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鬼の花嫁―本編―
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しおりを挟む僕も臨月に入ったので、舞さんより遅れて医療機関へ入院する事になった。もちろん紅輝も同じだ。
出産費用やその他の必要な費用を『神木のカード』から出す事になっている。かなり高額な金額だ。
産後も1ヶ月は入院する事になると説明されていたので、その辺の事は心配してない。
部屋に入ると日当たりのよい場所だった。
紅輝に支えられ大きくなったお腹を庇いながら『よっこらせ』とベッドに座ると僕が苦しくないようにベッドの背の部分を調整してくれた。
横に操作パネルが付いており、それで調整が出来るようだ。
パンフレットで見たよりも充実した設備に感嘆の声が出る。凄い凄いと周りをキョロキョロしていると、凄く優しい顔した紅輝と目があった。
何か恥ずかしくて俯くと、頭を優しく撫でられる。
ちなみにこの医療機関、僕と紅輝のご飯も支給される。そして、ベッドメイキングは決まった時間に来るので、その間は身体に負担をかけない程度に散歩したりするんだ。
もちろん紅輝同伴だけどね。
舞さんの病室にも行った、結構、元気そうだった。夏樹も嬉しそうだったが、舞さんに凄~く使われていたんだけど…
舞さん曰くこれくらいは使って当然だ。という事らしい。
紅輝は「夏樹本人が嬉しそうなら良いだろ」と言っていたので突っ込まない事にした。
悪阻も治まっている僕は美味しくご飯を頂く事が出来た。
入院して4日が経った頃…舞さんは無事に出産したらしい。
その吉報に時間をおいてから、お見舞いに行く。
ベッドに穏やかな顔をして舞さんが座っていた。腕の中には赤ちゃんが抱かれており、ベッドの端には夏樹が座っている。
「お待ちしておりました。ありがとうございます。本来ならば身重のいつきさんの病室へ行くべきなのですが」
そう申し訳なさそうに言っている舞さんに首を振ると近寄った。
「名前は決まってるの?」
「はい。蓮と名付けました。」
そう言って優しく抱かれた子どもを見る目は優しい母そのものだった。
そして、僕を見て口を開いた。
「いつきさん、Ωは番の子どもを出産する時にこれまでにない幸福を感じるのです。これは、αには分からないΩ独特の感覚です。」
そう言ってフワリと笑む。
その後、腕の中の子どもに視線を戻すと再び話し始めた。
「いずれは椿や柊のように番を迎える事になるのでしょう」
なんて少しおどけたように言って微笑んだ。夏樹も赤ちゃんの頬を撫でて優しい顔をして頷いている。
その後、少しだけ世間話をして僕も部屋に帰った。
舞さんの部屋から自分の部屋に戻るまでの少しの距離だけど…僕の意見を優先してくれて、出来るだけ歩かせてくれる。
そして、定位置になりつつあるベッドへ腰掛けると、紅輝はベッドの端に座り優しくお腹を撫でている。
何気無く紅輝を見ると紅輝もこちらを向いた。そして、お腹を撫でていた手で僕の頬を優しく撫でると顔を近づけてきて、啄むだけのキスをくれた。
「どうした?」という優しい問いかけに「ううん…何でもないよ」と答えてさらに紅輝に「どうして?」問うと、紅輝は考える素振りを見せた後、口を開いた。
「いつきの顔が寂しそうに見えたから」
そう言ってお腹を気づかいながら抱き締めてくれた。
そんな紅輝につられて、僕は素直な気持ちを吐露した。
「寂しくはないよ…ただ、僕はまだまだ未熟だから―…しっかりとした母親になれるのか不安―…」なんだと続くはずだった言葉は紅輝の口の中に消えてしまった。
それは奪うような口づけだった。
僕の身体から完全に力が抜けきった頃に口が離れた。真面目な話をしているのに何するんだ!という風にキッと睨んだけど、紅輝は少し怒ったような顔をしていた。
その表情は初めて見たので不安になった…
「いつき…お前はあの頃とは違うだろ?1人じゃないだろう。」と…
「頼れる相手がいる。政義や氷夜、春風もいるし、俺の庇護鬼だっている。俺だっている…お前が不安を覚えているのは俺が未熟者だから―…安心できてないんだ。俺も子どもが誇れる父親になれるか不安だよ。だから、いつきが気負う事はない…番を安心させてやれていない俺が悪いのだから…」
そう言って宥めるように僕の背中を撫で上げる。
そして、今度は優しく口づけた。顔を離すと僕の額に紅輝も額をつけて再び口を開いた。
「一緒に成長して、一緒に幸せになろう」
そう言って優しく微笑んだ。その言葉を聞いて涙腺が崩壊した…涙が止まらなくなった。
その後、診察に来た看護師に泣き腫らした顔を見られた上に、軽い脱水症状になり2人仲良く怒られてしまったのは2人だけの秘密だ。
男のΩは妊娠すると脱水しやすくなるんだって…初めて知った新事実に紅輝と一緒に驚いてしまった。
紅輝も知らなかったようだ。お義母さんにも聞いてない…
以後、気を付けます。という事でこの場は収まった。
★
いろいろとあったが、妊娠37週目を迎えた夜の事だった。あまりの痛さに目覚めて、呻いていると紅輝が知らぬ間に起きており、先生と看護師さんをナースコールで呼んでいたみたいだ。しかも、破水までしているという。
朦朧とする意識の中、慌ただしく室内を数人がバタバタしていた。
どうやら陣痛が始まったらしく、陣痛室へ運ばれた。その間の準備は全て紅輝がしてくれたようだ。凄く頼りになる旦那様なんだけど…
どこが、未熟者なの…と疑問に思ってしまったのも仕方ないと思う。
その後、分娩室へ移動し、紅輝の手を握り締め、1時間の格闘ののちに3500グラムの元気な男の子を出産した。
赤ちゃんを見せてもらい、「お疲れ様」と言いながら頭を撫でてくれる紅輝に一度だけ頷くと僕は眠りに落ちた。
*
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**
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***
全ては“自己責任”でお読み下さい。
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