鬼の花嫁

スメラギ

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鬼の花嫁―本編―

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 文化祭は2日間に別れるらしく…1日目はクラスの出し物で、2日目は部活の出し物をするんだって。
 学校が終わって下駄箱で紅輝と一緒になり、椿たちと別れて帰宅すると部屋の中に夏樹と颯が居た。

 「どれくらい掛かりそうだ?」
 「壁の修繕は1週間程度で直るらしい。」
 「ま、頼んだ業者は上層部の鬼だから大体それくらいだろ。」
 「いっそ、別の場所に建て替えれば?」

 紅輝は僕をチラ見すると2人に視線を戻す。

 「いつきが気に入っているからな…いつきが建て替えても良いと言うならば直ぐにでもそうするが?」
 「えっ…ぼ、僕?」

 紅輝の発言に夏樹と颯がこちらを見る。
 建て替えた方が安全だと言うならばそうするべきだと思うけど…そうではないなら…僕はここが良い…

 「紅輝はいつき様の意思で動くようだな。」
 「コイツの手綱、しっかり握っておいてくれよ。」

 なんて本人を前に失礼な事も言ったりしているが、紅輝は全く気にしていないようだ。苦笑いしか出なかった。

 「あ、でも、下の階に影響とかない?」
 「いつきは建物が偏って崩壊するかもしれないと言いたいのか?」
 「うん」
 「まぁ、その辺も抜かりなく調査してるだろ?」

 そう言って2人を見る。すると、2人は紅輝に向かって頷き返した。
 どうやら、修繕だけで大丈夫なようだ…

 「被害は紅輝といつき様の部屋だけだったしな。」
 「寝室に穴が開くとか最悪だな。」
 「お前らがしっかり庇護鬼してないからだろ…」
 「20人瞬殺だったもんなお前。」
 「しかも、完全に鬼化してたし…動けばこちらも殺るくらいの雰囲気だったから動けなかったんだ」
 「なら、聞くが、お前らだったらどうしてた?」
 
 紅輝の質問に2人は声を揃えて「自分の庇護鬼もろとも殺ってる」と言った。
 その台詞に紅輝は盛大な溜め息をついた。

 「あぁ、そうだ…いつきが誤解したらダメだから、1つ訂正しておくが―…人数なんていちいち覚えてないが、殺してないからな…」

 紅輝は溜め息混じりにそう言った。

 「分かってる」
 「しっかりと確認して拘束したからな…」

 颯と夏樹はうんうんと頷きながら苦笑いを浮かべたのだった。

 その後も、「仕方ないだろ。動けなかったんだから…」なんて言っているが、紅輝はその話をしているわけではないようだ。

 「寝室に穴が開く前に何とかしろよ…」

 そう呟いた紅輝の声は多分、聞き流された…
 そして、話題が180度変わった…

 「そういえば、全くそうは見えないが―…紅輝が一番穏やかな性格の鬼だしな。全くそうは見えないけどな。」
 「一番荒そうだしな。」

 うんうん。と頷いて居る2人を呆れたように紅輝は見たが直ぐに僕へと向き直る。
 そんな事を2人は気にした様子もなく失礼な会話を続けていた。
 夏樹に至っては、2回も穏やかな性格に見えないって言ってるし…
 颯も失礼な事を普通に言うし…
 しかし、紅輝はその話題に興味がないのか、僕の頬を優しく撫でながら聞き流していた…


 
 2人が帰ってから夕食を作りはじめる。僕も紅輝と一緒に料理をし始めてから、あの頃よりは上達したと思う。
 紅輝にはまだまだ及ばないけど…

 今日の献立は魚の塩焼きにお浸しと炊き込みご飯。
魚の焼ける食欲をそそる臭いと野菜を切る軽やかな音がキッチンに響く。

 出来上がったご飯をテーブルに並べていく。席についてお互いに「いただきます」を言うと食べはじめた。

 「紅輝は文化祭どうするの?」
 「いつきと一緒に居る」

 部活は無くてもクラスの出し物はあるでしょ?と聞いてみる。すると、面倒くさそうな顔をする。

 「嫌じゃなければ…2日目は紅輝と一緒に居たいな」
 「断る理由はないな。1日目はどうするんだ?」
 「小幸が誘ってくれてるんだ。」
 「ソイツとまわりたいのか?」
 「ダメ?」
 「………」

