暇つぶしのために王子は、ようせいを育てる。

摂政

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しろしめす

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 時は少し戻り、アルブレンド・ココアが交流館の奥に向かった時までさかのぼる。
 ココアは姉であるラムネールに言われた通り、交流館の中で首脳会談をしている人達のところを目指していた。

「この先に居るのは、王子様や王女様とかですか。
 ……ウォーリー、ウォリウォリ。不安です」

 階段を昇りながら、ココアの気持ちはだんだんと重くなっていき、足取りもそれに肯定するかのようにどんどんと重くなっていく。

 ココアは魔法の才能がなかったために、武芸にまい進していた。暇な時間があれば槍を振るっていて、槍が振るえない時は物凄く重いモノを持ち上げたり、筋肉を鍛えるためにトレーニングしたり。
 ----とにかく、彼女は鍛えまくった。鍛えて、鍛えて、鍛えまくって、12歳という歳ながら、他に匹敵しないほどの腕並みを手に入れたココア。

 その分、槍"以外・・"が異常に弱くなってしまっていた。
 使えない魔法だけではなく、王族としての嗜みのほとんどがダメだった。
 歌を歌えば音外れ、絵を描けば自分でもなにを描いても分からなくなり、ダンスも腕と足が一緒に出てしまう。美容も、水で顔を洗えば良いくらいに思っている。
 まぁ、この辺なら《ポンコツ姫》とか、《武芸姫》で片付く問題なのだが、問題は"会話"である。または交流、というべきだろうか。
 王族の者としては他国の者との交流も重要となってくるが、ココアはその辺りが一切ない。腹の探り合い以前に、まともに話し合うことにすらならない。話し合うよりかは普通に戦った方が、ココアとしてはマシである。

「確か、モナカルトも居たっけ?」

 今日参加しているメンバーの中では、ココアの中では彼が一番話しやすい。何故なら困ったときは、槍で斬れば相手も武器で応えてくれるから。

「バット、バトバト……ほかの人とも仲良くなろう」

 とりあえず、目標は1人につき5回。
 自分でもこのままだといけないと思っている人見知りを、直せるようにと目標を決めて、ココアは扉を開ける。


「……んっ? おいおい、ラムネールんところのココアじゃねぇか! よぉ、久しぶりだなぁ」
「イエス、イエスイエス。そう、ですね」

 扉を開けると共に、ココアの姿を見てモナカルトがそう声をかける。
 やはり彼はココアが思った通り、話しやすいように取り計らってくれる。

「おぉっ、ココアちゃん。久しぶりだね、おにいさんの事を覚えてるかい?」
「やっ……ルカツドン、さん」
「ははっ、よし。ちゃんと覚えてくれていてなにより! なにより!」

 部屋の中に居たもう1人、ルカツドンが声をかけるが、ココアは委縮していた。
 彼の事はなんとなく覚えているのだが、どういった縁で紹介されたのかをすっかり忘れていたからだ。どの国出身なのかも忘れてるし、彼が老けているだけで19歳である事もすっかり忘れていた。
 と言う訳で、ココアの印象としては【名前を知ってるくらいの、しらないおっさん】くらいの認識である。だからちょびっとばかり、思い返そうとしていた。

「(……ルカツドン、さんってどんな人だっけ? 確かなにかを作っていたような……そうだ。漁だ。海とかで大量の魚をとって、分けてくれる人だ。
 うん、多分そうだった、と思う)」

 実際のルカツドンは、工場国アイアンフォースにて、工場を1つ任されているだけであって、漁師とはなにも関係ないのだが‐‐‐‐誰も否定する者がいないため、それで良いだろう。
 要するに、後で分かった際に謝ればいい話である。

「……ダブル、ダブルダブル? 2人だけ?」
「いいや、喋らないが人はいるぜ。ほら、そこによ」

 と、モナカルトは床を、殺された状態のまま転がっているパルフェ姫の死体を指さす。
 ダージリン姫に剣を突き刺され、ドレスを真っ赤に染めた状態なまま、彼女の死体は床に転がっていた。

「ほんとうはよぉ、連絡したいんだぜ? まさか、こんなところで殺されるだなんて思ってもなかっただろう。俺も、彼女も。
 今すぐにでもブックブック国、彼女の祖国に連絡しておきたいところだが、こんな状況だ。ダージリンが捕まるか、殺されるか‐‐‐‐どちらにせよ、なんらかの見せしめが用意できるまでは下手な判断は避けるべきだって、ルカツドンが」
「仕方ないだろう、モナカルト王子。ただ訃報を伝えて済むのは一般人まで、我々王族には体裁などもある。判断を間違えれば、ダージリンが起こしたかったであろう世界大戦に発展するぜ?」

