ガタガタと音が鳴っているのに」
「なるほど、それではモグラ作戦は難しいという事ですね。でしたら、一瞬で消せますか? 一瞬で出せたのなら、その逆ならどうでしょう?」
「それだったら可能だ」という事を頭を縦に振って見せると、彼女はけん玉を何度かタンタンッと振り回すと、その振り回す球を一番先のけん先に突き刺す。
「だったら、一か八か、ですね」
☆
「オーホホホッ! ワタックシの勝利は確実でシャイン! さっさと降参して出てくるが良いでシャイン!」
身体として操っているアールスマグナの口から骨を出し、自身の光龍としての力で光速にしたヨーヨーの円盤を放ちながら、コウフジンは確実に相手を追いつめていると確信していた。
実際は、まだ土の壁を壊せてないし、油断は禁物なのが常識なのだが、コウフジンにそう言った知能はなかった。
元々、マフデルタが"適当に"思い作って作ったリュウシントである。
創作主が適当に作ったのなら、作られた者も適当。
彼女の知能は、自分が一番輝けば良い。そのために無駄な事は考えないという、視野が狭すぎる知能しかないのだから。
「ここで活躍して、ワタックシは幹部となり、後の世界で統治者の1人として輝くでシャイン! オーホホホッ!」
そう言って高笑いした時である、いきなり目の前の2人が隠れている土の壁が爆発した。
「そこまで強い攻撃はしてないでシャイン?!」
どうして爆発したと驚いている中で、男の方‐‐‐‐スバルがこちらに向かって来る。
そのスバルの前に、岩が、彼の前を先導するような形で宙を飛んでいる。どうもスバルの力で土を操っている、みたいである。
「(ふふんっ! 無駄でシャイン! どういう理屈かは分からないでシャインが、とにかく今のワタックシは相手の攻撃を曲げることが出来るでシャイン!
光で曲げられたシャイン! どうもあの男の方は土くれを動かせたとして、ワタックシの敵でないでシャイン!)」
コウフジンは、乗っ取った相手の力を使う力がある。
本当は仮面で乗っ取った子供達の誰かを乗っ取って【正義の味方ならば、民間人を犠牲に出来るはずがないでシャイン】作戦を実行する予定だったのだが、こうして骨龍のリュウシントを操っていると、それよりもはるかに良い。
なにせ、今のコウフジンは光と骨、2つの力を操るリュウシントである。
「(マヌスも、ドラバニア・ファミリーも、2つの力を司る龍なんて居ないでシャイン! ワタックシは選ばれたリュウシント! この力で今は骨でシャインが、もっと良いのを見つけて乗り移る!
そうして、ワタックシは最強のリュウシントとして、最終的にはマフデルタ様よりも凄い幹部になるでシャイン!)」
ニヤけているのが戻らない口元を押さえつつ、コウフジンは「来るなら来い!」とばかりに待ち構えるコウフジン。
「"土くれシュート"!」
「思った通りでシャイン! "曲がれ"でシャイン!」
スバルが目の前を浮かぶゴツゴツとした岩が飛ばすと、それに対してコウフジンはアールスマグナの曲げる力を使う。
先程の光と同じく曲がるモノだと思っていたのだが、どうもそう上手くは事が進まないらしい。
「ぐふっ……!」
岩はごく普通にコウフジンの身体に当たると共に、そのままアールスマグナと切り離されて吹っ飛ばされてしまう。
「くっ、光と違って岩は代えられないでシャインか!」
再びアールスマグナに乗っ取ろうと考えたコウフジンであったが、アールスマグナが居たあたりで白い煙がいきなり立ち昇る。
そして白い煙の中から、骨が浮き出た卵が出てきたのを見て、どうやらそれは無理だと理解した。
「ちっ……ここは逃げるしかないでシャインよ!」
クルクルとドレスだけの身軽な身体となったコウフジンはそのまま逃げるように、空高く飛んでいく。
「オーホホホッ! 地を這うだけの人間というのは、本当に無様で滑稽でシャイン!
悔しかったら、ここまでお出で! だシャイン!」
「‐‐‐‐えぇ。地を這うだけなんで、こういう事をします」
バンッ!
