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White Dragon team ードラバニア・ファミリー。ー(後編)
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どんな者にも朝はやって来る。
昨日、「お前はドラゴンの教えの体現者」だなんて骨董無形な事を言われた僕にも、朝と言うのはやって来る。
「眠い……けど……起きな……きゃ……」
なんだか、身体がすっごく重い。それになんだかぽかぽかと暖かくて、また眠ってしまいそう。
でも、ダメだ。僕の家で二度寝という行為は、最悪の朝を意味する行為だ。
僕の家の朝ご飯はほとんど僕が作っている。昼とか、夜とかは別なんだけど。
僕が朝ご飯を作らないと、あの父が、ダットン・フォーデンが作ることになる。
そう、朝だろうが、昼だろうが、夜だろうが、料理と言ったらパンケーキしか作らないあの父が、である。
朝にパンケーキを食べる事が決して悪いとは言いたくないが、父のパンケーキはとにかく"重い"。
そりゃあもう、朝から食べるにしては満足感たっぷりすぎて、重すぎるあの仕事用のパンケーキしか作らないのだ。
あれを朝からは、キツい。だから、起きて簡単にでも用意しておかなくてはいけない。
なのに、今日はどうしてだが、いつもと様子が違う。
あのパンケーキを食べてないのに身体が重いし、身体が温かくて眠気が襲って来る。
「(今日はどうしたんだ? そこまで、昨日の話で気疲れでもしてたのか?)」
正直、寝ていたいのは山々だが、それだと朝食的な問題があるために、僕はベッドに手をついて起き上がろうと……
----むにゅんっ!
「ひゃんっ!」
……おや? なんでだろう、僕の第六感が、警告のアラームをガンガンに鳴らしている。
今、自分には良くないことが起きているんだって。
世の中には認めたくない事もある。多分、今の状況だとかなんとか。
それでも僕は、状況を確認するために、ゆっくりと眼を開けた。
「あっ♡ よーやく、起きたんだね。スーちゃん♡」
嬉しそうに、金髪のドラゴン女であるエクレルは笑っていた。
‐‐‐‐何故か、全裸で。
「ひっ、ぎゃああああああああああああああ!」
僕の顔が一気に真っ赤になって、そのままベッドから落ちてしまっていた。
エクレルは、布団にくるまっていたが、その下はどう見ても全裸。
女性らしい彼女の身体つきが、薄い布団一枚の下に見えていた。
「ふぅ~、スーちゃんもドラゴンなんだね。一度寝たら、気付かないって所もドラゴンっぽいよ~!
お姉ちゃん、スーちゃんの一面が知れて、嬉しいっ!」
「うっ、嬉しいのはい、良いがっ! なんで裸なんだっ! なんで隣で寝てるんだっ!」
「え~、だってあたし、裸族だし~。スーちゃんのお姉ちゃんだし~」
「ダメだ! 答えになってない!」
彼女が裸で横に寝ていたって事は、あの妙な重みや温かさは……ダメだ、想像するな、僕よ。
「と、とにかく服をっ!」
「そうですっ、服を着なさいっ! エクレルちゃん!」
……ん? あれ、おかしいな?
「えっと……ユカリさん?」
「なんですか、スバルくん?」
「なんで、あなたが、僕の部屋に居るんですか?」
と、僕はさも当たり前のように部屋の中にいるユカリに話しかける。
彼女が僕の叫び声を聞いて入って来たのではないのは事実だ。それは僕の耳が証明している。
「決まってます、可愛いスバルくんの寝顔を間近で観察するためです」
「だったら、あの裸族ドラゴンを止めろよっ!?」
「ひっど~い! スーちゃん、お姉ちゃんに冷たいぞ~!」
ぶーぶーと文句を言うエクレルに、僕はそんな事はないと心で誓う。
僕の対応は、いきなり現れた得体の知れないドラゴン女に対する対応としては普通のはずだ。
「‐‐‐‐2人とも、その辺で良いか」
と、まっとうな口調でフレアリオンがそう言葉にする。
すると、先程まで叫んでいたエクレルとユカリの2人が、しゅんっと背筋を伸ばして、次の指示を待つ体勢に移行する。まるで軍隊かとでも言うように。
「どうしたのですか、フレアリオンさん?」
「あぁ、どうやらドラバニア・ファミリーが現れたようだ。街に被害が出ている」
「分かったよ、フレーちゃん! 今すぐ着替えて、準備するねっ!」
「私も、準備してきます!」
ばんっと、大きな音を立てて、ユカリとエクレルの2人が扉を通って僕の部屋から出ていく。
2階に行く音を聞いていると、「お前も準備しろ、スバル・フォーデン」とフレアリオンがそう言う。
「お前にも、我々の仕事を見せたい。私達がどういう形で敵と立ち向かい、この地球を守っているのかを」
「……それは別に良いんだけど」
どうせ拒否しても無駄だ、だったら受けるしかない。
