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----遥か昔、世界にはなにもない大陸と、それを管理する神しか居なかった
----神は世界に生き物を生み出した
----全てを育む植物、そしてそれを糧に生きる人間などを始めした生物
----その生物の流れが綺麗に循環していたころ、妖精を生み出すこととなる別の神が現れる
----神は思った 「最近、お兄ちゃんが構ってくれなくてつまんない!」
----「よーし、お兄ちゃんの真似して生き物作っちゃお!」
----神は妖精という、兄の神が作ったモノとは別種の存在を作り上げる
----自分に良く似た姿の羽根を持つ人型
----獣をモチーフにした強そうな単獣型
----なんかもう飽きてきちゃったので適当に作った不定型
---八枚の羽根を大きく広げて、妖精という種族を作り出す
----しかしそれは兄の神からしてみれば、いきなり現れたトラブル
----倒さないようにと命令することもできず、結果として妖精は人々に飼殺され、獣に食われ、植物に溶かされた
----妖精とはか弱く、それがゆえに守らなければならないのである
----人々に飼殺された妖精だが 人々がその有用性を見つけると違っていた
----魔法の底上げ 妖精は魔法の力を強くする
----剣や槍などの武芸を極めるよりも 魔法の方が遥かに簡単だった
----そのために妖精と手を取り合う者も 増えていた
----魔法が流行して 妖精との助けを強化する中
----神は 妖精を生み出した神はその状況を見た
----神の介入により 妖精は危機に陥れられた
----そして妖精は 自然に生まれた妖精は全て死に絶える
----妖精を生み出した神はこういった
----「妖精よ 呪いあれ」
☆
「そっか、パルフェもあの金庫野郎の仲間だったか」
「イエス、イエスイエス。そうみたいです、液体を出してました」
ココアからの報告を受けながら、コビーは上の空で宙を見つめていた。
あの後の話を話そう。
3つの金庫を身体に取り付けたアイストークを倒してココアと合流して、そこで首脳会談に出ていたブックブック国のパルフェ姫もあいつらの関係者だという事も分かった。
パルフェ姫は身体に金庫がなかったのに3つ金庫のアイストークや、植物を成長させる魔道具のダージリンと同じく、身体を淡く光らせて、爆破する粘性液体をばらまいて煙に巻いて逃げ出したという。恐らく、魔道具の能力なのだというのは分かるが、アイストークもダージリンも金庫を付けてわざわざやっていたのに、パルフェだけ金庫なしだということが少しだけ気になったが。パルフェは行方知らず、ということだそうだ。
他の出席者達も、首脳会談が終わったために自分達の国へと戻っていった。
アルブレンド国にこのまま帰るというラムネール姉さんにココアの事も一緒に帰って欲しかったのだが‐‐‐‐
『ココアちゃん、あなたはこのままコビーちゃんの学園に残りなさい。手続きは既に済ませといたわ』
『ホワイ、ホワイホワイ? 何故でしょう、ラムネール姉様?