 ダージリンの狙いは、世界をしろしめす事。魔道具の能力でモナカルトを初めとした、この若者首脳会談に来ていた人物を洗脳することだったろうが、パルフェ姫を殺した理由は国を巻き込んだ大戦を引き起こすためだ。
 一国の王女が他国の王女を殺したのだ、しかも正直なところ同情の余地は一切ない理由だ。
 報復のため、という大義名分の名のもとに国同士の戦が始まり、そしてそれはやがて複数の国同士の大戦へと発展するだろう。

「パルフェ姫が殺された事には正直同情しかないが、まずはうちの国の安全が一番だからな」
「国家と関わる者なら当然だと思うぞ、モナカルト王子。そこは重要な所だろう」
「あぁ、そうだ。そうだ。まっ、ココアが来てくれて安心したがな、男2人は別に苦じゃないが、死体と一緒ってのは慣れてないしな。慣れたくもないが」
「こっちも同意見だよ」

 モナカルト王子とルカツドン工場長が話しているが、ココアは2人の会話に混ざれずにいた。
 同性でも話すのに苦労しているのに、異性と言う男性2人組との会話はココアにとっては未知の領域だったからである。いや、女性が何人か集まっているのも、なんか独特の雰囲気があるため、それはそれで話しづらいのだが。

「(ミーティング、ミティングミティング。今日の会談は男2人に対して女3人だって聞いたし、女が1人は居るとは思っていた……んですが……)」

 いやはや、こんな状況とは思ってもみなかった。
 男2人組の独特な雰囲気に圧倒されつつ、話しかけづらい感じがしたのでココアは‐‐‐‐

「‐‐‐‐セイ、セイセイ。一緒に話しませんか?」

 ‐‐‐‐死んだ"ふり・・"をしている、パルフェ姫に声をかけていた。




 ぱんぱんっ。
 とんとんっ。
 サクッサクッ。

「ウェイク、ウェイクウェイク。起きてください、パルフェ姫」
----けれども、パルフェ姫は起きません。

 ぱんぱんっ。
 とんとんっ。
 サクッサクッ。

「ウェイク、ウェイクウェイク。起きてください、パルフェ姫」
----それでも、パルフェ姫は起きません。

 ぱんぱんっ。
 とんとんっ。
 サクッサクッ。

「ウェイク、ウェイクウェイク。起きてください、パルフェ姫」
----やっぱり、パルフェ姫は起きません。

 ぱんぱんっ。
 とんとんっ。
 サクッサクッ。

「ウェイク、ウェイクウェイク。起きてください、パルフェ姫」
----まだまだ、パルフェ姫は起きません。

 ぱんぱんっ。
 とんとんっ。
 サクッサクッ。

「ウェイク、ウェイクウェイク。起きてください、パルフェ姫」
----なかなか、パルフェ姫は起きません。

 シュッシュッ!
 シュッシュッ!
 ザクッザクッ!

「ウェイク、ウェイクウェイク。起きて‐‐‐‐」


《いったいってばぁぁぁぁ! なんで刺してくるのよっ、完璧パルフェで怒っちゃうんだから!》

 ばんっと、とうとうパルフェ姫は起きました。


 死んでいたはずのパルフェ姫が目を覚まし、モナカルト王子とルカツドン工場長が何その顔(ココア目線)みたいな表情でパルフェ姫を見ていた。

「おっ、おいおい。パルフェ、お前刺されたんじゃ?」
「さっきからココアちゃんが槍で死体にあんなことやそんなことをしてたと思ったら、あれ、起こしてたんだね。おじさん、なにかの儀式かなにかかと……」

 驚きながらも受け入れているモナカルト王子とルカツドン工場長、それに対して蘇ったパルフェ姫はと言うとドレスをはたいて埃を取って立ち上がっていた。

《‐‐‐‐もうっ! こんな結果、ぜんぜん完璧パルフェじゃないって!
 せっかく、後ろからの奇襲を成功させようと思っていたのに!》

 むきぃ~、と頬を膨らませるパルフェ姫。

「なぁ、ココア。どうしてお前はパルフェが死んでないと思ったんだ? ドレスが真っ赤に染まってたし、剣も刺さってたし、俺らはてっきり……」
「……? ブラッド、ブラドブラド。あれって動物の血、ですよね? 人間の血じゃないので、違うというのはすぐに分かりまして‐‐‐‐」

 ‐‐‐‐それくらいなら容易く分かるでしょ。
 そう言いたげなココアではあったが、普通の人は動物と人間の血の区別など出来ない。

《だからバレずに、背後から強襲しようと思ったのに。
 私の完璧パルフェな計略がおじゃんですよっ!》
「ソーリー、ソリソリ。……ん? 謝るべき?」
「いや、それは違うだろう。どう考えても怪しいのは、あちらだろうが。
 ココアより悪いのは、あちらだろう。刺されて無事とか明らかにおかしいだろう。動物の血を用意してるのも怪しいしな」