それは分かる、分かるのだが‐‐‐‐
「フレアリオンさん、あなたはどうやって入った?」
僕は耳が良い、だから分かる。
フレアリオンが扉を開けた音は聞こえなかったから。
フレアリオンの返事は、なかった。
☆
昔の人が書いた作品の中に、"トンネルを抜けると、そこは雪国だった"なる文章がある。
実際にその人が、電車で旅行なんなりをして、トンネルを抜けたかどうかを知らないし、そもそもこれが比喩表現の一種で、本当は一種の開いてはいけない類の趣向の扉を指した言葉なのかもしれないけれども。
とにかく、僕が何を言いたいかと言えば、今、僕はこの表現を使いたい。
‐‐‐‐扉を開けると、そこは白い糊の国だった。
玄関を開けて、僕の家がある山の下に広がるレイク・ラックタウンの街並み。
その街並みである綺麗な家々、親しみ深い道路、想いでの街並み全てが、真っ白な糊でべっとりと、塗りたくられていた。
「ぎゃああああ! ひっ、引っ付いて取れなぁい!」
「助けて! 動けないの、助けて!」
「わ、わしの入れ歯がぁぁ……」
そして、僕の耳はその糊で困っている人々の叫びを、事細かに届けていた。
「見えるか、スバル・フォーデン。今、下の街では昨日の酒龍みたいなヤツの一味が暴れている。
あの白い糊ばかりが見える景色は、お前にはどう見える? あそこに行きたいと思うか?」
「どう……って……言われても……」
"どう見える"かと言われれば、僕にとっては‐‐‐‐
「‐‐‐‐自分だったら、行きたくない、です」
僕の質問にフレアリオンはコクリと頷き、
「けれども、私は、あの光景は良いモノだと思っている」
僕の回答とは、全く逆の回答を提示してきた。
あんな糊だらけで、住みづらさの欠片もないような光景に対して、良いモノ、そう答える彼女はどうかしている。
けれどもフレアリオンの言葉に、エクレルとユカリ、2匹のドラゴン女も同意する。
マジかよ、ドラゴンってのはあぁいう景色が好きなのか?
どうも嘘じゃないようで、ドラゴン達はあの糊で埋め尽くされている街を見て、うっとりとした感動したような表情を浮かべていた。
「私達、マヌス。それに彼ら、ドラバニア・ファミリー。2つの組織に分かれようとも、故郷は同じです。
‐‐‐‐誰も居ない、緩やかな滅びすら感じるような光景。故郷である、あの宇宙のような静寂で完成された世界。それがドラゴン達にとっては至高の世界」
「これが、あなた達にとっては素晴らしい、と言うのか?」
こんな、糊で人々がくっついていて、ベトベトとしていて気持ち悪そうな、こんなのが?
「とてもじゃないが、理解できない。こんな光景なんか、僕にとっては悪夢にしか思えない」
「‐‐‐‐えぇ、そう思いたいんです。私達は」
と、そこで初めて、彼女達ドラゴンはこちらを振り返る。
「マヌスとドラバニア・ファミリーの違いがあるとしたら、目指すべき地の差。
ドラバニア・ファミリーが世界に故郷を再現しようとしているとしたら、私達は人間達と共に、"故郷より素晴らしい場所"を目指して、歩みを続けようとしている。
故郷よりも、ドラゴンだけよりも、人と友にいればさらにいい景色が見られる、そう信じて。
‐‐‐‐世界を救うというと、大げさに聞こえるかもしれない。ならせめて、良い場所を見たい。そう思って戦わないか、スバル・フォーデン?」
フレアリオンは僕に向かって、手を差し伸べる。
一緒に戦おう、そう告げるがのごとく。
それに対して僕は‐‐‐‐彼女の手を取る。
フレアリオンの手を取った事で、ユカリ、エクレルの2人のドラゴン音が嬉しそうに顔を緩める。
「‐‐‐‐世界を救うなんて言われると、大げさに聞こえる。だから、良い場所を見る。
そのために、僕に出来る事があれば」
"ごく普通の人間になりたい"。変な耳を持っている僕は、常々、そう思ってきた。
だからと言えども、見ないようにするわけにはいけない。
見ないようにしても、僕の耳は聞こえてしまうのだから。
それに、ごく普通の中学3年生だとしたら。
「こういう戦闘に燃えるべき、なんだろうし」
☆
「‐‐‐‐作戦を整理しよう」
フレアリオンは僕の手を強く握りしめたまま、そう宣言する。
いや、僕としては、もう手を放して貰いたい。うん、だって痛いし。
「まず、私達がすべきことはあの糊の街を元通りにすることだ。そして、この糊ばかりの世界を作った者を倒さなければならない。
そのために、私達は二手に分かれる。そう考えている」
「と言う訳で、スーちゃん! まずはあたしの出番っ!」
エクレルの左手が天高くを指差し、そして中指を1本立てると、指を伝って青い稲妻が空の雲へと昇っていく。
「スーちゃん、あたしは雷龍! あたしの身体の中はゴロゴロで、ピッカピカァな、雷が駆け巡っているの!
