君と本棚を一緒にしたい

在原正太朗

文字の大きさ
上 下
5 / 5
3.What is your name?

3-1 再会は甘酸っぱい?

しおりを挟む
「てったん。だよね。わたしのこと覚えていないかな?」

 不安を隠しきれない表情を浮かべながら、大人になった君はぼくへ尋ねる。

 冬の凛とした空気のような透き通った声は変わっていなかった。むしろ、あの頃よりも不純物が取り除かれさらに透明感の増した君の声は、ぼくの耳に何の抵抗もなく届いて、地下牢のように厳重にしまわれていた君の名前を、ぼくの記憶の中に連れ出す。

「えりか」

 白江しらええりか。それがぼくの幼馴染の名前であり、あの子の名前であり、君の名前。生花店を営んでいた君の両親がベタにも花の名前をつけた。

 ぼくが名前を呼ぶと、ぼくが覚えていたことへの喜びやあの日の後ろめたさなど様々な感情を隠すように、君ははにかんだ。

「っ」

 初恋の人に再会したときは、木苺のような甘酸っぱい気持ちが広がるものとばかり思っていた。だけど、現実は喉を焼く強烈な酸味が広がるばかり。

「ごめん」

 口を手で塞ぎながらえりかに謝り、ぼくはトイレへと駆けこんだ。
 便器の蓋を開け顔を突っ込むと、ぼくは盛大に吐き出した。
 運命の再会? も台無しにしてしまうように。
 そして、トイレはかわいそうにも、ぼくの吐しゃ物にまみれて使い物にならなくなった。

「てったん。これ」
「……ありがとう」

 トイレから戻ったぼくにエリカはいの一番にハンカチを差し出した。
 ぼくはハンカチを受け取ると口元を拭う。そして、固まった。このハンカチをどうしたものか、扱いに困ったからだ。
 念入りに口をゆすいでいるがこのまま返して気分が良いものじゃないだろう。だからといって返さないわけにもいかないのだが。

「その、洗って、返す……よ?」
「良いよ、てったん。あげるから、またどこかで使って」
「……分かった」

 次、会う可能性が低いからなのだろう。君のハンカチはぼくが貰う事になった。

 そんなぎこちないやり取りを見ていたマスターは、えりかにモヒートとナッツを。ぼくにはピッチャーに入れた水とコップを出すと、ゴム手袋とマスクをしてトイレへと向かった。使用できなくなったかわいそうなトイレを放置しておくのも嫌だったのだろうし、何の説明もなしにぼくたちの関係を察したのだろう。かわいそうなトイレをきれいにしてあげた後、マスターが裏口から出てCloseの文字を入り口の扉に掛けてくれていたことを後で知った。

 マスターが気を回してくれていた間、ぼくたちは旧交を温めることにした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

不倫するクズ夫の末路 ~日本で許されるあらゆる手段を用いて後悔させる。全力で謝ってくるがもう遅い~

ネコ
恋愛
結婚してもうじき10年というある日、夫に不倫が発覚した。 夫は不倫をあっさり認め、「裁判でも何でも好きにしろよ」と開き直る。 どうやらこの男、分かっていないようだ。 お金を払ったら許されるという浅はかな誤解。 それを正し、後悔させ、絶望させて、破滅させる必要がある。 私は法律・不動産・経営・その他、あらゆる知識を総動員して、夫を破滅に追い込む。 夫が徐々にやつれ、痩せ細り、医者から健康状態を心配されようと関係ない。 これは、一切の慈悲なく延々と夫をぶっ潰しにかかる女の物語。 最初は調子に乗って反撃を試みる夫も、最後には抵抗を諦める。 それでも私は攻撃の手を緩めず、周囲がドン引きしようと関係ない。 現代日本で不倫がどれほどの行為なのか、その身をもって思い知れ!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...