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上級妖精

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 かつて、人と妖精は共存していた。人は妖精を外敵から助け、妖精も人を魔法の補助で助け‐‐‐‐そう言った、人と妖精が互いに助け合っていた時代があった。
 しかし、その時代は魔法の進化によって、終わりを告げた。
 古代の魔法は妖精を補助、と言うよりもパートナーとして使わなくては意味を為さないほど脆弱なもので、魔法使いの素養には個人の資質、そして妖精との親和性の2つが重要になっていた時代だった。
 一方、現代の魔法は妖精との親和性は必要なく、個人の才覚と努力によってその強さが変わってくる。つまり、その人が頑張れば頑張るほど、魔法は強くなる。

 妖精との相性も重要視される旧時代の魔法と、個人の力でどこまでも高みを目指せる新時代の魔法。
 どちらが多くの民に受け入れられたかと言えば、それはやはり後者であろう。

 しかし、すんなりと受け入れられた訳ではない。
 魔法の系統が変わるという大きな変化は、やはりそれの使い手である者達からの強い反発もあり、いつしかそれは大戦争へと発展した。
 旧時代の、妖精と共に暮らそうという流派。
 新時代の、妖精ではなく個人で生きようとする流派。
 2つの流派に分かれた魔法使いは、その後100年に渡る大戦争へとなり、結果として新時代の流派が勝った。《妖精と》ではなく、《個人で》の時代へと変わっていたのである。



 【雷】の上級妖精の1匹たるエイクレアは、旧時代の魔法使いとして戦った魔法使いの相棒パートナーだった。
 最愛の、エイクレアの主であった魔法使いは、優しい男だった。
 優しくて、誰よりも優しくて、生真面目に、心の底から世界平和を願うようなそんなバカげた男であった。

【世界ってのはさ、優しいくらいでちょうどいいんじゃないかな】

 優しい魔法使いは、パートナーであるエイクレアに良くそう語っていた。

【今、ボク達は新時代派の、妖精を排除した強力な魔法を主流とする派閥と戦ってるけどさ。本当はあちらの派閥と、こちらの妖精と共に戦うという在り方は共存できると思うんだよね】

 敵である新時代派の魔法使いに腕を曲げさせられても、顔を思いっきり殴られようとも、共存できると何度も、何度も、何度も、優しい魔法使いはそう言っていた。

【一応、同じ魔法使いとして彼らの、新時代派とかいう連中の魔法式もみたんだけど、確かにあの魔法式なら出力も上がるね。
 旧時代の、ボク達の魔法は、魔法使いが弾の基礎を作ってそれに妖精が力となる属性を付与するという魔法式。どちらが欠けても魔法が正しく運用できないから、魔法使いであるボク達と妖精であるエイクレアの助けが大切になって来るんだけどね。新時代派の魔法は属性の部分を魔法使い自身が定義することで、魔法いての完成度を上げてるんだけどね】

 ‐‐‐‐だけどね、と優しい魔法使いはエイクレアに語っていた。

【新時代派の魔法式。一応戦っている相手だから、術式を調べたところ、今の新時代派の連中でも一割程度しか使えてないんだよね。今、言った魔法の物体に属性を付与する程度。
 けれども完全に魔法を使えれば、この世の理もある程度操れる事が分かってね。あの魔法式の真価が発揮できれば、死者の復活や、天候操作まで可能になるみたい。もっとも、それを可能とするには君以上、つまりは上級妖精以上の力が必要となってくるし、明らかに理論上、という言葉がつくけど】

 優しい魔法使いは敵の魔法を誉めつつ、仲良く一緒に魔法の真理を探究できないことを嘆いていた。
 お互いに手を取り合えば、より良い世界になると分かっているのに。
 一介の魔法使いである彼が淡々と辿り着くこの結論は、上層部の連中も分かっているはずなのだ。なのにプライドやら、なんやらで歩み寄れない現状。

【エイクレア、お前は人間が好きかい? ‐‐‐‐嫌い、なのかい? まぁ、戦争ばっかりに駆り出されてれば、そんな気持ちにもなるか。けれども人間って本当は良いやつだよ。
 それにボクは神を信じてるんだ。きっと、世界は良くなるよ。だって、そう毎日祈りを捧げてるんだから】

 ‐‐‐‐それが、エイクレアの主の最期の言葉だった。
 死因は撲殺、《神の名のもとにあなたは死ななければならないっ!》などと意味不明な理論をのたまう異教の神父による犯行だった。


