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The Oath I Protect ー守護の誓いー(前編)
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‐‐‐‐6月。じめじめとした梅雨の雨が人々の気持ち、そして僕の気持ちも憂鬱にしてしまう季節。
僕は、この季節が特に嫌いだ。基本的には僕はどの季節も嫌いである。
春は、浮かれ気分で馬鹿騒ぎしている連中が、鬱陶しくて嫌い。
夏は、蒸し暑くて動くのも怠くなって、面倒で嫌い。
秋は、落ちて散っていく葉っぱが物悲しさを誘発させて、寂しげで嫌い。
冬は、耳がかじかんで凍えてしまいそうになって、とにかく嫌い。
どの季節も面倒で面倒で嫌いなんだけれども、その中でも特に6月、この季節は最悪である。
『あぁっ、早く終わってくれないかなぁ! 梅雨は肌のノリが悪くて、嫌になるわ!』
『鬱だ……雨って時点で鬱だ……』
『いつ、洗濯物出せるんだろう? そろそろカビそう』
『最悪、最悪、最悪‐‐‐‐』
そう、僕の"無駄に"聞こえすぎるこの地獄耳は、クラスメイト達の独り言も盛大に聞き取ってしまう。
この時期の人々の独り言っていうのは、大抵これだ。聞いているこっちが憂鬱になりそうな、後ろ向きな言葉ばかり。
「(本当に……嫌になる……)」
これだから、この季節は嫌なんだ。
学校というこの無作為に集められた同年代の者共を集めたこの建物も嫌いっちゃ嫌いなんだけれども、とりわけこの季節の嫌さも相まって、余計に嫌さが増してくる。
「(たまにはこんな落ち込んだ声より、なんか良い声が聞きたい。黙ってても、耳を塞いでも聞こえるくらいならば、せめてそれくらいは聞いて欲しいものだ)」
でも、それが極端に聞こえないのがこの季節、なんだから。
----本当に、最悪だ。
ため息を吐きつつ、早くこの憂鬱すぎる学校の時間が終わってくれることを願うばかりである。
「さぁて、皆さぁん! 席についてまぁぁすかぁ?」
と、そんな中に空気を読めない担任教師が即・参上。
なんか苦手なんだよな、あの教師。生徒に対して「はぁい」とか、なんか無意味に明るい感じがどことなく誰かさんを思い浮かべるから。
「はぁい、今日はとーっておきの人物をご紹介させていただきますよぉ~?」
「入ってくだぁい、お嬢ちゃぁん?」と無駄に間延びする声が響く中、1人の少女が入ってくる。
灰色のツインテールヘアーの、くすんだ灰色の瞳がどことなくツリ目で厳し気な印象を与える少女。
胸元に赤いリボンを付けており、そしてなぜか左手でけん玉をぽんぽんっと、跳ねさせていた。
「‐‐‐‐初めまして、わたくし、ナイトレス・ハーバーシティから来ましたマイヨール・ロスチャイルドと申します。
皆さんの仲間になれますよう、精いっぱい努力しますので、どうかよろしくお願いします」
まるで生徒会演説のような、無駄のない聞きほれるような完璧な自己紹介は、僕のクラスメイト全員の心を奪っていた。実際にあの瞬間、あの憂鬱な独り言は消えたし。
けれども、僕は聞こえていた。
転校性の彼女が僕の方を見るなり‐‐‐‐
「‐‐‐‐見つけた、ハーフドラゴン」
‐‐‐‐などと、言っていたことを。