私もそろそろ城に帰りたいです、ラムネール姉様は私の事がお嫌い、でしょうか?』
『ううん、コビーちゃんも、勿論ココアちゃんも大好きよ。だからこそ、城に一緒に連れて帰れないの』
『……? 分からないので説明をお願いします』
『今ね、ちょーっとアルブレンド国の方で"うみ"を出している最中だから、ココアちゃんのような可愛い子を近付けたくないの』
『マリン、マリンマリン? 海、がどうかしましたか?』
「……うんうんっ! ココアちゃんはそのままでいてね♪ と言う訳でコビーちゃん、ココアちゃんをよろしくね。一応は学園のメイドの所で雇ってもらうようにお願いしといたから』
と言う訳で、ココアはコビーが通う共和国の学園に残ることとなった。ラムネール姉さんが言っていた"うみ"ってのは、あんまり良くない意味での"うみ"なんだろう。王になる前に出し切っておきたい類の。
喋りも掃除も満足に出来ないために、ココアのメイド仕事は卓越した槍さばきで学生達と模擬戦を行うことだが。
魔法が使えないが、彼女は十分戦えている。《魔術師殺し》時代に使っていたあの金庫槍は見た目こそ悪いが、魔法を容易く切断して、さらに魔法の発動も分かるとココアが言っており、なかなか重宝しているようだ。見た目は悪いが。
パルフェ姫の行方は分かっていない、それと関係しているのかどうかは分からないがナツメ・メグ生徒会長の姿も消えてしまっていた。
"故郷の方で皇帝の尻が爆発して、国がヤバいので故郷に帰ります"という謎の理論の上で、故郷の方へと帰っていったようである。あからさまに怪しさ満点である。
帰る前に見た生徒の話だと、ナツメ生徒会長は交流館前でダージリン姫が植物を操っていたのを見て、そのまま帰ったようである。
なにか、すっごいあやすうぃ。
とまぁ、そういう形で、コビーを悩ませていた事件は終わった。
妖精を育て始めたことは単なる暇つぶし程度のことであったのだが、レーザーで死にかけるくらいならば暇を持て余したままの方が良かったのかもしれない。
「‐‐‐‐まぁ、ここまで来ると蛇足だけど」
"マスター?"
と、コビーが今までの事を思い返していると、カフェオレが主のことを心配して羽をぱたぱたと動かしながらコビーの前までやってくる。
"だいジョうぶ?"
「あぁ、問題ない。なんか学園で学ぶのがえらい久しぶりな気がしただけ。毎日通っているはずなのに」
"ナラ、よかった!"
嬉しそうに笑うカフェオレ、一方コビーは妖精カフェオレの進化に素直に感心していた。
「(確か、ふ化させてから一月も経ってないよな?
最初の頃は叫び声とか鳴き声程度かと思ったのだろうけれども、今だと意思疎通できるくらい流ちょうに話し出して‐‐‐‐凄いなぁ)」
ちょっとばかり、いや、話が通じるようになるのが速すぎかと思うが、妖精を育てるのはコビーは初めてであるため、比較できなかった。
だからだいたい、このくらいになったら人形の妖精は話し出せるのだろうと、勝手に納得していた。
「(比較のためにもフレートからもう1匹くらい貰えないだろうか? 妖精を育ててみて分かったが、餌を与えていれば勝手にのびのびと育ってるみたいですし)」
そうすれば、十分良い比較になる。
それにカフェオレよりも強いのが‐‐‐‐いや、これ以上考えるのはよそう。
そもそも初めはただの暇つぶし。それがなんで強い妖精を育てるという趣味へといってしまったのか、それは変であろう。
コビーはそう思いながら、授業で使う教材をまとめていく。
「じゃあな、カフェオレ。
次の授業の先生は、妖精と一緒に授業は嫌だそうだ。なので、今日は留守番だ」
"分かッた! いってラッシャイ!"
「行って来るよ、じゃあね。カフェオレ」
コビーはカフェオレを1匹部屋に残して、教室へと向かっていく。
以前、人生は退屈である。そのコビーの意思は揺らいでいない。
ただ前よりも随分と生き生きと出来る、生きがいというか、暇つぶしを見つけられたことにコビーは満足していたのであった。
☆
☆
【蛇足】
《‐‐‐‐随分と気に入られてるんですねぇ、妖精さん》
ぬるぅりと、壁の隙間から身体を液体状に変えて入ってきた【私は覗く】の構成員、ブックブック・パルフェ姫はするぅりと入ってきていた。
《まったく、液体の爆弾を使うとか……そーんな単純そうな魔道具を私が持っている訳ないじゃないですか。
あの人達は私と、私の金庫に入っている魔道具を馬鹿にしている。そうは思いませんか、妖精さん?》
部屋で留守番を命じられていたカフェオレは、突然入ってきた乱入者に対して、氷の魔法で撃退しようとするも‐‐‐‐
《いやいや、止めてくださいよ、妖精さん。こちらは敵として戦いに来た訳ではありませんよ、単なる勧誘ですよ。か・ん・ゆ・うっ》
"かンゆウ?"