物凄い銃撃音が鳴り響くと共に、コウフジンの顔の真ん中に大きな穴が開いていた。
そして撃たれたところから徐々に力が抜けていき、自らが死んでいくのを感じていた。
「オッ、ホホホホ? 力が抜けて……バズーカでも撃たれたで……シャイン?」
クルッと、後ろを振り返ると、そこに居たのは小さな石を持ったマイヨールの姿であった。
「私は光を与えて武器にする力。けん玉はお気に入りではありますが、石だって光を大量に与えればバズーカ並みの破壊力の武器になりますよ」
「ワタックシが石ころなんかに、やられるなんてぇぇぇぇぇぇ!」
そんな言葉と共に、空中でコウフジンは爆発して、地面にサンサンと光る卵とアンティーク調のヨーヨーが落ちてくるのであった。
☆
「やったか……?」
「えぇ、そのようですね」
爆発と共に卵が落ちてきたのを見て、僕とマイヨールは2人で互いの顔を見合わせてガッツポーズ。
僕達は2人で、コウフジンの攻撃から防げた土の壁にもたれかかる。
「‐‐‐‐あなたのおかげで、マイヨール・ロスチャイルドこと私は、楽に敵を倒せました。協力に感謝します」
「こちらこそ、ありがとうございます」
お互いに手を交わして握手。
「正直、あなたの対応次第では、あなたを始末するつもりでした」
「‐‐‐‐っ!」
いきなり物騒な事を言い出した彼女に驚いて、僕は慌てて手を放して距離を取る。
「私の街に居るヴィランは多少の違いこそあれど、私やあなたと同じく、他人を一方的に倒せるだけの力を持った人間です。そこに明確な違いなんてない。
じゃあ、何を持って英雄か、悪人なのかと言われれば、答えは単純です」
「……それはなに?」
僕が問うと、彼女は年相応に膨らんでいる胸をポンポンっと叩く。
「心の問題、です。自分よりも弱いなにかを守る意思、そういうのがあるかどうかです。
そして、そういう人間は強くて、なにより‐‐‐‐」
彼女は笑顔で、改めて手を差し伸べる。
「‐‐‐‐信頼できる」
その言葉は、僕の聞こえすぎる耳に良く響く。
悪意のこもった声で苦しむくらいだ、その言葉に、一切の打算なく信頼とかそういう何かがこめられているのが伝わってくる。
……少々、こっ恥ずかしくなるくらいに。
「え、えっと……その……」
「おっ? なんです、なんです? なんで今更、握手くらいで照れちゃうんですかねぇ?」
ちなみに、今の言葉にスパイス的な形でからかっている感じも、けっこう伝わってきている。
「あなたのような人がいるチームです、仲間のドラゴンさん達とも是非ともお話を聞きたい所で‐‐‐‐」
そんな時である。
「なんて事になってるんですか!」
聞き覚えのある、あの女の声が聞こえてきたのは。
「……ヤツだ」
「ヤツ? あの女の声の主と知り合いで?」
マイヨールがそう尋ねるので、僕は「あの怪人を作った奴だ」と答えると、彼女は真剣な表情に変えて、僕と同じように警戒態勢を維持する。
見つからないようにそろーりと、土の壁に隠れて様子をうかがう。
「まったく……光龍のコウフジンの助けになればと、骨龍のアールスマグナを生み出したのですけれども、どうも2匹ともやられたようですね」
相変わらず、8匹の蛇が巻き付いた魔女帽子を被った独特の容姿をしているマフデルタはと言うと、虚空から【妖怪大辞典】なる本を取り出して、ペラペラとめくり始める。
「"ガシャドクロ"のアールスマグナ、あれは本家の妖怪とは似ても似つかない者になってしまいました。本家は"戦死や野垂れ死になど、埋葬されなかった死者達の骸骨や怨念が寄り集まった巨大な骸骨"となっていましたが、出来たのは化石の入れ違えや種類の判別間違えのような、生命倫理に反した生物。
"ガシャドクロ"として生み出されたのなら、もっと巨大で、偉大で、見ている者に恐怖を怯える外見が欲しかったですよ」
どうも、あの妙ちくりんな身体のアールスマグナは、やはり問題だったみたいである。
そりゃあ、顔が上下反転でついていたら、ちょっと疑うよな。やっぱり。
「それに比べて、あのコウフジンは完璧でした。えーっと、偶然の大発見的な?