☆
「クリスマスまでとは言いましたが……長いですね」
とある図書館、その中に用意した特別な者だけが入れる部屋があった。
便宜上、部屋とは表現したが、そこはドラバニア・ファミリーの幹部の1人、闇を司る闇龍‐‐‐‐銃弾龍マフデルタが生み出した空間である。異次元の空間である。
この図書館に勤務している者達は誰も気付いていないし、所有している40代のオーナーおっさんならば尚更、である。
そんな特殊な空間の中には、マフデルタがこつこつと図書館から失敬した彼女お気に入りの本達が並んでいる。
『日本の妖怪百選』、『大和の国・妖怪大戦』、『妖怪/虎の巻』、『妖怪学講学』‐‐‐‐えとせとら、えとせとら。
マフデルタが好きな、日本の妖怪が書かれた書物が所狭しと並んでいた。
「良いですね、やはり良い。悪魔や魔物などの、日本外の異形の産物にはない、気高さや上品さが感じられる。
やはり、日本の妖怪は、良い具合に闇を感じる。まさに素晴らしきかな、妖怪の闇の魅力というのは!」
闇を司るからか、マフデルタは闇に惹かれる性質があった。
今まで侵略した多くの星々でも、その星の闇‐‐‐‐地球でいうマフィアや殺し屋などに惹かれる部分もあったが、これは今まで以上、である。
何故かは分からないが、マフデルタは妖怪、それも日本のものに強く心を惹かれている。
ぶっちゃけて言うと、12月25日のクリスマスに重大な作戦を行って、それまでは規模を縮小しようと考えたのも、この日本妖怪の見聞を広めるためだったりする。
……するの、だが、流石に7か月以上、悪龍として活動していないと、本部に何を言われるか分からない。
「仕方ありません、ここは今読んだこの妖怪を元に、新たな同志を作りましょう。えーっと、即席実験的な?」
マフデルタは自分の目の前に重力の渦を作り出して、その重力の渦の中に両手を突っ込む。
重力の渦の中から再び手を引き抜くと、マフデルタの手には左右それぞれ別のモノを手にしていた。左手にはアンティーク調の装飾が施されたヨーヨー、そして右手にはメカメカしい銃を手にしていた。
「今日は光龍の卵でいきますよ。さぁて、音声スタンバイ!」
【Shine! Cats Hide Their Claws, And Gives a Tusk.】
メカメカしい銃から音声が流れ終わると、マフデルタはヨーヨーに向かって銃を発射した。
銃から発射された真っ白な卵は、ヨーヨーにぶつかると共に白い煙に包まれる。
「オーホホホッ! このワッタクシの出番が来たようでシャイン!」
白い煙が晴れると共に、赤ワインよりも真っ赤なドレスを着た貴婦人姿のリュウシントが現れる。
そのリュウシントは頭に龍の兜を被ったドレス姿の令嬢で、龍を思わせる鱗の細い手。そしてドレスの裾には大量の仮面がびっしりと取り付けられていた。
「どうやら、無事に狙い通りのリュウシントが出来たようですね。初めまして、光龍。私は"ヤマタノオロチ"のマフデルタ、そしてあなたは‐‐‐‐」
「‐‐‐‐その質問には先に答えさせていただきますわ! マフデルタ様!」
しーっ、と人さじ指を1本立てて、新たに生まれた貴婦人のようなリュウシントは、マフデルタの言葉を遮る。
「ワッタクシは光を操る光龍のリュウシント、その名も【魔性龍コウフジン】でシャイン!