《そう、魔道具を使って世界を変革する我らが組織【私は覗く】の勧誘ですよ。
あなたには勧誘を受けるだけの力を見せつけた、それなので我々の組織の方から、一緒に世界を変革しませんかというお誘いに来た訳なのですよ》
ぺらぺら、ぺら。
どこからか取り出した本を捲りながら、パルフェ姫はカフェオレの方を見ていた。
《我々の組織の目的なんですけどね、我々の組織は世界を変革する。
そう、今の世界に不満を持つ私達が、世界を支配して統治しようではありませんか、というお誘いですよ。あなたの攻撃力は実に素晴らしい、4枚羽とは思えないほどに》
"なンで?"
《理由、ですか? 簡単ですよ、この世界はもうすぐ終わるからです》
読んでいた本をいきなりビリッと破いて、パルフェ姫はその本を乱暴に地面へと投げ捨てる。
《今の本、これが世界を待つ運命です。
神様はこの世界を作ったのは良いんですが、けれども致命的な誤字を見つけてしまいました。それなので、その誤字を修正するのではなく、その本ごと破こうとしている。世界はちっぽけな、神様の誤字なんかのせいで、滅びへと向かっている》
"……ショうこ?"
《証拠が欲しいのかい? それは一度、神様の意向に背いたからと言うことで、自然界で生まれた妖精が全員滅んだという事実だけでは足りませんか?》
《欲張りだねぇ》と、パルフェ姫はそう言いながら、右手をカフェオレの前に突き出す。
一瞬攻撃かと思って身構えるカフェオレであったが、その前に《大丈夫だよ、悪い妖精じゃないよ? 攻撃じゃないよ?》と答えていた。
《エイクレアに与えておいた金庫を前面に押し出した姿、あれは型落ちの、人世代前のモデルでね。魔道具を誰でも扱えるようにする、あの金庫があの大きさだった際に作られた人工兵器なんだよ。
で、今私が使っているのは最新モデル。身体の中、金庫かどうか分からないように臓器を魔道具に変えた今の姿は、パッと見では分かりませんからね。ああいう場では騙しやすくて助かりますよ》
すーっ、と後ろへ後ずさりするカフェオレ。
パルフェ姫はそれを見ながらも、話を続ける。
《私の金庫に入っている魔道具、【濡れて濡れて濡れて】。
あらゆるものを液体状に変えることが出来る、この魔道具を使って隠しておいた‐‐‐‐》
右手の、カフェオレの前に差し出した手。その手の甲からするぅり、中から1枚のカードが現れる。
幻想的な、触ったら消えてしまいそうなカードが1枚、カフェオレの手の上に出現する。
《魔道具の1つ、【最悪の結末】という告知カードの魔道具。
この魔道具は世界滅亡の未来が見えるという、ただそれだけのくだらない魔道具なんだけど、でも説得力はあると思うよ?》
とんっ、とパルフェ姫はカフェオレの手に落ちてくる。
そして、カフェオレは全てを理解した。
----世界の滅亡
----神の狂気化、および寿命
----世界崩壊病
----精神暴走
----魔王の誕生
様々な可能性が提示される中でも、全ての結末は滅びへと向かっていた。
《この魔道具は、滅びがあるからこそ素晴らしい今を生きようという、矛盾しまくった魔道具なんだけど、こういう使い方が重要なんじゃないかな?