あたしはそんな雷を、自由自在に操ることが出来るのだぁ!」
エクレルの頭上の雲が青く光り輝き、そして大きな雷となって街へと降り注いだ。
雷は街のあちこちに雨のように降り注ぎ、今まで聞こえていた人達の声が雷と共に聞こえなくなった。
「よしっ! これで大丈夫っ!」
「いや、大丈夫じゃないだろう!? 雷を街に落としたら、人々が感電死してしまうじゃないか?!」
「えっと……物凄く不本意ではありますが、あれで正しいんですよ。スバルくん」
と、背中の翼で空を舞うユカリが、嫌そうな顔でそう言っていた。
「彼女の雷は、彼女の意思で制御出来るんです。スバルくん、彼女は雷を落として、人々を感電で気絶させて、この事態を忘れさせることが出来る。これが彼女の、雷龍としての能力です」
「へへーん! どうだ、スーちゃん! すっごぉいだろぉう!」
「……とは言え、いきなり説明なしで、雷を落とすのはどうかと思いますが」
「それよりも私を見てください、スバルくん!」と、ユカリは翼で自由に空を舞う。
「私は、ドラゴンの中でも数少ない翼で自由に空を飛べる飛竜であり、風を自由自在に操る風龍でもあります。
そして、スバルくん! 私はこういうことが出来ます!」
クルリ、と空中で、まるでスケート選手のように自由自在に舞うように回り、風を生み出す。
生み出された風は竜巻となって、街を覆っていく。それと同時に、竜巻の中になにかが入り込み、こちらへと飛んでくる。
「あれです、私の風は的確に、そう、エクレルちゃんよりも的確にっ! あの場所にいた悪しきドラゴンを見つけ出して、ここまで届けますっ!」
彼女の言葉通り、竜巻で舞い上げられたなにかは、ものすごい勢いでこちらへと飛んできて、そして僕達の目の前で倒れる。
「痛いカニーよぉ~。いきなり何が起きたって、カニか?」
目の前に現れた龍は、蟹だった。
泥まみれの顔の中で天高く伸びた目、それに坊主の袈裟のような服装。
ドラゴンの両手の上に大きな白い蟹のハサミのような物を取り付け、背中には同じく白くて大きい甲羅を背負っていた。
甲羅には【接着第一】という文字が刻まれており、頭には紋様が描かれた銀色のメダルを付けた龍人間。
恐らく……こいつがあの街をあんな風にした犯人で間違いない。
「貴様ら、このカニキチをドラバニア・ファミリーのリュウシントが1匹、【泥水龍グルキャンサー】と知っての狼藉か! 図が高いってカニよ!」
えっへん、と胸を張るグルキャンサーと名乗った糊の野郎。それを無視し、フレアリオンは胸の首だけドラゴンから火を吐いて、竜巻と合わせる。
炎の竜巻となったレイク・ラックタウン上の竜巻は、レイク・ラックタウンに降り注いで、今度は白い固まった糊が宙を舞う。
「ちなみに私は、火の龍。このように火を用いて、接着剤のみを固める事も可能だ」
「チクショウってカニ! カニキチが一生懸命、『糊でべたべたで地球侵略』作戦を実行中だったカニなのに!