では、早速、この地球を我々ドラバニア・ファミリーの物とするために、作戦開始だシャイン!」
コウフジンと名乗った彼女は、ものすごい勢いでこの空間から消えていた。まさしく光陰矢の如しと言うべき程、速すぎる速度で、だ。
「……いや、今回はまだ作っただけで、作戦とかはないんですが」
一方で、部屋の中に取り残さられたマフデルタは茫然とした様子でその場に取り残されていた。
☆
どんなに面倒な事態でも終わりというのは訪れるもので、今日の授業は全て終わった。
僕にとっては友達もやりたいこともないただ学校という場所に閉じ込められるという胸糞悪い時間が終わって、後は下校するだけ。
そう、それだけのはずだった。
「さて、こってりじっくりと、話を聞かせてもらいましょうか。スバル・フォーデンくん?」
いつもと違う事と言えば、本日、早速ながらクラスメイト達の心を早くも掌握しつつある、転校性のマイヨール・ロスチャイルド。
彼女が何故か、僕を待ち構えていた、それもけん玉で"もしもし、かめよ。かめさんよ~"と刻みながら。それだけの事だ。
「まさか学校で話しかけられず、このように下校時間まで話しかけられないとは。お節介に聞こえるかもしれませんが、出来る限りやれる範囲で友達は作っておくのが良いと思いますよ?」
「本当に、余計なお世話、だよ」
「ちなみに大勢の人と仲良くなるには、作り笑顔と話題合わせだったりしますよ?」
身も蓋もないことを言い放ったマイヨールは、じっと僕の顔をそのキツイ目で睨みつける。
僕はなにも悪い事してないし、ついでに言えば僕の家にいるドラゴンの仲間の事もバレてないはずと思い、そのまま無視して歩く。
彼女は追いかけながら、さらに追及する。
「単刀直入に言います、あなたの仲間‐‐‐‐ドラゴンに会わせてください」
「いったい、何の事やらさっぱりですけど」
とぼけた様子で誤魔化すも、彼女はこちらを睨みつけたまま。ついでにけん玉も止まっていない。
ついでに言うと、僕の歩みも止まっていない。無駄に速めると怪しまれると思って、一定の速度を保ったまま。
「私は、隣のナイトレス・ハーバーシティであなたと同じ、活動をしています。そう、悪い悪党どもから街を守るヒーローを。
簡単に言えば、アイアンマンですね。スーツを着て、優れた科学技術を駆使して悪者から街を守るという」
「それは凄いですね、僕に付き纏ってもドラゴンに会えたりしてませんけど。後、僕はスパイダーマン派です」
適当に、僕はマイヨールに返事をする。
こんなのに相手するよりかは、ドラゴンのフレアリオンから特訓を受けた方がタメになる、だろうし。
「……今、何と言いました?」
と、今までずっと続けてきたけん玉を止めて、僕の前に立ちふさがるようにして前に出てくる。
「あなた、まさかスパイダーマン派、ですか? あんな、たまたま変異蜘蛛に噛まれたから超人的な能力を得ただけのお調子者じゃないですか!
あんななんちゃって超人なんかより、自身の弱さと脆さを自らの科学技術で困難に立ち向かう者の方が尊いでしょうが! そう思わない、思うよね、思いますよね!」
なんか心の中にある触れてはいけないスイッチに触れてしまったみたいで、さっきまで以上にキツい目つきで僕を睨みつけるマイヨール。
どうして"アイアンマン"はオーケーで、"スパイダーマン"がダメなのかは未だに全く分からないんだけれども。
と、彼女は「1977年」と、いきなり謎の年号を口にする。
ちなみに無視して先に行こうとすると、目で止められた。理不尽だ。
「‐‐‐‐1977年、スティーブン・スピルバーグ」
「えっと、いきなり何?」
「はぁ~、1977年でスティーブン・スピルバーグ監督作品と言えば、あの名作『未知との遭遇』に決まってるじゃないですか。それともあなたは5年後の同監督作品である『E.T.』派ですか?」
「いや、いきなりってのは、どうしていきなりそんなSF映画の話をし始めたって事なんだけど」
「どうしてもドラゴンに会わせてくれそうにないので、まずは仲良くなろうと思いまして。それで仲良くなるためには、やはり私自身の事を知ってもらおうと思ったんですよ」
それでどうして、映画作品の話になるかを教えて欲しいんだけれども。