世界は既に寿命を迎えている、だからこそ新しく世界創造。そのための王、もしくは神を擁立する。
‐‐‐‐【私は覗く】のメンバーの共通理念は、この1枚のカードから始まったのですよ》
"…………"
《まっ、エイクレアなんかは世界を統治して静かに愛する主の元へ旅立つため全員消滅しようとか危険思想を持っていたので、あんな旧スペックの義体を与えられた訳ですが。
それで? 妖精さん? あなたはどうしますか? 自然に生まれていない、人工的に生まれたからこそ、この世界の歪さが良く理解できると思うんですよ。なにせ、私"も"そうですから》
さぁ、と手を差し出すパルフェ姫。
その手を取れば、彼女はこの滅びた世界を救うため、仲間達と共に新たな支配者を擁立する道へと歩き出すことになるのだろう。
それなので、カフェオレは手を取らなかった。
《ありゃりゃ、振られちゃった。
一応、悪の組織と言われてもおかしくないことをしてるから、仕方ないか。でもさ、もし気が変わったらいつでも呼んでね。私達は待ってるよ、新たな同志を》
そう言って、パルフェ姫は再び身体を液状化させて部屋を出て行った。
部屋に残されたカフェオレ、彼女は乱入者が入ってきた痕跡を消そうと羽を動かして掃除を始める。
主に心配をかけないようにするためだ。
だいたい、あのパルフェとかいう者の言っていることは、カフェオレには理解できなかった。
----新たな王の擁立?
そんなの、"もうしている"。
"マスターはネ、私とトモに世界ヲ正シクみチビくの。
世界支配ハ既に始まッテルの"
彼女が大きく羽ばたかせる背中の羽。
裏表でデザインが違うと思われていた4枚の羽が、風と共にうっすらと"剥がれていく"。
4枚の羽はちょうど真ん中の辺りで半分に割れ、"8枚"という妖精の神と同じ数の羽がせわしなく動いている。
"マスター、ハヤく帰ってコナいカナ?"
これは"ようせい"の物語である。
後に世界を支配することになる神、その序章であるまだ"幼生"だった頃の物語。
===暇つぶしのために、王子は"幼生"を育てる 終===
----神は世界に生き物を生み出した
----全てを育む植物、そしてそれを糧に生きる人間などを始めした生物
----その生物の流れが綺麗に循環していたころ、妖精を生み出すこととなる別の神が現れる
----神は思った 「最近、お兄ちゃんが構ってくれなくてつまんない!」
----「よーし、お兄ちゃんの真似して生き物作っちゃお!」
----神は妖精という、兄の神が作ったモノとは別種の存在を作り上げる
----自分に良く似た姿の羽根を持つ人型
----獣をモチーフにした強そうな単獣型
----なんかもう飽きてきちゃったので適当に作った不定型
---八枚の羽根を大きく広げて、妖精という種族を作り出す
----しかしそれは兄の神からしてみれば、いきなり現れたトラブル
----倒さないようにと命令することもできず、結果として妖精は人々に飼殺され、獣に食われ、植物に溶かされた
----妖精とはか弱く、それがゆえに守らなければならないのである
----人々に飼殺された妖精だが 人々がその有用性を見つけると違っていた
----魔法の底上げ 妖精は魔法の力を強くする
----剣や槍などの武芸を極めるよりも 魔法の方が遥かに簡単だった
----そのために妖精と手を取り合う者も 増えていた
----魔法が流行して 妖精との助けを強化する中
----神は 妖精を生み出した神はその状況を見た
----神の介入により 妖精は危機に陥れられた
----そして妖精は 自然に生まれた妖精は全て死に絶える
----妖精を生み出した神はこういった
----「妖精よ 呪いあれ」
☆
「そっか、パルフェもあの金庫野郎の仲間だったか」
「イエス、イエスイエス。そうみたいです、液体を出してました」
ココアからの報告を受けながら、コビーは上の空で宙を見つめていた。
あの後の話を話そう。
3つの金庫を身体に取り付けたアイストークを倒してココアと合流して、そこで首脳会談に出ていたブックブック国のパルフェ姫もあいつらの関係者だという事も分かった。
パルフェ姫は身体に金庫がなかったのに3つ金庫のアイストークや、植物を成長させる魔道具のダージリンと同じく、身体を淡く光らせて、爆破する粘性液体をばらまいて煙に巻いて逃げ出したという。恐らく、魔道具の能力なのだというのは分かるが、アイストークもダージリンも金庫を付けてわざわざやっていたのに、パルフェだけ金庫なしだということが少しだけ気になったが。パルフェは行方知らず、ということだそうだ。
他の出席者達も、首脳会談が終わったために自分達の国へと戻っていった。
アルブレンド国にこのまま帰るというラムネール姉さんにココアの事も一緒に帰って欲しかったのだが‐‐‐‐
『ココアちゃん、あなたはこのままコビーちゃんの学園に残りなさい。手続きは既に済ませといたわ』
『ホワイ、ホワイホワイ? 何故でしょう、ラムネール姉様?
