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鬼の花嫁―短編―
デート旅行です【後編】―いつきside―
しおりを挟む久しぶりに意識が飛ぶほど抱かれた。日付けが変わる辺りまでは覚えているが、いろいろと曖昧だった。
目を開けて視線を上げると紅輝が穏やかな寝顔を見せている。
僕の身体に回っている腕の力は全く緩む気配はない。僕は服を着ているが紅輝は下着以外、身に付けていない。
僕が身動ぐと紅輝の瞼が震えてルビーのような瞳が姿を見せる。少し寝惚けているようだ。ふわりと微笑むと僕をさらに抱き寄せて僕の旋毛にキスをして頬擦りしている。
本当に寝惚けているみたいだ。何か擽ったいなとも思ったが意図せず口元が緩む。
「いつき?」
「ううん。何でもないよ」
そう言って微笑むと啄むようなキスが降ってきた。数回繰り返していると段々深くなってきたので軽く肩を叩いて止めてくれとすると、案外すんなりと止めてくれた。
拍子抜けである…その事に気づいたのか紅輝は少しだけ笑った。
「起きるか?」
「う、うん。」
よし、と言うと。優しく僕をギュッとしてから離れていった。
そして、思い出したかのように「続きは帰ってからな」と言われてしまったので、瞬時に顔が真っ赤に染まった。
なんとか気分を落ち着かせ、ルームサービスで朝食を食べてホテルを出ると再び園内を歩き始めた。
ホテルをチェックアウトするタイミングで帰路に着くと言っていた。
今日は子どもたちや庇護鬼たちへのお土産を買う予定で歩き回った。
昨晩のアレが嘘みたいだ。恐るべし番の回復力…である…
★
目についたお土産屋へと紅輝と共に入った僕は子どもたちなどへのお土産を選び始める。
政夜には『にゃん太くん』のチョコレート菓子。
樹輝には『ネコ美ちゃん』のフィナンシェ。
義輝には『ネコ美ちゃん』のマドレーヌ。
優樹には『にゃん太くん』の生チョコレート。
勇夜には『ネコ美ちゃんとにゃん太くん』の焦がしバタークッキーを買った。
お義母さんやお義父さんにも『ネコ美ちゃんとにゃん太くん』のダブルチョコクッキーを買い、ペアストラップを買った。『ネコ美ちゃん』と『にゃん太くん』が持っている物の2つを合わせると可愛いハートになるのだ。
僕が皆へのお土産を考えるのに『ウンウン』と悩んでいる姿を紅輝は優しく見守ってくれていた。僕からのお願いで紅輝は自分の庇護鬼へのお土産を選ぶ事になったんだけど―…
センスがヤバかった。というより適当に選びすぎだと思う。
キョロキョロしたかと思うと、これで良いだろう。と手に取って見せたのは『ネコ美ちゃん』の猫型サングラス…
これは無い…誰も喜ばないだろう。と言って紅輝を見ると「いつきの物を選ぶ訳ではないから力が入らない」と言って肩をすくめて見せた。
庇護鬼たちへは『にゃん太くん』のミルクチョコレート。舞さんには別に『にゃん太くんとネコ美ちゃん』のぬいぐるみを選んだ。
その後は再びぶらぶらと園内を散策し、昨日は見えなかった景色をゆっくり見ながら歩いていると、数人の女性が近づいて来た。恐らく、紅輝目当てだろう。
案の定、彼女たちは紅輝に猫撫で声をかける。
いろいろと言っていたが、要約すると『一緒に回りませんか?』という事らしい…
紅輝は無愛想に「行かない」と言って繋いでいた手を今度は絡め恋人繋ぎにした。そして、その場を後にしようとする。
「待ってくださいよ。」と言って自分の身体の魅力を十分に理解しているのだろうその女性は色気を醸し出しながら紅輝に色目を使っている。
それに比例するように紅輝の機嫌が低下し始める。僕にはソレが分かった。ソレに気づかないのは周りにいる人たちだけ…そこまで紅輝の表情筋は動かない…凄いと思う。
僕が隣でワタワタとしていると、不意に彼女たちの視線が僕に向く。
紅輝に向けた猫撫で声と違って強い口調で「貴方、この人の何なの!」と言ってきた。邪魔だから消えろと言われているようだが…恐らくそれは逆効果…長年紅輝と共に居たから分かる。