 ‐‐‐‐なにが人間だ、なにが神だ。
 ‐‐‐‐優しい魔法使いは、主はあんなにも神を信じて、人も信じて、なにも悪いことはしていない。それなのにも関わらず、殺されたのだ。
 ----その愚かな神を信じている、愚かな人間に。

 エイクレアは人間を許さない。神を許さない。
 愚かな行動をしている人間も、こんな理不尽な世界を適当に作りやがった神も、その全部が許せない。

 ----だったら自分が世界を、統治するしろしめす
 こんなに理不尽な世界は、誰かが統治ししろしめて、正さなければならない。
 それがエイクレアの、行動原理である。



《‐‐‐‐良い感じに、ぶち抜いてくれたようでありがたいですよ。【黒い頭ダークヘッド】》

 金色の金庫から現れた、全身が金色のドレスを着たエイクレアは、左手に持っている黒髪の死体の頭をゆっくりと撫でていた。
 黒髪の死体の頭と白髪の死体の頭、2人の死体の頭を拳銃のように構えながら、エイクレアはコビーとカフェオレに構っていた。

"ピギュー! ピギュピギュー!"
《うるせぇよ、若輩の妖精が》

 敬愛する主が亡くなったことに対して、むやみやたらに騒ぎ立てるカフェオレに対して、エイクレアはそう冷たく言い放っていた。
 彼女エイクレアからして見れば、主を失って嘆いている妖精の姿を見ると‐‐‐‐昔を思い出して、イライラしていた。

《たかが4枚羽ちゅうきゅうくらいの妖精が、この6枚羽じょうきゅうの妖精に叶うはずがないではありませんか。それもこっちは武装しているのに》

 2つの死体の頭を、拳銃ぶきのようにして構えながら、エイクレアはカフェオレにそう言っていた。
 彼女が魔力を、電気を身体を伝って2つの死体の頭に流すと、それに反応して2つの死体の頭の口が《かっ!》と大きく開いて、それぞれ髪色と同じ【闇】と【光】のレーザー光線を放っていた。

"ピギュっ!?"

 言葉にもなっていない声をあげて、4枚の羽を動かして逃げるカフェオレ。
 それを見て、エイクレアの顔はさらに苛立っていた。

《言葉もろくに喋れないような、生まれたばかりの妖精が、このエイクレアの完璧なる行動を邪魔する?
 人間社会には地位が下な者は上の者の命令に素直に応じようという、意味が分からない風習があるみたいですが、妖精は人間以上にシビアなはずです》

 自分よりも強い者には、従う。
 野生では、自然界においてこの法則は人間の世界以上に厳密だ。

《喋れない、つまりはまだそれだけの知識を持っていないってこと。
 同じ6枚羽ならまだしも、4枚しか羽がないのに逆らおうだなんて、殺してくれと言っているようなものですよ》
"マすタ! カタキ、とル!"

 ふんっ、と自信満々にそう告げるカフェオレ。
 その姿が、エイクレアにはさらに忌々しくて仕方がなかった。

《もう、それ以上あなたの顔を見たくありません》

 エイクレアは短くそう言い放ち、手にしている2人の死体の頭に、雷を流していく。
 死体の頭に流される雷は先程よりも物凄い雷であり、今度は口どころか、閉じていたはずの瞳が開ききってしまうほどに。

《‐‐‐‐この技は、このエイクレアの最強の魔法……いえ、魔道具を用いた魔法という意味で、ですが》

 今までエイクレアは、魔力をある程度の量で抑えている。
 けれども、今エイクレアは、その量の抑えを解禁した。今は自分が使うことが出来る魔力量を、一切の下限もなく流し込んでいる。
 ‐‐‐‐それによって、死体の頭からは今まで以上に大きな闇と光の球が生まれていた。けれどもかなり無理な方法であるのは確かなようで、死体には壊れかけを意味するヒビが入っていた。

《【光】の魔法と、【闇】の魔法。この2つの属性はそれぞれに相反する要素があり、互いに互いを滅ぼそうとする力が働いています。いわゆる、対反応ってやつ。ぶつけ合うとそれはお互いにお互いを消滅させようとして、強力な爆発力を生む。
 ‐‐‐‐だからこうして、巨大な【光】と【闇】の魔法をぶつけ合うようにすれば》