私もそろそろ城に帰りたいです、ラムネール姉様は私の事がお嫌い、でしょうか?』
『ううん、コビーちゃんも、勿論ココアちゃんも大好きよ。だからこそ、城に一緒に連れて帰れないの』
『……? 分からないので説明をお願いします』
『今ね、ちょーっとアルブレンド国の方で"うみ"を出している最中だから、ココアちゃんのような可愛い子を近付けたくないの』
『マリン、マリンマリン? 海、がどうかしましたか?』
「……うんうんっ! ココアちゃんはそのままでいてね♪ と言う訳でコビーちゃん、ココアちゃんをよろしくね。一応は学園のメイドの所で雇ってもらうようにお願いしといたから』
と言う訳で、ココアはコビーが通う共和国の学園に残ることとなった。ラムネール姉さんが言っていた"うみ"ってのは、あんまり良くない意味での"うみ"なんだろう。王になる前に出し切っておきたい類の。
喋りも掃除も満足に出来ないために、ココアのメイド仕事は卓越した槍さばきで学生達と模擬戦を行うことだが。
魔法が使えないが、彼女は十分戦えている。《魔術師殺し》時代に使っていたあの金庫槍は見た目こそ悪いが、魔法を容易く切断して、さらに魔法の発動も分かるとココアが言っており、なかなか重宝しているようだ。見た目は悪いが。
パルフェ姫の行方は分かっていない、それと関係しているのかどうかは分からないがナツメ・メグ生徒会長の姿も消えてしまっていた。
"故郷の方で皇帝の尻が爆発して、国がヤバいので故郷に帰ります"という謎の理論の上で、故郷の方へと帰っていったようである。あからさまに怪しさ満点である。
帰る前に見た生徒の話だと、ナツメ生徒会長は交流館前でダージリン姫が植物を操っていたのを見て、そのまま帰ったようである。
なにか、すっごいあやすうぃ。
とまぁ、そういう形で、コビーを悩ませていた事件は終わった。
妖精を育て始めたことは単なる暇つぶし程度のことであったのだが、レーザーで死にかけるくらいならば暇を持て余したままの方が良かったのかもしれない。
「‐‐‐‐まぁ、ここまで来ると蛇足だけど」
"マスター?"
と、コビーが今までの事を思い返していると、カフェオレが主のことを心配して羽をぱたぱたと動かしながらコビーの前までやってくる。
"だいジョうぶ?"
「あぁ、問題ない。なんか学園で学ぶのがえらい久しぶりな気がしただけ。毎日通っているはずなのに」
"ナラ、よかった!"
嬉しそうに笑うカフェオレ、一方コビーは妖精カフェオレの進化に素直に感心していた。
「(確か、ふ化させてから一月も経ってないよな?