 紅輝の顔が苦虫を噛み潰したような顔に変化した。
 そんな紅輝を見ながら「紅輝、おかわりは大丈夫?」と聞くと「あぁ、貰う」と茶碗を差し出してきたので茶碗を受け取りご飯をよそう。
 その間も紅輝の表情は変わらない…相当、嫌らしい…
 ご飯の入った茶碗を手渡しながらダメ元で、もう1回聞いてみる。

 「ダメ?」

 僕の方を見た紅輝は呆れたような、諦めたような、溜め息をついた。
 そして、凄~く嫌だと言いた気な雰囲気を醸し出し、顔をしかめながらも…不承不承ではあったが、たっぷり間を開けた後に了承の言葉を紡いだ。

 「…分かった。ただし、条件をつけさせてもらう。」

 紅輝の出した条件は―…

 「人気のない場所には行かない、近づかない。
 2人っきりもダメ。1人になるのはもっての他。
 ヤバくなる前に紅輝を呼ぶ事。もしくは庇護鬼を呼ぶ。
 怪しい奴には着いていかない。小幸が一緒でもダメ。
 休憩は庇護鬼が居る保健室でする事。」

 だった。最低でもこれは守れといわれたので頷く。
 嬉しそうに頷く僕を複雑そうな顔で見ている。

 「約束破ったらお仕置きな。」

 そう言って紅輝は食後のお茶を啜っている。

 その不穏な『お仕置き』の台詞に不安になって思わず「お仕置き…痛い?」と聞くと直ぐに「痛くない。安心しろ。いつきに痛み・・は与えないから。」と返ってきた。

 紅輝の何か含みのある言い方に首を傾げるしかなかった。
 
 その後は普段と変わらず、紅輝がお皿などを洗って僕が拭くという一連の動作をして一緒にお風呂に入ったり、洗濯を干したりして最終的に寝室へ行き、ベッドに入った。

 ちなみに発情期中は最新の食器洗浄機を使うらしい。発情期が終わって食器などが溜まっていないのには納得した。
 普段は僕がやりたがるから紅輝が付き合ってくれているのだと思う。

 今はベッドに入って文化祭のパンフレットを紅輝と一緒に見て2日目の予定を決める。

 「紅輝はどこに行きたい?」
 「いつきが行きたい場所で良い。」
 「それはダメ。」
 「どうしてダメなんだ?」
 「不公平だよ。」

 本気で僕が行きたい場所で良いという…「いつきと一緒に居れるならどこでも大丈夫。」らしい。その優しい笑みに顔が真っ赤になってしまったのは仕方ないと思う。

 空気を変える為に咳払いをしてパンフレットを指差した。
 Ωオメガや一般生徒のβベータもだが、今のところ僕と教員の一部を除いた全員が女なので、殆んど文化部だ。

 「茶道部は和菓子とお茶を振る舞ってくれるんだって!」
 「そうか。」
 「調理部は洋菓子をメインにした喫茶店をするらしいよ!」
 「そうか。」
 「華道部はメイド喫茶をするんだって!」
 「そうか。」
 「演劇部の演目は『大どんでん返しシンデレラ』だって!気になるよね!」
 「そうだな。」

 なんて相槌をうちながら、すっっっごく優しい顔をしてる。
 何、その微笑ましいものを見る目は…僕だけがはしゃいで恥ずかしいんだけど…

 「全部回るのは難しいかもしれないな」

 どうやら紅輝は本当に全てを僕に合わせる気でいるらしい。
 「移動して滞在する時間も考えると―…」なんて言っている。できるだけ多く回れるように計画を立ててくれていた。



 
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●気がついたら直していますが、誤字やおかしい文章など多数あります。(ごめんなさい。)
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●メンタル弱いです。暖かい目で見てやってください
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全ては“自己責任”でお読み下さい。


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