鬼の花嫁

スメラギ

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鬼の花嫁―本編―

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 舞さんは紅輝に近づくと夏樹の所在を聞き、夏樹が部屋に戻ったと知ると「ごゆるりとお過ごしくださいね。」とおっとりした笑みを浮かべて帰っていった。

 それを見送った後、再びこちらに視線を向ける紅輝。
 「何やってる?」と紅輝が政義さん…いや、僕に近づいてくる―…
その不機嫌な声音に政義さんの動きが止まった。てっきり顔も不機嫌な表情を浮かべているのかと思いきや、そうでもなかった。
 何か面白がってる?と思うくらいだった。
 声こそ不機嫌だが、少し笑いそうな表情を浮かべている紅輝に対して紅輝を見ていない政義さんは困ったような顔をして僕を見ている。

 「ち、違うから。違うからね。誤解だから!嫌がらせとかしてないから!」

 なんて凄く焦ったような声を出していた。

 「知ってる。いつきが悲しくて泣いてるのか、そうじゃないのか、くらい分かる。怒ってないから。」

 そう言って可笑しそうに笑った。

 そんな様子を見た政義さんは少し恨めしそうな表情になって、溜め息をつくと「何か意地悪になったな…」なんて呟いている。

 紅輝は僕に近づいてくると隣に座った。優しい笑みを浮かべると涙を親指の腹で優しく拭う。

 「いつきは嬉しかったんだろう?政義に自分の子どもみたいなものだと言われて」そう聞いてきた紅輝に何度も頷き返す。
 「え、紅輝…聞いてたの?」という政義さんの言葉に「鬼の聴覚は凄いみたいだから」なんて他人事のようにしれっと紅輝は言い切った。

 何か思うところがあったらしい政義さんはわざとらしく咳払いをすると話を切り替えた。

 「それより、いつき君に何も話してないみたいだね。」
 「政義と氷夜の馴れ初めは話したけど?」
 「え、普通に恥ずかしいからそれ!何、話しちゃってくれてるの!」

  さらっと告げた紅輝の言葉にぎょっとした後、両手で顔面を覆い耳まで真っ赤に染め上げた政義さんは何だかとても可愛らしかった。
 そこへ事の成り行きを見守っていた鬼。
 空を連想させるキラキラとした蒼い髪にスカイブルーの瞳を持つ精悍せいかんな顔の鬼が近づいてきた。

 「政義」と愛おしそうに名前を呼ぶとその腕の中に閉じ込めた。恐らくこの鬼が氷夜なのだろう。政義さんも嬉しそうな顔をしている。
 紅輝をチラリと見ると、気にした様子もないので、これが日常茶飯事なのだと理解する。
 理解はするが、イケメン同士がイチャイチャしているのを目の前で見せられるとこっちが赤面してしまう。

 政義さんを腕に閉じ込めたままこちらを見ると、その鬼は口を開いた。

 「初めまして、俺は月宮つきのみや 氷夜ひょうや。予想はしていたと思うが、俺が政義の夫であり、紅輝の父です。いつき君、回復して良かった。政義も凄く心配していてな。今日もずっとそわそわして落ち着きがなかったんだ。」
 「ご心配おかけして申し訳ありません。皆さんのお陰で順調に回復しています。」

 丁寧な挨拶の後の僕を心配した氷夜の言葉にそう返すと。政義さんと顔を見合わせて微妙な顔をされた。その表情に一抹の不安を覚えたが僕が考えていた事とは別のようだ。

 「なるほど…だから、「自分の子どもみたいなもの」に繋がるんだな」

 なんて言いながら氷夜は頷き納得している。
 どういう事なのかと首を傾げていると、紅輝が口を開く。

 「家族なんだから敬語も敬称も要らないって事だろう?」

 そう言って微笑んだ。もっとフランクに話せば良いと言われた。
 いやいや、そういう問題でもない。紅輝を生んでくれた母親ととその2人を守り大切に育ててきた父親を尊敬こそすれ、呼び捨てなど出来ない。という心の内を話すと何故か2人ともガッカリしたような顔をした。

 「紅輝から聞いてはいたけど…」
 「あぁ、聞いてはいたが…」

 なんて言っている。そのあまりの落ち込みように何だか凄く悪いことをしたような気持ちになる。悩んだ結果おずおずと口を開いた。

 「お義母様?お義父様?」

 苦し紛れにそう呼んで、首を傾げていると少し嬉しそうな顔をしたが首を横に振る。何かが違うらしい。
 舞さんに特に鬼は呼び捨てと約束したので、心では呼び捨てに出来るが、紅輝の庇護鬼と違うので、口に出して呼び捨てる事なんて出来ない。

 「"様"は何かよそよそしいな。」

 なんて言いながら氷夜を見る政義さんと大袈裟に頷いて政義さんの頭を撫でている氷夜。
 どうしようとぐるぐると考えていると見かねたのか、紅輝が僕に耳打ちしてきた。なので、恐る恐るそのまま声に出してみる。

 「お義母さん?お義父さん?」

 そういうと政義さんも氷夜も大いに頷いた後、満足気に笑みを浮かべている。どうやら満足してくれたようだ。
 ホッとして紅輝を見上げると眩しそうに目を細めて優しい笑みを浮かべている。
 そして、次に2人を見て呆れたように口を開いた。

 「翼に1日絶対安静って言われてるの忘れてないよな?」

 そう言いながら、せかせかと僕のお世話を始めた。
 政義さん…お義母さんも心得ていると言わんばかりに頷くと氷夜…お義父さんと共に寝室を出ていく。
 間も無く、どこかの部屋に入ったらしい音が聞こえてきた。



 紅輝は僕を抱き上げてトイレに連れていって貰って手も洗うとまた僕を抱き上げる。すると次はお風呂に連れていかれた。
 お風呂に丁寧に優しく洗われて暖まった後、風呂から出ると、今度はリビングへそのまま連れていかれた。

 暫く紅輝に抱っこされたままソファーに座って待っているとお義母さんとお義父さんが食事を持ってきてくれた。消化に良いものを作ってくれたらしい。

 お礼を言うと「気にしなくて良いよ。親子でしょ」なんて言ってもらえてまた少し泣いた。紅輝は自然な流れで僕の目尻にキスをすると僕を抱え直して置かれた茶碗などをきれいに持つ。

 紅輝がさも当然のように僕に食べさせるものだから、照れてしまってずっと視線が泳いでしまっていたと思う。
 恥ずかしい思いをしたが取り敢えず4人での食事を終わらせた。

 お義母さんもお義父さんもお互いに食べさせ合いとかしており、ラブラブっぷりを見せてもらった。
 この家族の普通らしい…僕も真似した方が良いのかな?と思うほどである。

 相変わらず、紅輝は気にしていないようだ…
 この親あってのこの子どもか…と納得してしまうほど僕はベタベタに甘やかされている。

 その後は歯を磨いて再びベッドに戻される。
 お義母さんとお義父さんは客間に泊まるらしい。
 寝室に引っ込む前に「汚すなよ」という言葉を紅輝が添えていたのが印象深い…

 お義母さんは頷きながら「そんな非常識な事はしないから」と言っていたが、お義父さんは変な汗をかいて視線をそらしてしまった―…自信がないらしい…
 その様子を見て、紅輝とお義母さんが念押しすると折れたように頷くという光景を見た。


 その3人のやり取りが少し面白かったのは内緒にしておく。
 


 
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