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後日談
忘れられたモノ【後編】ー義輝Sideー
しおりを挟む修兵を抱っこして書斎の椅子に腰掛けると、パソコンの画面の向こう側が騒がしくなった。
「よ、義輝?俺って居ても大丈夫なの?」
「うん。まぁ、大丈夫でしょ」
そう言ってニッコリと笑むと何とも言えない表情を浮かべた修兵が『本当に大丈夫なのかよ』とでも言いたげな雰囲気で溜め息をついたが、それ以上は何も言わなかった。
俺の気分を害さないように気をつけているようだ…
修兵が何をしても大概のことは許せるし、嫌ったりだとかは全然ないんだけど…修兵の本能的な何かがそうさせているのかもしれない…
捨てられるのを無意識に怖がっているのかもしれない…もしそうならば全くの杞憂なんだけどね。
「義輝様」と言う鬼の声に画面を見れば押さえつけられて惨めに這い蹲ったあの男が転がっていた。
あの頃の面影なんて皆無だ。あの頃もたいして騒ぎ立てる容姿などもアルファとしてのオーラも無かったが…さらに可哀想な事になっている。
あの頃はボロボロにされたこの子を見下し、優越感に浸っていたが…立場が逆転している。
まぁ、あの頃の記憶なんて修兵の中から消えてしまっているから見下して優越感に浸るなんて修兵はしないだろうし、例え記憶があったとしても、そんな事はしないだろう。
冷たく画面を見据えていると、男が修兵の事を凝視しているのが見て取れた。
修兵は気をきかせているつもりなのか、俺の首筋にスリスリと擦り寄ってきて首元に顔を埋めて画面を見ないようにしている。
俺が優しく背中を擦ると、ゆっくりと顔を上げた。その横顔を見て息を呑んだのが分かった。
そして、あの子を呼び始めた。残念ながらその名前で呼んでも当たり前だが、修兵は反応を示さない。
あまりにも聞くに堪えない声で喚き散らすので、不快感が増す。それは修兵も同じなのか、迷惑そうに顔を歪めている。
「頼むっ…こっちを見てくれ!俺だ!助けてくれ!」なんて激しく叫び始めた。
画面越しでコレだから、現地の鬼は堪ったものじゃないだろう。なんて他人事に考え事をしていると、修兵が画面に顔を向けた。
それに目を輝かせる男であったが、それも束の間…修兵の次の言葉に凍りつく事になった…
「な、何?この人…誰かと勘違いしてない?怖いんだけど…」
そう言って俺に『ギュッ』としがみついてきた。どうやら本当に怖いらしい…
「忘れたのか!?俺だよ!!」なんて叫んでいるが、修兵は怪訝そうに顔を顰めるだけだった。
「義輝…」なんて不安そうな声音で呼ばれ、修兵に見つめられれば、俺的にはいろいろともう満足なわけで…
安心させるように頭を撫でて頷くと、画面の向こう側に居る鬼に指示を出す。
「もうこの男はダメだね。後は君たちの好きにしても良いけど…施設内から出しちゃダメだよ。最後はしっかりと『処理』しておいてくれる?その後の報告は泰虎にしておいてね。恐らく、確認に行くと思うけど…あぁ、後…他にも何か必要な物があれば泰虎にお願いしてね~」
そう言って鬼を見ると画面の中の鬼は『ホッ』としたような表情を浮かべながら了承の言葉を紡いだ。そして深々と俺に頭を下げる。
それを尻目に通信を切ると、パソコンの電源も落として修兵を抱き上げたまま立ち上がった。
「何か…泰虎ってそういう役回りが多い気がするんだけど…気の所為じゃないよね?」
「ふふっ、どうだろうねぇ…そ・れ・よ・り・修兵はどうして俺に会いに来たんだっけ?」
そう言った瞬間、思い出してしまったのか修兵の顔が明らかに強張り、『グッ』と言葉を詰まらせた。
「分かってるくせに…意地悪…」
なんて言って拗ねたような口振りにも関わらず、素直に『ギュッ』と抱きついて顔を隠してしまった修兵の様子に自然と笑みが浮かんだ。
そうこうしている内にリビングに戻ると俺たちを出迎えたのは画面一杯に映った青白い顔の幽霊役の俳優だった。
あまりのクオリティに、それを見た修兵が絶叫して俺の首を締める勢いで抱き着いてきた。
その後、テレビの悲鳴をBGMにエッチをしたのはまた別のお話…
*END*
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完結おめでとうございます✨
スメラギ先生の作品どれも私のお気に入りです。
これからも素敵な作品とともに応援してます。
ありがとうございます。
嬉しいです(≧▽≦)
これからも作品たちをよろしくお願いしますm(__)m
完結おめでとうございます🎊🎉🍾♪───O(≧∇≦)O────♪
読んでくださり、ありがとうございました(. ❛ ᴗ ❛.)
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