案の定、微かに紅輝の視線が鋭くなる。隣に居る紅輝に気を付けながら慎重に口を開いた。
「僕は、この人の、番です」と句切りながら話すと紅輝は何か嬉しそうに僕を見ている。
だが、僕の言葉は足りてなかったらしい…
凄く良い声で「『愛する』が抜けているぞ」なんて付け足すように言ってクスクスと笑った。
その光景を見て彼女たちは『こんなのが!?』といった表情で有り得ないと僕の方を見た。
まるで釣り合わないと言われているようだ…というより実際にそう思っているのだろう。それも仕方ないと思う。
外に出るときは首に保護具を着けているから…番の証しは隠れている。
見てもらった方が早いと判断した僕は保護具に手を掛けたが―…紅輝が繋いでいた手を離し、保護具を掴んだ僕の手を握る方が早かった。
何事かと紅輝を見上げた直後、紅輝の顔が視界一杯に広がる。
キスをされていると自覚したのは少し遅れてからだった。驚いて『え!?』と微かに口が開いたのが悪かったのか…紅輝の舌が口内へと入ってきた。
深くなるキスに周りでは『きゃー』っと悲鳴が上がる。それは何の悲鳴なのかは分からなかったが、効果は絶大だったようだ。
顔を赤らめて彼女たちはバツが悪そうに退散していった。呆然と立ち尽くした僕の口の端から滴り落ちた唾液を紅輝は自身の舌で舐めとり、僕に妖艶に笑みかけると再び手を取って歩き始めた。
さっきの光景を見た者もそこそこ居たようで、見た人たちは顔を赤らめながら明後日の方向にサッと顔を背けている。
気まずいような何ともいえない空気にした張本人である紅輝は気にした様子が全くない…寧ろ先程の絡みが相当ウザかったのか、その後はさらに身体を密着させて行動する事になった。
★
あれから数時間後ホテルのチェックアウトを済ませテーマパークを出た。
車に乗って帰路についていると、けたたましく僕のスマホが鳴った確認すると着信相手は義輝だった。
通話ボタンを押すと開口一番に爆弾を投下してくれた。
「母さん!父さんとラブラブだね~あの紙袋は余計なお世話だったかな!」なんておかしそうな声がスマホの向こうから聞こえてきた。義輝の近くには数人いるようで盛り上がっている。
何が何だか分からず義輝に聞くと、デートの人気スポットだけあってテーマパークには特集を組んだテレビの人たちが居たらしく、カメラが回っていたようだ。そして、嬉しくない事に彼女たちの前でしたあの深い口付けがテレビで流れてしまったらしい。
恥ずかしすぎて泣きそうになった瞬間だった。しかも生放送ときた。
電話の向こうには兄弟たちが揃っているようだ。「あいつら仲良いな」と紅輝の言葉。僕が羞恥で固まっているのを余所に紅輝の言葉は呑気なものだった。
そうじゃないでしょ!と叫びたかったが、言葉になる事はなかった。
「熱いキスだったね~」という義輝の声に続き、「このテレビ番組は視聴者数が凄いらしいから見た人、結構いると思うよ」と政夜の声。
「今さらだけど、こっちハンズフリーだから心配しなくても皆聞こえているし会話もできるから大丈夫だ。」 と樹輝の声がした。その少しズレてる樹輝に普段なら和むんだけど…今はムリだった。
いや、そっちの心配はしてないです。寧ろあの痴態が流れてしまった事実が恥ずかしすぎてそれどころではないです…という僕の心の声は誰にも届かなかった。
ちなみにこちらもハンズフリーでスピーカーにしてあるから紅輝も子どもたちと話ができる。
「熱いカップルとして放送されたね…園内の案内をしている途中でアレだから…」
「どうせ下らない連中にからまれた、ってところでしょ?」
「優樹、鋭いなその通りだ」
紅輝は普通に子どもたちと会話をしている。僕は半泣き状態だ。
恥ずかしすぎて帰った時にどういう顔をして子どもたちに会えば良いの!?といった感じである。
チラリと僕を見た紅輝は僕の頬を優しくつついた後、口を開いた。
「あまり、この話題に触れてやるな。いつきが可愛い―…ん゛ん゛、泣きそうな顔をしている。」
