鬼の揺籃

スメラギ

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鬼の揺籃―本編―

颯sideー中編㊤ー

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 俺は先天的に子どもが出来にくいと診断されていた。
 俺の精子はその機能が殆んど働いていないんだと…
 子どもが出来れば奇跡だと言われていた。

 それを知っているのは俺の庇護鬼と神木かみき 紅輝こうきという俺が紋章を捧げた相手…

 そして、もう2人いる。男のΩオメガであり、紅輝を生んだ母親である月宮つきのみや  政義まさよしさんと、俺と同じ上層部の鬼であり、政義さんに紋章を刻んだ鬼…月宮つきのみや  氷夜ひょうやだけだった。

 そして、星宮ほしのみや  かなでというまだ、幼さの残る可愛い顔をした小柄な男のΩオメガを保護し、マンションへ連れていく…
 俺の庇護鬼が住んでいるマンションだ…そこを事前に借りていた。
 そこの部屋へ住まわせる事にしている。

 保護した日にしっかりと鬼関係専門の医療機関を受診させた。
 その際に、この子は下層の鬼に無体を強いられ子宮が傷ついており、妊娠の可能性が著しく低い身体と診断を受けた。

 残酷な診断結果を本人に告げることはあまりに酷だと判断した俺は『子どもが出来にくい身体』になっていると教えた。
 本人は悲しそうな表情を見せたがそれも直ぐに戻った。
 しかし、無表情を貫いていても目の奥は悲しみで染まっている…

 そして、俺の事も信用していない…
 当然だな、鬼に酷い仕打ちを受けたのだから…
 それともう1つ、伴侶はんりょであるΩオメガを見ると酷く怯えているのだ…鬼以外にも酷くやられたようだ…
 幼い身体は精神的にも肉体的にも凄く傷つけられているみたいだ…

 庇護鬼にも護るように"命令"を出してある。傷つけるようなバカな真似はしない。
 
 恐らくマッチングなんて出来はしないだろう。状態が落ち着くまで俺が面倒を見る事に決めた。

 俺とは違って先天的なものじゃないにしても、他者によって子どもが出来ないかもしれない身体にされた…
 本来ならばもっと幸せになれたかもしれないにも関わらず、だ…

 俺は奏に星宮ほしのみや家の事について―…家族の事は一切話さなかった。
 
 最初の数ヵ月は警戒心の強い猫みたいだった。俺の事を観察して信用できるかどうか見ているのだろう。
 俺は奏が寝てから明け方まではここに居るが、外が明るくなると自分に宛がわれているマンションへ帰っている。
 別にここに居ても俺は構わないのだが、奏が気を使ってしまうだろう。
 せめて、安心して穏やかに生活してほしい…

 ある日、奏は俺を『鬼様』と呼んだ。その呼び方は好きではないので『はやて』と呼べと言うと、ならば苗字はと聞かれたが、俺にはつがいが居ないので、苗字は無いと言った。
 すると、少し困ったような顔をして考えると『はやて様』と呼んだ。
 そこまで心は許してないという事か…今はそれで良い…

 この生活に慣れた頃、学校に行くように勧めた。
 近所も散歩や買い物に行ったりして見慣れたはずだ…学校もここから離れていない。
 もちろん資金などはこちらが出す。
 嫌とは言わなかった。俺に勧められるがまま学校に通う事になった。

 この子が生きるために必要な力…
 月々に生活に必要な分を渡し、授業料など学校の金はまた別に出す事にしている。
 学校から出されたプリント類も出すように言い付けてあるので、奏はしっかりと言い付けを守っている。
 
 俺に少し慣れた頃…鬼関係の事を教えた。奏は知らない事の方が多いようだった。庇護鬼たちにも教えてやるように言い付けてあるので、悪いようにはしないはずだ…

 庇護鬼からはここまでする義理はないだろうと言われたが―…俺自身、奏をどうしたいのか、自分がどうなりたいのか…分からなかった…


 それからもう少したった頃、奏から夕飯に誘われた。俺はあまり料理が得意ではない…寧ろ苦手な方だ。
 掃除や洗濯はマンションに帰った時にしているが、ご飯は外食かお惣菜だ。ご飯は炊けるのでそこだけは評価してほしい…

 その日から俺は奏と夕食を共にする事になった…奏のご飯は俺の口に合う…普通に美味い。
 奏は普通に俺を受け入れている。危機感はないのか?と不安になったが、俺の事を少しは信用してくれたのだと思って良いのだろうか…

 そして、奏は健気に俺に尽くしてくる。俺が来る事を待っているのかと錯覚しそうになる時もある。

 そんなある日の夜だった。珍しく奏は俺の目の前で寝てしまった。しかも、俺に寄りかかって…
 無防備な奏に何故か心臓が落ち着かなくなる…
 奏を起こさないように気を付けながら抱き上げると寝室へ向かった。ベッドに寝かせてやる為だ…

 ベッドに寝かせて離れようとすると、奏の小さな手が俺の服の裾を掴んだ。
 少し震えているその手に俺の手を重ねてやると少し力が緩み震えも治まる。
 その姿に庇護欲が掻き立てられる。

 顔を見ると、泣き出しそうな表情をしており、小さな声で何かを言っている。
 鬼の聴覚は優秀なので、人間では聞き取れなかったであろう呟きを拾った。

 「僕を捨てないで」と言っている。
 捨てられる事を凄く恐れているようだ。
 思わずキスをしかけた自分に驚いた。何とか思い止まると、奏の顔を覗き込む。
 泣き出しそうな頬を撫でてやると目尻から涙が流れた。

 その涙をそっと拭き取ると、奏の隣に横になった。今日はこのままここに居た方が良いと判断したからだ…
 何故か隣から離れてはいけない気がしたので、その日は奏が起きるギリギリまでは隣で寝た。

 
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