許せないってカニ! これでも喰らうカニ、接着泡!」
ブクブクブクっ、とグルキャンサーの口から真っ白な泡が出てくる。
恐らく、あの泡に当たるとまずそうだ。
「さぁ、スバル・フォーデン、最後は君だ。君はマグノリアと同じく、地を司る龍‐‐‐‐地龍の力を持っている。
君に適性がある地に関わるものなら、使えるはずだ。ユカリ、エクレル、手を出さずに見守るぞ」
「なるほど……」
僕は今までの3人の行動を思い返していた。
火龍であるフレアリオンは火を、風龍であるユカリは風を、そして雷龍であるエクレルは雷を、自由自在に操っていた。
「じゃあ、地龍の力がある僕が操れるとしたら‐‐‐‐」
「えぇい、接着泡! 発射だカニよ!」
パカッと、大きく口を開けると共に、大量のべっとりとした白い糊の泡が放たれる。それは空を舞っていた葉っぱなどを巻き込みつつ、こちらへと向かって来る。
「‐‐‐‐石よ、行けっ!」
僕が力強くそう意気込むと共に、僕の足が、あの大きな龍の足へと変わり、そこから小さな飛礫のような石が飛んでいき、白い糊の泡が石とぶつかって落ちていく。
そのうちの1つの石が、白い接着泡と共にかのドラゴンの口に引っ付いた。
「スバルくん、流石ですっ! これで相手は糊の泡を出せなくなりましたっ!」
「えぇい、あんたらを倒した後で戻すカニ! それと接着泡だけが、こちらの攻撃手段ではないカニ!」
えいっ、と大きな蟹のハサミをこちらへ向けると、グルキャンサーの蟹のハサミから泥が一直線に噴射される。
それは地面を抉りつつ、こちらに発射され続ける。まるでレーザーのようだ。
「フレーちゃん!? レーザーだよっ?! 助けないと!?」
「大丈夫だ……行けるな、スバル・フォーデン!」
信頼かなにかでそう言ってくれるが、僕としては「早く助けて欲しい」、その一言に尽きる。
さっきから防ごうと、石を放っているのに、泥のレーザーに当たると共に石が真っ二つに分かれていた。
「(石ではダメだ、同様に岩でもダメだろう。くそぅ、地龍って石とか、岩とか、こういうのしかないのか?)」
頭の中で考えていると、ふいに頭の中に考えが浮かんだ。
まるで情報がある場所に、繋がったとでも言うべきだろうか。
「‐‐‐‐"重力操作"! "曲がれ"っ!」
身体の中のなにかがごっそりと減っていくのを感じると共に、目の前に、歪みが生まれる。
目には見えないが、それでもなにか歪みのよう類が目の前に存在したことが手のように分かり、僕の目の前で泥のレーザーはその歪みに当たって、大きく上へと反れる。
「カニィ?! 泥レーザーが変な方に行ったカニ?!」
「‐‐‐‐そして、"落ちろ"!」
またしてもごっそりと身体からなにかが減るのを感じ、僕の視界の外で歪みが生まれる。
そして、泥のレーザーはその歪みにぶつかって、くるりと回り込むようにして、泥のレーザーはグルキャンサーの頭上から、先程よりも強い勢いで降り注ぐ。
「ぎゃああああああ! 痛いカニよぉっぉぉぉぉぉぉ!」
「凄い、スバルくん! 流石はあの【天下の破壊神】と呼ばれたマグノリアの息子!」
「本当だね、スーちゃんは【星を武器にする龍】と呼ばれたマグノリア様そっくり!」
「えぇ、スバル・フォーデンは【究極の完成龍】なマグノリアそっくりだ……さて、止めと行こう!」
なんか3人の、母に対する評価が気になるところではあるが、3人はそれぞれ龍の形態になって、そのままグルキャンサーへ突っ込んでいく。
「「「マヌス・トリプルドラゴンフィニッシュ!」」」
3人がそれぞれの龍の形態で、武技を振るう。
グルキャンサーは燃えあがり、空を舞い、そして雷と共に横へ吹っ飛んだ。
「~~~~~~っ! それじゃあ、皆さん! カニキチ、サラバァイ……カニ……」
グルキャンサーは爆破すると、空中に接着剤が飛んでいき、コロコロとこちらには茶色い龍の卵が転がってくる。それをユカリが手を触れると、緑色の膜が纏わって、そのまま姿が消えた。
「スバルくん、今、私の手で卵を安全な場所まで飛ばしましたよ。
さて、それよりも‐‐‐‐」
クルッ、とこちらへと振り返るユカリ。
「凄いよ、スーちゃん! やっぱり、スーちゃんは凄い子だね!」
「あぁ、流石はスバル・フォーデン。我々の仲間だ」
よしよしと、褒めているエクレルとフレアリオンの姿があった。
それを見て、ユカリが「私も! 私も褒めますよ、スバルくん!」と慌てて、こちらへとやって来る。
僕はと言うと、下のレイク・ラックタウンがまだ元の状態に戻ったとも言えないし、やることも、聞きたいことも山済みだ。
けど、こうして褒められるのは、悪くない。