「あなたがどうやって力を得たのかは、私が所属する世界を守るチームでは分析しきれませんでした。けれども、あなたが人とは違う、特殊な異能力の一種を持っていることは調べがついています」
「優秀な組織ですね、全員が僕の能力持ちという妄想を信じる絆の強さを感じます」
「……棘がある言葉ですね。まぁ、良いでしょう。あなたが何歳から力に目覚めたのかは別として、私が力に目覚めたのは9歳の頃です」
どうしよう、どうも話を聞いて貰えてないようである。
まぁ、僕も同じような物だから一緒か。
「9歳の誕生日の日、私はUFOに拉致られ、失礼、拉致られまして」
「それってもしかして、UFO拉致事件の事?」
「えぇ、文字通りキャトられて、私はUFOの中で改造手術を受けました。
そのUFOは何故だかドレスを思わせるような模様がある謎のUFOでして、私はその改造手術によってこの力を得ました」
ぽんぽんっと、彼女は自前のけん玉の球をクルクル回転させると、球が徐々に巨大化していく。
白い光が球の周囲を囲み、一回り、二回りほど球の大きさを大きくしていた。その上、光で棘まで球の表面に浮かび上がっている。
「これが私の力、私は《光よ我に》と呼んでいます。私はUFOの中で手術を受けて、全身に光が駆け回る光人間になった訳です。これが私が力を得た経緯になります」
「UFOねぇ……まぁ、そういう事なんだぁくらいしか言えないんですけどね。僕は普通の人間ですし……」
とりあえず彼女がなんか、普通とは違う能力持ちなのは確かである。
‐‐‐‐多分、彼女が言っている、僕がドラゴンであるという事もハッタリではなく、ちゃんと調べたうえで言っているのだろう。
「(これ以上は……誤魔化しきれないかな?)」
さて、どうしたら良いだろうか? どう誤魔化したら良いだろうか?
そんな事を僕が考えていると、マイヨールはキリッと目つきを鋭く尖らせる。
「そして私の力は光で、その力の使い道は……」
球をグルグルと回転させて、マイヨールは光を纏った巨大な球をそのまま僕の方へと放ってきた。
「ちょっ……!?」
いきなり目の前に迫ってくる光の球、それは僕の頬をかするように後ろへとものすごい速度で飛んでいき‐‐‐‐
「‐‐‐‐痛いでシャインっ!」
‐‐‐‐僕の後ろの、ドラゴンを吹っ飛ばした。
僕は、この季節が特に嫌いだ。基本的には僕はどの季節も嫌いである。
春は、浮かれ気分で馬鹿騒ぎしている連中が、鬱陶しくて嫌い。
夏は、蒸し暑くて動くのも怠くなって、面倒で嫌い。
秋は、落ちて散っていく葉っぱが物悲しさを誘発させて、寂しげで嫌い。
冬は、耳がかじかんで凍えてしまいそうになって、とにかく嫌い。
どの季節も面倒で面倒で嫌いなんだけれども、その中でも特に6月、この季節は最悪である。
『あぁっ、早く終わってくれないかなぁ! 梅雨は肌のノリが悪くて、嫌になるわ!』
『鬱だ……雨って時点で鬱だ……』
『いつ、洗濯物出せるんだろう? そろそろカビそう』
『最悪、最悪、最悪‐‐‐‐』
そう、僕の"無駄に"聞こえすぎるこの地獄耳は、クラスメイト達の独り言も盛大に聞き取ってしまう。
この時期の人々の独り言っていうのは、大抵これだ。聞いているこっちが憂鬱になりそうな、後ろ向きな言葉ばかり。
「(本当に……嫌になる……)」
これだから、この季節は嫌なんだ。
学校というこの無作為に集められた同年代の者共を集めたこの建物も嫌いっちゃ嫌いなんだけれども、とりわけこの季節の嫌さも相まって、余計に嫌さが増してくる。
「(たまにはこんな落ち込んだ声より、なんか良い声が聞きたい。黙ってても、耳を塞いでも聞こえるくらいならば、せめてそれくらいは聞いて欲しいものだ)」
でも、それが極端に聞こえないのがこの季節、なんだから。
----本当に、最悪だ。
ため息を吐きつつ、早くこの憂鬱すぎる学校の時間が終わってくれることを願うばかりである。
「さぁて、皆さぁん! 席についてまぁぁすかぁ?」
と、そんな中に空気を読めない担任教師が即・参上。
なんか苦手なんだよな、あの教師。生徒に対して「はぁい」とか、なんか無意味に明るい感じがどことなく誰かさんを思い浮かべるから。
「はぁい、今日はとーっておきの人物をご紹介させていただきますよぉ~?」