最初の頃は叫び声とか鳴き声程度かと思ったのだろうけれども、今だと意思疎通できるくらい流ちょうに話し出して‐‐‐‐凄いなぁ)」
ちょっとばかり、いや、話が通じるようになるのが速すぎかと思うが、妖精を育てるのはコビーは初めてであるため、比較できなかった。
だからだいたい、このくらいになったら人形の妖精は話し出せるのだろうと、勝手に納得していた。
「(比較のためにもフレートからもう1匹くらい貰えないだろうか? 妖精を育ててみて分かったが、餌を与えていれば勝手にのびのびと育ってるみたいですし)」
そうすれば、十分良い比較になる。
それにカフェオレよりも強いのが‐‐‐‐いや、これ以上考えるのはよそう。
そもそも初めはただの暇つぶし。それがなんで強い妖精を育てるという趣味へといってしまったのか、それは変であろう。
コビーはそう思いながら、授業で使う教材をまとめていく。
「じゃあな、カフェオレ。
次の授業の先生は、妖精と一緒に授業は嫌だそうだ。なので、今日は留守番だ」
"分かッた! いってラッシャイ!"
「行って来るよ、じゃあね。カフェオレ」
コビーはカフェオレを1匹部屋に残して、教室へと向かっていく。
以前、人生は退屈である。そのコビーの意思は揺らいでいない。
ただ前よりも随分と生き生きと出来る、生きがいというか、暇つぶしを見つけられたことにコビーは満足していたのであった。
☆
☆
【蛇足】
《‐‐‐‐随分と気に入られてるんですねぇ、妖精さん》
ぬるぅりと、壁の隙間から身体を液体状に変えて入ってきた【私は覗く】の構成員、ブックブック・パルフェ姫はするぅりと入ってきていた。
《まったく、液体の爆弾を使うとか……そーんな単純そうな魔道具を私が持っている訳ないじゃないですか。
あの人達は私と、私の金庫に入っている魔道具を馬鹿にしている。そうは思いませんか、妖精さん?》
部屋で留守番を命じられていたカフェオレは、突然入ってきた乱入者に対して、氷の魔法で撃退しようとするも‐‐‐‐
《いやいや、止めてくださいよ、妖精さん。こちらは敵として戦いに来た訳ではありませんよ、単なる勧誘ですよ。か・ん・ゆ・うっ》
"かンゆウ?"
《そう、魔道具を使って世界を変革する我らが組織【私は覗く】の勧誘ですよ。
あなたには勧誘を受けるだけの力を見せつけた、それなので我々の組織の方から、一緒に世界を変革しませんかというお誘いに来た訳なのですよ》
ぺらぺら、ぺら。
どこからか取り出した本を捲りながら、パルフェ姫はカフェオレの方を見ていた。
《我々の組織の目的なんですけどね、我々の組織は世界を変革する。
そう、今の世界に不満を持つ私達が、世界を支配して統治しようではありませんか、というお誘いですよ。あなたの攻撃力は実に素晴らしい、4枚羽とは思えないほどに》
"なンで?"
《理由、ですか? 簡単ですよ、この世界はもうすぐ終わるからです》
読んでいた本をいきなりビリッと破いて、パルフェ姫はその本を乱暴に地面へと投げ捨てる。
《今の本、これが世界を待つ運命です。
神様はこの世界を作ったのは良いんですが、けれども致命的な誤字を見つけてしまいました。それなので、その誤字を修正するのではなく、その本ごと破こうとしている。世界はちっぽけな、神様の誤字なんかのせいで、滅びへと向かっている》
"……ショうこ?"
