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本編
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しおりを挟む僕、月宮 政義には番が居る。月宮 氷夜という男の鬼だ。
そして、子どもも2人居る…が、事故や病気をしていなければ、1人は人間だったから、もう寿命でこの世には居ないだろう。
もう1人は鬼であり、この世界で頂点に君臨している鬼神…『神木』と呼ばれる者である。
この子も氷夜との間にできた子ではない。しかし、後悔はしていない。僕にとっては2人とも大事な子ども。
今では何の隔たりもなく、そう思えるようになった。
そんな風に心に余裕ができたのは、僕と番ってくれたこの鬼のおかげだと言っても過言ではない。
鬼はアルファしか生まれない。そして、鬼を産めるのはオメガだけ。ベータやアルファとそういう行為をしたとしても孕ませる事は絶対にない…
孕ませれるのはオメガだけであり、オメガだけが鬼の子を成せる…ゆえにオメガはー…特に鬼にとっては特別な存在である。
『神木』以外の鬼は番の苗字を名乗る…鬼に苗字があるのは番が居る証。番は鬼と一生を共にする。とは言っても番った鬼がなんらかの事故で死んでしまったならば、片割れであるオメガも死ぬが…逆は無い。
しかし、番ったオメガが居なくなれば鬼はやがて正気を失う。自ら命を断つ者も居れば、人を襲い血肉を啜り始める者もいた。が、今では人を襲う前に殺処分されている…らしい。
車を運転中の氷夜をチラリと盗み見ると、視線に気づいたのか一瞬、目が合う…が、直ぐに前を向いてしまった。
その横顔はなんだかとても嬉しそうに見える…その表情を見て胸がキュッと締め付けられるような、悲しみとは少し違う感情が心の内に生まれた。
僕はこの先、どれだけの時をこの鬼と過ごせるだろうか…
この鬼にどれだけの想いを返せるだろうか…
ちゃんとこの鬼を幸せにできているだろうか…
僕だけが幸せになってはいないだろうか…
この想いはずっと心の中にある。
らしくない…と言われればそうかもしれないし、違うのかもしれない。
そんな事を思いながら景色を眺めていた。
目的地に近い場所に車を止めてもらい、獣道のような山道を進んで行く。暫く歩くと目的地へと到着した。これは僕なりのケジメであり、前に進むために必要な事…
行きたいところがある…そう言えば嫌な顔一つせずに二つ返事で了承してくれた氷夜には感謝しかない。ちなみに紅輝は上層の鬼が住まう居住区で生活している。
鬼で言えば60歳なんてまだまだ子どもではあるが、独り立ちして数十年になり、庇護鬼も数体従えてちゃんと『神木』をやっている。
僕は氷夜と二人で暮らし始めていた。あの人よりも長い時間をこの鬼と過ごしている。
優しい顔をして氷夜から笑いかけられると、出会ったあの頃のように嬉しくもあり、恥ずかしくもある感情が未だに生まれてくる…
このトキメキに近い反応も、これから先ずっとあるのだろう…嫌だとは思はないが、落ち着かない、そんな感じだった。
☆
氷夜と手を繋ぎ、長い石段を登りきると、建物が建っていた名残を残した土地が広がっており、茂みに隠れるようにして細い道がある。
鬱蒼なソレに暫く使われていなかった事が見て取れる。
その道へと迷わずに入って行き、暫く奥へ進むと、目的の場所へ辿り着いた。
そして、目の前のこじんまりとしたひっそりと佇む石積みの前にしゃがみこむと、ココへ来るまでの道中で買っておいた花を手向ける。そのまま目を閉じて手を合わせた。
暫くそうした後、目を開けて横を見れば同じようにしゃがみこんでは居るものの、首を傾げている氷夜が居た。
僕の動きに気づいたのか、こちらを見た氷夜と目があった。
「政義?ここは?」
その問はごもっともだろう…僕は氷夜へと笑顔を向けると周りを見渡して、一際目立つ大きい石積みを指差して口を開いた。
「あの大きい石積みには歴代の月宮当主が眠ってるんだ…僕の姉や妹もこの敷地内の何処かに眠ってて…そして、この目の前の石積みは僕を生んでくれた母親が眠っているんだよ。この土地…この敷地内には月宮本家が建っていたんだ…月宮家の跡地というのは知ってるでしょう?」
「あぁ。知ってはいるが…姉や妹…?」
「僕にもね。姉や妹がいたんだよ。あの人たちは僕を認めてはくれなかったけれど…確かに居たんだ…」
そう言って目を閉じると、氷夜が動く気配があった。目を開くよりも先に氷夜が僕を抱き締める。
そして、何も言わずに、ただただ僕の頭を梳くように撫でてきた。耳元で微かに聞こえるトクトクと氷夜の心臓が動く音を聞きながら落ち着きリラックスをする。
そして、思い出す…これは禁忌に触れる内容であり、墓まで持って行くと決めた誰にも話していない内容である。
月宮家は『神を奉る』家系であったのは間違いないけれど…もう1つ大きな役目があった。
モノノケと呼ばれるモノの封印…いや…封印と呼ぶには些か語弊があるだろう…
そんな事を思いながら先程よりも鮮明に当時の記憶を辿る…
☆
『良いかい。政義、あの場所へは近づいてはいけないよ。』
あの建物が見える少し離れた丘の上でそう言って優しく頭を撫でてくれたのは僕の名付け親であり、僕を生んだ親の親…つまり、僕にとっては祖母にあたるが、この家の当主であり、大ババ様と呼ばれていた月宮家の頂点に居るお方だった。
代々、月宮家は優れた女のアルファが継いできた。それは先に生まれたとか後に生まれたとかなどは関係がなく、条件にあった者が選ばれていた。
任命するのは当主である。そして、当主が選んだ次期当主の次に優れている者が特別な役割を果たす事になる。それもまた当主が選定する。
優れた能力で月宮家を支えてきた者たちを巫女と言う。他の巫女たちと区別する為に、当主は神子と呼ばれ、特別な役割を担う者は舞姫と呼ばれた。
そして、その特殊な家系に生まれた政義はオメガであり、子を成す事が出来る事から巫女と区別された。
オメガは年端が来ると本家と縁がある他家へと嫁がされる。月宮家に生まれた男のアルファは婿に出される。そして、他家から優れている男のアルファを婿へと招き入れ、当主と婚姻を結び子を成す。
優れている者から生まれてくる女のアルファはやはり優秀な能力を持って生まれてくる事の方が多かったので、殆ど必然のような形で条件に当て嵌まり、姉妹の誰かが当主に選ばれ、その姉妹の誰かが特殊な役割に選ばれていた。
故に月宮家に居る巫女の殆どが女のアルファである。
巫女は本来、上下関係なんて無い。しかし、ソレは月宮家では表向きであり、裏では最悪だった。
自分より劣る者をこき下ろし、品の欠片もない巫女とは名ばかりの女の応酬。
陰湿な嫌がらせは日常茶飯事であった…日頃の鬱憤を晴らせるのなら誰でも良かったのだろう彼女たちは、僕たちにも度々、陰湿な嫌がらせをしてきていた。
あの頃はその度に落ち込み、泣いていた。そんな時に彼に出会った。
彼の家系は代々、月宮の守護の役割を担い仕えてきた月門家の三男であり末っ子の男のアルファ…その者の名は文崇と言った…
その月門の長男が神子に婿入りする事が多く、大ババ様の婚姻相手もまた、この月門家の長男だった。
話が逸れてしまったが、この文崇という男のアルファは兄たちには劣るがそれなりにできる男のアルファだった。
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