ヨーヨーに光を纏わせて攻撃、さらには憑りつき能力。偶然の産物とは言え、素晴らしいリュウシントが出来ました」
ペラペラと、手にしている【妖怪大辞典】をめくるマフデルタ。
「妖怪って……何のことでしょう?」
「僕にも分かんないけど、恐らく製作者なりのモチーフみたいなモノじゃない?」
マイヨールの質問にそう自分なりの解釈を踏まえて伝えると、彼女は真剣な面持ちになる。
「そうですか。ならばきっと、あのコウフジンというのは美しい妖怪なんでしょう。なにせ、この私を思い浮かべる要素が多々ありましたから。
武器が糸のついた玩具である事、私の過去のUFOを思い浮かべる事、それから……」
「あぁ、だと良いな」
これに関しては、本当に適当に相槌をして応えていた。
マイヨールは「何かな、何かな?」と期待する形でワクワクしているようだが‐‐‐‐
「しっかし、最高でしたね。あの、"トリダシ"のコウフジンは!」
最高だと褒めたたえているマフデルタ。
それに対して、そんなコウフジンにちょっとばかり親近感を覚えていたマイヨールはと言うと、プルプルと震えながら‐‐‐‐
「だっ、だれがっ、トリダシですか! あぁん!?」
‐‐‐‐普通に、キレていた。
まぁ、自分が似ていると思っていたら、トリダシだなんて言われたら、ちょっとキレるよな。うん。
「むっ、どうも彼らが"トリダシ"のコウフジン、それに"ガシャドクロ"のアールマグナの2人を倒したようですね。
そして‐‐‐‐あなた方の顔は覚えさせていただきましたよ。次の戦いで、懲らしめて差し上げますよ。えーっと、スバルくん……それに、チキンスープのお嬢さん?」
「チキンスープじゃないって言ってるじゃないですか! あぁ、もう! 今すぐ倒します!」
そう言って怒りの顔のまま、マフデルタに向かっていくマイヨール。
こうして、マイヨールは怒りに任せて、「やべぇ、一旦退散的な?」と渦の中に逃げていくマフデルタを追って、渦の中へと消えていった。
‐‐‐‐ちなみにマイヨールは、次の日、不機嫌な顔で学校に登校してきた。
マフデルタは逃してしまい、あと、マフデルタの中では彼女の名前は「チキンスープ」で固定されてしまったらしい。
僕が地面を操って作った、土のかまくらに隠れながら、マイヨールがそう尋ねる。
今もなお、コウフジンは雪崩のように骨をこの土のかまくらに向かって、吐き出しまくっている。
「あなたが今の今までその力を使わなかったのは、見せたくなかったから。決定的な証拠さえなければ、大丈夫だとでも思ったのでしょう?
