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本編
33ー義輝Sideー
しおりを挟む『運命』なんて要らないと思っていた。俺は自分で自分の伴侶を見つけるつもりでいたからだ…
父や母は『運命』同士であった。両親や周りに居る者も『運命』同士が多かったりする。ただ、祖父母や父の庇護鬼…しかも一部の者は『運命』ではないオメガに紋章を刻み隣に置いている。
鬼は人間のアルファと違い『運命』に出会えば理性が飛ぶ…という事は全くない。愛情が無い状態ならば尚更だ。
そこに愛情が生じていたならば、理性を無くし求める事もあるだろう…
まぁ、稀にそのオメガが『運命』だと気づくのに遅れるポンコツも居るが…
ただ、言えるのは番ってしまえば余程の事がない限り『運命』とか関係なく溺愛する。
(俺はどうなのだろう?)
そんな風に自問自答を繰り返してきたが、未だに答えを見つけられずにいた…
俺にはその感覚が分からない。オメガは強いアルファに強く惹かれる…例外なく俺の元にもそういうオメガは沢山集まった。
欲に塗れた汚らわしいオメガ…そういうオメガばかりを見ていたからなのか…何だか無性に可笑しくなって消したくなった。
そんな時だった。彼を見つけたのは…雷にうたれたような衝撃が身体を襲った。青天の霹靂とはまさにこういう事を言うのだろう…
何の警戒心もなく近づいてきて純真無垢な笑顔を俺に向けた。周りを見渡すが、親らしき人物はいない。
彼が気づいていなかっただけで、親はこの時から無関心だったのだろう…
毎日、あの場所へ行った。彼もまた毎日、同じ時間に来た。今日あった事などを一生懸命に話してくる。
頭を撫でてやるとニッコリと本当に嬉しそうに笑う。鬼の臭覚を使い彼の親を探すとかなり離れた所にいた。
彼を抱き上げて親の近くへと行ってみる。すると、アルファだという事が分かった。ずっとスマホを弄っており子どもを気にしている様子なんて全くない。
その様子に溜め息をつき、少し離れた所に行ってみようと笑顔で誘うと嬉しそうについてきた…
その事実に頭痛とも目眩ともいえるような感覚に襲われる。
(もう少し警戒心を持てよ)
誘っておいてアレだけど…そう思ってしまったのは仕方ないと思う。
しかし、この子は無意識に一緒に居てくれる相手を探していたのかもしれない…気づいていなかっただけで、愛情に飢えていたのかもしれない…
俺は話を聞くだけではなく、遊んであげるようになった。日をおうごとに彼が俺に対して好意的であると全身を使って教えてくれる。
嬉しいと思う反面、こんな無防備じゃダメだろうと思わなくもなかった。
そして、過ごしていく内にこの子と番いたいと強く思うようになっていた…しかし、この子は男のベータだ。どう足掻いても男のアルファと番う事は勿論だが…結婚もできない。
ベータをオメガに変えるという方法は無くもない…ただ、この方法は鬼社会では御法度中の御法度…何百年も前に禁止されたものだ…
ベータをオメガに変えた鬼が娯楽の為に使い捨てにしていたという事件が多発した。
まぁ、その悪質すぎる行いに関係した鬼たちは全て殺処分された。
オメガにされたベータは対象の鬼が居なくなってしまった事により発狂して自殺した者が殆どだった…
そんな事もあり、ベータをオメガに変える資料は全て焼き払われたとされている。
医学に携わりいろいろと調べていた俺はその方法を思いついてしまう。理論上は可能ではある…しかし、実際の資料がない現状が悔やまれる。
アレさえあれば安全に『第二の性』を変えられる。全て丸くおさまるのに…と強く思っていた。
全ての準備を済ますため…この子を自分の番にするために、再会を約束し…一度、この子から離れたんだけど…である。
俺との約束を反故にして別の者と付き合ったのだ…あまりの怒りに相手の男を地獄に落とす計画もしていたがー…
幸せそうに笑っている姿を見て、『あぁ、幸せそうだ。あの子が幸せなら、まぁ、良いか…』そう思い見守る事にして見守っていた。その矢先に…アノ事件が起きた。
アルファである俺にとっては僥倖な出来事ではあった…あくまでも俺にとっては…だ。
彼にとっては地獄のようなものだっただろう…
俺の中に燃え上がるような怒りが湧いたのはこの時が初めてだった。その感情に若干の戸惑いはあったものの、心の中で『ああ、コレが番を害されたアルファの怒りか』と漠然とそう思った。
番の事を想える自分が居た事に驚いてもいた…
もう、この時点で、俺の心は殆ど決まっているようなものだった…
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