昨日、「お前はドラゴンの教えの体現者」だなんて骨董無形な事を言われた僕にも、朝と言うのはやって来る。
「眠い……けど……起きな……きゃ……」
なんだか、身体がすっごく重い。それになんだかぽかぽかと暖かくて、また眠ってしまいそう。
でも、ダメだ。僕の家で二度寝という行為は、最悪の朝を意味する行為だ。
僕の家の朝ご飯はほとんど僕が作っている。昼とか、夜とかは別なんだけど。
僕が朝ご飯を作らないと、あの父が、ダットン・フォーデンが作ることになる。
そう、朝だろうが、昼だろうが、夜だろうが、料理と言ったらパンケーキしか作らないあの父が、である。
朝にパンケーキを食べる事が決して悪いとは言いたくないが、父のパンケーキはとにかく"重い"。
そりゃあもう、朝から食べるにしては満足感たっぷりすぎて、重すぎるあの仕事用のパンケーキしか作らないのだ。
あれを朝からは、キツい。だから、起きて簡単にでも用意しておかなくてはいけない。
なのに、今日はどうしてだが、いつもと様子が違う。
あのパンケーキを食べてないのに身体が重いし、身体が温かくて眠気が襲って来る。
「(今日はどうしたんだ? そこまで、昨日の話で気疲れでもしてたのか?)」
正直、寝ていたいのは山々だが、それだと朝食的な問題があるために、僕はベッドに手をついて起き上がろうと……
----むにゅんっ!
「ひゃんっ!」
……おや? なんでだろう、僕の第六感が、警告のアラームをガンガンに鳴らしている。
今、自分には良くないことが起きているんだって。
世の中には認めたくない事もある。多分、今の状況だとかなんとか。
それでも僕は、状況を確認するために、ゆっくりと眼を開けた。
「あっ♡ よーやく、起きたんだね。スーちゃん♡」
嬉しそうに、金髪のドラゴン女であるエクレルは笑っていた。
‐‐‐‐何故か、全裸で。
「ひっ、ぎゃああああああああああああああ!」
僕の顔が一気に真っ赤になって、そのままベッドから落ちてしまっていた。
エクレルは、布団にくるまっていたが、その下はどう見ても全裸。
女性らしい彼女の身体つきが、薄い布団一枚の下に見えていた。
「ふぅ~、スーちゃんもドラゴンなんだね。一度寝たら、気付かないって所もドラゴンっぽいよ~!
お姉ちゃん、スーちゃんの一面が知れて、嬉しいっ!」
「うっ、嬉しいのはい、良いがっ! なんで裸なんだっ! なんで隣で寝てるんだっ!」
「え~、だってあたし、裸族だし~。スーちゃんのお姉ちゃんだし~」
「ダメだ! 答えになってない!」
彼女が裸で横に寝ていたって事は、あの妙な重みや温かさは……ダメだ、想像するな、僕よ。
「と、とにかく服をっ!」
「そうですっ、服を着なさいっ! エクレルちゃん!」
……ん? あれ、おかしいな?
「えっと……ユカリさん?」
「なんですか、スバルくん?」
「なんで、あなたが、僕の部屋に居るんですか?」
と、僕はさも当たり前のように部屋の中にいるユカリに話しかける。
彼女が僕の叫び声を聞いて入って来たのではないのは事実だ。それは僕の耳が証明している。
「決まってます、可愛いスバルくんの寝顔を間近で観察するためです」
「だったら、あの裸族ドラゴンを止めろよっ!?」
「ひっど~い! スーちゃん、お姉ちゃんに冷たいぞ~!」
ぶーぶーと文句を言うエクレルに、僕はそんな事はないと心で誓う。
僕の対応は、いきなり現れた得体の知れないドラゴン女に対する対応としては普通のはずだ。
「‐‐‐‐2人とも、その辺で良いか」
と、まっとうな口調でフレアリオンがそう言葉にする。
すると、先程まで叫んでいたエクレルとユカリの2人が、しゅんっと背筋を伸ばして、次の指示を待つ体勢に移行する。まるで軍隊かとでも言うように。
「どうしたのですか、フレアリオンさん?」
「あぁ、どうやらドラバニア・ファミリーが現れたようだ。街に被害が出ている」
「分かったよ、フレーちゃん! 今すぐ着替えて、準備するねっ!」
「私も、準備してきます!」
ばんっと、大きな音を立てて、ユカリとエクレルの2人が扉を通って僕の部屋から出ていく。
2階に行く音を聞いていると、「お前も準備しろ、スバル・フォーデン」とフレアリオンがそう言う。
「お前にも、我々の仕事を見せたい。私達がどういう形で敵と立ち向かい、この地球を守っているのかを」
「……それは別に良いんだけど」
どうせ拒否しても無駄だ、だったら受けるしかない。
それは分かる、分かるのだが‐‐‐‐
「フレアリオンさん、あなたはどうやって入った?」
僕は耳が良い、だから分かる。