「入ってくだぁい、お嬢ちゃぁん?」と無駄に間延びする声が響く中、1人の少女が入ってくる。
灰色のツインテールヘアーの、くすんだ灰色の瞳がどことなくツリ目で厳し気な印象を与える少女。
胸元に赤いリボンを付けており、そしてなぜか左手でけん玉をぽんぽんっと、跳ねさせていた。
「‐‐‐‐初めまして、わたくし、ナイトレス・ハーバーシティから来ましたマイヨール・ロスチャイルドと申します。
皆さんの仲間になれますよう、精いっぱい努力しますので、どうかよろしくお願いします」
まるで生徒会演説のような、無駄のない聞きほれるような完璧な自己紹介は、僕のクラスメイト全員の心を奪っていた。実際にあの瞬間、あの憂鬱な独り言は消えたし。
けれども、僕は聞こえていた。
転校性の彼女が僕の方を見るなり‐‐‐‐
「‐‐‐‐見つけた、ハーフドラゴン」
‐‐‐‐などと、言っていたことを。
☆
「クリスマスまでとは言いましたが……長いですね」
とある図書館、その中に用意した特別な者だけが入れる部屋があった。
便宜上、部屋とは表現したが、そこはドラバニア・ファミリーの幹部の1人、闇を司る闇龍‐‐‐‐銃弾龍マフデルタが生み出した空間である。異次元の空間である。
この図書館に勤務している者達は誰も気付いていないし、所有している40代のオーナーおっさんならば尚更、である。
そんな特殊な空間の中には、マフデルタがこつこつと図書館から失敬した彼女お気に入りの本達が並んでいる。
『日本の妖怪百選』、『大和の国・妖怪大戦』、『妖怪/虎の巻』、『妖怪学講学』‐‐‐‐えとせとら、えとせとら。
マフデルタが好きな、日本の妖怪が書かれた書物が所狭しと並んでいた。
「良いですね、やはり良い。悪魔や魔物などの、日本外の異形の産物にはない、気高さや上品さが感じられる。
やはり、日本の妖怪は、良い具合に闇を感じる。まさに素晴らしきかな、妖怪の闇の魅力というのは!」
闇を司るからか、マフデルタは闇に惹かれる性質があった。
今まで侵略した多くの星々でも、その星の闇‐‐‐‐地球でいうマフィアや殺し屋などに惹かれる部分もあったが、これは今まで以上、である。
何故かは分からないが、マフデルタは妖怪、それも日本のものに強く心を惹かれている。
ぶっちゃけて言うと、12月25日のクリスマスに重大な作戦を行って、それまでは規模を縮小しようと考えたのも、この日本妖怪の見聞を広めるためだったりする。
……するの、だが、流石に7か月以上、悪龍として活動していないと、本部に何を言われるか分からない。
「仕方ありません、ここは今読んだこの妖怪を元に、新たな同志を作りましょう。えーっと、即席実験的な?」
マフデルタは自分の目の前に重力の渦を作り出して、その重力の渦の中に両手を突っ込む。
重力の渦の中から再び手を引き抜くと、マフデルタの手には左右それぞれ別のモノを手にしていた。左手にはアンティーク調の装飾が施されたヨーヨー、そして右手にはメカメカしい銃を手にしていた。
「今日は光龍の卵でいきますよ。さぁて、音声スタンバイ!」
【Shine! Cats Hide Their Claws, And Gives a Tusk.】
メカメカしい銃から音声が流れ終わると、マフデルタはヨーヨーに向かって銃を発射した。
銃から発射された真っ白な卵は、ヨーヨーにぶつかると共に白い煙に包まれる。
「オーホホホッ! このワッタクシの出番が来たようでシャイン!」
白い煙が晴れると共に、赤ワインよりも真っ赤なドレスを着た貴婦人姿のリュウシントが現れる。
そのリュウシントは頭に龍の兜を被ったドレス姿の令嬢で、龍を思わせる鱗の細い手。そしてドレスの裾には大量の仮面がびっしりと取り付けられていた。
「どうやら、無事に狙い通りのリュウシントが出来たようですね。初めまして、光龍。私は"ヤマタノオロチ"のマフデルタ、そしてあなたは‐‐‐‐」
「‐‐‐‐その質問には先に答えさせていただきますわ! マフデルタ様!」
しーっ、と人さじ指を1本立てて、新たに生まれた貴婦人のようなリュウシントは、マフデルタの言葉を遮る。
「ワッタクシは光を操る光龍のリュウシント、その名も【魔性龍コウフジン】でシャイン!
