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鬼の花嫁―本編―
KOUKI side.03
しおりを挟む時は少し遡る―…
「あ~…行っちゃったね~」というのは食えない笑みを浮かべた葉月。それに便乗するかのように各々が口を開く。
「いつき様に甘すぎるでしょ。」
「まぁ、恋は人を変えると言いますし。」
「この場合、人じゃなくて鬼だけどな。」
その言葉に舌打ちして、一応、訂正しておく。いつきに対してはどこまでも甘くなれる自分がいることは知っているし…葉月は無いかもしれないが、他の庇護鬼だって似たようなものだろう。
「俺はいつきに恋してるわけじゃない。」
「え~、説得力に欠けるんですけど~?」
「じゃあ、いつき様に何してるの?」
ニヤニヤと葉月と椿が俺の方を見てきたので「愛してるだけ」と言ったら、あからさまに『うわぁ』みたいな顔をされた。
自分の事を棚に上げてあからさまに引いている面々…
ブッ飛ばしてしまおうか…
「紅輝が惚気るとか―…以前ならあり得なかったな。」
「いつき様に感謝するべきなのか迷いますね。」
「フフ…いつき様に溺れすぎていろいろと見謝らないでね~」
「分かってる。」
そう言ってさっさとこの場を去ろうと身を翻すと椿から「どこに行くの」と静止の声が聞こえてきたので足を止めて振り返る。
「いつきの近くに行く」と言った俺の事を葉月以外の3人が羽交い締めにしてきた。
「おい、離せ!」
「いやいやいや…なんてことはないみたいに言ってるけど!異常だから!」
「紋章があるなら呼ばれたら直ぐに行けるだろ!」
「いつき様のプライベートは!?」
直ぐに行けるのは確かだが、その間も惜しい。なんて言ったら何故か頭を叩かれた…おい、誰だ。俺の頭を叩いた奴は!
「あ~…気づいていたけど…俺たちが庇護しているにも関わらず近くに毎回いたよね~?」
「え、マジ?俺、気づかなかった。」
「それにしても―…葉月は結構、落ち着いてるね」
「あ~、いつき様の事は大丈夫でしょ」
余裕綽々といった感じで葉月は首を傾げている。『あー、コイツ何かしてるな』と思ったのは俺だけではないはずだ。
「え、葉月、何かしたのか?」
「フフ…大したことじゃないよ?」
なんて笑いながら「ただ、ちょっと、ね?人気のない場所でゆっくり休憩したいって女子生徒が何組か居てね。穴場を教えてあげただけだよ~」と続けて言った。
「あー…だからか…さっき俺の庇護鬼の嫁が葉月にお礼言っといてって…」合点がいった感じで頷いている椿を横目に葉月が視線を俺に向けてきて笑みを濃くした。
「それよりさ~…紅輝?本当に良いの?」
「何がだ?」
「またまた~分かってるくせに~」そんなこと聞くんだ?とその目の奥は笑っていない。時々コイツが俺に紋章を何で捧げたのか分からなくなる…
「小幸―…あの女の事か?」と言った俺の言葉は正解だったらしい。仕方ないだろう。いつきがアレを友だちだと言ったんだからと言ったら葉月にパンフレットで頭を叩かれた。無遠慮すぎるぞ。さっきから!