フレアリオンが扉を開けた音は聞こえなかったから。
フレアリオンの返事は、なかった。
☆
昔の人が書いた作品の中に、"トンネルを抜けると、そこは雪国だった"なる文章がある。
実際にその人が、電車で旅行なんなりをして、トンネルを抜けたかどうかを知らないし、そもそもこれが比喩表現の一種で、本当は一種の開いてはいけない類の趣向の扉を指した言葉なのかもしれないけれども。
とにかく、僕が何を言いたいかと言えば、今、僕はこの表現を使いたい。
‐‐‐‐扉を開けると、そこは白い糊の国だった。
玄関を開けて、僕の家がある山の下に広がるレイク・ラックタウンの街並み。
その街並みである綺麗な家々、親しみ深い道路、想いでの街並み全てが、真っ白な糊でべっとりと、塗りたくられていた。
「ぎゃああああ! ひっ、引っ付いて取れなぁい!」
「助けて! 動けないの、助けて!」
「わ、わしの入れ歯がぁぁ……」
そして、僕の耳はその糊で困っている人々の叫びを、事細かに届けていた。
「見えるか、スバル・フォーデン。今、下の街では昨日の酒龍みたいなヤツの一味が暴れている。
あの白い糊ばかりが見える景色は、お前にはどう見える? あそこに行きたいと思うか?」
「どう……って……言われても……」
"どう見える"かと言われれば、僕にとっては‐‐‐‐
「‐‐‐‐自分だったら、行きたくない、です」
僕の質問にフレアリオンはコクリと頷き、
「けれども、私は、あの光景は良いモノだと思っている」
僕の回答とは、全く逆の回答を提示してきた。
あんな糊だらけで、住みづらさの欠片もないような光景に対して、良いモノ、そう答える彼女はどうかしている。
けれどもフレアリオンの言葉に、エクレルとユカリ、2匹のドラゴン女も同意する。
マジかよ、ドラゴンってのはあぁいう景色が好きなのか?
どうも嘘じゃないようで、ドラゴン達はあの糊で埋め尽くされている街を見て、うっとりとした感動したような表情を浮かべていた。
「私達、マヌス。それに彼ら、ドラバニア・ファミリー。2つの組織に分かれようとも、故郷は同じです。
‐‐‐‐誰も居ない、緩やかな滅びすら感じるような光景。故郷である、あの宇宙のような静寂で完成された世界。それがドラゴン達にとっては至高の世界」
「これが、あなた達にとっては素晴らしい、と言うのか?」
こんな、糊で人々がくっついていて、ベトベトとしていて気持ち悪そうな、こんなのが?
「とてもじゃないが、理解できない。こんな光景なんか、僕にとっては悪夢にしか思えない」
「‐‐‐‐えぇ、そう思いたいんです。私達は」
と、そこで初めて、彼女達ドラゴンはこちらを振り返る。
「マヌスとドラバニア・ファミリーの違いがあるとしたら、目指すべき地の差。
ドラバニア・ファミリーが世界に故郷を再現しようとしているとしたら、私達は人間達と共に、"故郷より素晴らしい場所"を目指して、歩みを続けようとしている。
故郷よりも、ドラゴンだけよりも、人と友にいればさらにいい景色が見られる、そう信じて。
‐‐‐‐世界を救うというと、大げさに聞こえるかもしれない。ならせめて、良い場所を見たい。そう思って戦わないか、スバル・フォーデン?」
フレアリオンは僕に向かって、手を差し伸べる。
一緒に戦おう、そう告げるがのごとく。
それに対して僕は‐‐‐‐彼女の手を取る。
フレアリオンの手を取った事で、ユカリ、エクレルの2人のドラゴン音が嬉しそうに顔を緩める。
「‐‐‐‐世界を救うなんて言われると、大げさに聞こえる。だから、良い場所を見る。
そのために、僕に出来る事があれば」
"ごく普通の人間になりたい"。変な耳を持っている僕は、常々、そう思ってきた。
だからと言えども、見ないようにするわけにはいけない。
見ないようにしても、僕の耳は聞こえてしまうのだから。
それに、ごく普通の中学3年生だとしたら。
「こういう戦闘に燃えるべき、なんだろうし」
☆
「‐‐‐‐作戦を整理しよう」
フレアリオンは僕の手を強く握りしめたまま、そう宣言する。
いや、僕としては、もう手を放して貰いたい。うん、だって痛いし。
「まず、私達がすべきことはあの糊の街を元通りにすることだ。そして、この糊ばかりの世界を作った者を倒さなければならない。
そのために、私達は二手に分かれる。そう考えている」
「と言う訳で、スーちゃん! まずはあたしの出番っ!」
エクレルの左手が天高くを指差し、そして中指を1本立てると、指を伝って青い稲妻が空の雲へと昇っていく。
「スーちゃん、あたしは雷龍! あたしの身体の中はゴロゴロで、ピッカピカァな、雷が駆け巡っているの!
