鬼の花嫁

スメラギ

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鬼の花嫁―本編―

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 いろいろとあったが僕は元気な双子を無事に出産した。
 双子の兄が樹輝たつき、弟が義輝よしき
 そして、その3年後に優樹ゆうきを出産した。

 さらに5年が経ち、再び妊娠が発覚した。
 お義母さんやお義父さんはもちろんだが、舞さんや庇護鬼たちも全く驚かなくなった。

 双子を出産してから次の妊娠が分かった時には『今度は1人?それとも双子?』くらいの落ち着きようだった。

 政夜が13歳となり、樹輝と義輝は8歳で優樹が5歳になった。
 舞さんのところみたいになるのかと思いきや、紅輝と政夜の躾の賜物か凄く良い子に育っている。
 僕は頭を撫でたりとか話をしたりくらいしかしていない…褒めたり怒ったりもするが、紅輝や政夜ほどじゃない。
 良くできた『主夫=紅輝』って感じだ…僕の出る幕がない…

 そして、僕の仕事が全て無くなった…揶揄する事なく全てだ。
 皆が分担してしまった。
 紅輝と政夜が料理をして、樹輝と義輝が洗濯をする。
 掃除も4人がササッとしてしまうのだ。
 政夜はもちろんだが、樹輝と義輝も8歳とは思えないくらいにしっかりしている。
 優樹は紅輝にベッタリとくっついて離れない。
 『ずるい』と子どもに妬いてしまうダメな母親です。
 紅輝も危なげなく優樹を抱き上げて、料理以外の家事をこなす。
 料理をしている時は樹輝と義輝が見てくれている。

 紅輝以外の皆は遠慮がちに僕やお義母さんに近づいてくる。
 母親なのに…と思わなくもないが―…思いっきり来られると死んでしまいかねないので仕方ないのだろう…
 鬼とはまた違う脆弱な存在なので、どう扱って良いのか迷っているようだ。
 つがいについても紅輝やお義父さん、庇護鬼たちから教わっているようなので鬼の常識などは問題ないと思う。
 僕が教えることが何もない…僕の出番が全く無いのが悲しい。舞さんはそんなものだと言っていた。

 その分、紅輝に甘えている…紅輝は嬉しそうだ。
 その上、子どもの前で普通に口付けてくる…稀に深い時がある…
 教育上よろしくないと思うが―…皆は気にしていない。
 何で気にしないの!?いや、気にされても困るけど…恥ずかしいのは僕だけ!?

 政夜の性格は紅輝やお義母さんと似ている部分がある、話し方は基本的にお義母さんに似ている。稀に悪くなる。

 樹輝は紅輝の子どもバージョンみたいであり、容姿も性格もそっくりだ。

 逆に義輝は僕に似た。普段の話し方も似ているし、容姿も似ているが、紅輝の遺伝子も入っているのでイケメンの部類だ。

 でも、鬼だけあって見てくれに騙されたら酷い目に合うと椿と柊が言っていた。何で?

 何をやらかしたのかと聞けば2人とも涙目で首を振った。言葉にもしたくないらしい…

 「優樹がマジ天使」

 2人は口を揃えてそう言った。
 政夜はその光景を見て、思い出したのか苦笑いを浮かべていた。
 本当に義輝は何をしたの!?
 そして、僕の性格とは全くもって似ていないらしい。力説された。雰囲気に騙されたらダメなヤツらしい。

 義輝は葉月に懐いているだけあって、家と外で使い分けているんだって…それ…どういう意味?良い意味なの?悪い意味なの?どっち?

 樹輝は政夜に凄く懐いている。後ろを付いて回ってアレコレ手伝っているのを見ると凄く和む。
 優樹も僕の世話をやこうとしてくる。紅輝の真似だろうと思うけど…でも、流石に口付けや抱きついてくるなどはしてこない…僕がつがいである事を理解しているみたいだ。

 出産のために入院する時は4人ともお義母さんたちの所に行く事になっている。「毎回すみません」と言うとお義母さんもお義父さんも楽しみにしているから気にしなくて良いと言ってくれている。
 ありがたい限りである。



 数日後、僕は入院した。もちろん、出産するための入院だ。
 紅輝は僕に付きっきりで、ずっと一緒に居てくれている。看護師さんや先生も顔馴染みになってしまった。

 もう、皆は驚かない。『凄いですね!』なんていうのもない…
紅輝も手慣れている。政夜の時の初々しさが全くない。頼もしい限りだ…あの初々しさが懐かしく感じる。

 「今さらだけど―…紅輝って最近、避妊しないね」と病院のベッドの上で呟くと紅輝がこちらを見る。

 「それはいつきもだろう?避妊薬飲まないし。」

 なんて言ってベッドの端に腰かけた。
 いや、そうなんだけど…

 「何が不満だ?」

 そう言って困ったような顔をした。

 「不満はないよ…」
 「なら、どうした?」
 「この子を出産したら、暫くは避妊したい」
 「それは別に構わないが―…どうして?」
 「紅輝や子どもたちに家事とか押し付けちゃってるし…僕も紅輝や子どもたちともっと居る時間を増やしたい」

 正直、1人でその光景を見ていると疎外感がある。皆は僕の身体を心配してくれて、そうしているのが分かっているから我儘は言わずに見守ってきた。

 「俺は押し付けられてる気は全くなかったが―…いつきが気にしてしまうんだな。」

 そう言って僕の頬を優しく撫でる。あ、何か久しぶりにされた気がする。それがなんだか嬉しくて、自然と笑みを浮かべて目を閉じてしまう。
 紅輝の笑う気配に目を開けると噛みつくようなキスをされた。

