鬼の花嫁

スメラギ

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鬼の花嫁―本編―

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 紅輝が不意に顔を上げて扉を見るとノックが聞こえてきた。紅輝が入室を許可すると扉が開く。入ってきたのは舞さんだった。渡されていたであろうカードキーを紅輝に返している。

 「『神木かみき』、呼ばれていた通り来ました。」
 「あぁ、後は頼む。それと―…俺が居ない間に来客があるかもしれないので対応は任せるが…無礼のないようにしてくれ」
 「畏まりました。」

 そう言って頭を下げた舞さんを見て頷くと、僕の頭を1回撫でて立ち上がる。
 後処理が残っているから暫く席をはずすらしい。
 僕はベッドの上で紅輝を見送ったが、舞さんは玄関まで見送ったようだ。
 そして、寝室に戻ってきた。横に椅子を持ってくるとそこに座った。舞さんの顔は険しいものだった。

 当たり前だろう。あんな事を仕出かしたのだから、怒っていても不思議じゃない。

 「いつきさん、今回の件はこれで済んだから良かったものの、下手をすれば死者が出ていてもおかしくはありませんでした。」分かっていますね?と厳しい口調で苦言を呈する。
 ごもっともなので頷く事しか出来ない。

 「本当の意味で分かってはいませんね…いつきさん、貴方も死んでいたかもしれないんですよ。貴方もまた奇跡的に助かったにすぎません。

 確かに他人を思いやり慈しむ心はいつきさんの美徳でしょう。しかし、今回に限りそれは悪手でした。

 『神木かみき』に対してもそうです。つがいであるいつきさんは『神木かみき』にとって弱点そのもの―…

 貴方が窮地に陥れば『神木かみき』は命を懸けて助けだし守ろうとするでしょう。
 確かに紋章を刻んだ鬼が亡くなってしまったらつがいも後を追うように亡くなってしまいます。

 しかし、鬼はつがいと共に生きたいから守るのです。
 例えその身が幾ら危険に冒されようとも…
 守り、大切にしてつがいを幸せにしようとします。

 それを踏まえた上で申し上げますね。
 今回の件、いつきさんの行動次第で回避出来た部分もありましたでしょう。
 恭介さんの庇護鬼に対しても言える事ですが、『神木かみき』に対しても言える事です。

 貴方の行動次第で状況が良くも悪くもなるのです。

 もし、今回の件で本当に申し訳ないと思っているのなら―…今後はこのような事にならない為に、生涯を添い遂げるという事が何なのか、鬼のつがいである事の自覚しっかりとしてください。

 いつきさんも大切にされているでしょう。ですから、同じように『神木かみき』も大切にしてあげなくてはなりません。
 どちらか一方が幸せになっても、もう一方が不幸せならば虚しいでしょう。
 一緒に幸せになれるならば、これに勝る幸福もないでしょう。」

 厳しい口調ではあったが、僕の手を祈るように握り締めた。
 僕は謝りながら泣く事しか出来なかった。
 確かにそうだ。紅輝も言っていた『つがいの影響力は凄い』と。

 鬼が死んでしまったならつがいも自然とそうなってしまうが、そうじゃないだろうと、一緒に長く居たいから、生涯を添い遂げると決めたからつがいとなる事を受け入れたのだろう。
 舞さんの言葉はそれ相応の覚悟や夏樹に対する愛情が感じられた。

 僕らの始まりは違ったけど…今の僕は紅輝と共に居たい。
 離れたくないと思っている。
 平和に楽しく鬼と愛を育みながら過ごすにはつがい自身も協力する事が必要不可欠。
 毎回、ピンチに陥り、鬼を危険に晒すのも違うだろう。
 紅輝はずっと僕を守ってくれている。

 避けられる危険は避けた方が鬼も安全に対処できるのだ。
 紅輝は僕に対して怒ったり、呆れたりしてはいなかったが…
 それは甘えに過ぎない。
 僕が危険に冒されれば紅輝もまた危険に冒される。

 紅輝の事を本当の意味で考えていなかった…自分の事ばかりを優先して…最低だと思う。
 紅輝はお礼も謝罪も要らないと言ったが―…やはりしておくべきだと思う。
 もちろん恭介の庇護鬼さんにもしないと。

 「私は心配もしていましたし、同時に怒ってもいました。いつきさんも反省しているようですので、謝罪を受け入れます。仲直りをしましょう」

 そう言って舞さんは泣きじゃくる僕を優しく抱き締めてくれた。

 落ち着いた僕を見図ると、紅輝が向かったという後処理の話をしてくれた。

 学校の校舎が半壊しており、県境の山一画が氷山に変わっているみたいだ。
 授業再開の目処は立っておらず、山に関してもどうなるのかは分からない状況にあるんだって。
 校舎の半壊は椿と柊が主犯なんだって、まぁ、他の鬼も暴れたのも原因の1つらしい。ちなみに山は紅輝。
 確かにと意識を飛ばす前に地面が凍っていたことを思い出す。

 山は上層部がどうにかしてくれるみたいだが、学校はこちらでどうにかすることになった。その後処理なんだって。

 驚く事に死者は出なかったみたいだが、『殺すな』と言っていた本人紅輝が1人殺しかけたらしい。
 頭に血が昇りきった紅輝を止めたのが誰なのかは教えてくれなかった。というより舞さんは知らなかった。

 

 寝室の扉が再びノックされる。寝室まで来れるという事は紅輝のカードキーを持っているという事。来客があるかもと言っていたので多分、その人だろう。
 

 
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【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
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【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
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全ては“自己責任”でお読み下さい。


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