「あの女…いつき様が居ないとき紅輝にモーションかけてくる1人でしょーよ。鬼に解消されちゃってるみたいだから焦る気持ちも分からなくはないよ?」ま、俺は要らないけどね~。とヘラヘラしている。
「紅輝が相手にしなくても、あっちはいつき様を盾に近寄ってくるしな。」
「鬼の機関にそういう機関もあるんだし、届け出を出してマッチングしてしまえば良いのにね~。」
「身の丈に合った鬼と出会えるってやつだったっけ?」
「ま、人間と番ったΩが解消されると正気を失うらしいけど、鬼の噛み跡を持つ嫁は狂うこともないしね~。時間はたっぷりあるでしょ?」ま、俺は要らないけどね~。とヘラヘラしている。
お前は何回要らないと言うんだ。相当要らないのは分かったから、少し黙ってろ。
「いつきに何かされては困る。」
「けど、いつき様が『友だちが出来た』と喜んでいるから無下にも出来ない―…と言ったところですか?」
返事の代わりに溜め息をつくと、これ見よがしに溜め息をつき返された。
「いや~確かに見かけによらず紅輝は温厚だよ?俺たちよりもずっとね…でもさぁ~、分かってるでしょ?小幸を解消した鬼の正体、知らない。なんて事はないよね~」俺たちが動くより先に動いちゃってるんだからさぁ~。と壁に凭れてやれやれと肩を竦めている。
「陽穂だろ。知ってる…」
「下層の鬼が男のオメガを飼って孕ませて、母親から子どもを取り上げて『自分の庇護鬼にする』っていう反吐が出るくらいの教育してるってことも知ってるよね~」
「生まれた鬼に罪はないからな」
「事情を知らない庇護鬼を鬼専用の更正施設に入れて、保護してもらってるんだって?上層部も『神木』の願いだから無下に出来ないしね~。俺には全く理解できないわ。俺なら如何なる理由があれ―…まるごと潰してるよ?」
「いや、俺がって言うよりかは…政義とか氷夜ならこうしたんじゃないかと思って…それに、いつきも…」
そう、俺なら殺っていた。あの時までは間違いなく葉月と同じ考えだった。
けれど、いつきが俺の家族…親の事を聞きたがって。話した直後だったこともあって…考えるところもあったからそうした。
更正施設に入れて鬼世界の常識を学んで、自分たちで未来を切り開いてもらいたいと思った。
俺は『神木』として生まれたから陽穂に何かを強要されることはなかった。
母親は違えど半分は血の繋がった兄弟のようなもの…もしかしたら、政義のもう一人の息子…俺の兄に当たる人の事もあったからそうしたのかもしれない。
『もう一人の子どもの幸せ』を願っていたが、幸せに出来なかったことを心残りに思っているのは分かってる。
政義や氷夜ならこうするんじゃないかと―…
いつきもそうして欲しいと希うんじゃないかと思って拘束し鬼の更正施設に保護してもらった。
その後、暫くして一応、情報は聞き出した。
思った通り何も知らなかった。捨て駒のように扱われる庇護鬼たちは何も知らなかった。
あの男の側近は恐らく知っているはずだから容赦をする気は全くない。
「あー、政義さんと氷夜?いつき様も?…まぁ、確かにあの3人ならそうかもね~。それに今回の事を上層部に持ち込んだ事によって、更に陽穂を追い込む形になったわけだしね~。もう、中層には居られないし―…下層にすらおいてもらえないんじゃない?」
「そうですね。今回の件で全てが上層部に知れ渡ったはずですから。」
「今でこそ話し合いで嫁の解消やら何やらしてるけど、一昔前だったら略奪とか普通だったしな。今回は強制的に嫁を引き離して、男のΩもマッチングさせられる事になるだろうな。」
そう、噛み跡だけの嫁ならば陽穂が解消しなくても、陽穂より強い鬼が更に噛み跡を付けると上書きされる。その鬼の嫁として再出発することが出来るのだ。鬼に受け入れてもらえれば、だけどな。
ムリならば嫁を保護する機関で一生を過ごすことになる。庇護鬼の居ない嫁は自分を守ることすら出来ないからな。
「ペット扱いされていた方は救われるかもしれないけどね~」
「問題は嫁と番だろう?」
「そう、小幸の事もあるけど…そっちもねぇ…」
「紅輝?どうした?」
険しい顔をしていたのだろう。会話をしていた葉月と柊がこちらを見てくる。
「今は陽穂の嫁や番はどうでも良い―…ペット扱いされているΩを引き離す方が先だと思う。いつきに被害がなければそちらはどうでも良い。」
「ま、そうだよねぇ。俺たちもそうだし…こっちに被害がなければどうでも良いしね~」
「で?何で男のΩにそこまで?政義さんといつき様がそうだけど…それも関係あるのか?」
「何だ、お前らそこまでは調べてなかったのか?」
皆、疑問符を浮かべているので話してやると…不愉快そうな顔になった。
*
2
**
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
●他の作品と比べること
**
【注意次項】
●説明文とか下手です。(キャラも時折迷子になります。)
●物語最終話までの構成などは全く考えておりません。(大体グダグダです。)
●全て妄想で書き上げています。(自己満足です。)
●専門的な知識などは皆無です。(ご都合主義です。)
●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
●R指定は念のため【R-18→*】
●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
***
全ては“自己責任”でお読み下さい。
*
【禁止次項】
●転載、盗作、荒し、中傷、醸し
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**
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