 「あまり、可愛い顔をするな…襲いたくなる…ただでさえ我慢しているのに…」

 なんて言うと苦笑いを浮かべていた。

 「我慢してるの?」
 「当たり前だろ…家では子どもたちが居るから発情期以外は出来なかったし、妊娠してるんだ…絶対にダメだろ。」
 「そっか…ありがとう。我慢してくれて…でも、今は居ないからキスくらいなら我慢しなくても良いよ?」
 「だーかーらー、そんな可愛い事を言われたあとにキスしてみろ…絶対にそれでは済まない自信がある!」

 挑発しないでくれ。と本気で困った顔をされたから、申し訳なく思って紅輝の口元にキスをした。呆気にとられたような顔をした紅輝を見て口を開く。

 「少しは成長、出来たかな?」
 「俺からすれば、いつきは立派な母親だけどな」

 「いや、いやいや、紅輝の方が立派だよ。僕なんか―…」紅輝に丸投げしているようなモノでしょ?と続くはずだった言葉は紅輝の口の中に消えてしまった。何か前にもこんな事あった気がする…

 「んっ…んんっ」
 「『僕なんか』は止めろ。一緒に成長して、一緒に幸せになろう。と言ったはずだ。俺にとっていつきは唯一の存在なんだ。自分を卑下するのは止めろ。これから先、俺はよめなんて迎えるつもりはないし、お前以外を愛するつもりはない。いつきに俺が立派に見えているのであれば、それはお前のお陰だよ。」

 そう言って優しい笑みを浮かべた紅輝は今度は触れるだけのキスをした。

 「お前との間に授かった命だから俺は愛せるんだ…これは多分、鬼特有の感情だな。執着に似た愛情。結構、面倒臭い生き物だぞ鬼は…」

 そう言って困ったように笑った紅輝に僕は泣きそうになったが、紅輝は僕を慌てたように僕をあやし始めた。

 「泣かないでくれ…脱水症状になったらまた、2人で怒られるぞ」

 なんて言って慌てている。政夜の時にあったので、思い出して笑ってしまった。僕の表情を見たのだろう紅輝はホッとした表情を浮かべていた。その表情が可愛く見えたのだった。



 入院から数日後、僕は元気な男の鬼の子を出産した。
 名前は勇夜ゆうや。末っ子。
 出産の報告を受けて、お義母さんたちが大所帯で来てくれた。皆、デレデレだった。優樹と同じで可愛い顔つきをしている。

 「母さん、お疲れ様。」そう言ってニコリと笑った政夜に続いて樹輝と義輝が口を開いた。

 「お疲れ。家の事とか心配しなくて良いから、ゆっくり休んどけ…」
 「僕たちで今まで通り家事分担するね。」

 そう言ってニコリと笑った義輝の後に続いて「おれもするー!」優樹も手を上げて無邪気に笑っている。
 紅輝も優しい笑みを浮かべて僕の頭を撫でている。

 「いつきは何を心配しているのかは分からないが―…皆、お前の事が好きだぞ。」
 「え、何?母さん嫌われているとか思ってたの?」
 「あり得ない…」
 「心外なんだけど…」
 「かあさんにだきつこうとしたら、とうさんすごくおこるんだもん!」

 そう言って紅輝を皆がジト目で見ると、紅輝は『当然だ。』と言ったふうな顔をした。

 「俺の・・つがいだからな。お前らも分かるときが来る。」
 「まぁ、蓮の所もそうだったって言ってたよ。寧ろ殺されそうになったらしいから、まだ、紅輝の方がマシだよ。」
 「気にしすぎ、『鬼曰くこんなもの』だから…まぁ、夏樹の所はヤバいと思う。」
 「これで母さんが傷ついてるなら、紅輝の責任だよね。」
 「おれ、こういうときなんていうか、しってる。きにしたらまけなんだよ!」

 僕に抱き付こうとしてくれていたんだ。と新事実に驚くと共に内心喜びで埋まった。しかも、励ましてくれる…本当に良い子に育っている。感極まって泣きそうになりながら伝えたい言葉を口にした。

 「皆、ありがとう。」

 これは僕の本心。これから先、子どもたちが巣立ったとしてもこの子たちなら大丈夫だし、僕の隣には紅輝が居てくれる。
 何があっても心配ない。でも、暫くは家族で過ごしていきたいと思う。

 何もなかった1人だった時の僕とは違う。
 紅輝と出会ってからいろんな人や鬼との関わりが出来た。
 頼れる仲間がいる。
 護られてばかりの僕だけど、守りたい家族だっている。
 紅輝は何もなかった僕にいろんなモノを与えてくれた。
 いろんな感情を知ったし、僕自身の新たな一面も知った。


 紅輝が居て、政夜や樹輝、義輝に優樹…生まれたての勇夜…
 お義母さんにお義父さん、それから舞さんなど紅輝の庇護鬼たちに囲まれている。
 皆、当たり前のように居て笑いかけてくれる。
 それが凄く嬉しくて絶対に失いたくないモノなんだ。

 全て紅輝が僕に与えてくれた大切な宝物。



 もし、あの頃の僕に伝えることが出来るのなら…
 1つだけ―…『僕は今、凄く幸せ』と伝えたい。







 
*いつきside―完*
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**
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***

全ては“自己責任”でお読み下さい。


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