あたしはそんな雷を、自由自在に操ることが出来るのだぁ!」
エクレルの頭上の雲が青く光り輝き、そして大きな雷となって街へと降り注いだ。
雷は街のあちこちに雨のように降り注ぎ、今まで聞こえていた人達の声が雷と共に聞こえなくなった。
「よしっ! これで大丈夫っ!」
「いや、大丈夫じゃないだろう!? 雷を街に落としたら、人々が感電死してしまうじゃないか?!」
「えっと……物凄く不本意ではありますが、あれで正しいんですよ。スバルくん」
と、背中の翼で空を舞うユカリが、嫌そうな顔でそう言っていた。
「彼女の雷は、彼女の意思で制御出来るんです。スバルくん、彼女は雷を落として、人々を感電で気絶させて、この事態を忘れさせることが出来る。これが彼女の、雷龍としての能力です」
「へへーん! どうだ、スーちゃん! すっごぉいだろぉう!」
「……とは言え、いきなり説明なしで、雷を落とすのはどうかと思いますが」
「それよりも私を見てください、スバルくん!」と、ユカリは翼で自由に空を舞う。
「私は、ドラゴンの中でも数少ない翼で自由に空を飛べる飛竜であり、風を自由自在に操る風龍でもあります。
そして、スバルくん! 私はこういうことが出来ます!」
クルリ、と空中で、まるでスケート選手のように自由自在に舞うように回り、風を生み出す。
生み出された風は竜巻となって、街を覆っていく。それと同時に、竜巻の中になにかが入り込み、こちらへと飛んでくる。
「あれです、私の風は的確に、そう、エクレルちゃんよりも的確にっ! あの場所にいた悪しきドラゴンを見つけ出して、ここまで届けますっ!」
彼女の言葉通り、竜巻で舞い上げられたなにかは、ものすごい勢いでこちらへと飛んできて、そして僕達の目の前で倒れる。
「痛いカニーよぉ~。いきなり何が起きたって、カニか?」
目の前に現れた龍は、蟹だった。
泥まみれの顔の中で天高く伸びた目、それに坊主の袈裟のような服装。
ドラゴンの両手の上に大きな白い蟹のハサミのような物を取り付け、背中には同じく白くて大きい甲羅を背負っていた。
甲羅には【接着第一】という文字が刻まれており、頭には紋様が描かれた銀色のメダルを付けた龍人間。
恐らく……こいつがあの街をあんな風にした犯人で間違いない。
「貴様ら、このカニキチをドラバニア・ファミリーのリュウシントが1匹、【泥水龍グルキャンサー】と知っての狼藉か! 図が高いってカニよ!」
えっへん、と胸を張るグルキャンサーと名乗った糊の野郎。それを無視し、フレアリオンは胸の首だけドラゴンから火を吐いて、竜巻と合わせる。
炎の竜巻となったレイク・ラックタウン上の竜巻は、レイク・ラックタウンに降り注いで、今度は白い固まった糊が宙を舞う。
「ちなみに私は、火の龍。このように火を用いて、接着剤のみを固める事も可能だ」
「チクショウってカニ! カニキチが一生懸命、『糊でべたべたで地球侵略』作戦を実行中だったカニなのに!