紅輝さん。言い直しても遅いですよ。と思ったのは僕だけではないはずだ…
それを証拠に少し笑いながら義輝が「あ~、ごめん!母さん恥ずかしがり屋さんだもんね~」なんて言ってくる。
「義輝、誠意が足りてないよ。」と呆れてはいる声だが、政夜は気にした様子が全くない。多分、口先だけだろう。
「ま、義輝だからな。」と『俺、知らね』という風に義輝に全てをさらっと押し付けたのは樹輝だった。
「俺たちは母さんと父さんが仲良くて嬉しいよ」
「父さんは別に気にしてなさそう…」
そう言った優樹に続くように言った勇夜のその言葉に珍しくも紅輝が否定した。
全く意に介さない紅輝だと思っていたのだけれど…意外だな…なんて思っていたが…紅輝の言葉は予想と全く違っていたが、考えれば紅輝らしいとも言えるものだった。
「テレビで流れたという事はいつきの可愛い顔が他の奴らに見られたって事だろ?…俺のだと公言できるのはありがたいが…可愛い顔を見られたとなると複雑だ。」と溜め息をついている。
が、紅輝の心配は杞憂だ。僕の顔なんて『誰得だよ!?』だからね!紅輝だけだから…そんなに心配してるの!
「父さんらしい意見だね。でも、大丈夫だと思うよ?顔は見えてなかったからね。」と冷静な声音で政夜が言った。
「そうそう、父さんの顔はバッチリ映ってたけど、母さんは父さんの横顔であまり映ってなかったからね~しかも、直ぐに父さんが身体を密着させちゃったから分からなかったよ。だから、安心して大丈夫だよ。」と義輝は言っていたが…それは紅輝に言ったのか、それとも僕に言ったのかは分からなかった。
「まぁ、でも、この話しは帰ってからたっぷりと聞かせてもらうから~」と凄くノリノリなのは義輝だった。
「ほどほどにしないと、母さん泣いちゃうから!ダメだよ!」と政夜が言っている…政夜にはアレの一部を見られてしまっている…思い出しただけで泣きそうだ。
「ま、楽しめて良かったな」と樹輝に言われたので、取り敢えず、「うん。楽しかったよ」と何とか返した。いや、返せた。
「気を付けて帰って来なよ」と優樹の言葉に「うん。ありがとう」と返しておく。
勇夜からはわざとらしく、おちゃらけたように「お土産、楽しみにしてる」と言われた。多分、義輝の言葉に恥ずかしがって会話に入れなかった僕を気遣ってくれての事だろう。
「喜んでくれるといいのだけれど…」と返しておいた。
皆から「気を付けてね」という言葉を貰った後、義輝からの「楽しみにしてるね~いろいろと」なんていう言葉を最後にスマホが切れた。僕、まだ『バイバイ』言ってないんだけど…こちらの返事など、皆は気にしていないようだった。言いたいことを言って切ってしまった。
僕の心境は複雑である…
ハンドルを握った紅輝が横で「義輝…アイツ誰に似たんだよ」と呆れたように呟いたが―…
義輝が未だに誰に性格などが似たのか分からない…成長すると纏う雰囲気と口調は葉月に似たが―…中身が分からないのが難点である。
「これは―…帰ったら質問攻めに合うな」と紅輝が面白そうに笑いながら言ったが、僕は引きつった笑みしか返す事ができなかった。
暫くの間、僕の心は穏やかではなかった…
その件は全て紅輝に任せる事にしたのだった。
*end*
1
**
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***
全ては“自己責任”でお読み下さい。
*
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
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【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
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