鬼の花嫁

スメラギ

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鬼の花嫁―本編―

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 翌朝、目覚めると既に2人は居なかった。折角なので、観光しつつこっちにある住居へ向かうらしい。
 残念に思っていると紅輝が無言で僕に与えていたスマホを手渡してきた。
 少し仏頂面なのが気にかかるが、首を傾げながらそれを受け取り画面を見る。

 何かと思えば、連絡先に2人の名前が新たに増えていた。
 紅輝も『いつの間に?』と首を傾げている。
 メールの受信BOXに1通だけ未読のものが入っていた。それを慣れない操作で開けると、お義母さんからだった。

「ごめんね。紅輝には悲しむぞって言われたけど、気持ちよく寝ているのを起こすのは可哀想だったから起こそうとする紅輝を止めたんだ。いつでも連絡してね。紅輝の事を頼みます」と書かれていた。
 その内容を見て、内心、喜びに震える…
 そして、こちらも返信する。

 諦めたように紅輝は溜め息を付くと僕に今後の事を教えてくれた。どうやら嬉しそうなのが顔に出ていたらしい。

 急ピッチで作業にあたってもらっているが―…という前置きをして、最短でも復興に1年と少しはかかるらしい事と、校舎を取り壊しての建て直しをする事を話してくれた。

 その間、別の場所で授業をするんだってさ。
 学校の惨状を見てみたい気もしたけど、紅輝が「危ないからダメだ」と言ったので大人しくしておく…

 体調も回復したので、庇ってくれた恭介の庇護鬼の所へ行きたいと言うと紅輝は頷いた。どうやら紅輝もついて来るらしい。
 ひとまず身支度を整える。
 一通り準備を済ませた後、手土産を持参して紅輝に手を引かれて歩く。
 そして、エレベーターに乗り込んだ。紅輝は慣れた手つきで操作すると恭介の部屋の階へと向かう。
 
 恭介の部屋の前に来ると紅輝はインターホンを押そうとするが恭介は来ることが分かっていたみたいで、鳴らす前に扉が開いた。

 「入って。」そう言うと恭介は部屋の中へ引き返していった。紅輝は僕を先に通すと後からついてきた。
 廊下を歩き突き当たりのリビングの扉を開くと恭介とあの庇護鬼がいた。意識が途絶える前に見た顔だと確信する。

 「冬真とうま、お前に客だ。」そう言ってキッチンの方へ向かってしまった。
 驚き固まっている、あの時の庇護鬼の名前は冬真とうまというらしい。
 僕も緊張でガチガチになっている…すると紅輝は僕の背中を『大丈夫だ』とでもいうふうに優しく撫でる。
 その安心感に相手の正面に正座し、意を決して口を開いた。

 「この度は大変なご迷惑をおかけして申し訳ありません。僕の命があったのは貴方のお陰でもあります。感謝してもしきれません。ありがとうございました。」

 そう言って深々と頭を下げて菓子折りを冬真へ差し出した。
 冬真は紅輝と僕を交互に見て畏縮したように首を振った。
 そして、慌てたようにソファーから勢いよく降りると冬真も僕の正面に正座した。

 「『神木かみき』にも伝えましたが、恭介の命令を遂行したに過ぎません。ですが、今後、このようなことが無いようにしていただけると助かります。」

 そう言って頭を下げる。
 お互いに土下座したような体勢で固まっているとキッチンからリビングへ繋がる扉が開いて恭介が入ってくる。

 「え…どういう状況?」という声に、冬真とほぼ同じタイミングで顔を上げると、お茶が入った湯呑みを乗せたトレイを持ち微かに目を開き驚いて立ち尽くしている。
 紅輝が簡潔に話すと納得したように頷いた。

 テーブルにお茶セットを置きながら「あ~、だから、今日、紅輝といつき様が来る事を隠して冬真呼んどけって…」

 恐らく『言ったんだ。』と続くはずだったであろう恭介の言葉は冬真のラリアットできれいに消えてしまった。
 そのまま恭介の頭を抱え込むようにして2人は会話を始める…

 「おい、聞いてねぇぞ!」
 「いや、知らんし…というか痛い…」
 「うるせぇバカ!俺の心臓の方が痛いわ!」
 「まぁ、今日、この2人が来るなんて言ったらお前、下らない理由つけて来ない―…」
 「当たり前だ緊張で吐く!自信があるね!」

 ひそひそ言っているつもりだろうけど…全部、聞こえてますよ~。
 恐らく気づいていないであろう2人の会話はまだ止まらない。チラチラ見つつ会話している。
 しかも、冬真は時折、恭介の言葉に被せる勢いだ…
 紅輝は床に座り込んでいた僕を抱き上げるとソファーにドカッと座り、何食わぬ顔で恭介が持って来たお茶を啜っている。

 「敬愛してる紅輝サマとそのつがいサマに会えたんだ…俺に感謝すべき。」
 「うっ…ヤバい眩しい…」
 「というか、何で俺の庇護鬼になったし…普通に紅輝に忠誠誓うべき」
 「出来るかバカ!緊張し過ぎで普段の力が全く出せないわ!だから、間接的に仕えてんだよ!」

 冬真の言葉に若干、半笑いで「知ってる…俺に土下座で頼み込んで来たもんな」

 なんて恭介が言うものだから、冬真は半目になって無遠慮にバシバシ叩いている。

 恭介に忠誠を誓っているはずなのにと疑問に思うが、恭介は気にした様子もなく無表情だけど口では「痛い、痛い」と痛がっていた。

 まるで、痛くなさそうなんだけど、音は痛そうに聞こえるから『どっちが本当なんだ?』と思う。
 何か心配になってそわそわしているとそんな僕を見かねたのか、紅輝が口を開いた。

 「話は済んだか?」と言うと2人は振り向き同時に頷く…
 聞けば、驚くべき事に恭介と冬真の2人は腹違いの兄弟らしく遠慮が要らないらしい。

 その後も怪我はどうだったのかとか、いろいろと質問攻めにしてしまったが、嫌な顔せずに答えてくれた。

 恭介はそれを目尻に冬真に持って来ていた筈の菓子折りを勝手に開けて食べていた。

 「それ、冬真のなんだけどな~」と僕は思っていたが…
 紅輝は『あーあ…』みたいな顔で見ているだけだった。

 紅輝は僕の用事が終わるまでずっと一緒に居てくれた。
 再び頭を下げて、振りかえると菓子折りを食べた恭介に怒りかかっている冬真の声が響いていた。
 僕らはそれをBGMに恭介宅を退室した。

 和解はできたと思う。冬真も良い人?鬼?で良かったと思う。新しいお友だちが出来たような気がした。

 僕の連絡先には紅輝とお義母さんやお義父さんに舞さん、紅輝の庇護鬼と冬真が新たに増えた。

 「力になれる事があれば出来る範囲内で力になりますので、何かあれば連絡下さい」とのこと…

 恭介は冬真の行動に吃驚したように紅輝を見ていたが、紅輝はいつきの好きにして良い。というものだった。

 紅輝自身の庇護鬼ではないから、好き勝手には使えないと言われてしまったが、迷惑も掛けたくないし、紅輝も居てくれるし、私用とかでも使う気はない。

 あくまでも恭介に仕えているのだから、いくら僕でもそこら辺は弁えてる。
 気軽に連絡は出来ないが、メール友達みたいなものとして僕は捉えている。


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【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
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【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
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全ては“自己責任”でお読み下さい。


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