それなのにどうして今になって、壁で防いだりしたんですか? さっさと逃げれば良かったのに」
「あんたのいう通りだよ、僕も逃げるつもりだった」
彼女を見捨てさえしていれば、僕は龍としての力を見られることなく、ただの学生として平穏に過ごすはずだった。
そう、ただそれだけで済む話だったのだ。だけれども‐‐‐‐
「それをしたら、お終いだろう。一応、俺はこの地球から皆を守る、そのために活動してるんだから。
‐‐‐‐それなのに見捨てたら、本末転倒も良い所だろう」
そう、僕が戦う理由は、マヌスが戦う理由は、ドラバニア・ファミリーなる悪龍達から人々を守るためである。
そんな正義の集団と共に戦う僕が、ドラバニア・ファミリーの配下であるだろう怪人を放って置くだなんて、僕の心が許せない。
正義と言う名の、僕の心がそれを許さないのである。
「僕も戦う、そのために訓練してきたんだ。僕の指導官は優秀なんだ」
「あなたの指導官がどんな人間かは分かりませんが‐‐‐‐」
と、マイヨールはこんこんっと僕が生み出した土で出来た壁を叩く。壁はその程度ではビクともせずに、それからコウフジンが放っている骨の雪崩も防いでいる。
「‐‐‐‐どうやら、きちんとした指導をしていたのは本当のようですね」
「人ではない、けどな」
それだけ言うと、マイヨールは手を差し出す。僕はそれに対して、普通に手を握り返していた。
「協力関係の達成、ですね」
「そう、だな」
お互いにそれだけ確認すると、壁の中からコウフジンの様子をうかがう。
「オーホホホッ! ワタックシの勝利は既に決定事項だシャイン! 大人しく、その貧相な土の塊から出てくるでシャイン!」
……完全に油断しているみたいだけれども、下のアールスマグナなる骨龍の方は、土の壁を壊せないのは相変わらずだが骨を吐き続けている。
「この土の壁は、動かせないんですか? モグラのように相手の下を通っていけば、あいつの後ろを取れるんですが」
「可能だが、多分難しい。僕は土を一度に一定量しか操れない」
これはどうも他の龍もそうみたいらしい(ユカリ談)なのだが、龍は司る属性のモノを一定量までしかコントロールできないらしい。
例えば風を操る風龍のユカリも、一度に操れる風の量は決まっているのだとか。
----まぁ、そうでなかったら、僕達の地球なんて簡単に滅ぼされていただろう。
燃え盛る炎で海を干上がらせたり、荒れ狂う嵐で住居を吹っ飛ばし、尽きる事のない毒で全ての食べ物を傷ませる事が出来て、こんなちっぽけな星なんて一瞬だ。
……ちなみにこの意見は僕のではなく、悪龍であったユカリから得た情報なのだが。
「それに多分、この土の壁を動かすとなると、動かしている間に骨で潰される。今でさえ、ガタガタと音が鳴っているのに」
「なるほど、それではモグラ作戦は難しいという事ですね。でしたら、一瞬で消せますか? 一瞬で出せたのなら、その逆ならどうでしょう?」
「それだったら可能だ」という事を頭を縦に振って見せると、彼女はけん玉を何度かタンタンッと振り回すと、その振り回す球を一番先のけん先に突き刺す。
「だったら、一か八か、ですね」
☆
「オーホホホッ! ワタックシの勝利は確実でシャイン! さっさと降参して出てくるが良いでシャイン!」
身体として操っているアールスマグナの口から骨を出し、自身の光龍としての力で光速にしたヨーヨーの円盤を放ちながら、コウフジンは確実に相手を追いつめていると確信していた。
実際は、まだ土の壁を壊せてないし、油断は禁物なのが常識なのだが、コウフジンにそう言った知能はなかった。
元々、マフデルタが"適当に"思い作って作ったリュウシントである。
創作主が適当に作ったのなら、作られた者も適当。
彼女の知能は、自分が一番輝けば良い。そのために無駄な事は考えないという、視野が狭すぎる知能しかないのだから。
「ここで活躍して、ワタックシは幹部となり、後の世界で統治者の1人として輝くでシャイン! オーホホホッ!」
そう言って高笑いした時である、いきなり目の前の2人が隠れている土の壁が爆発した。
「そこまで強い攻撃はしてないでシャイン?!」
どうして爆発したと驚いている中で、男の方‐‐‐‐スバルがこちらに向かって来る。
そのスバルの前に、岩が、彼の前を先導するような形で宙を飛んでいる。どうもスバルの力で土を操っている、みたいである。
「(ふふんっ! 無駄でシャイン! どういう理屈かは分からないでシャインが、とにかく今のワタックシは相手の攻撃を曲げることが出来るでシャイン!
光で曲げられたシャイン! どうもあの男の方は土くれを動かせたとして、ワタックシの敵でないでシャイン!)」
コウフジンは、乗っ取った相手の力を使う力がある。
本当は仮面で乗っ取った子供達の誰かを乗っ取って【正義の味方ならば、民間人を犠牲に出来るはずがないでシャイン】作戦を実行する予定だったのだが、こうして骨龍のリュウシントを操っていると、それよりもはるかに良い。
なにせ、今のコウフジンは光と骨、2つの力を操るリュウシントである。
「(マヌスも、ドラバニア・ファミリーも、2つの力を司る龍なんて居ないでシャイン! ワタックシは選ばれたリュウシント! この力で今は骨でシャインが、もっと良いのを見つけて乗り移る!
