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エピソード・3 injury
3-23 injury
しおりを挟む これは意識が戻ってから知ったことなのだが、保健室に連れていかれた自分は意識が戻るまで一旦ベッドで寝かされることになったのだとか。
自分を保健室まで連れて来てくれた万次郎はかなり心配してくれていたようだが、授業を抜け出すわけにもいかず教室へと戻ったようだ。
訳あって万次郎と再び顔を合わすのは翌日になってしまったのだが、こっぴどく怒られてしまったのでその話は省略させてほしい。
話しを当日、保健室のベッドの上で眠る自分に戻そう。
熱を出して倒れた自分は、夢を見ていた。
過去の夢だ。ものすごく後悔をした、過去の夢。
それは今眠っている保健室のベッドと同じ、白いベッドで自分は眠っている夢。いや、光も壁も全てが白い。穢れを何よりも嫌うそんな場所で自分は全身麻酔から目を覚ます。覚醒した自分に襲い掛かってきたのは全身を苦しめる熱と強烈な吐き気。
その原因はたった一つ、手術をしたからだ。
生まれて以来ずっと持ち続けてきた心臓の病。このまま何もしなければ、高校に行く時には倒れると宣告された中学生の自分は仕方のないことだと心に言い聞かせ、二年の春に手術に臨んだ。
手術自体は何も問題なく終えた。ただ、苦しみは手術の後に待っていた。
全身を苦しめる熱と吐き気。想像していた以上の苦しみに、自分は何度も吐き出しながら涙した。
視界はぼやけていた。熱と涙でまともに見えていなかったと思う。それでも、その表情だけははっきりと視界にとらえていた。そして、はっきりと聞こえてしまった。
代われるものなら、代わってあげたいと。苦悶に満ちた顔でそう言ったかあさんの声が。
その顔が、声が自分の中にある黒い怒りを呼び起こした。
なんで同情したように言うんだよ。
こんな体に産んだのは、あんたじゃないか!
……そう思い、自分は睨みつけた。声にならない、してはいけない感情を喉に詰まらせながら。
それが間違いだってことはすぐに気付いた。苦しんでいるのは自分だけではないからだ。だけど、自分は思ってしまったのだ。
決して言葉にはしてはいない。しかし伝わってしまったことは分かってしまう。血の繋がった親子が故に、だ。
その時以来、かあさんの顔をまともに見ることも出来なくなった自分は、臆病に侵された心を守るためにひねくれものを演じた。
演じるうちにひねくれた自分が常になり、仕事の都合で両親が金沢に住まうことになった時喜んでいる自分がいた。
そんな自分を否定したかった。だけど、どう在りたかったのかも分からなくて、ずっと自分は迷ったまま、消えない胸の傷と後悔と共に高校生活を送ってきた。
自分は、ずっとこのまま、熱く苦しい悪夢を見続けたままなのだろう。神様が示したように過去へ想いを届ければ、きっとこの悪夢は消えてくれるって分かっていた。だけど、ひねくれてしまった自分にはそんな勇気がなくて、ずっと悪夢を見続けるのだ。
そう、ずっとこのまま。
自分はこのまま在り続けて。
「……ほんだ」
「っ!?」
自分を呼ぶ声がする。
いやそれだけじゃない。自分を悪夢から救おうとしてくれているような冷たい手が、自分の頬に添えられた。
まるで涙を拭うハンカチのように添えられた手に、自分の涙は浸み込んでいく。洗い出された悪夢も一緒に浸み込んでいき、自分の意識は次第に覚醒していく。
何よりもその冷たくも柔らかくやさしい手の主を知りたくて、自分は重い瞼を開けた。
自分を保健室まで連れて来てくれた万次郎はかなり心配してくれていたようだが、授業を抜け出すわけにもいかず教室へと戻ったようだ。
訳あって万次郎と再び顔を合わすのは翌日になってしまったのだが、こっぴどく怒られてしまったのでその話は省略させてほしい。
話しを当日、保健室のベッドの上で眠る自分に戻そう。
熱を出して倒れた自分は、夢を見ていた。
過去の夢だ。ものすごく後悔をした、過去の夢。
それは今眠っている保健室のベッドと同じ、白いベッドで自分は眠っている夢。いや、光も壁も全てが白い。穢れを何よりも嫌うそんな場所で自分は全身麻酔から目を覚ます。覚醒した自分に襲い掛かってきたのは全身を苦しめる熱と強烈な吐き気。
その原因はたった一つ、手術をしたからだ。
生まれて以来ずっと持ち続けてきた心臓の病。このまま何もしなければ、高校に行く時には倒れると宣告された中学生の自分は仕方のないことだと心に言い聞かせ、二年の春に手術に臨んだ。
手術自体は何も問題なく終えた。ただ、苦しみは手術の後に待っていた。
全身を苦しめる熱と吐き気。想像していた以上の苦しみに、自分は何度も吐き出しながら涙した。
視界はぼやけていた。熱と涙でまともに見えていなかったと思う。それでも、その表情だけははっきりと視界にとらえていた。そして、はっきりと聞こえてしまった。
代われるものなら、代わってあげたいと。苦悶に満ちた顔でそう言ったかあさんの声が。
その顔が、声が自分の中にある黒い怒りを呼び起こした。
なんで同情したように言うんだよ。
こんな体に産んだのは、あんたじゃないか!
……そう思い、自分は睨みつけた。声にならない、してはいけない感情を喉に詰まらせながら。
それが間違いだってことはすぐに気付いた。苦しんでいるのは自分だけではないからだ。だけど、自分は思ってしまったのだ。
決して言葉にはしてはいない。しかし伝わってしまったことは分かってしまう。血の繋がった親子が故に、だ。
その時以来、かあさんの顔をまともに見ることも出来なくなった自分は、臆病に侵された心を守るためにひねくれものを演じた。
演じるうちにひねくれた自分が常になり、仕事の都合で両親が金沢に住まうことになった時喜んでいる自分がいた。
そんな自分を否定したかった。だけど、どう在りたかったのかも分からなくて、ずっと自分は迷ったまま、消えない胸の傷と後悔と共に高校生活を送ってきた。
自分は、ずっとこのまま、熱く苦しい悪夢を見続けたままなのだろう。神様が示したように過去へ想いを届ければ、きっとこの悪夢は消えてくれるって分かっていた。だけど、ひねくれてしまった自分にはそんな勇気がなくて、ずっと悪夢を見続けるのだ。
そう、ずっとこのまま。
自分はこのまま在り続けて。
「……ほんだ」
「っ!?」
自分を呼ぶ声がする。
いやそれだけじゃない。自分を悪夢から救おうとしてくれているような冷たい手が、自分の頬に添えられた。
まるで涙を拭うハンカチのように添えられた手に、自分の涙は浸み込んでいく。洗い出された悪夢も一緒に浸み込んでいき、自分の意識は次第に覚醒していく。
何よりもその冷たくも柔らかくやさしい手の主を知りたくて、自分は重い瞼を開けた。
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