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本編
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しおりを挟む考えていた義輝は俺を見て口を開いたが、その台詞は俺の問い掛けに対しての答えではなかった。
「ねぇ、修兵は『運命』って信じる?」
義輝を見つめていた自分の顔が怪訝そうに歪んでいる自覚はある。しかし、義輝は『答えて』そう言っている気がした。
「さぁ…どうだろう…実際、俺ってベータじゃん?考えた事もなかった…ベータには関係ないし…でも、アルファにはいるだろ?実際に違ったわけだけど、アイツだって何だかんだで『運命だー!』ってなっていたわけだし…」
「劣等種ね…君の口から聞くと何とも言えない感情が湧いてくるね。らしくないな…」
「義輝?」
「何でもないよ。気にしないで…」
「……義輝はどうなんだ?」
「『運命』?俺には道端に落ちてる石ころみたいなモノだよ。でも、そうだな…あの日、君に初めて会ったあの日…修兵、君を初めて見た時に強い衝撃みたいなのはあったよ。」
そう言って懐かしそうにクスっと笑った。
「君が俺の『運命』だと言われたら納得してしまいそうだよ…本当に、ね…」
俺を見てフッと笑うと義輝はお茶を啜る。そして、再び口を開いた。
「君から離れたあの日からずっと準備してたんだよ。君は俺との約束を反故にしてしまったけれど…」
「………それはごめん。アルファとベータ…しかも、男のベータじゃ結婚なんてできないから落ち込んでたんだよ。そして、諦めた頃にアイツが現れてー…」
「絆されて付き合ったと?」
「否定はしない。今では何であんな奴の事を好きになったのか分かんねーって思ってるしな…それで?今、この状況にどう関係があんだよ?」
隠し事はしないでほしい。そう伝えると考える素振りを見せたがそれも一瞬で口を開く。
「この錠剤の本来の効果は『性転換』それも『第二の性』の方だよ。俺の血と相性が良くなければ起こり得ない効果だけどね。」
「は?せいてんかん?」
「簡単に言えば…君を『オメガ』へと変える薬だよ。ただし、俺の血を使用しているから…俺のフェロモンにだけ反応するんだ。さらに補足として付け加えると、人工的に作り出された『運命の番』ってところかな。」
「え?俺…オメガになるのか?『運命』って…は?」
「可能性の問題だね。順調にいけばそうなるし、いかなければそのままだよ。効果が発揮されればオメガになった上で歩けるようになるね。扱いとしては『鬼の嫁』だよ…本格的に番ってないから噛み跡と紋章はないけれど、鬼の遺伝子が体内にある状態だからね」
そう言ってゆっくりと俺の項を指でなぞる。その感覚にゾワリとしてピクリと身体が反応した。
「言ったでしょ?『堕とす』って。」
「オメガにするって意味だったのか!?」
「そうだね…大体は合ってるよ。でも、少し違うかな」
「え?」
「俺と番う為の通過点に過ぎないんだよ?」
「決定事項かよ!」
「………言ったでしょ?忘れた?『君には選択肢を与えない方が良いのかもしれないねぇ…』って…覚えてる?」
確かに言われた記憶はある。
「『選択』できる時期は過ぎたよ。君は極端に捨てられる事を恐れている。いや、恐れるようになってしまった。あの劣等種のせいでね…だから、君の命は俺がもらってしまおうと思ったんだよ。あの日…幸せそうな君を見て諦めた事もあったけど…あの時の悲しそうな顔を見てもう二度と離す事はないと…」
「………何でベータの俺をそこまで思えるんだ?」
狂気が見え隠れしているようなその雰囲気に飲まれまいと必死で取り繕った言葉は少し震えてしまっていた。
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