そうして、ワタックシは最強のリュウシントとして、最終的にはマフデルタ様よりも凄い幹部になるでシャイン!)」
ニヤけているのが戻らない口元を押さえつつ、コウフジンは「来るなら来い!」とばかりに待ち構えるコウフジン。
「"土くれシュート"!」
「思った通りでシャイン! "曲がれ"でシャイン!」
スバルが目の前を浮かぶゴツゴツとした岩が飛ばすと、それに対してコウフジンはアールスマグナの曲げる力を使う。
先程の光と同じく曲がるモノだと思っていたのだが、どうもそう上手くは事が進まないらしい。
「ぐふっ……!」
岩はごく普通にコウフジンの身体に当たると共に、そのままアールスマグナと切り離されて吹っ飛ばされてしまう。
「くっ、光と違って岩は代えられないでシャインか!」
再びアールスマグナに乗っ取ろうと考えたコウフジンであったが、アールスマグナが居たあたりで白い煙がいきなり立ち昇る。
そして白い煙の中から、骨が浮き出た卵が出てきたのを見て、どうやらそれは無理だと理解した。
「ちっ……ここは逃げるしかないでシャインよ!」
クルクルとドレスだけの身軽な身体となったコウフジンはそのまま逃げるように、空高く飛んでいく。
「オーホホホッ! 地を這うだけの人間というのは、本当に無様で滑稽でシャイン!
悔しかったら、ここまでお出で! だシャイン!」
「‐‐‐‐えぇ。地を這うだけなんで、こういう事をします」
バンッ!
物凄い銃撃音が鳴り響くと共に、コウフジンの顔の真ん中に大きな穴が開いていた。
そして撃たれたところから徐々に力が抜けていき、自らが死んでいくのを感じていた。
「オッ、ホホホホ? 力が抜けて……バズーカでも撃たれたで……シャイン?」
クルッと、後ろを振り返ると、そこに居たのは小さな石を持ったマイヨールの姿であった。
「私は光を与えて武器にする力。けん玉はお気に入りではありますが、石だって光を大量に与えればバズーカ並みの破壊力の武器になりますよ」
「ワタックシが石ころなんかに、やられるなんてぇぇぇぇぇぇ!」
そんな言葉と共に、空中でコウフジンは爆発して、地面にサンサンと光る卵とアンティーク調のヨーヨーが落ちてくるのであった。
☆
「やったか……?」
「えぇ、そのようですね」
爆発と共に卵が落ちてきたのを見て、僕とマイヨールは2人で互いの顔を見合わせてガッツポーズ。
僕達は2人で、コウフジンの攻撃から防げた土の壁にもたれかかる。
「‐‐‐‐あなたのおかげで、マイヨール・ロスチャイルドこと私は、楽に敵を倒せました。協力に感謝します」
「こちらこそ、ありがとうございます」
お互いに手を交わして握手。
「正直、あなたの対応次第では、あなたを始末するつもりでした」
「‐‐‐‐っ!」
いきなり物騒な事を言い出した彼女に驚いて、僕は慌てて手を放して距離を取る。
「私の街に居るヴィランは多少の違いこそあれど、私やあなたと同じく、他人を一方的に倒せるだけの力を持った人間です。そこに明確な違いなんてない。
じゃあ、何を持って英雄か、悪人なのかと言われれば、答えは単純です」
「……それはなに?」
僕が問うと、彼女は年相応に膨らんでいる胸をポンポンっと叩く。
「心の問題、です。自分よりも弱いなにかを守る意思、そういうのがあるかどうかです。
そして、そういう人間は強くて、なにより‐‐‐‐」
彼女は笑顔で、改めて手を差し伸べる。
「‐‐‐‐信頼できる」
その言葉は、僕の聞こえすぎる耳に良く響く。
悪意のこもった声で苦しむくらいだ、その言葉に、一切の打算なく信頼とかそういう何かがこめられているのが伝わってくる。
……少々、こっ恥ずかしくなるくらいに。
「え、えっと……その……」
「おっ? なんです、なんです? なんで今更、握手くらいで照れちゃうんですかねぇ?」
ちなみに、今の言葉にスパイス的な形でからかっている感じも、けっこう伝わってきている。
「あなたのような人がいるチームです、仲間のドラゴンさん達とも是非ともお話を聞きたい所で‐‐‐‐」