では、早速、この地球を我々ドラバニア・ファミリーの物とするために、作戦開始だシャイン!」
コウフジンと名乗った彼女は、ものすごい勢いでこの空間から消えていた。まさしく光陰矢の如しと言うべき程、速すぎる速度で、だ。
「……いや、今回はまだ作っただけで、作戦とかはないんですが」
一方で、部屋の中に取り残さられたマフデルタは茫然とした様子でその場に取り残されていた。
☆
どんなに面倒な事態でも終わりというのは訪れるもので、今日の授業は全て終わった。
僕にとっては友達もやりたいこともないただ学校という場所に閉じ込められるという胸糞悪い時間が終わって、後は下校するだけ。
そう、それだけのはずだった。
「さて、こってりじっくりと、話を聞かせてもらいましょうか。スバル・フォーデンくん?」
いつもと違う事と言えば、本日、早速ながらクラスメイト達の心を早くも掌握しつつある、転校性のマイヨール・ロスチャイルド。
彼女が何故か、僕を待ち構えていた、それもけん玉で"もしもし、かめよ。かめさんよ~"と刻みながら。それだけの事だ。
「まさか学校で話しかけられず、このように下校時間まで話しかけられないとは。お節介に聞こえるかもしれませんが、出来る限りやれる範囲で友達は作っておくのが良いと思いますよ?」
「本当に、余計なお世話、だよ」
「ちなみに大勢の人と仲良くなるには、作り笑顔と話題合わせだったりしますよ?」
身も蓋もないことを言い放ったマイヨールは、じっと僕の顔をそのキツイ目で睨みつける。
僕はなにも悪い事してないし、ついでに言えば僕の家にいるドラゴンの仲間の事もバレてないはずと思い、そのまま無視して歩く。
彼女は追いかけながら、さらに追及する。
「単刀直入に言います、あなたの仲間‐‐‐‐ドラゴンに会わせてください」
「いったい、何の事やらさっぱりですけど」
とぼけた様子で誤魔化すも、彼女はこちらを睨みつけたまま。ついでにけん玉も止まっていない。
ついでに言うと、僕の歩みも止まっていない。無駄に速めると怪しまれると思って、一定の速度を保ったまま。
「私は、隣のナイトレス・ハーバーシティであなたと同じ、活動をしています。そう、悪い悪党どもから街を守るヒーローを。
簡単に言えば、アイアンマンですね。スーツを着て、優れた科学技術を駆使して悪者から街を守るという」
「それは凄いですね、僕に付き纏ってもドラゴンに会えたりしてませんけど。後、僕はスパイダーマン派です」
適当に、僕はマイヨールに返事をする。
こんなのに相手するよりかは、ドラゴンのフレアリオンから特訓を受けた方がタメになる、だろうし。
「……今、何と言いました?」
と、今までずっと続けてきたけん玉を止めて、僕の前に立ちふさがるようにして前に出てくる。
「あなた、まさかスパイダーマン派、ですか? あんな、たまたま変異蜘蛛に噛まれたから超人的な能力を得ただけのお調子者じゃないですか!