《証拠が欲しいのかい? それは一度、神様の意向に背いたからと言うことで、自然界で生まれた妖精が全員滅んだという事実だけでは足りませんか?》
《欲張りだねぇ》と、パルフェ姫はそう言いながら、右手をカフェオレの前に突き出す。
一瞬攻撃かと思って身構えるカフェオレであったが、その前に《大丈夫だよ、悪い妖精じゃないよ? 攻撃じゃないよ?》と答えていた。
《エイクレアに与えておいた金庫を前面に押し出した姿、あれは型落ちの、人世代前のモデルでね。魔道具を誰でも扱えるようにする、あの金庫があの大きさだった際に作られた人工兵器なんだよ。
で、今私が使っているのは最新モデル。身体の中、金庫かどうか分からないように臓器を魔道具に変えた今の姿は、パッと見では分かりませんからね。ああいう場では騙しやすくて助かりますよ》
すーっ、と後ろへ後ずさりするカフェオレ。
パルフェ姫はそれを見ながらも、話を続ける。
《私の金庫に入っている魔道具、【濡れて濡れて濡れて】。
あらゆるものを液体状に変えることが出来る、この魔道具を使って隠しておいた‐‐‐‐》
右手の、カフェオレの前に差し出した手。その手の甲からするぅり、中から1枚のカードが現れる。
幻想的な、触ったら消えてしまいそうなカードが1枚、カフェオレの手の上に出現する。
《魔道具の1つ、【最悪の結末】という告知カードの魔道具。
この魔道具は世界滅亡の未来が見えるという、ただそれだけのくだらない魔道具なんだけど、でも説得力はあると思うよ?》
とんっ、とパルフェ姫はカフェオレの手に落ちてくる。
そして、カフェオレは全てを理解した。
----世界の滅亡
----神の狂気化、および寿命
----世界崩壊病
----精神暴走
----魔王の誕生
様々な可能性が提示される中でも、全ての結末は滅びへと向かっていた。
《この魔道具は、滅びがあるからこそ素晴らしい今を生きようという、矛盾しまくった魔道具なんだけど、こういう使い方が重要なんじゃないかな?
世界は既に寿命を迎えている、だからこそ新しく世界創造。そのための王、もしくは神を擁立する。
‐‐‐‐【私は覗く】のメンバーの共通理念は、この1枚のカードから始まったのですよ》
"…………"
《まっ、エイクレアなんかは世界を統治して静かに愛する主の元へ旅立つため全員消滅しようとか危険思想を持っていたので、あんな旧スペックの義体を与えられた訳ですが。
それで? 妖精さん? あなたはどうしますか? 自然に生まれていない、人工的に生まれたからこそ、この世界の歪さが良く理解できると思うんですよ。なにせ、私"も"そうですから》
さぁ、と手を差し出すパルフェ姫。
その手を取れば、彼女はこの滅びた世界を救うため、仲間達と共に新たな支配者を擁立する道へと歩き出すことになるのだろう。
それなので、カフェオレは手を取らなかった。
《ありゃりゃ、振られちゃった。
一応、悪の組織と言われてもおかしくないことをしてるから、仕方ないか。でもさ、もし気が変わったらいつでも呼んでね。私達は待ってるよ、新たな同志を》
そう言って、パルフェ姫は再び身体を液状化させて部屋を出て行った。
部屋に残されたカフェオレ、彼女は乱入者が入ってきた痕跡を消そうと羽を動かして掃除を始める。
主に心配をかけないようにするためだ。
だいたい、あのパルフェとかいう者の言っていることは、カフェオレには理解できなかった。
----新たな王の擁立?
そんなの、"もうしている"。
"マスターはネ、私とトモに世界ヲ正シクみチビくの。
世界支配ハ既に始まッテルの"
彼女が大きく羽ばたかせる背中の羽。
裏表でデザインが違うと思われていた4枚の羽が、風と共にうっすらと"剥がれていく"。
4枚の羽はちょうど真ん中の辺りで半分に割れ、"8枚"という妖精の神と同じ数の羽がせわしなく動いている。
"マスター、ハヤく帰ってコナいカナ?"
これは"ようせい"の物語である。
後に世界を支配することになる神、その序章であるまだ"幼生"だった頃の物語。
===暇つぶしのために、王子は"幼生"を育てる 終===
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