そんな時である。
「なんて事になってるんですか!」
聞き覚えのある、あの女の声が聞こえてきたのは。
「……ヤツだ」
「ヤツ? あの女の声の主と知り合いで?」
マイヨールがそう尋ねるので、僕は「あの怪人を作った奴だ」と答えると、彼女は真剣な表情に変えて、僕と同じように警戒態勢を維持する。
見つからないようにそろーりと、土の壁に隠れて様子をうかがう。
「まったく……光龍のコウフジンの助けになればと、骨龍のアールスマグナを生み出したのですけれども、どうも2匹ともやられたようですね」
相変わらず、8匹の蛇が巻き付いた魔女帽子を被った独特の容姿をしているマフデルタはと言うと、虚空から【妖怪大辞典】なる本を取り出して、ペラペラとめくり始める。
「"ガシャドクロ"のアールスマグナ、あれは本家の妖怪とは似ても似つかない者になってしまいました。本家は"戦死や野垂れ死になど、埋葬されなかった死者達の骸骨や怨念が寄り集まった巨大な骸骨"となっていましたが、出来たのは化石の入れ違えや種類の判別間違えのような、生命倫理に反した生物。
"ガシャドクロ"として生み出されたのなら、もっと巨大で、偉大で、見ている者に恐怖を怯える外見が欲しかったですよ」
どうも、あの妙ちくりんな身体のアールスマグナは、やはり問題だったみたいである。
そりゃあ、顔が上下反転でついていたら、ちょっと疑うよな。やっぱり。
「それに比べて、あのコウフジンは完璧でした。えーっと、偶然の大発見的な?
ヨーヨーに光を纏わせて攻撃、さらには憑りつき能力。偶然の産物とは言え、素晴らしいリュウシントが出来ました」
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「妖怪って……何のことでしょう?」
「僕にも分かんないけど、恐らく製作者なりのモチーフみたいなモノじゃない?」
マイヨールの質問にそう自分なりの解釈を踏まえて伝えると、彼女は真剣な面持ちになる。
「そうですか。ならばきっと、あのコウフジンというのは美しい妖怪なんでしょう。なにせ、この私を思い浮かべる要素が多々ありましたから。
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「あぁ、だと良いな」
これに関しては、本当に適当に相槌をして応えていた。
マイヨールは「何かな、何かな?」と期待する形でワクワクしているようだが‐‐‐‐
「しっかし、最高でしたね。あの、"トリダシ"のコウフジンは!」
最高だと褒めたたえているマフデルタ。
それに対して、そんなコウフジンにちょっとばかり親近感を覚えていたマイヨールはと言うと、プルプルと震えながら‐‐‐‐
「だっ、だれがっ、トリダシですか! あぁん!?」
‐‐‐‐普通に、キレていた。
まぁ、自分が似ていると思っていたら、トリダシだなんて言われたら、ちょっとキレるよな。うん。
「むっ、どうも彼らが"トリダシ"のコウフジン、それに"ガシャドクロ"のアールマグナの2人を倒したようですね。
そして‐‐‐‐あなた方の顔は覚えさせていただきましたよ。次の戦いで、懲らしめて差し上げますよ。えーっと、スバルくん……それに、チキンスープのお嬢さん?」
「チキンスープじゃないって言ってるじゃないですか! あぁ、もう! 今すぐ倒します!」
そう言って怒りの顔のまま、マフデルタに向かっていくマイヨール。
こうして、マイヨールは怒りに任せて、「やべぇ、一旦退散的な?」と渦の中に逃げていくマフデルタを追って、渦の中へと消えていった。
‐‐‐‐ちなみにマイヨールは、次の日、不機嫌な顔で学校に登校してきた。
マフデルタは逃してしまい、あと、マフデルタの中では彼女の名前は「チキンスープ」で固定されてしまったらしい。
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