 ぶつかっていない、けれども2つの球は近くにあるだけで小規模な爆発をいくつも起こしていた。

《‐‐‐‐エイクレア魔道具秘技・対爆破球!》

 エイクレアはカフェオレに、ではなく、倒れているコビーの方に投げていた。

"ピギュ?!"
《死体損壊、それをどう思うかは本人次第、ですが、あなたはどうですかね? 4枚羽のカフェオレちゃん》

 カフェオレは慌てて、4枚の羽をパタパタと動かして、コビーの元へと戻る。
 そして地面に大きな氷の壁を作り出すと、そのままコビーを守る様に覆いかぶさる。

《‐‐‐‐無駄、無駄無駄》

 エイクレアは笑っていた。
 そして、それを証明するかのように、後押しするかのように‐‐‐‐氷の壁の前で光と闇、それぞれの巨球はぶつかる。


 それは爆発だった。
 いや、その程度では済まない。光球、太陽がいきなり目の前に出現したかのような感覚。
 巨大な爆発は中心地たる氷の壁の前で大きな衝撃波と爆風を及ぼし、爆風だけで木々は竜巻にあったかのように倒れていく。

 そんな爆発を目の当たりにし、エイクレアはボロボロで使えなくなってしまった死体の頭を落としながら‐‐‐‐
 ‐‐‐‐一言、こう呟いた。

《爆発が、デカすぎる・・・・・!》




 ----《魔術師殺し》。
 アルブレンド・ココアを用いて、エイクレアが行っていたこの行為の目的は、優秀な魔法使い。
 その首を取ることにあった。
 首には魔法使いの詠唱として必要な部分が十分に備わっており、彼女の目的‐‐‐‐世界をしろしめすためには、多くの魔法使いの協力が必要だったからだ。

 彼女は自らの【雷】の魔力を人間の頭に使えば、その人間の魔法を強制的に発動することが出来ることを知っていたからだ。
 この知識は遥か昔の大戦、彼女が主と共に戦っていた頃に知りえた知識である。
 彼女が知りえた知識はそれだけではない、光と闇がぶつかり合うことでどれだけの爆発を生むということもその時知った知識の1つだ。

 下手をすれば街1つを滅ぼしてしまうほどの強力な爆発力、彼女はどれだけの量をぶつければそうなるのかを十二分に理解していた。

 ‐‐‐‐‐だからこそ、だからこそ驚いている。
 爆発の規模が大きすぎる、あの量でここまでの爆発は起きないはずだと。

《……熱く、ない?》

 それに、もう1つ疑問があった。
 熱くないのだ、最初は爆発の熱が自身の身にも届いていた。
 しかし今はそれがまるでない、むしろ・・・なんだか温かい、親愛する主の腕の中にいるような感覚が‐‐‐‐

 それは一瞬の出来事だった、けれどもその場に居る者達にとっては一時間以上にも感じられた。


「まったく……」

 爆発が収まり、まだ残る黒い爆風の中から退屈そうな声が聞こえてくる。
 エイクレアはおかしいと否定し続けていたが、それも煙の中から姿が見えた時には、もう無理だった。

「とんでもない目にあったぜ、やはり頑張るってのは俺には向いていないらしい。
 けどまぁ、やらなきゃいけない、だろうな。だって殺されかけてまで、のんびりほんわかとしているだなんてそれはそれで異常だもんな」

 煙の中から、現れたのはアルブレンド・コビー。
 嬉しそうな様子でカフェオレと共に現れた彼の髪は金色に輝いており、全身を同じ黄金色のエネルギーが激しく渦巻いていた。

「‐‐‐‐さぁ、アイストーク。
 殺されかけた例をしよう、お前は俺の手で倒してやろうじゃないか」
"ヤろうジャないカ!"

 主の隣で笑って、そう答えるカフェオレ。
 その姿に、自分は出来なかったその姿を見るエイクレア。

 ‐‐‐‐ぷつん、となにかが切れた音がした。



《良いでしょう、それならワレも"全力で"お相手しましょうっ!》

 黒髪の死体も、白髪の死体も、2つの死体の頭はもうない。
 先程の攻撃で過負荷を与えすぎたため、あまりの負荷に耐え切れずに消滅してしまったからだ。

 何故か復活して強化されているコビーと、カフェオレ。
 対するエイクレアの方は、武器を失っている。
 状況は明らかにエイクレアが不利なはずなのに、彼女は笑っていた。

《"これ"を返品する前で良かったですよ》

 自分が入っていた金色の金庫から、エイクレアはアクセサリーを、花束のアクセサリーのような形の魔道具を取り出す。
 それは【毒にも薬にもなる】。《魔術師殺し》として活動していたココアの金庫に入っていた、"かける"ことならなんでも可能な万能魔道具。

《‐‐‐‐【毒にも薬にもなる】よ、ワレの力を限界まで"かけろ"っ!》

 金色の金庫の中に再びしまい、【雷】を通して魔道具に指示を送る。
 金庫は今までとは比べ物にならないほどの光を放ち、そして‐‐‐‐
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