あんななんちゃって超人なんかより、自身の弱さと脆さを自らの科学技術で困難に立ち向かう者の方が尊いでしょうが! そう思わない、思うよね、思いますよね!」
なんか心の中にある触れてはいけないスイッチに触れてしまったみたいで、さっきまで以上にキツい目つきで僕を睨みつけるマイヨール。
どうして"アイアンマン"はオーケーで、"スパイダーマン"がダメなのかは未だに全く分からないんだけれども。
と、彼女は「1977年」と、いきなり謎の年号を口にする。
ちなみに無視して先に行こうとすると、目で止められた。理不尽だ。
「‐‐‐‐1977年、スティーブン・スピルバーグ」
「えっと、いきなり何?」
「はぁ~、1977年でスティーブン・スピルバーグ監督作品と言えば、あの名作『未知との遭遇』に決まってるじゃないですか。それともあなたは5年後の同監督作品である『E.T.』派ですか?」
「いや、いきなりってのは、どうしていきなりそんなSF映画の話をし始めたって事なんだけど」
「どうしてもドラゴンに会わせてくれそうにないので、まずは仲良くなろうと思いまして。それで仲良くなるためには、やはり私自身の事を知ってもらおうと思ったんですよ」
それでどうして、映画作品の話になるかを教えて欲しいんだけれども。
「あなたがどうやって力を得たのかは、私が所属する世界を守るチームでは分析しきれませんでした。けれども、あなたが人とは違う、特殊な異能力の一種を持っていることは調べがついています」
「優秀な組織ですね、全員が僕の能力持ちという妄想を信じる絆の強さを感じます」
「……棘がある言葉ですね。まぁ、良いでしょう。あなたが何歳から力に目覚めたのかは別として、私が力に目覚めたのは9歳の頃です」
どうしよう、どうも話を聞いて貰えてないようである。
まぁ、僕も同じような物だから一緒か。
「9歳の誕生日の日、私はUFOに拉致られ、失礼、拉致られまして」
「それってもしかして、UFO拉致事件の事?」
「えぇ、文字通りキャトられて、私はUFOの中で改造手術を受けました。
そのUFOは何故だかドレスを思わせるような模様がある謎のUFOでして、私はその改造手術によってこの力を得ました」
ぽんぽんっと、彼女は自前のけん玉の球をクルクル回転させると、球が徐々に巨大化していく。
白い光が球の周囲を囲み、一回り、二回りほど球の大きさを大きくしていた。その上、光で棘まで球の表面に浮かび上がっている。
「これが私の力、私は《光よ我に》と呼んでいます。私はUFOの中で手術を受けて、全身に光が駆け回る光人間になった訳です。これが私が力を得た経緯になります」
「UFOねぇ……まぁ、そういう事なんだぁくらいしか言えないんですけどね。僕は普通の人間ですし……」
とりあえず彼女がなんか、普通とは違う能力持ちなのは確かである。
‐‐‐‐多分、彼女が言っている、僕がドラゴンであるという事もハッタリではなく、ちゃんと調べたうえで言っているのだろう。
「(これ以上は……誤魔化しきれないかな?)」
さて、どうしたら良いだろうか? どう誤魔化したら良いだろうか?
そんな事を僕が考えていると、マイヨールはキリッと目つきを鋭く尖らせる。
「そして私の力は光で、その力の使い道は……」
球をグルグルと回転させて、マイヨールは光を纏った巨大な球をそのまま僕の方へと放ってきた。
「ちょっ……!?」
いきなり目の前に迫ってくる光の球、それは僕の頬をかするように後ろへとものすごい速度で飛んでいき‐‐‐‐
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