許せないってカニ! これでも喰らうカニ、接着泡!」
ブクブクブクっ、とグルキャンサーの口から真っ白な泡が出てくる。
恐らく、あの泡に当たるとまずそうだ。
「さぁ、スバル・フォーデン、最後は君だ。君はマグノリアと同じく、地を司る龍‐‐‐‐地龍の力を持っている。
君に適性がある地に関わるものなら、使えるはずだ。ユカリ、エクレル、手を出さずに見守るぞ」
「なるほど……」
僕は今までの3人の行動を思い返していた。
火龍であるフレアリオンは火を、風龍であるユカリは風を、そして雷龍であるエクレルは雷を、自由自在に操っていた。
「じゃあ、地龍の力がある僕が操れるとしたら‐‐‐‐」
「えぇい、接着泡! 発射だカニよ!」
パカッと、大きく口を開けると共に、大量のべっとりとした白い糊の泡が放たれる。それは空を舞っていた葉っぱなどを巻き込みつつ、こちらへと向かって来る。
「‐‐‐‐石よ、行けっ!」
僕が力強くそう意気込むと共に、僕の足が、あの大きな龍の足へと変わり、そこから小さな飛礫のような石が飛んでいき、白い糊の泡が石とぶつかって落ちていく。
そのうちの1つの石が、白い接着泡と共にかのドラゴンの口に引っ付いた。
「スバルくん、流石ですっ! これで相手は糊の泡を出せなくなりましたっ!」
「えぇい、あんたらを倒した後で戻すカニ! それと接着泡だけが、こちらの攻撃手段ではないカニ!」
えいっ、と大きな蟹のハサミをこちらへ向けると、グルキャンサーの蟹のハサミから泥が一直線に噴射される。
それは地面を抉りつつ、こちらに発射され続ける。まるでレーザーのようだ。
「フレーちゃん!? レーザーだよっ?! 助けないと!?」
「大丈夫だ……行けるな、スバル・フォーデン!」
信頼かなにかでそう言ってくれるが、僕としては「早く助けて欲しい」、その一言に尽きる。
さっきから防ごうと、石を放っているのに、泥のレーザーに当たると共に石が真っ二つに分かれていた。
「(石ではダメだ、同様に岩でもダメだろう。くそぅ、地龍って石とか、岩とか、こういうのしかないのか?)」
頭の中で考えていると、ふいに頭の中に考えが浮かんだ。
まるで情報がある場所に、繋がったとでも言うべきだろうか。
「‐‐‐‐"重力操作"! "曲がれ"っ!」
身体の中のなにかがごっそりと減っていくのを感じると共に、目の前に、歪みが生まれる。
目には見えないが、それでもなにか歪みのよう類が目の前に存在したことが手のように分かり、僕の目の前で泥のレーザーはその歪みに当たって、大きく上へと反れる。
「カニィ?! 泥レーザーが変な方に行ったカニ?!」
「‐‐‐‐そして、"落ちろ"!」
またしてもごっそりと身体からなにかが減るのを感じ、僕の視界の外で歪みが生まれる。
そして、泥のレーザーはその歪みにぶつかって、くるりと回り込むようにして、泥のレーザーはグルキャンサーの頭上から、先程よりも強い勢いで降り注ぐ。
「ぎゃああああああ! 痛いカニよぉっぉぉぉぉぉぉ!」
「凄い、スバルくん! 流石はあの【天下の破壊神】と呼ばれたマグノリアの息子!」
「本当だね、スーちゃんは【星を武器にする龍】と呼ばれたマグノリア様そっくり!」
「えぇ、スバル・フォーデンは【究極の完成龍】なマグノリアそっくりだ……さて、止めと行こう!」
なんか3人の、母に対する評価が気になるところではあるが、3人はそれぞれ龍の形態になって、そのままグルキャンサーへ突っ込んでいく。
「「「マヌス・トリプルドラゴンフィニッシュ!」」」
3人がそれぞれの龍の形態で、武技を振るう。
グルキャンサーは燃えあがり、空を舞い、そして雷と共に横へ吹っ飛んだ。
「~~~~~~っ! それじゃあ、皆さん! カニキチ、サラバァイ……カニ……」
グルキャンサーは爆破すると、空中に接着剤が飛んでいき、コロコロとこちらには茶色い龍の卵が転がってくる。それをユカリが手を触れると、緑色の膜が纏わって、そのまま姿が消えた。
「スバルくん、今、私の手で卵を安全な場所まで飛ばしましたよ。
さて、それよりも‐‐‐‐」
クルッ、とこちらへと振り返るユカリ。
「凄いよ、スーちゃん! やっぱり、スーちゃんは凄い子だね!」
「あぁ、流石はスバル・フォーデン。我々の仲間だ」
よしよしと、褒めているエクレルとフレアリオンの姿があった。
それを見て、ユカリが「私も! 私も褒めますよ、スバルくん!」と慌てて、こちらへとやって来る。
僕はと言うと、下のレイク・ラックタウンがまだ元の状態に戻ったとも言えないし、やることも、聞きたいことも山済みだ。
けど、こうして褒められるのは、悪くない。
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