鬼の花嫁

スメラギ

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鬼の花嫁―本編―

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 鬼が道無き道を走り時には飛躍するのを繰り返している。
 僕は相変わらず身体の自由が利かない状態で、ずっと紅輝の名前を呼んでいる。

 必ず来てくれると信じて―…



 それは突然だった。僕を担いでいた鬼が断末魔みたいな悲鳴をあげた直後、凄い衝撃があって空中に放り出される感覚があった。
 吃驚して目を開けると星空と黒く染まった木々が目に写る。そして、間をおかずに地面の茶色が目に写った。

 地面に強打すると思って目を強く瞑り、衝撃と痛みを覚悟したが、一向にどちらも来なかった―…
 それどころか暖かい何かに包まれたので恐る恐る目を開けると紅輝がいた。

 既に鬼化しており目は鮮やかな黄金になっていた。
 僕を一見すると眉をひそめる。

 「貴様…いつきに何をした?」

 そう言って吹き飛んだ鬼を冷ややかに見据えている。
 鬼は呻きながら顔を上げて息を飲んだ。
 地面の一部が紅輝の怒りに呼応するように凍っているのだ。

 「聞こえなかったのか?」

 そう言って一歩踏み出した瞬間、辺り一面が一気に凍った。
 霞む視界で紅輝をずっと見つめていたけれど、視界の霞が酷くなり始める。

 『来てくれてありがとう』と『ごめんなさい』を伝えたいのに…まだ、目以外の場所が動かないのだ…声も出せない…

 紅輝と目の前の鬼が何かを話しているのに、聞きたいのに…
 次第に聞こえなくなり、僕はそのまま意識を失った。



 次に目覚めると見慣れた部屋に寝かされていた。紅輝と共に住んでいるマンションへ帰ってきていたのだ。

 顔を横に動かしたら隣には紅輝がいる。スマホを操作しているので、何かをしているのだろう。
 ここで気づく…身体が動くのだ。全く動かなかった身体が動いた。
 試しに紅輝の名を呼ぶと、かなり、ひ弱な声が出た。

 紅輝はスマホから顔を離してこちらを見ると優しく頭を撫でた。

 「どこか痛いとか苦しいとかはないか?」という問いに「ない」と首を振って紅輝を見上げる。

 「薬が抜けきるまで、もう少し時間がかかる…無理せず寝ていろ」

 そう言ってきたが首を振る。
 紅輝に手を伸ばすとその手を優しく握り返してくれる。それが堪らなく嬉しくて安心した。
 その気持ちは涙となって現れた。

 「いつき…泣いてるのか?」

 そう言って紅輝はその涙を指の腹で優しく拭う。

 「紅輝…ありがとう。来てくれて…」
 「俺には・・・礼も謝罪も要らない。俺がお前を守るのは当然だからな。」

 ただ、今回の件は俺の落ち度でもある。過信していた。すまなかったと僕に謝る。
 謝らなくて良い。寧ろ謝るのは僕の方だと、そういう意味を込めて首を振る。

 「僕を庇ってくれた庇護鬼さんは?」
 「あぁ、恭介の庇護鬼だ。運良く軽傷で済んでいる。謝罪とお礼はしたほうが良いだろうな。一応、俺からはしているが…」

 そう言って紅輝は僕の頬を手の甲で撫でている。

 「恭介に頼めば会わせてくれるだろう。」

 そう言葉を続けて触れるだけのキスを頬にすると離れていく。

 自分の身体を支えて起き上がろうとしたが、抱き潰された時のように全く身体に力が入らなかった。
 支えても直ぐに転げてしまう。

 「紅輝、起き上がりたい。」

どうすることも出来なかったので紅輝に助けを求めて、あたふたしていると、優しく抱き起こして支えてくれている。

 「無理しなくて良いんだぞ?」

 大丈夫だと言ってあの後はどうなったのかと聞いてみると、こちらの様子をじっと見て僕に折れる気はないのだと判断したのだろう…諦めたような嘆息をついて話し始めた。

 僕が盛られていたのは『鬼専用の薬』で治療中に暴れたりされたらひとたまりもないので、その時に使用する鎮静剤のようなもの。
 つがいに使った前例がないらしく、応急措置で胃洗浄などをしたらしい。薬の量は微量ではあったがどうなるのか分からないと医療関係者・・・・・にそう言われていたらしい。