 モナカルト王子がそうやって慰めて、ココアは慰められて嬉しく思っていた。

「で、パルフェ。お前はなんだ? まさか、ダージリンと同じく、この世界をしろそめる(?)とか?」
《しろしめす、ですよ。統治するという意味の言葉ですが、まさしくその通り!
 私は完璧パルフェに、世界を統一しようともくろむ、ダージリンの同胞です》

 そう言うと共に、彼女の身体全体が淡く光る。
 その光はダージリンの足が光った時の、魔道具の力を使う際に出る光に良く似ていた。

「なるほど。おじさん達が反抗しないように殺されて、恐怖心を煽る役。それがパルフェ姫おまえという訳、なのか」
《違いますよ、ルカツドン。本当はダージリンだけで終われば済む話だったのに、彼女がミスをするからいけないのです。おかげで、こちらが動く羽目になってしまいましたよ》

 パルフェ姫の全身を覆っていた淡い光、それは消えて代わりにパルフェ姫の身体からぽたり、ぽたりと水が落ちていく。落ちていく水はどろり、どろりと粘性のある液体のようで、まだ彼女の身体から落ちきっていなかった。

《本当に、こちらとしてはこんな所で本性を晒すつもりはなかったのに。
 殺されたと思わせておいて、ブックブック国の総戦力にて滅ぼそうと思っていたのに。こんなにも予定が狂ってしまって、残念で仕方がありません》

 とろーり、と粘性の強い液体を腕を振るうことで、部屋の中に散らばすパルフェ姫。
 ココア達3人の方にも粘性液体は飛んでいたが、槍を振るって風を出して自分達に当たらないようにする。

 パチン、とパルフェ姫が指を鳴らすと‐‐‐‐

 ‐‐‐‐ばんっ!!

 小さな破裂音と共に、粘性の液体がついた場所が爆発していく。

「粘性の物体が付いた場所を、爆破させる魔道具……か。なかなか厄介、だな。しかし、ダージリンと違って金庫が見えんな。まっ、どうでも良いが。
 とは言え、とんでもなく強いとかではない。そこまでの強さじゃない、ならこちらとしても対応できる。お前がどこに居ようと、うちの軍がお前らを取り囲む。世界は、おまえたちに支配させないぞ!」
《‐‐‐‐モナカルト王子、あなたは何も分かってません。
 何故、私達が世界を侵略、支配しなければならないのか……それが分からないなら、完璧パルフェに馬鹿者ですよ》
「どういう意味、だ。最後にそれだけは教えろ」

 ルカツドン工場長の言葉に対して、パルフェ姫がイラッとしたような表情でルカツドン工場を睨みつけていた。

《……いちいち、説明しなければいけない。それ以上に面倒なことはありませんね。
 良いですか、この世界は神によって作られた、創世神話などでも良く見たことがありますし、たいていの人はそれで納得しているのでしょう。神様、私達を助けてくださいって。
 でもねぇ、神なんてろくでもない。その根拠を、我々【私は覗く】は発見しました。そしてこの世界がいかにろくでもない、くそったれな世界なのかも。
 だからこそ、この世界を神の楔から解き放つ。それが我々が世界をしろしめる理由ですよ、理解しましたか、ルカツドン工場長》

 ‐‐‐‐分かってくれとも思いませんが、パルフェ姫はそう言って粘性の液体を、今度は身体全体を覆い隠していた。

「‐‐‐‐ボム、ボムボム? まさか、自爆するつもり?」
「おいおい、パルフェ姫! 今、おまえに自爆されると困るんだよ、お前には民の不安を晴らすために生贄になって貰わないとなっ!」

 急いでモナカルト王子が向かうも、その前にぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん、と彼女の全身が爆破。

 ‐‐‐‐パルフェ姫は、跡形もなく消えていた。

「消えた、のか。それとも自爆で本当にやられたのか? ったく、ろくでもない組織みたいだな、【私は覗く】ってのは。
 神の存在なんか信じた挙句、ろくでもないから世界全域を支配しようとかバカじゃね? 自分達で、今出来ることをするのが一番じゃねぇか、それが王族ってもんだろ」
「モナカルト王子は、きちんと考えているようだな。流石は、5人の中で一番継承順位が高くて呼ばれた人物だけはある」
「そりゃどうも、ルカツドン」

 パルフェ姫が消えた場所を見て、ココアはじーっと見つめていた。


「(‐‐‐‐男2人組と私という展開に戻りました。
 残念、です。折角、同性が居て話しやすかったのに)」
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