 しかも、その上、発情促進剤を注射されかけていたようだ…それは未遂で終わったみたい…

 その話をしているときにその時の事を思い出したのだろう。

 「もう少しやっておけば良かった」

 そう言った顔は苦虫を噛み潰したような表情だった。
 舌打ち混じりに物騒なことを呟いている。

 つがいにとっては鬼専用の薬は強すぎて毒になるんだって、ちなみに解毒はされている。つばさがしてくれたらしい。

 回復にはもう少しかかるので、丸一日は絶対安静だって。
 状態が安定したので、死ぬことはないと翼が言っていたようだ。

 翼は保険医として学校に滞在していた紅輝の庇護鬼。鬼や伴侶はんりょ関係の医療のスペシャリスト…

 何でも校内で暴れまくっていた庇護鬼たちの殲滅…間違えた…対応に追われていたみたい。
 皆、殺してないから殲滅ではないね。拘束して上層部に引き渡したみたい。

 陽穂ようすいは自分の庇護鬼以外に自分より弱い鬼やその庇護鬼も使ってきたみたいだけど…
 敵が紅輝率いる上層部という事で即、降参し大人しくなったらしい。
 脅されて…というのも大きかったのだと思う。
 その事に関しては免除されるらしく、処分とかはないんだって。
 皆、平謝りして感謝したらしい。

 庇護鬼も常識を知らず、陽穂ようすいに利用されていただけの者は更正施設に入って常識を学び直すみたいだ。
 それでも更正できなければ相応の場所に送られるんだって。

 男のΩオメガをペットとして飼っていたらしく、その人たちも無事に保護されて保護施設へ送られており、希望者はマッチングをしてつがいもしくはよめとして新しい生活を送る事になったみたい。

 保護施設で生涯を過ごす人も出てくるかもしれないらしいが…鬼側から接触して来た場合はまた少し違った未来があるかもしれないと言っていた。

 今までに何人もの犠牲者を出していたけど、これで減るのだと考えると良かったとも思う。
 しかし、そういう事をしているのが陽穂ようすいだけではないということ…
 今回の件でさらに体制を強化することが上との話し合いで決定しているらしい。

 少しずつではあるが、減っていくだろうと話してくれた。


 それと、やはりというべきか…陽穂ようすいの狙いは僕だったみたいで、夏樹たちの伴侶はんりょを狙ったのは、まぁ、捕まればラッキー程度だったらしい。

 陽穂ようすいと側近は厳重な処罰があるんだって…
上層部でも指折りの強さを持つ鬼が交代制で24時間監視する事が決まっていて、側近は捨駒扱いされていた庇護鬼より厳しく教えられるらしい。

 陽穂ようすいつがいと離された後に完全に孤立した鬼の監獄のような建物の地下に死ぬまで幽閉される事になった。
 もちろん、監視カメラも警備も厳重な場所で建物も対鬼なので通常の鬼化では全く壊れない造りになっているみたいだ。

 陽穂ようすいつがいも結構な事をやっていたみたいだ。
 これまでの罪状も加算されることになって、陽穂ようすいと引き離されるのはもちろんだが、こちらは同じ建物の最上階に幽閉される事になった。

 いくら陽穂ようすいを呼んだところで出られないので、一生を孤独に過ごすらしい。一応、1日3食は出る。陽穂ようすいも1日3食出るけど…これからの発情期は1人で耐える他なくなった。
 陽穂ようすいも呼ばれている事が分かっていても出られないので、こちらも生涯を孤独に過ごす事になった。

 紅輝の話では発情期の際につがいが発狂して自我を保てなくなるかもしれないし、それがなければ陽穂ようすいが先に発狂するだろうと言っていた。
 それほどまでに鬼に対するつがいの影響力は凄いんだって…


 後、小幸はマッチングの届け出を出す権利を剥奪され保護施設の一画に入った。
 こちらは鬼からの接触も禁止されている。首に厳重な保護具を付けられては居るが、その隔離専用の施設内だけならば自由に動き回れる事になっているんだって。
 監視カメラなどもついており、警備も厳重な場所。
 ただし、こちらは軽度ではあるが罪人扱いになるので、部屋にもいたるところに監視カメラがついてるんだって。プライベートも制限される事になる。

 ちなみに他のΩオメガとは離されて生活する事を余儀なくされる事になった。
 他のΩオメガがいる場所も警備も厳重なもので建物もしっかりとしている。
 セキュリティも万全な場所だ。施設内に娯楽施設や簡易的な食品などの日用品を売っている施設も入っているらしい…
 付け足すなら部屋に監視カメラはついていない…

 部屋には施設側と直接繋がる事が出来る電話が備え付けられているので、それを使って要望や私用などの用件も伝える事になっている。

 自分たちの食料は保護施設区間にあるスーパーで買って自炊するか、娯楽施設で食べるかとなる。服なども然りである。
 ネットで購入した場合は施設側の鬼を挟んで受けとる事になっている。

 小幸はそれすらも出来ない。食べる物は施設側から提供される。服も好き勝手は買えない。全て施設側を挟むので施設側がダメだと言ったら何も買えない…

 「話しと補足はこれくらいか?」と紅輝はコテンと首を傾げて考える素振りを見せていた。

 
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●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
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全ては“自己責任”でお読み下さい。


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